日記第14回(後編)


モーグシティ


Dr・藪「ミュー君。遠路はるばるモーグシティまで私を連れてくるなんて……何をやらせるつもりなのかね?

そろそろ、話してくれてもいいのではないか?」


ミュー「この街にすむある人物の不正を暴く事…… それが、今度の仕事だ」

Dr・藪「ある人物というと…… ディアマントの事かね?」

ミュー「……その通りだ。 良くわかったな」

Dr・藪「この街で不正をやりそうな奴と言えば、ディアマントの奴が筆頭だろう。

前々から、彼については贈賄や暗殺などの黒い噂が付きまとっているからね」

ミュー「ほう、中々詳しいな」

Dr・藪「エミルの世界に来てから暫くの間は、この街の病院で勤務医として働いていた。

私にとってこの街は…… エミルの世界における故郷といってもいいだろう」

ミュー「そうか…… この街がお前さんの地元だったとはねぇ」

Dr・藪「だがディアマントの不正に関しては、あくまで噂の域を出ず…… 証拠は何一つ挙がっていないと聞く。

察する所その『不正の証拠』を見つけ出す事が、主な任務内容と思っていいのだね?」

ミュー「その通りだ」

Dr・藪「そうか……」

 ここで、藪は何故か愉快そうな笑みを浮かべた。


Dr・藪「面白い。 あの豚野朗の鼻を開かせてやれるというのなら、モーグっ子としてはこれほど愉快な入隊試験もあるまい。

地元の人間(ドミニオン)として出来る限りの事は、させてもらうよ」

ミュー「そうか……そりゃ助かる。

 じゃあまずは、この仕事にあたしに依頼した人物を紹介しよう。

  ……ついてきてくれ」

Dr・藪「了解だ」




モーグ政府庁舎


男「ああ!!もういい!! 君じゃ話にならない!!

