日記第一回
今回の日記担当:ジークウルネ
……私の名前はジークウルネ。
少し体が弱い事以外はどこにでもいる、タイタニアの少女です。
今、私はタイタニア転送室にいます。
先に下界に下りた姉、フロースヒルデに呼ばれて、これから下界に下りる事になりました。
何でも、ずっと前から建造していた自分の飛行庭ができたというんで、お引越しのお手伝いを
して欲しい、との事だそうです。
始めての下界……不安が無いといえば嘘になります。
でも、同時に楽しみでもあります。
まあ、それ以前に我々タイタニアは、一定の年齢に達すると下界に降りねばならないという掟がありますので、
遅かれ早かれ、下界に下りなければならないのですが。
それにしても体の弱い私でも試練を受けなければならないとは……
こういってはタイタニアの偉い人に怒られてしまうかもしれませんが、行きたい人が自由に人間界に行ける、
ドミニオンに皆さんが羨ましく思います。
……そんなこんなで下界に下りた私。
姉の飛行庭はアップタウンにあるとの事ですが……門番さんが入れてくれません(涙)。
仕方なくダウンタウンをさ迷い歩く私。
約束の時間までに姉の庭までたどり着ければいいのですが……
一方、その頃……
「ついにやった……。私専用の飛行庭が、この手に……」
出来立ての飛行庭の上に、感涙にむせぶタイタニアの少女、ネコマタ一匹がいました。
タイタニアの少女の方の名前はフロースヒルデ。少し前から下界に下りてきているタイタニアのソードマンで、私、ジークウルネの姉です。
聞くところによると、姉様はこの庭を作るの一ヶ月以上もかかったとか。
それだけに、姉ははこみ上げてくる物を隠しきれないようです。
「おめでと〜。フロースちゃん」
ネコマタ(桃)の『元帥』が、フロースヒルデに祝福の声をかけてくれます。
後で聞いた話ですがこの子、伊達で「元帥」を名乗っている訳では無く、生前は本物の空軍元帥だったそうです。
クローバーワールドでは2匹しかいないといわれる、元軍人の桃ネコマタ……らしいですが、
しかし、その言動は普通のネコマタ(桃)と大差は無く、とても元帥という地位にいた人間……もとい猫とは思えません。
「ねえフロースちゃん」
「何です?元帥閣下?」
「閣下はやめて……って何度も言っているでしょ?私達は上官・部下という関係じゃなくて友達同士なんだから……」
「ごめん、元帥……。で、何?」
「フロースちゃんが集めた乗組員さん達と私のお友達、ここに集めていいかな? せっかく作ったお庭なんだし、早くみんなにもみせてあげようよ」
「もう召集をかけてあるわ、元帥。ついでに……天界にいる私の妹にもね」
「ほえ……フロースちゃんに妹がいたんだ」
「ええ。予定では、もうそろそろ来ると思うんだけど・・・・・・・」
「ねえ、みんなが来るまでご飯にしない?おなか空いちゃった」
「そうね、そうしようっか」
それからしばらくの後……
元帥の旧部下達と姉が飼っているペット・・・・・・もとい、乗組員達が集まってきました。
「菫少将以下乗組員・士官一同、招集完了しました、元帥」
ネコマタ(菫)の菫少将が元帥に報告する。
彼女は元帥とは異なり、かなり軍人らしいネコマタです。
「りょうかい。あと来てないのはミューちゃんと……フロースちゃんの妹さんだけだね」
ミューちゃんとは下界で姉と親友になった、エミルの女の子です。
職業はタタラベで、荷物運搬、粘土採集等で私を支えてくれた、いわば縁の下の力持ち……だそうです。
……と、その時。
「悪ぃ悪ぃ。遅れちまってすまんな、フロース」
噂をすれば影……、ミューことS(スクラップ)・ミュー本人が現れた。
「いや、うちらも今集まった所やで、相方」
元帥の部下の一人、ネコマタ(山吹)の山吹中佐が答える。
この子もとても、元軍人とは思えない性格をしている。
彼女はミューと仲が良く、普段はミューと組んで各地を飛び回っているそうだ。
「珍しいわね、ミュー。貴女が集合に遅れてくるなんて」
「ああ、自分でもそう思うよ。いつも待ち合わせに遅れるのはフロース、あんたの方だからな」
「うう……反論出来ない……」
