数分後……



フロースヒルデ「……みんな揃ったわね。

じゃあ、そろそろタイタニア界の近現代史の講義、始めましょうか」

 あれから数分後、居住区でごろごろしていた藪やウルネ、ノレンといった面子も艦橋に上がってきた。

 ちなみに、一番上の画像の月見団子は、藪のお手製である。


藪「タイタニア界の近現代史か…… それは私も前々から興味があった。

というのも、タイタニア界の詳しい事情はドミ二オンの世界は元より、エミルの世界にも伝わっていないからね」

 月見団子を作った当の藪は、フロースの話に興味津々のようである。

フロースヒルデ「じゃあ、話を始めるわ……」


フロースヒルデ「今から50年ほど前、タイタニアの世界には大雑把に分けて2つの国家があったの」


 まず第一の国が『公式タイタニア連邦』。 タイタニア界最大の版図を持っている国家よ。

 『公式』の名が付くとおり、この国の国風はエミル・クロニクル・オンラインの公式設定に忠実な『タイタニアの世界』そのもの。

 タイタスさんとかティタさんとか、NPCのタイタニア連中はほぼ例外無しに、ここ出身よ。

 良くも悪くも古風なタイタニアの国家で、この国の国民……とくに支配階級には古風なタイタニア……

『高慢・選民思想大有り・ドミニオン&エミル嫌い』の三拍子そろった連中が揃っているわ。 

 ちなみに、今後ECO内で『タイタニアの天使長』らしき人物が出てきた場合、この国の元首だと思ってくれて間違いないわ。


 次に第二の国家が『大天聖帝国』。 

 もっとも、その名前で呼ばれることは滅多に無くて、普通は『天聖界』と呼ばれることが多いわ。

 ECO家の一族所属のサイユさんや黒騎士さんは、この国出身。 国風は公式タイタニア連邦のそれと、あまり変わる事はないみたい。

 ECO家の一族さんでも名前だけ出てきていた『超聖紆麈』は、この国の国家元首なのよ。


 そして、ここからが重要なのだけど……



フロースヒルデ「いわゆる『天使長』っていうのはそれぞれの国家の国家元首の呼称であって、常に一人だけとは限らないのよ」


ミュー「なるほどね…… って事は『公式タイタニア連邦』の元首と、『大天聖帝国(天聖界)』元首『超聖紆麈』……

少なくとも二人、『天使長』を名乗る奴がタイタニア界にはいるって事か」

フロースヒルデ「そう。20年ほど前まではね。

で今から20年ほど前、『公式タイタニア連邦』のある地方が突如、独立を宣言したの。

それが、あのお気楽な天使長の治める国であり、また、私の母国でもある……」


たけし第三帝国』よ。

ミュー「たけし第三帝国……」

フロースヒルデ「本当はあの天使長様、『大北野帝国』って名前にしたかったらしいんだけど……

それだと天聖界の正式名称と被るから、仕方なしに今の国家名にしたのよ。

ちなみに一応言っておくけど、あの天使長様を『総統』だなんて言ったら怒られるわよ。『元ネタと一緒にするんじゃねぇよ』ってね」

ミュー「そうか…… 注意しておくよ」

フロースヒルデ「で、話を戻すけど…… あの天使長様は元々『公式タイタニア連邦』の官僚で……

前々から何かと他種族を差別しようとするタイタニア界の上層部を批判しまくったり、下らない身分差別(※)をいい加減止めようぜと

主張していたものだから…… 

『公式タイタニア連邦』のお偉いさん達に睨まれちゃってね。 辺境に左遷されちゃったのよ」

(※)公式連邦では羽の少ない者は、上級官僚になれないなどの差別があった


ホワイト「辺境に左遷された事があるんですか……天使長さん。 あの人もああみえて、結構苦労しているんですね……」

フロースヒルデ「で、その処遇に腹を立てた天使長様は、同志を募って挙兵。 瞬く間に、公式タイタニア連邦の1/3近くの領土を乗っ取ってしまったの。

あの天使長様の思想に共感するタイタニアは平民・貴族階級問わず結構多くてね…… 瞬く間に、タイタニア界No3の一大勢力になったのよ」


ジークウルネ「でも当たり前といえば当たり前ですが、『公式タイタニア連邦』側は天使長様達の行動を叛逆行為と認定。

