藪の飛空庭


赤メイド服の女の子「あ……ミュー先輩。 ご無沙汰してます」

 修理された私の庭に入ると、ここまで庭を回送してきてくれたらしい、赤メイド服の女の子が出迎えてくれた。


ミュー「よ、ホワイト。 久しぶりだな。

お前さんも……今度この星配属になったみたいだな」

赤メイド服の女の子「ええ、そうですよ。 これでまた、ミュー先輩と一緒にお仕事できますね☆」


Dr・藪「ミュー君……話に割り込んで済まないが、彼女は何者なのかね?

どうやら、君の知り合いのようだが……」

ミュー「ああ、こいつはC(キュリー)=K=ホワイト。 あたしと同じ、MPI所属の調査官だ」

Dr・藪「ほう…… MPI所属という事は、君の同郷の者かね?」

ミュー「ああ、その通りだ。 ちなみに、彼女はあたしの……一年後輩に当たる。

ホワイト、この人に挨拶を」

赤メイド服の女の子「はい、先輩」


ホワイト「はじめまして。  今度この星に赴任しましたMPI三等調査官、キュリー=K=ホワイトと申します。

ふつつか者ではありますが、よろしくお願します」

Dr・藪「……私は藪明子。 この星の『広義の』現地人で、医者をやっている。

ミュー君とは少し前から、仲間として一緒に行動しているよ」

ホワイト「そうですか…… 先輩がいつもお世話になっております」

ミュー「……ホワイト。早速だが、これからちょっと中で藪と大事な話がある。

終わるまで……不審者が来ないかどうか、見張っていてくれ」

ホワイト「わかりました。では、ここは私に任せて、ごゆっくりとどうぞ……」



家の中


Dr・藪「さて…… 早速だが、今回の標的について詳しく説明するとしよう。

今回の標的は……」


Dr・藪「守護竜ベルフレイムと呼ばれる、ファイヤードラゴを巨大化させたようなドラゴンだ。

ファーイーストのイーストダンジョンの奥に住み着き、狩りをるす冒険者を襲ったり……

酷い場合は近くの農村まで出張って家畜を根こそぎ食べたり、民家を壊したりと……やりたい放題やっているそうだ。

そのくせ、ドラゴンという生き物は希少な生き物だから、無闇に駆除すると動物愛護団体がヒステリーを起こすし……

そもそも、正面切って駆除できるような相手でも無いから…… その村も、対策に苦慮しているそうだ」

ミュー「そうか…… そりゃ、早いところ何とかしてやった方がいいな」

Dr・藪「ああ、それは私もそう思う」


Dr・藪「で、私は先ほど『料理下手な女の子の手料理』で、ドラゴンが殺せると言ったが……

敵もさる物。 半端な料理下手の手料理では、暫くの間のた打ち回りはするものの、死んではくれない。

究極に(不味い)一皿を食わせて、初めてドラゴンを仕留める事が出来る」

ミュー「なるほどね…… そう簡単には事は運ばないって事か。

察するところ、ドラゴンを一撃で仕留められる料理を作れるスカウトマスターは…… ある意味、凄いな」

Dr・藪「凄い何てLvじゃないぞ、彼女の手料理は。

しかし、彼女は先に述べたように、ドラゴンを5匹も手料理で殺ってしまった事にショックを受け…… 二度と料理が出来ぬ体になってしまった。

故に、スカウトマスターに直接料理を作ってもらうという手は……使えない」

ミュー「フロースの手料理も、捨てたもんじゃないと思うがな。 はっきりいって産業廃棄物だぜ……あいつの手料理は」

Dr・藪「フロース君の手料理か…… 『毒』として使うのなら、彼女の手料理も悪くはないと思うが……

かといって彼女の手料理単体では、ドラゴンを仕留められるかどうかは微妙な所だ」

ミュー「そうか…… で、どうすれば確実にドラゴンをしとめられる産廃……もとい手料理が出来るんだ?」

Dr・藪「方法は色々と考えられるが……」


Dr・藪「ここは他の料理下手な女の子の手料理も混ぜてみて…… 一つ『究極の産業廃棄物』を作ってみよう。

ネタブログ界でも屈指の料理下手といえば……フロース君の他には、すかいうぉーかーのメイドさん(妹)とお嬢様がいるね。

これに、同じくNPCの料理下手であるティタの手料理を混ぜれば…… かなり強力な『産業廃棄物』が出来るだろう」

ミュー「そうか……」

Dr・藪「しかし、問題は彼女達の手料理をどうやって手に入れるか、だ。

ミュー君、何か考えはあるかね?」


ミュー「そうだな…… ティタの場合は『エミルがティタの手料理を食べたがっている』とでも言えば、すんなりもらえるだろう。

問題はすかいうぉーかーのメイドさん(妹)とお嬢様の手料理だが……

正直いって、あたしはすかいうぉーかーの人たち……フィフスノート商会の人たちの手料理に手を出すのには反対だ。

万が一本人達に知られたら、政治問題に発展するのは避けられないし……

最悪、フィフスノート商会所有の戦闘庭『はるかぜ』とのドンパチに発展する可能性も否定できない」

Dr・藪「ふむ……そうか。 無用な揉め事は、避けたいという所か」