「昨日の飛行庭起動式でも、最後の部品を持ったままバー『光』で一杯やってたそうじゃないか……」
「ぐっ……どうしてその事を」
「さる筋から……な。まあ、他の冒険者とコミュニケーションを取るのも大事だが、あまり人を待たせるんじゃないよ」
「ご、ごめんなさい……」
「所でミューちゃん」
元帥が私とミューの会話に割り込む
「?なんだい、元帥殿」
「殿もやめ……って、まあいいっか。ミューちゃん、どうして遅れたの?」
「ああ、その事なんだが……。フロース、ダウンタウンでお前の妹を名乗る奴に会ってな。
ちょっと今までいろんな所を案内していたんだ」
「そう……ありがとう、ミュー」
「いや、何、いいって事よ」
「それでミュー、妹は……」
といいかけたその時。
「お久しぶりです、お姉様」
飛行庭から伸びる長い紐をつたって、ようやく私は姉の飛行庭までたどり着いた。
「久しぶりね、ジークウルネ。……と、その胸アクセサリーは」
「ウィザードしか装備できない胸アクセ、オパールペンダントだ。
彼女がセージ志望だって話を聞いて、せっかくだから転職まで手伝ってた」
とミューさん。
「そう……ありがとうミュー。さ、ジーク。とりあえず適当な場所に立って。
今からその……飛行庭完成の記念式典みたいなものをやるから」
「は、はい」
「では……これより飛行庭完成式典を開始致します」
菫少将が号令をかける。
「では、最初に元帥からご挨拶を。
では、元帥」
「う、うん……」
一歩前に出てきた元帥。
「ええと……。みんな、今まで飛行庭作るのに尽力してくれてありがとう。
これからもみんな一緒にかんばっていこうね★」
一同「……」
元帥「……おしまい」
一瞬、場に沈黙が流れる。
ややあって、菫少将が口を開いた。
「あの、元帥。もう少し何か喋られては……」
「え〜。やだよぉ、めんどくさいよぉ……」
元帥らしからぬ口調で駄々をこねる我らが元帥。それもみんなが見ている前で。
「私の尊敬する、自由惑星同盟の『魔術師』って呼ばれている元帥さんのスピーチよりは長いからいいじゃない……」
「『魔術師』……ああ、あの人のスピーチは大抵『皆さん、楽しんで言ってください』でお終いですからね……
と、言うより、そんな分かる人にしかわからない事をおっしゃらないでください、元帥」
菫少将は半ば諦め顔で元帥に言った。
で、次に少将は姉に向き直って
「では、次にフロース艦長。ご挨拶をお願します」
「はい」
皆の前に歩み出る姉。
「えーと、みんな。これまでこの艦……もといこの庭を造るのに尽力していただいてありがとう」
これより本艦の改装に着手しますが……改装中はアクロ混成騎士団を始め、あらゆる外の人たちの侵入を許さぬよう、勤めて下さい」
本艦の改装の妨害をしようとする者が、いないとも限りませんので」
このスピーチを、大抵の人(?)は普通に聞いていましたが、一人だけ怪訝な表情で聞いている人がいました。
その一人とは何を隠そう私、ジークウルネです。
私はは姉がどういうお庭を造るつりなのか、まったく聞かされてはいませんでした。
(お庭をコーディネートするのに、何で妨害しようとする人たちがいるのかしら……)
(姉さんのペットの名前には、何故元帥だの少将だの、軍隊の階級名が入っているのかしら……)
(何故姉さんは、改装中に騎士団に踏み込まれるのを嫌がるのか……)
疑問の種はつきませんでした。
やがて、姉・フロースのスピーチが終わりました。
菫少将「これにて式典を終了します。
これより飛行庭の改造に着手いたします。ミューさん、人割りの説明を皆さんにお願します」
少将に言われ、みんなの前に歩みを進めてきたのがミューさん。
ミュー「これより、庭改造に関する人割りを発表する」
「……飛行庭内部の改装担当はあたしと山吹中佐、菫少将、それにニンジンやダイコンといった植物系の乗組員達」
「で、残りのメンツは物資の搬入担当。言っておくが、この『残りのメンツ』の中には元帥とフロース艦長も含まれている」
「ほぇ……」
「へ……」
何故か凍りつく元帥&姉さんの二人。
「TOPだからってサボりは許さないよ、あたしは。ほら、お前らも働く働く」