連絡は結構だから、その代わりアーサー議員が来るまでここで待たせてもらうよ」

受付嬢「は、はぁ……」

 庁舎に入ると、なにやら男性と受付嬢が言い争っているのが見えた。

 もっとも、あたしは男の方の面を知っている。


ミュー「よ、ブン屋(新聞記者)のジギーさんよ。暫くだな」

ジギー「お、ミューじゃないか。 暫く顔を見ていなかったが、どうしたんだい?」

ミュー「ああ、ちょっと別件の仕事があってな。 暫くモーグを離れていたんだ」


Dr・藪「ミュー君。 この彼とは、どういう間柄なんだい?」

ミュー「何、ちょっとした知り合いさ。 クエスト消化方々、何度か彼の取材を手伝った事がある(※)」

(※)実際は、ジギー氏からクエストを請けることは出来ません。

Dr・藪「なるほど、君がジギー君とねぇ……」

 まるで昔からジギーの事を知っているような口調で、藪は呟いた。


ジニー「お、誰かとおもったら藪先生じゃないですか。 モーグにはいつ戻ったのです?」

Dr・藪「ついさっきだよ。 ジギー君、君も相変わらず元気そうだね」

 会話を聞く限り、どうやら新聞記者のジニーと藪は知り合いらしい。

 が、それ以上の詳しい事は両人からは聞かずに、あたしは本題を切り出した。

ミュー「ところでジギーさんよ。 例のD(ディアマント)氏の不正の件なんだが……

やっと手が空いたんで、手伝う事にしたよ」

ジギー「おお、それは助かるよ」


Dr・藪「なるほど…… ミュー君に『D』の不正暴露の手伝いを依頼したのは…… ジギー君、君だったとはね」

ジギー「もしかして先生も、手伝っていただけるので?」

Dr・藪「ああ。 ……というより、今私はミュー君の乗艦『フレイヤ』への就職試験中でね。

この仕事を手伝う事それ自体が、就職試験の内容となっているんだよ。

最も、就職試験という理由が無かったとしても、『D』絡みの仕事であれば……喜んで手伝っていたけどね」

ジギー「そうですか…… ご協力、感謝致します」

ミュー「ジギーさんよ。そろそろ本題の方に入ってくれないか?」

ジギー「ああ……」


ジギー「今回君たちに依頼したい事は、アーサー議員と『D』の癒着の証拠を掴む事だ。

『D』は他にも色々な悪さをしているらしいし、いずれどうにかしないとならんとは思っているが……今回はこれ一本で攻めたいと思う」

ミュー「なるほど…… で、具体的にあたし達は何をやればいい?」

ジギー「先日、僕の友人のアサシンに潜入調査を頼んだのだけど……一向に連絡が来てないんだ。

どうなったのか、聞いてきてくれないか?」

ミュー「その友人の名前と特徴……それに居場所は?」

ジギー「友人の名前はヴィオレッタ。 ファイターギルド出張所で働いている。

藪先生であれば、彼女の事はご存知のはずだが……」

Dr・藪「ああ、知っているよ。 彼女とはドミニオンの世界にいた頃からの悪友だからね」

ジギー「そっか…… それなら話は早い。 彼女には『ジギーから頼まれた』といえば通じるはずだから……

すまないけど伝言、頼んだよ」

ミュー「わかった。 じゃあ藪、いくとしようか」

Dr・藪「了解だ」

 あたしと藪はジギーにわかれを告げると、政府庁舎を後にした。




ファイターズギルド



受付の女の子「いらっしゃいませ〜 今日は何の御用で……」


Dr・藪「やあエイミー君。久しぶりだね」

受付の女の子「あ、藪先生! お久しぶりです〜。 本日はどういったご用件でしょうか?」

Dr・藪「ヴィオレッタ君と会いたいのだが…… いるかね?」

受付の女の子「はい。いますよ。 取次ぎますので、少々お待ち下さい……」

 受付の女の子はそういうと、内線電話を手に取った。


ミュー「しかし藪よ。 ここの受付嬢とまで知り合いとは…… 随分と顔が広いんだな」

Dr・藪「顔の広さには自信があってね。 特にここモーグには、知り合いが多いんだよ」

ミュー「そうか……」

受付嬢「お待たせ致しました。 応接間にてお待ち下さい」

ミュー「わかった。 じゃあ、いくとしようか、藪」



応接間?

ヴィオレッタ(画像左上のドミニオン)「何だいあんたら! 忙しいんだから用件は手短に済ませな!!」

 応接間でヴィオレッタなる人物と面会するや否や、いきなり罵声を浴びせられた。

ミュー(こ、こいつは……)

 暁の一番星改で殴ってやりたい気持ちを必死に抑え、何とか平静さを装う。

 少なくとも、このファイターズギルドの社員教育はなってない事は確かである。

Dr・藪(……ミュー君。 彼女の相手は、私に任せてくれたまえ)

 横から、藪が提案する。

ミュー(そういえば、お前さんあのクソ生意気なアサシンと知り合いだって言っていたな。 ……じゃあ、ここは任せた)

 この明らかにカルシウムが足りてないドミニオンの暗殺者の相手をこれ以上勤めるのは嫌だったので、この場は藪に任せることにした。


Dr・藪「久しいね、ヴィオレッタ君。 この刑務所の面会場みたいな応接間、何とかならんのかね?」

ヴィオレッタ「お、誰かとおもったら藪医じゃないか。  生憎だが、応接間の苦情はギルド長にもいってくれ。

あたしに言われたって困る」

Dr・藪「そうか……じゃあ、帰り際にでもケチつけておくよ」

ヴィオレッタ「ついでに、あたしたちの給料も上げるように伝えておいてくれると助かる。

……ところで藪医、応接間のケチをツケるためだけに、わざわざ連れまで連れて押しかけたわけじゃないだろ?」

Dr・藪「ああ。 じつは、新聞記者のジギー君に頼まれてね」

ヴィオレッタ「ジギーってことは、ディアマントの不正の件か。 あいつ、今何やっているんだい?」

Dr・藪「取材……だそうだ」

ヴィオレッタ「取材だって!? 大事な事を人に任せて、あいつは何やってるんだい!?