海と陸の両方から、討伐軍が派遣されました。

数の面では、『公式タイタニア連邦』側が3倍近く、『たけし第三帝国』側を上回っていました」


フロースヒルデ「それに対し、たけし第三帝国側はまずは海から来る討伐軍を迎撃。

私のお父さんで、今は第三帝国の海軍司令長官をやっているJ・V・リュッチェンス提督の指揮の下……」


ミュー「え…… お前の親父さん、そんな偉い奴だったのか。 最初にフロースに会った時から、上流階級の出ぽいっていうのは感じていたが……」

 唐突にフロースは自分の素性を明かしたので、あたしは面食らった。

フロースヒルデ「ごめんね、ミュー。 隠すつもりは無かったのだけど、言う機会が無くてね」

ミュー「まあ、謝る筋の事じゃないさ。 それに隠し事してたっていう点では、あたしも同罪だからな」

フロースヒルデ「話を戻すけど、私のお父さんは潜水艦『Uボート』を使った通商破壊戦を展開し、公式連邦海軍の補給線を遮断。

十分な物資が無くてよたよたになった敵主力を、高速戦艦『ラッシャー』揮下の水上艦隊が夜襲。 

3日も持たずに、公式連邦海軍の討伐艦隊は海の底に沈んだわ」

ミュー「ほう…… やるな、お前の親父さん」


フロースヒルデ「で、問題は陸の方。 当時、公式連邦の陸軍は精強として知られいて……

中でもベース&Jobカンストの廃人達で結成された『廃人騎士団』は、他国にとって脅威以外の何者でもなかったのよ」

藪「廃人騎士団か…… そのまんまというか、センスの欠片も無いネーミングだな。

だがそんな廃人の集まりに襲われたら、たまったものではないのも事実だな」

フロースヒルデ「ええ。 事実、第三帝国軍は国境の第一砦と、その次の第二砦を次々に奪われ……

一時は天使長様の居城である『たけし城』の近くにまで敵の侵入を許してしまったのよ」

ミュー「ほう…… で、その後は?」


フロースヒルデ「その後が、あの天使長様の本領発揮。

常識では考えられないような数々のトラップを仕掛けて、公式連邦の討伐軍を迎え撃ったの」

ホワイト「常識では考えられないようなトラップですか……それは一体?」

フロースヒルデ「それはね……」


1.竜神池

 池の上の飛び石を伝って向こう岸まで渡る関門。 もちろん、周囲にはタイタニアの羽で飛べなくなる特殊な魔法がかけられており、

タイタニアといえど、自分の足でジャンプして向こうまでいかねばならない。

 この池は文字通りの『底なし沼』であり、落ちたらまず命は無い上、ただ水面に浮かんでいるだけのトラップの石もあった

2.自由への壁

壁に貼られた4枚の扉のうち、一つを破って突き進む関門。

破れない扉や、網の張られている扉を選ぶと上図のように魂を抜かれてしまう。

なお、破られた扉は定期的に自動修復され、ハズレの扉の位置も随時入れ替わっていた。


3.だるまさんがころんだ

 はるばるギリシアから『石化』の本家本元であるメデューサさんを招聘して鬼役にし、子供の遊びの『だるまさんがころんだ』の要領で坂を上っていく。

 当然、鬼役のメデューサさんが挑戦者の方と向いている時に動いたり、転んだりしたりしたら失格。

失格になった挑戦者にはもちろん、メデューサさんより『解ける事の無い石化』というプレゼントが待っている。


4.ジブラルタル海峡

 不安定極まりない吊橋を渡る、シンプルな関門。 当然、ここにもタイタニアが飛べなくなる魔法がかけられており、

また、たけし軍団の妨害(砲撃)も当然ある。

 もちろん、吊橋から落ちたら谷底までまっさかさま。



……他にも色々な関門があったんだけど、種類が多すぎるから割愛するわ。



藪「なるほど…… こうして見ると、古のTV番組『風雲たけし城』ででてきた関門と、同じような物と見ていいんだね」

フロースヒルデ「流石藪先生。 その通りです。 ただ、細かい仕様が違う関門もありますし、失敗したら命を取られる……という違いはありますが」


フロースヒルデ「で、これらの関門のせいで当初30万ちかくいた公式連邦の討伐部隊が……