「はぁい……」
「分かったわ、ミュー。そっちも手を抜かないでね」
「ああ、こっちは任せておきな。それと、物資搬入担当の細かい人割りに関してはフロース、あんたに任せる」
「了解」
「じゃあ、元帥は私と、藍副長はジークをペアを組みましょう」
「ジーク、この子は藍副長。見ての通りのネコマタ(藍)よ」
私の元に、青色のネコマタが寄ってきた。
「藍副長と申します。よろしくお願します、ヌシ様」
蒼いネコマタが礼儀正しく挨拶する。
「ジークウルネです。よろしくお願します。
姉さま、私達は一体何をすれば……?」
「これから私と一緒にギルド商人の所にいって、家具類の運搬を手伝って欲しいの。
何せ、荷物が多いから、人手が足りなくて……」
「ニンジンさん達がいっぱいいるじゃないですか、姉様。彼らに手伝わせる事はできないのですか?」
冒頭でも述べましたが、何せ私は病弱の身。この手の力仕事は出来れば避けたい所です。
「ニンジンが持てる荷物の量なんかたかがしれてるから……わざわざ天界から貴女を呼んだのよ。
それに、たまには運動をしないと、体丈夫にならないわよ、ジーク」
「うっ……それはまあ、確かに……」
「ヌシ様、私もお手伝い致しますわ。こうみても、力仕事は得意なので」
藍副長が事もなげに言う。
「わかりましたよ、姉様。お手伝いすればいいんでしょ、手伝えば」
ここで拒否しても話が進まないし……、それに、ここを追い出されたら行くあては正直ない。
私はしぶしぶ、姉の荷物運びに付き合うことになりました。
そんなこんなで、私はアップタウンのギルド商人の所まで来ました。
姉さんは飛行庭に取り付ける家を作りに、家具屋さんの方へ行ってしまいました。
姉さんがこの日の為に倉庫に放り込んだ家具の数はテーブル等40種類以上。
この日の為に、姉さんが盛大な無駄使いをしてこつこつ貯めたお金を惜しげもなくつぎ込んで
集めた家具類です。
間違って傷を付けたり、壊したりしたらどんな恐ろしい目に遭うか、ここで語るまでもありません。
と、その時。倉庫にあった家具の中に一つ、奇妙な物体があるのを見つけました。
「ギガントX7フィギュア……」
下界の事は何も知らない私は、このフィギュアがどういうフィギュアなのか全くわかりませんでした。
何故なら、見た目はかわいらしいアライグマ(みたいな)フィギュアにしか見えないからです。
「ヌシ様……」
後ろから藍副長が声をかけてきた。
「このフィギュアは本艦……もとい、本庭における最重要機密です。
倉庫内での姿形はただのぬいぐるみに偽装していますが……衆目を避けるため、出来るだけ手早く庭へ運んでくださいまし」
藍副長、かなり真剣な表情です。
正直、藍副長の言っている事は5割も理解できませんでしたが、このフィギュアがかなり大事な代物である事だけは理解できました。
藍副長の指示にしたがい、倉庫に4つあったこのフィギュアを飛行庭へと運びこみました。
飛行庭に戻ってきてびっくり。
なんと庭一面、コンクリートで舗装されていました。
「おう、お帰り。どうだい?あたしお手製のコンクリートの出来栄えは」
ミューさんが自慢げに問いかけます。
「すごい、ミューさんって、こんなすごい物を作れるんですね……」
「まあな。あたしらタタラベには『高度金属精錬』というスキルがあってね。それを使えば、こんな物も作る事も可能なのさ」
「へぇ……」
「ちなみにこのコンクリートっていうアイテム、露店でも滅多に販売されていない、超レアアイテムなんだぜ」
「なるほど……」
……と、その時の私は納得していましたが、後で聞いた話ではこのコンクリート、レアというよりも単に庭材として人気が無い
から作ったり、露店で売りに出す人が少ないそうです。
「ヌシ様、そろそろ例のフィギュアの展開作業を」
藍副長が後ろから声をかける。
「展開作業って、どうすればいいの?」
「フィギュアの後頭部にスイッチがあります。そのスイッチを押せば、フィギュアは本来の姿を取り戻します」
「スイッチ……ああ、これの事ね。じゃあ、いくわ……」
副長に言われるまま、スイッチを押す私。
すると……
デン!!
