日記第17回

今回の日記担当:S・ミュー



某月某日 アクロポリス アップタウン



ミュー「ふい〜。 今日もクエスト消化終わった終わった。

さて、そろそろフレイヤに帰るとするかな」

 とある日の正午、あたしはいつもの通りタタラベマスターに金の弾丸を届けて、溜まったばかりのクエストを消化した。

山吹中佐「あ、ミューはん。 あそこにいるの……ウルネちゃんやないか?」

 相棒である山吹中佐が指差した先には、あたしが勤務する戦闘庭「フレイヤ」の同僚の、ジークウルネの姿があった。

ミュー「ウルネか…… こんな時間にあいつがアップタウンをうろうろしているのは珍しいな……

でも……何だか様子が変だな」



ジークウルネ「ノレン……一体どこいっちゃったのよ……」

 ウルネはどういうわけか、焦ったような表情で辺りを見回していた。

 どうやら誰かを探しているようだが、それにしては表情が妙に蒼ざめている。

ミュー「どうしたんだ、あいつ…… ま、とりあえず声かけてみるか」

 あたしは人ごみをかきわけ、ウルネの方に近づいていった。



ミュー「よ、ウルネ。こんな所で何やってるんだ?」


ジークウルネ「はっ!! み、ミューさん……」

 ウルネの方はこちらの接近に全く気がつかなかったらしく、驚きの表情を浮かべた。

ミュー「どうした?ウルネ。 何そんなに焦っているんだ?」

ジークウルネ「あ、ミューさん。丁度いい所に来ました。

唐突ですがこの写真の子…… 見た覚えありませんか?」

 というなり、ウルネは一枚の写真を取り出した。


↑写真

ミュー「いや、無いが…… こいつ、一体誰だ?」

ジークウルネ「私の弟……ノレンガルドといいます。 予定では今日、試練の為に下界に下りてくる予定なのですが……」



ミュー「へぇ……お前さんに弟がいるなんてな…… 

で、ウルネ。 弟探すのに、何でそんなに焦る必要があるんだ?」

ジークウルネ「……実は姉さんから頼まれて、弟をアップタウンの白の聖堂前で待ち合わせていたんです。

でも…… 時間を一時間以上過ぎても、弟は姿を見せてくれなくて……」

ミュー「で?」

ジークウルネ「心配になって、弟の居場所を超能力で探知しようとしたら…… 不意に、とんでもない光景が目に浮かんだんです」

ミュー「とんでもない光景? そいつは一体?」



ジークウルネ「私の弟……ノレンが、鉄トゲの鞭で引っぱたかれて絶命する……瞬間です」

 思い出すのも嫌だという表情で、ウルネは告白した。



ミュー「えっ!?」

 このブログを最初から読んでいる人ならお分かりのように、ウルネは『予知』のECO未実装スキルを習得している。

 なので、あたしにはウルネが世迷いごとを言っているようには思えなかった。

ミュー「そいつは……なおの事急いでお前の弟さんを保護しないとまずいな。 で、弟さんの居場所の目星は?」

ジークウルネ「付いていませんよ。 あの光景を見た瞬間、頭がパニックになってしまって……

弟の居場所が、探知できなくなっちゃったんです」

ミュー「そうか……」

 超能力とは、術者本人の集中力が物を言うECO未実装スキルだと聞いた事がある。

 今回のウルネのように頭がパニくった状態だと、上手く能力を発揮出来ないと聞く。

 ましてや、実の弟が殺される瞬間を『予知』した日には、動揺しないほうが不思議である。

ミュー「……事情は大体分かった。 事は一刻を争うからようだから、手分けして探そう。

ウルネはアップタウン東側、あたしは西側を担当しよう」

ジークウルネ「は、はい。ミューさん。 それでは、早速……」

 ウルネが言いかけたその瞬間である。

女性の声「ムッコロス!!

 突如、辺りから女性の怒鳴り声が聞こえた。

 しかもこの女性の声には、あたしには聞き覚えがあった。



ジークウルネ「この声……間違いありません。 一族のイズベルガさんの声ですよ、ミューさん」

 イズベルガさんとは、ECO家の一族髄一の武闘派で、その実力は四葉ワールドの中でも屈指の実力者である。

 そして、彼女はウルネが所属しているNG(ニンジャギルド)の幹部…… つまり、ウルネの上司に当たる人物でもある。



山吹中佐「ミューはん、ウルネはん。 不吉な事言うようで申し訳ないんやが……」

ミュー「? どうした中佐」

山吹中佐「その…… ウルネはんが予知したっていう、『鉄トゲの鞭』で弟さんが引っぱたかれるシーン……

ひょっとすると、そのイズベルガはんに引っぱたかれるシーンとちゃうか?」



ミュー&ジークウルネ「!!