たけし城の正門前にたどり着いた時には30人程しかいなかったの。

しかも先に述べた『廃人騎士団』の面々は、この時点ですでに全滅していたというオマケつきよ」

ミュー「運が物を言う関門も結構あったからな、あの番組には…… ベース&JOBカンストだからって、必ずしも突破できる保証は無いからな」

フロースヒルデ「そう。 で、その30人はたけし軍団側の降伏勧告を拒否して最後まで抵抗したんだけど……」

ホワイト「たった30人程の兵力じゃ、結果は知れていますね」

フロースヒルデ「そう…… 最終的には、陸側の討伐部隊も文字通り全滅。 その結果……」



たOし天使長様「ざまあみろ。 この辺り一帯の領土は、みんなおいらの物だ。

またの挑戦、待ってるぜ」



フロースヒルデ「といった具合に、たけし第三帝国は独立を達成。現在に至るという訳」

ミュー「なるほどねぇ……」

フロースヒルデ「ちなみに、今は表立っては3国は戦争はしていないけど……

たけし第三帝国と公式連邦とは正直言って犬猿の仲。 たけし第三帝国と天聖界との仲も、良くて武装中立、といった所ね」

藪「なるほど…… タイタニアの世界も、色々とあるんだね」


ホワイト「所で艦長。 あの天使長さんが仕掛けたっていう関門のうち、一番戦果を上げた関門は何ですか?」

 唐突に、ホワイトが話題を切り替えた。

フロースヒルデ「さて……みんなは何だと思う?」


ミュー「あたしはローラーゲーム(※1)と見た。 あれは、元ネタでも結構脱落者が多かった気がするし……

足腰の弱いタイタニアにとっては、辛そうな関門だと思うからね」

(※1)ローラーゲーム:いくつかのローラーを落ちないようにバランスを取りながら向こう岸まで渡るゲーム。

当然、今回のタイタニア界Verでは飛べなくなる魔法が周囲にかけられている。


ホワイト「私は『戦場に架ける橋(※2)』ですかね。 あれも、かなり脱落者が多かった記憶があります」

(※2)戦場に架ける橋:板の上に四つんばいになり、池の上に作られたローラーの付いたレールをすべる。

チキンレースの要領で、ゴール地点にぴったり辿りつけば合格。 通り過ぎて池に落ちたら失格。途中で止まると海坊主が現れて池に突き落とされる。


藪「私は『地震だ爺さん(※3)』に1000点かけるよ。 普段下半身を使っていないタイタニアにとっては、あれはかなりの負担になると思うからね」

(※3)地震だ爺さん:男性は爺さん、女性は婆さんのカツラを被って重ねた座ぶとんの上に座り、

地震体験用の部屋の中で震度6〜7クラスの揺れに耐える関門。 本人が床に接触したら失格。

フロースヒルデ「う〜ん…… みんないいところ突いているんだけど、残念ながら皆ハズレ。

殺害数No1の関門は……」


(注:イメージ画像)
フロースヒルデ「街かどテレビよ。

ちなみに、この関門はランダムに選曲されるカラオケを、歌詞を見ずに歌う事が出来れば合格。

歌えなければヤクザにフルボッコにされて失格という関門なのよ」

ジークウルネ「ちなみに20年前の戦争で雇われたヤクザさん、他のMMO(主にラグナロクオンライン)からかき集めた

『Lvカンストの廃人さん』が勤めていたそうです」

ミュー「なるほどねぇ…… あたしとした事が、こいつの存在をすっかり忘れていた。

どんなにLv上げに現を抜かしていても、この場では『歌えなければ』人生それまでだもんな」

フロースヒルデ「その通り。 一説によると、この『街かどテレビ』による戦死者は10万人以上……とも言われているわ」

ミュー「10万っていうと、公式連邦側の総兵力の1/3じゃねぇか!? よくもまあ、それだけの数を始末できたもだ。

フルボッコにする側のヤクザ役のみなさんも、さぞかし疲れただろうに……」

フロースヒルデ「でしょうね……」

ミュー「そして何よりも……」


ミュー「『カラオケ歌い損ねて死亡』という末路を辿った人たちにも、
思わず敬礼したくなってくるわ……



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