かわいらしいアライグマ型のフィギュアは、みるみるうちに変形し……最後には何やら砲らしき物体
へと姿を変えました。
これを4体配置すると、たちどころにして広いお庭は一杯に……
「この砲に興味があるみたいやな」
あっけに取られるままこの砲を眺めていると、後ろから黄色いネコマタが声をかけて来た。
「うちは今度この艦の砲術長を務めることになった、山吹中佐言うものや」
「ジークウルネです、よろしくお願します、中佐」
「いや何、そんなに畏まる必要はないで。堅苦しいのはうちは苦手やさかい
で、この砲なんやが、正式名称をギガントX7式艦砲っていうてな。こいつの威力は水上艦艇の60インチ主砲に匹敵するんや。
この砲の直撃を食らえば、たとえ騎士団の装甲庭でも無事では済まへんで」
「は、はぁ……」
頼んでもいないのに例の砲に関する説明する山吹中佐。でも、下界の世情に疎い私にはちんぷんかんぷんでした。
と、その時。
「ただいま〜」
姉さまが元帥さんを連れて戻ってきた。
「お帰り、フロース。アイアンサウス様式の家、手に入ったか?」
フィギュア……もとい砲の調整をしていたミューさんが出迎える。
「ええ、おかげさまでばっちりゲットできたわ」
どうやら無事にお家が出来たらしい
「じゃあ、早速設置してみてくれ」
「は〜い」
そして次の瞬間……
巨大なガトリング砲とレーダーサイトが付いた家が突如として姿を現しました。
「やっぱり戦闘庭には、この家以外の選択肢はないわね、元帥」
「だよね〜」
自慢げに語る姉と元帥。
誰かが起動したのか、ギガントX7砲4門が空砲を撃ち始めました。
どうやら祝砲のようですが、騎士団の人がすっ飛んでこないか、心配でなりませんでした。
(ちなみに、この艦の引越し作業はアクロポリス・アップタウン上空にて行っています)
「大丈夫ですわ、ヌシ様。騎士団への根回しは済んでありますから、すっ飛んできたりはしませんよ」
こちらの心を見透かしたかのように、藍副長が言う。
「さ、ジーク、ミュー。次は内装に取り掛かりましょう」
姉が号令をかけ、私達は家の内装にとりかかりました。
そして暫く後……
家の内装が完成しました。
どうやら、軍の司令部を模したつくりで、ミューさんの話だと、ブリッジとして機能しているとの事です。
浮かんでいる絵画みたいな物は、実はミューさんが作ったモニターだそうです。
「さて、内装も終わったし、今日の作業はここまでにしましょう。みんな、今日はゆっくり休んで頂戴」
姉の一言で、みんなほっとしました。
「あ、ジーク向かって左側の席が貴女の席ね。ミューの席は右側だから」
姉が言う。
「え……姉さん、もしかして私、これからもずっとこの艦……もといお庭に乗務するんですか?」
「そう。というより、どうせ私達タイタニアは試練を終わらせないと天界に戻れないのだから……
どうせなら、姉妹で協力してめんどくさい上にかったるくてやってらんない試練を終わらせて、早く天界に戻りましょ」
「う、うん……」
「あ、そうだフロース」
唐突にミューさんが発言する。
「ん?何、ミュー?」
「この艦の名前、まだ決まってなかったな。何という名前にしようか?」
「そうね……」
暫く沈黙した後、姉が口を開いた。
「私は『フレイヤ』という名前にしたいと思うのだけど……みんなはどう?」
「『フレイヤ』か……確かどこかの神話にでてきた女神の名前だね。いいよ、あたいはその名前で」
「ジークはどう?」
「私も……異議ありません」
他の乗組員(ネコマタ・ニンジンその他)からも異議はでませんでした。
「……決まりね。では本日付けで、この飛行庭は戦闘飛行庭『フレイヤ』と命名する」
姉がそう宣言した次の瞬間、ネコマタ、ニンジンさん達から拍手が沸き起こりました。
……こうして、私は周囲に流されるまま、戦闘飛行庭「フレイヤ」に乗務する事になりました。
天界に戻るまでに、厄介な出来事に巻き込まれないといいのですが……
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