日記第20回(3)


鉄火山山頂


ホワイト「…………」

 転職試験に不合格になってしまった私とアンブレラちゃんは、鉄火山の山頂までやってきました。

 鉄火山の山頂ならサラマンドラ以外に人はいませんし、考え事をするにはもってこいです。

 それに……アサシンの転職試験に落ちたなんて醜態を晒したままで、ミュー先輩やフレイヤのみんなに顔向けをする事はできません。


アンブレラ「心中、お察し申し上げるのである」

 私が落ち込んでいるとおもっているのか、アンブレラちゃんが慰めの言葉をかけてきた。

ホワイト「……」

アンブレラ「とりあえず、元気を出すのである。 スカウトギルドのマスターに掛け合えば、再試験を受けさせてもらえるかもしれないのである」

ホワイト「……ありがとう、アンブレラちゃん。慰めてくれて。

でも…… スカウトマスターに会うのは、もうちょっと後にするわ。 今はまだ……気が向かないから」

アンブレラ「なるほど……なのである。

ところでホワイト嬢…… 先ほどから砂が大量に入ったバケツに手を突っ込んで、何をしているのであるか?」

 私の手元にあったバケツを目ざとく見つけて、アンブレラちゃんが質問した。

ホワイト「ああ、これね。 これはスリの人達が訓練で使う為の道具。

砂の入った入れ物の中に手を突っ込んで、自由に手が動かせるようになるまで訓練するの。

まあ、今はちょっとした準備運動代わりに、これやっているだけなんだけどね」

アンブレラ「スリの訓練用の道具であるか…… っと、ちょっと待つのである。

スリの訓練用の道具を使っているという事は、もしや、あのドミニオンの女性から薬を……」


ホワイト「そのまさかよ、アンブレラ君。

薬をあくまでくれないというのなら……」


ホワイト「第15代怪盗キュリアコットの名にかけて、盗むまでよ!!

 私は愛用の『怪盗マスク』を装着しつつ、アンブレラちゃんの方に向き直った。


アンブレラ「……よかったのである。 とりあえず、元気を出してくれたので何よりなのである」

ホワイト「……元気だすも何も、最初から落ち込んでいないわよ、アンブレラちゃん。

こう見えても高校入試のときも、公務員試験の時も、事前に試験問題を盗み出して強引に突破した事があるのよ。

それに比べれば薬の一つや二つ、盗むのなんか訳ないわ」

アンブレラ「入試問題の事前入手であるか…… ホワイト嬢も随分、派手な事をしてきたのであるな。

で、ホワイト嬢。 あのドミニオンの女性より、どうやって薬を盗むのであるか?  見た所、彼女の身のこなしに隙は無さそうなのである」

 仮にもあのドミニオンの女(ミズチさん)はスカウトギルドの職員。 なので一般人から物を盗むより、当然難易度は高いです。

 故に、ただ単にこっそり近づいてポケットの中の薬を失敬するのはかなりのリスクが伴います


ホワイト「……そこでアンブレラちゃん。 この盗みを成功させるに当たり…… 貴方に一つ、お願いしたい事があるの」

アンブレラ「我輩に出来ることなら、何なりとするのである。 して、そのお願いしたい事とは?」

ホワイト「それはね……」

 近くにいるサラマンドラ達に聞こえないように、私はアンブレラちゃんに耳打ちをした。

 そして、数分後。

アンブレラ「……了解なのである。 では、これより我輩は、ミズチなる女性に対する空撃を開始するのである」

ホワイト「……勢い余って、殺したりしないようにね。 じゃあ、健闘を祈るわ」

アンブレラ「そちらこそ……なのである」

 私とアンブレラちゃんは、作戦遂行の為にそれぞれの持ち場につきました。

 目指すはミズチさんのポケットの中にある……アサシンの薬です。



鉄火山南西部


ミズチ「ふぅ……ようやく日没か。 さて、そろそろアイアンシティに帰るとするかな」

 ミズチさんはアイアンシティの方角へ歩き始めた、その時でした。


SE:ピキーン!!

 一匹のギーゴが、ミズチさんに絡んできました。

ミズチ「ふん、ギーゴごときがスカウトギルド幹部の私に喧嘩売ろうっていうの? 上等じゃない。返り討ちにしてやるわ!!」

 ミズチさんは爪を構え、ギーゴはドンドン間合いを詰めていきます。

 そして、両者の距離が0になった、その時でした。


ギーゴ「ララバイ!!