まあ、あんたと、あんたが見込んだそこの人間なら信用できるが……」

 ここで言葉をきり、ヴィオレッタは続ける。


ヴィオレッタ「……頼まれていた潜入調査の件なんだけど、まだ調査員が帰ってきていないんだ。

昨日、ディアマントからアーサー議員へ渡された賄賂の決定的な証拠を掴んだ……っていう連絡があったんだけどね。

悪いけどあんた、様子を見てきてくれないか?

調査員はディアマントの私設精錬場に作業員としてもぐりこんでいる、銀髪のドミ……」

SE:ドキューン(銃声)!!

ヴィオレッタ「ぐっ……」

 突如銃声が鳴ったと思うと、ヴィオレッタなるドミニオンは倒れた。


ミュー「!! ……狙撃か!!」

Dr・藪「ディアマントはこの手の狙撃屋を多数、雇っていると聞く。 この潜入調査、どうやら先方に感づかれたようだ」

ミュー「そうか…… この分だと、私設精錬場にもぐりこんだ調査員の方も、消されているかもしれんな……」

Dr・藪「恐らくは……」

ミュー「まあとにかく、今は撃たれたヴィオレッタさんをどうにかする事が先決だな。

藪……何とか、助けられそうか?」


Dr・藪「ああ。 傷や出血の状態を見る限り、すぐに手当てをすれば助かるだろう。

それよりも君はこれからどうするつもりかね?」

ミュー「とりあえず、私設精錬場の様子を見てくる。 調査員の安否を確かめておきたい。

もし調査員が捕まっていたら、ひと暴れして救出してくる」

Dr・藪「わかった……。 こちらは任せて、いってくるといい」

ミュー「すまん。 じゃあ、いってくるわ」

 あたしはロボに乗り込み、一路ディアマントの私設精錬場へと向かった。



モーグ市内

?「あ、ミューさん」

 ディアマントの私設精錬場に行く途中、唐突にあたしは後ろから声をかけられた。



ジークウルネ「ミューさんこんにちわ」

ミュー「ん? 誰かとおもったらウルネか…… どうしたんだ?