ミュー「そういう事だ。

……そもそも藪、なんで不味い料理でドラゴンを殺す事にこだわるのか、その辺が見えないんだが……」

 ミューが、当然といえば当然の質問をぶつけてきた。

Dr・藪「このアクロニア大陸の冒険者達は、消耗したHPやMP、SPを回復するために……良くモンスターがドロップした食料を『拾い食い』する事がある。

君も……心当たりはないかね?」

ミュー「う……そういえば、ヘルダイバーやシュバリスから、トニ水や高級ドライフルーツをよく……な」

Dr・藪「今回のドラゴンが出没する地域は、一般の冒険者も狩りをしている区域でもある。

そんな所に、毒入りの餌をおいておいて、誤って冒険者が口にしてしまったらどうなるか……」

ミュー「……そりゃ、ちと洒落にならん事になるわな。

でも、不味い料理を食べても食あたりする事はあるんじゃないのか?」


Dr・藪「それは確かにそうだが…… 猛毒を入れた物を食べるよりは、被害は遥かに少なくて済むだろう」

ミュー「そうか……それは確かに」

Dr・藪「さて、フィフスノート商会諸氏の手料理が使えないとなると……フロース君とティタ君の料理だけで、

ドラゴンを殺せる程の代物を作らないといけないな……

私はこれからフレイヤに戻って、フロース君を連れてくるとするよ。 ミュー君、君はどうする?」

ミュー「あたしはちょっと、これから知り合い同士の会合に出なきゃいけないからな……

っとそうだ」

そう言うとミューは、手持ちのベルを鳴らした。



ホワイト「お呼びでしょうか?ミュー先輩」

 すぐさま、外で見張りをしていたホワイトが駆けつけてきた。

ミュー「お前さんに一つ、任務を与えたいんだが…… 時間あるか?」

ホワイト「はい。先輩の頼みでしたら、なんなりとお引き受け致します」

ミュー「済まないが、これからタイニーアイランドって所に行って……『ティタ』って奴から何でもいいから手料理を作ってもらってきてくれ。

『エミルがお前さんの手料理を食べたがっている』とでも言えば、すんなりもらえるだろう」

ホワイト「分かりました。でも……」

ミュー「ん? どうした?」

ホワイト「ティタさんのお料理は、食べると必ず食あたりを起こす代物だと聞いています。

それでも……欲しいんですか?」

Dr・藪「必ず食あたりを起こす代物だからこそ……欲しい代物なのだよ。 ある物を作るのに、どうしても必要なのでね」


ホワイト「了解しました。 あと、NPCのマーシャさんも、お嬢様育ちで料理がかなりへたっぴだと聞いています。

そっちの方もついでに、確保しておきますか?」

Dr・藪「ああ、お願いするよ」

ホワイト「わかりました。 ではミュー先輩、藪さん。 いってまいります」

ミュー「ああ、気をつけてな」

 ホワイトはそういうと、足音も立てずに私の庭を後にしていった。


Dr・藪「……ミュー君。 彼女……ホワイト君は一体、何者なのかね?」

ミュー「何者かって……さっきも言わなかったか? 彼女はあたしの後輩だ。 それ以上のもんじゃない」

Dr・藪「それはわかっているのだが……

この星に着任したばかりの身にしては、エミル達NPCの事を詳しく知っているようだし……

それに、足音を立てない歩き方といい、隙の無い身のこなしといい…… 

エージェントとしての訓練を受けていなければ、ああいった立ち回りは出来ないと私は思うのだが……どうかね?」

 私の指摘に、ミューは少し口ごもったようだが、やがて口を開いた。

ミュー「『仕掛人』の目は、やっぱり誤魔化せないか……

 その通り、あいつはMPIの工作部隊に所属している者だ。

ちなみに、あたしはMPIの調査部隊に今はいるが……一時期、あいつと同じ工作部隊にいたことがあった」

Dr・藪「なるほど……」

 と、その時である。

SE:ツルルルル……

 突如、ミュー君の携帯電話が鳴った。

ミュー「もしもし……あ、何だウルネか。 一体どうした……

……なんだって!? ……わかった。 あたしはこれから用事があるから……藪をそっちに向かわせる

じゃ、また後で」

SE:プチ(電話切れる音)

Dr・藪「……ミュー君、ウルネ君は何と?」

ミュー「まあ、たいした事じゃ無いといえば無いんだが……」


ミュー「フロースと元帥が、今『フレイヤ』の厨房で喧嘩しているらしい。 

ウルネや他のネコマタ達じゃ、もうどうしようも無いほどヒートアップしているそうだ。

済まんが藪、あいつらの喧嘩、止めてきてくれないか?」

Dr・藪「わかった。 こっちは任せて、ミュー君は会合に出てくるといい」

ミュー「済まん、恩に着る。 じゃあ藪、また後で」

Dr・藪「ああ、また後でな」

 ミュー君と分かれた私は、首脳陣の喧嘩の仲裁と、フロース君の手料理確保の為に、『フレイヤ』へと戻った。


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