 本来ギーゴが使えないはずのスキルを、ミズチさんに襲い掛かったギーゴは使ってきました。


ミズチ「な……」

 これには流石のミズチさんも予想外であったらしく、抵抗するまもなくミズチさんは昏睡状態に陥ってしまいました。

ギーゴ「……ネコマタ(黒)よりネコマタ(白)へ。 我、目標の石化に成功したのである。 至急、下から上がってくるのである」


崖下


ホワイト「了解。 じゃあ、今から上に上るわ」

 ミズチさんのいる高台の下に待機していた私は、報告を聞くなり例のギーゴが垂らしてくれたロープを伝い……


 数秒で、ミズチさんのいる所まで上がりました。

 ミズチさんは立ったまま、グーグー寝ています。


ギーゴ「それにしてもホワイト嬢。 モノマネカードを使って我輩を一時的にギーゴの姿に変えるとは……中々やるのである。

我輩としても、こんなにあっさり奇襲が成功するとは、思ってもみなかったのである」

 このギーゴの正体は、口調からわかった人はわかったかもしれませんが、例のアンブレラちゃんです。

ホワイト「ギーゴはアクティブな上にこの高台に腐る程いるし、その上べらぼうに強いモンスターって訳でもないからね。

流石のミズチさんも、ギーゴがララバイなんてスキルを使うなんて、思ってもみないでしょ」

ギーゴ(アンブレラ)「確かに……なのである」

ホワイト「さ、ミズチさんが起きないうちに、さっさと目的のブツを回収しましょう」

ギーゴ「了解、なのである」


ホワイト「さて、目的のブツは……っと」

 寝たままのミズチさんのポケットやディバックにこっそり手を入れる事数秒……。

ホワイト「あ、あった。これだこれだ」

 目的の薬を、ようやく手に入れる事ができました。

 もちろん盗みを実行した後も、ミズチさんはグーグー寝たままです。

ホワイト「さ、アンブレラちゃん。 ミズチさんが目を覚まさないうちに、とっとと撤収しましょう」

ギーゴ(アンブレラ)「了解なのである」

 私とアンブレラちゃんはミズチさんに気がつかれないように、急いでその場を後にしました。



スカウトギルド


スカウトマスター「よかった。確かにアサシンの服薬4つ、もってきたようだね。

お前にはどんな状況でも生き抜く力が備わっているようだ。 アサシンとしての適正は十分だ!