確か、暫くファーイースト方面で修行するとか言っていたはずだが……」

振り向くと、そこにはあたしの盟友、ジークウルネの姿があった。

ジークウルネ「ちょっと光の塔で狩りをしようと思っていまして。

ファーイースト方面だと状態異常攻撃してくる敵が多すぎるので、嫌気が差しましましてね」

ミュー「なるほどね……」

ジークウルネ「で、ミューさんはこれからどちらに?」

ミュー「ん…… ちょっとモーグ炭堀りに……な」

 まさか、ディアマントの私設精錬所に乗り込んで、ヴィオレッタの調査員を助けにいく(手遅れかもしれないが)……とは口が裂けても言えない。

 潜入調査の一件がディアマント側にバレた可能性が高い以上、どんな罠が仕掛けられているか想像もつかない。

 そんな危険極まりない所に、ウルネを連れて行く事は絶対に出来なかった。



ジークウルネ「じー」

 そんな心中を知ってか知らずか、ウルネはこちらに疑いの視線を向けてきた。

ジークウルネ「ミューさん…… 失礼ながら、何だか嘘付いている目、していますね」

 そしてウルネはそんなあたしの嘘を、あっさりと見破ってきた……

ミュー「嘘って…… おまえなぁ……」

ジークウルネ「はぐらかしたってダメです! 本当の事を言ってください、ミューさん」

ミュー「……わかった。わかったからそんなきつい目で睨まないでくれ」

 いつぞや光の塔でウルネにエナジーショックをもらって以来、どうもあたしはウルネに頭が上がらなくなってしまっている……気がしてならない。


ミュー「実はな…… あたしはこれからディアマントの私設精錬所に乗り込んで、ある人物を救出しなけりゃならん。

正直言って、これはかなり危険度の高い仕事だと思うから…… ウルネ、間違っても首突っ込まないでくれ」

 あたしの言葉に、ウルネはどういう訳か、すぐには返答をしなかった。

 そして、次にウルネから発せられた言葉は、あたしを驚かせるのに十分な物だった。

ジークウルネ「いえ……ミューさん。 危険度の高い仕事なら、なおさらお手伝いさせて下さい」

ミュー「お手伝いって……お前なぁ……」



ジークウルネ「私だってソーサラーの端くれですし、超能力の手ほどきも受けています。 足手まといにはなりませんよ。

それに……ここでミューを一人で行かせて何かあったら、姉さんに合わせる顔がありません」

 その言葉、そっくりウルネに返したいと思ったが、それを口にだした所で彼女が聞き入れるとは到底思えなかった。

ミュー「……わかった、わかったよ。 連れて行けばいいんだろ?連れて行けば」

 これ以上説得工作を続けても無駄っぽいので、あたしはウルネに降伏することにした。

ジークウルネ「最初からそういえばいいんですよ……」

ミュー「……じゃあ、そろそろ行くとしようか、ウルネ。 余りもたもたしていると、救出対象の生命が危険に晒されるからな」

ジークウルネ「了解です。 じゃあ、急ぎましょうか」

 あたしはロボに、ウルネは機関車タイニーに乗り込み、ディアマントの精錬所へと急行した。



ディアマント私設精錬場

ミュー「ここか……ディアマントの精錬所は。 調査員の奴……無事でいてくれるといいが……」

ジークウルネ「ミューさん。唐突ではありますが、その調査員の特徴、教えてくれませんか?」

ミュー「銀髪のドミニオン……って話だが、それがどうかしたのか?」

ジークウルネ「少し待ってくださいね。 今、その人がこの建物のどこにいるのか『透視』しますので」

 そういうと、ウルネは私設精錬場の方を凝視し始めた。



ジークウルネ「大体分かりました。 該当の人物はこの建物の2Fに監禁されています」

ミュー「その人物……生きているか?」

ジークウルネ「あちこち殴られた跡があるみたいですが、何とか生きているようです。 ただ……」

ミュー「ただ?」

ジークウルネ「建物の2Fには大量のヘルダイバーがうろついています。 気をつけて下さい」

ミュー「了解。じゃあウルネはあたしの胸アクセサリに憑依してくれ。 ……ついでにインジビブルも頼む」

ジークウルネ「潜入するんですね……わかりました」

 あたしたちは魔法でその姿を消し、ディアマント精錬場の2Fへと潜入した。




ディアマント私設精錬場 2F


調査員「ぐぬ……」

ミュー「おい……あんたがヴィオレッタさんから派遣した調査員か?」

調査員「む……あんたは?」


ミュー「あたしはヴィオレッタさんから、あんたの様子を見てくるように頼まれてきた者だ」

調査員「そうか……よく、俺の捕まっている場所が分かったな」

ミュー「……そんなことはどうでもいい。 すぐにここを脱出しよう。

……動けるか?」

調査員「ああ。なんとか……。 だが、さっきまで拷問を受けていたせいで、戦闘には参加できそうもない」

ミュー「わかった。じゃあ、早速……」

声「そこまでだ!」

ミュー「!!」



 声のした方を向くと、そこには警備員らしき男の姿があった。