 山吹中佐の発言に一瞬、あたしもウルネも声を詰まらせた。

 しかし、こういっては失礼かもしれないが、イズベルガさんという人はかなり凶暴な性格であるのも事実である。

 なので、ウルネの弟が何らかの理由でイズベルガさんの機嫌を損ねて攻撃されるという事も…… まったくありえない事では無かった。

ミュー「まあとりあえず、イズベルガさんの声のした方に行って見よう。 いくぞ、ウルネ」

あたしはウルネを連れて、イズベルガさんの声のした地点へと向かった。



アップタウン 裏路地


イズベルガ「3秒の猶予を与えます。 言い残す事があれば言いなさい

 現場に到着すると、案の定イズベルガさんが『鉄トゲの鞭』を振り回して怒鳴り散らしていた。

 そして、彼女の視線の先にに居たのは……


少年「ねえ、スケバンのお姉ちゃん。 何で、そんなに怒ってるの?

危ないよ、そんな大きな鞭を振り回しちゃ」

 山吹中佐の予想通り、ウルネの弟らしき人物がいた。

 怒り狂ったイズベルガさんを目の前にしても平然としているあたり、度胸だけはあると思われるが、

単に状況を理解していないだけ……という可能性もある。

 ただ、確実に言える事は……


ジークウルネ「このままじゃ、ノレンがイズベルガさんにやられちゃう……」

 そう、あのノレンの命が無い事だけは、確実であった。

ミュー「ウルネ、ここはあたしに任せておけ。 ……カル、『ベイルアウト』でイズさんの背後に回りこむぞ」



H・カル(ミューのロボ)「はい。 了解しました」

 あたしは『ベイルアウト』を使い、イズベルガさんの背後へと回りこんだ。



イズベルガ「む…… 誰です! 私の背後を取ろうとしている愚か者は!」

 イズベルガさんの背後にワープアウトすると、案の定すぐに彼女は反応してきた。


ミュー「ほらほらほらイズちゃん。 おいでおいでおいでおいで〜

 あたしは手持ちの『暁の一番星改』のネコじゃらしモードを発動し、イズベルガさんの挑発を開始した。

イズベルガ「誰かとおもったら、『フレイヤ』のミューでは無いですか! そのようなふざけた真似をして、生きて帰れると思っているのですか!?」

 狙い通り、イズベルガさんの注意はあたしの方に向いた。

 先方も鉄トゲの鞭を構え、臨戦態勢に入る。

ミュー「まあ、冗談はこのくらいにして……」


ミュー「イズベルガさんよ…… 仮にも一族の顔役であるあんたが、そんな初心者相手に絡むなんて……

恥ずかしいとは思わないのかい?」

イズベルガ「こちらの事情も知らずに、何をぬけぬけと……」


イズベルガ「この男は初心者の分際で、愚かにも姉さん(ル・ティシェ)にナンパしようとしたのです。

姉さんに対してそのようなふしだらな行為をする事は、一族に対する重大な反逆行為である事くらい……貴女だって分かるでしょう」

 聞いた話では、イズベルガさんは一族長姉であるル・ティシェさんに恋心にも似た感情を抱いていると聞く。

 なので、ティシェさんに変なまねをしようとすれば、イズベルガさんの制裁を受けるのは確実であるし……

実際、過去何人か犠牲者も出ていると聞く。


少年「あのさ……スケバンのお姉ちゃんとレディースのお姉ちゃん。 盛り上がってる所わるいんだけど……」

 その時、イズベルガさんに絡まれていた男の子が発言してきた。

イズベルガ「貴方、さっきから人の事をスケバンスケバンって…… 余ほど、命が要らぬと見ていいのでしょうね!!」

 スケバンのお姉ちゃんとは、どうやらイズベルガさんの事を指すらしい。 

 そうなると、『レディースのお姉ちゃん』とはあたしの事になるが……

 地元にいた頃、幾度となくレディース呼ばわりされた事があったので、今更『レディースのお姉ちゃん』と呼ばれても、あたしの方は怒る気にもなれない。


イズベルガ「いずれにせよ、貴方にはここで地獄に落ちてもらいます! 覚悟はいいですね!!」

 イズベルガさんが再び、鉄トゲの鞭を振り回し始めた。

少年「うん……それはいいんだけど、その前に……」


少年「そもそも、『ナンパ』ってどういう意味なんですか?

 
イズベルガ「!!


ミュー「!!

 少年の思いがけない一言に、イズベルガさんもあたしも凍りつかざるを得なくなった。

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