お前をアサシンと認めよう」


ホワイト「ありがとうございます、マスター」

スカウトマスター「所で話は飛ぶが…… お前、アサシンスーツ(女)を買ったかしら?」

ホワイト「いや、まだですけどそれが何か?」

スカウトマスター「さっきアップタウンをぶらついていたら、タイニー通り商店街でオークションをやっていたの。

そこでなんと…… ル・ティシェのサイン入りのアサシンスーツ(女)が出品されるそうなのよ。

お金に余裕があるんだったら、買ってきたらどうかしら?」

ホワイト「ええ!? 本当ですか!?」

 ル・ティシェさんとはECO家の一族所属のアサシンで、私達女性スカウト&アサシンの憧れの的であったりします。

 そのティシェさんのサイン入りのアサシンスーツ(女)が売られているとあれば……買わない手はありません。

 幸い……ここへ帰る前に『金策』はしてきたので、お金には余裕があります。

ホワイト「じゃあマスター、急いでオークション会場まで行って来ますね」

スカウトマスター「いってらっしゃい。 上手く落札できたら、一度私にもみせてね☆」

 スカウトマスターに見送られ、私はスカウトギルドを後にしました。


一時間後 戦闘庭フレイヤ艦橋


ホワイト「ただいま〜」


ノレンガルド「あ、おかえりなさい〜 ホワイトさん」


ジークウルネ「おかえりなさい、ホワイトさん。

あ……その服着ているという事は、ホワイトさんもとうとう、アサシンになられたのですね」

ノレンガルド「おめでと〜 ホワイトさん」

 フレイヤに帰り着くや否や。私はウルネちゃんやノレン君の祝福を受けました。

ホワイト「ありがとう、二人とも。 で、このアサシンスーツ(女)、実はただのアサシンスーツじゃないんですよ……」

ジークウルネ「ただのアサシンスーツじゃないというと…… 何ですか?」

ホワイト「聞いて驚かないでくださいよ。 このアサシンスーツ……」


ホワイト「ECO家の一族長姉、ル・ティシェさんのサイン入りの
アサシンスーツなんですよ〜


ジークウルネ「ええっ!! 本当ですか!?  そんな貴重なもの、良く手に入りましたね」

ホワイト「タイニー通り商店街でオークションやっていましてね。 かなり際どい所だったけど、何とか落札できました」

ジークウルネ「へぇ……」

声「いいよなぁ…… 職業服のデザインのいい職業は……」

 居住区の方から声がしたかと思うと


 ミュー先輩のが居住区の方から上がってきました。

 しかし、その表情は何故か冴えません。

 その理由は……


ノレンガルド「似合わないね。そのお洋服」

 ノレン君がミュー先輩に対し、手厳しい評価を下しました。

ミュー「そりゃ、言われんでも分かっている。 はぁ……こんな服でデザインした奴を呼び出してやりたい気分だぜ」

ホワイト「……流石の先輩も、そのメカニックワンピだけは着こなせませんでしたか」

 ミュー先輩は、本来熱血硬派らしくない服でも、以外と着こなす才能を持っています。

 例えば……


 メイド服(女)とか……


 キノコぐるみとか……

 意外なお洋服も、平気で着こなしていたりします。

 しかし…… いくらミュー先輩といえど、あの極彩色のメカニックワンピだけは、手に負えなかったようです。


ミュー「とりあえず、ヨーコさんとこ行って来るわ。 こんな極彩色ワンピ、恥ずかしくて着てられないぜ」

ホワイト「それがいいです。 ミュー先輩」


ジークウルネ「ところで話は飛びますが…… あのアンブレラさん、どのくらい成長しましたか?」

ホワイト「そこそこ……かな。 アンブレラちゃんにも転職試験手伝ってもらっていたから、あまり育成に手が回らなかったんです。

申し訳ありません」

ジークウルネ「いえいえ。 ホワイトさんの役に立ってくれたというのなら、私からはそれ以上言う事はありません

アンブレラさんもご協力、どうもありがとうございました」


アンブレラ「お役に立てて、光栄なのである」

 アンブレラちゃんもウルネちゃんにほめられて、何だか嬉しそうです。


ミュー「ところで…… いい加減、このアンブレラに名前つけてやったらどうだ?

ノレン、こいつの飼い主はお前なんだから、お前が名前をつけてやれ」


ノレンガルド「名前……うーん、何にしよう……

……アンブレラ君のその喋り方…… 『我輩は猫である』の猫ちゃんにそっくりだね。

よし、決めた」

 ノレン君はここで、何故か深呼吸をしました。

ノレンガルド「アンブレラ君、今日から君の名前は……」


ノレンガルド「鴎外(おうがい)だよ。 ちなみに鴎外の名前の由来は、『我輩は猫である』の作者から来ているんだよ〜」

アンブレラ改め鴎外「鴎外であるか……名前自体は格好いいから非常に気に入ったのである。

しかしノレン少年。君は一つ、とんでもない思い違いをしているのである」

ノレンガルド「ん? 何?」


鴎外「『我輩は猫である』の作者は夏目漱石なのであって、
森鴎外ではないのである



ノレンガルド「!!」

 鴎外ちゃんの指摘に、ノレン君は一瞬動揺したような様子を見せました。

 が、すぐ平静さを取り戻し……


ノレンガルド「残念だなぁ…… ジークお姉ちゃんが口やかましく『勉強しなさい』っていうから、色々と勉強したのに……」

鴎外「まあ、『我輩は猫である』とか、『鴎外』とかいう単語が出てきただけでも……少年、見込みはあるのである。

日々、精進することが肝要なのである」

ノレンガルド「うん……分かったよ、鴎外」


鴎外「それでは皆……ふつつか者ではあるが、よろしくお願いしますのである」

全員「こちらこそ」

 ……こうして、私は無事、アサシンに転職する事が出来ました。

 これからもフレイヤの皆さんのお役に立てるよう、精進していきたいと思います。




〜おまけ〜

ミズチ「う〜ん……よく寝た…… あれ? もう夜だ。 急いで街に帰らないとお店、閉まっちゃう……

それ以前にお金あったから……」

 そこで、ミズチさんは財布を閉まっていた懐に手を入れました。

ミズチ「あれ……財布が無い…… どこにもない……

ってことはまさか……」


ミズチ「わ、私のなけなしのお小遣いがああああああっ!!!





 ああ、皆さん。 最後に唐突でありますが、私の実家、ホワイト家の家訓をご紹介しましょう。

 ホワイト家当主……つまり、歴代の怪盗キュリアコットが盗みを働いていいターゲットは、以下の通りに決められています。

1.金持ちや悪徳商人の財産

2.試験問題(試験問題を事前入手する事自体が、怪盗キュリアコットとしての訓練の一環となっています)

 そして……


3.自分に敵対行為を働いた者の財産

 この3つです。

 ミズチさんは合言葉を間違えたくらいで私を邪険に扱う=敵対行為を働きましたので……

薬と一緒に、おしおきとして財布も没収させて頂きました。

 それでは、今宵はこれにて、失礼致します。



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