警備員「貴様もその男の仲間か!! いずれその男の助けが来るとは思っていたが、こうも早く来るとはな。

者ども!出会え!出会え!」


ヘルダイバー「……」

 警備員の掛け声とともに、大量のヘルダイバーがなだれ込んできた。


ミュー「……ほう、やろっていうのか? シャイナパパ(ヘルダイバーの通称)ども。 へっ、面白れぇや」

 あたしは暁の一番星改を構え、ヘルダイバー達との戦闘に備える。

 と、同時に、全身に血がたぎってきた。

 我ながら、この手の荒事になると妙にぞくぞくしてくる。



ジークウルネ「……」

 ウルネも憑依を解除し、戦闘に備えた。 ……って

ミュー「おいウルネ! 何勝手に憑依解除してるんだ!!」

ジークウルネ「生憎、ウィザード最終奥義『マジックグローブ』は憑依状態だと使えませんので……

それに、ソリッドオーラや『予知』をつかえば、憑依しなくても自分の身は守れます」

 断固たる決意をもって、ウルネは答えた。

ミュー「わかったよ…… だが、無茶するんじゃねえぞ」

 そう言った次の瞬間、あたしは手近なヘルダイバーに斬り込んだ。

 そしてウルネも、それに続いた。








(※)左上の杖はウルネの『リビングスタッフ(自動エナジーショック発射機能付き)』です




ヘルダイバー「無念……」

 そうこしているうちに最後のヘルダイバーは沈み、辺りには静寂が戻ってきた。


ミュー「ふう、何とか片付いたか。 ウルネ、調査員さん、無事か?」

ジークウルネ「ええ、何とか」

調査員「こちらも、無事だ」

ミュー「それにしてウルネ、お前さんも随分と動きがよくなったな。

ミルクピッチャー数匹狩ったらバテていた奴と同一人物とは、とても思えないな」

ジークウルネ「私だって、いつまでもそんな初心者冒険者じゃありません。 こうみえても毎日、サウスダンジョンで修行しているんですから……」

ミュー「そうか……」


警備員「な……貴様ら、よくも私が光の塔で『モンスターティミング』してきたヘルダイバー達を……。

ディアマント私兵団内でも屈指のAGIを誇る、この私の実力を見せてや……」

SE:グサッ

 突如、警備員の首筋に何やらメスのような物が刺さり、声も立てずに警備員は倒れた。

女性の声「ミュー君、無事かね?」

 声のした方をみやると……


 1Fへの階段の前に、藪の姿があった。

ミュー「お、藪じゃないか。 あのヴィオレッタの奴の治療はどうした?」

Dr・藪「手当てなら済ませてきた。 で、あいつの頼みで、急いで君を追ってきたのだよ」

ミュー「追ってきたって…… よくここまで来れたな。 ここの1Fにだって警備の連中はいるだろうに」

Dr・藪「何。 通気口から気化したアルコールを大量に流し込んで、『VXガス(※)だ』と騒いでみたら……

警備の連中も客も、みんなびびって逃げ出してしまったよ」

(※)VXガス:神経に作用する毒ガスの一種で、本来は無味無臭。ちなみに某真理教もこれを合成していた。

ミュー「派手な嘘ぷーを付いたものだな」

Dr・藪「ああ。 ……だが嘘ぷーも時と場合によっては、非常に大きな効果をもたらす事がある。

憶えておいて損は無いだろう」

ミュー「そうか……」


ジークウルネ「あ……」

 それまで黙っていたウルネが、藪の顔をみるなり反応を起こした。

ミュー「どうした?ウルネ? あのドミニオンの面に何かついているのか?」

ジークウルネ「誰かと思ったら、主治医の先生じゃないですか。 お久しぶりです」

ミュー「主治医の先生だって!?」

 これにはあたしも驚いた。 まさか、あの藪がウルネの主治医だったとは……

ジークウルネ「ええ。 名前こそ藪って名前ですけど、お医者さんとしての腕は凄くいいんですよ。

私も藪先生にかかるようになってから、凄く体調が良くなって……」

ミュー「そうか……」

ジークウルネ「でも、ここ何週間か見かけませんでしたけど……どちらまで出かけてたんですか?」


Dr・藪「何、ちょっと学会に出席していたのだよ、ウルネ君」

 流石にあたしの故郷まで出張っていたとは、この酔狂な医者も口にはしなかった。

Dr・藪「そんな事より君達。 ここにもじきに、騎士団かディアマントの私兵がかけつけてくるだろう。

面倒な事にならないうちに、立ち去ったほうがいいだろうな」

 自分の大ほらで騒ぎを起こした事を棚に上げて、藪は言った。


調査員「そうか……だが、ディアマントの不正の証拠書類がまだ回収していないのだ……」

 それまで黙っていた調査員が、不安そうにそう言った。

Dr・藪「心配には及ばない。 さっき空になった事務所にお邪魔して、不正の証拠を失敬してきた。

ついでに、何故かディアマント本人の健康診断書があったので…… ちょっと改ざんしてきた」

ミュー「改ざんしたって、具体的には?」

Dr・藪「まあ、それについてはいずれ説明するよ」

SE:ウォォォーン!!(サイレン音)

Dr・藪「どうやら、騎士団が来たようだな」

ミュー「そうか……じゃあみんな、ずらかるとするか」

 あたし達は急いで、ディアマントの私設精錬場を後にした。



モーグ郊外

ミュー「やれやれ……ようやく終わったか……」

Dr・藪「そうだな」

 あたし達はあの後、不正の証拠書類一式をもって新聞記者のジギーの所に戻った。

 ジギーは書類一式を見るや否や、大喜びで新聞社に戻った。

 恐らく明日の朝刊には、ディアマントの不正の一件が掲載される事になるだろう。

Dr・藪「ところでミュー君」

ミュー「ん?何だ藪」

Dr・藪「もう一度確認するが、この仕事はフレイヤの軍医採用試験もかねていたのだな。

で、試験の結果を、ここで聞いておきたいのだが……」

ミュー「そうだな……」


ジークウルネ「あれ? 先生、もしかして今度、フレイヤの軍医になっていただけるので?」

Dr・藪「ああ、その通りだよ。 もっとも、ミュー君が首を縦に振れば……の話だが」

ジークウルネ「ミューさん、藪先生を軍医にしてあげましょうよ。 先生の人柄については、私が保証しますから」

 ウルネが強烈に、藪の事を推薦してきた。

ミュー「うん……まあウルネの信頼もこうして得ていることだし、あんたのおかげで、今回の仕事がスムーズにいった事も事実だ。

試験は……合格という事でいいだろう」

ジークウルネ「わああ……おめでとうございます、藪先生」

 あたしの合格宣言に真っ先に喜んだのは、藪本人ではなくウルネだった。

 余ほど彼女は、藪の事を気に入っていたのだろう。

Dr・藪「ふつつか者ではあるが、二人とも、よろしく頼む」

ミュー「ああ。 だが藪、まだ艦長のフロースヒルデとの面接が済んでいない。

彼女のOKが出たら、正式にフレイヤ軍医に採用という事になるだろう」

Dr・藪「なるほどな…… もっとも、フロースヒルデ君とはウルネ君の治療の件で何度も顔をあわせているから、全く知らない間柄ではないよ」

ミュー「そうか……

ところで藪。さっき、ディアマントの健康診断書を改ざんしたって言っていたが……何やったんだ?」

Dr・藪「何、大した事はしていないさ」


Dr・藪「持病欄に『末期がん』の文字を入れておいただけさ

この健康診断書をみたディアマントの豚野朗がどういうリアクションをするのか、確かめてみたい」

ミュー「末期癌って、おいおい……」

 だが、相手はモーグシティきっての大悪党のディアマント。

 奴がどうなろうとあたしのしった事じゃないので、それ以上突っ込むのはやめておいた。

ジークウルネ「さ、日も暮れてきた事ですし、そろそろ『フレイヤ』へ帰りましょうか」

 あたし達3人は夕暮れのモーグを、フレイヤの係留場所まで歩き出した。



数日後……


ミュー「さて、今日も光の塔へ狩りにでもいくかな」

 Dr・藪はあの後フロースの面接もパスし、晴れてフレイヤの軍医となった。

 そして、フレイヤの料理関係の仕事も、全て彼女が引き受ける事になった。

 彼女の料理の腕前は大した物で、医者なんかやらなくても、コックとしても通用するといっても過言では無いだろう。

 彼女の加入により、フレイヤの弱点の一つであった福利厚生部分が、これで克服される事になった。

 おかげであたしも余計な事(料理等)をかんがえる事無く、機関長としての仕事や狩り、さらに機械工作に打ち込めるようになった。

 まあ、そんな事をあれこれ考えているうちに、ディアマントの屋敷の前に到達したのであるが……


ミュー「……こいつは、まさか……」

 ディアマントの屋敷前に着くと、葬式で使われる白黒の幕が掲げられていた。

 ディアマントの家中で、何かあった事は明らかである。

 急いで中に入ってみると、そこには……





 ……お約束というか何というか、ディアマントの遺影がでかでかと掲げられていた。

 受付の人に聞くと死因はどうも心臓麻痺らしいが、自然死なのか、藪が改ざんした健康診断書を見てショック死したのか、

はたまたデOノートの仕業によるものなのかは……定かでは無い。


(……縁起でもないオチで申し訳ありません)


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