日記第20回
本日の日記担当:C・K・ホワイト
9/8 15:37分 記事内容一部改訂
某月某日 藪の庭
ホワイト「行きますよ!艦長!! 手加減は抜きです!!」
フロースヒルデ「どこからでもかかってきなさいな、ホワイトさん!」
とある晴れた日の昼下がり、私事ホワイトと、『フレイヤ』の艦長であるフロースヒルデさんは、剣術の稽古に明け暮れていました。
フレイヤの甲板は剣術の稽古をするには狭すぎますので、訓練をする時はいつも、広い甲板を持つ藪先生の庭でやることにしています。
で、その手合わせの結果は、といいますと……
ホワイト「ま……参りました……艦長……」
ベースLvの差が20以上あるので当然と言えば当然かもしれないが、私はあっさり艦長に伸されてしまいました。
フロースヒルデ「まだまだね。 まあでも、最初の時よりは随分動きがよくなっているわ」
ホワイト「お褒めの言葉……ありがとうございます」
フロースヒルデ「とはいえ、まだ動きが直線的過ぎるのは確か。 もうちょっと、曲線的に動くように心がけなさいな。
さもないと、海賊方面の敵の攻撃、避けられないわよ」
ホワイト「はい……肝に銘じます」
ホワイト「でも艦長……いつも稽古つけてくださいましてどうもありがとうございます。
本国に居た頃はミュー先輩がいつも稽古つけてくれたのに……」
どういう訳か、フレイヤの乗組員になって以降、ミュー先輩はあまり私に稽古をつけてはくれません。
稽古付けてくださいと申し立てても、『今忙しいから』と、のらりくらりとかわされるのが常です。
フロースヒルデ「ああ、それはね。 ミューが『身内相手だとどうしても甘さが出る』とか何とか言って、
稽古の役目を私に押し付けてきたのがそもそもの始まりよ。
まあ、そのお返しとして、今ミューにはノレンの特訓をお願いしているの」
ホワイト「なるほど……。 でも先輩の特訓って、相当ハードですよ。
ノレン君、ついていけるかしら?」
フロースヒルデ「大丈夫よ。 あの子はああ見えて、ガッツはある方だと思うから。
むしろ、ミューがあの子の『超天然怪電波』にやられて根を上げないかどうかが心配だわ」
ホワイト「その点は大丈夫でしょう、艦長。 常日頃から『熱血硬派』を名乗っているあの先輩に限って根を上げるなんて事は無いと思います。
根を上げるとすれば、その時は……」
ホワイト「この世の終わる時です」
フロースヒルデ「終わる時……ねぇ。 まあ、わからなくもないけど」
艦長は苦笑をもらした。
ホワイト「さて……稽古も終わりましたし、私はそろそろギルド元宮にいってきますね」
フロースヒルデ「ギルド元宮……スカウトギルドのクエストでも受けにいくの?」
ホワイト「いえ、転職試験を受けに行きます。 もう、JobLvは50になりましたので」
フロースヒルデ「そっか…… ホワイトさんももう、アサシン転職の時期になったのね。
おめでとう、ホワイトさん」
ホワイト「ありがとうございます、艦長」
ホワイト「じゃあ、時間が惜しいので、そろそろ出かけますね」
フロースヒルデ「いってらっしゃい。 あまり無理しないようにね」
艦長に見送られ、私は藪先生の庭を後にしました。
ギルド元宮2F スカウトギルド
ホワイト「ハロー えぶりにゃん。 ツンデレマスター」
スカウトマスター「えぶりにゃん。
……はぁ、なんでこう、みんな揃って私の事をツンデレツンデレって……」
挨拶早々、我らがツンデレ……もとい、スカウトマスターは愚痴をこぼした。
ホワイト「あれ? マスターの本名って、『ツンデレマスター=ニンジンスキー』って言うんじゃないんですか?」
スカウトマスター「言わないよ!!」
ホワイト「え……でも、うちの藪先生はそう言っていましたけど。
確か、藪先生とマスターって、昔からの知り合いだって聞きましたが」
スカウトマスター「ああ、そうさ。 奴とは小学校低学年の頃からの知り合いさ。
しっかしあの藪医…… よくもまあ、うちの純粋無垢な子にそんなデタラメをベラベラと……」
ホワイト「あの……マスター。 ご立腹中の所申し訳ないのですが」
スカウトマスター「ん?何だ」
ホワイト「アサシンに転職したいので、転職試験、受けさせてもらえないでしょうか?」
スカウトマスター「なんだ、転職か…… てっきり、『ジルコン暗殺』辺りのクエストでも受けに来てくれたのかと思ったよ」
スカウトギルドではF系ギルドにしては珍しく、職業クエストを斡旋してくれています。
しかし、標的の居る場所までの移動に時間がかかりすぎるという難点がある事から、お世辞にも人気のクエストとは言いがたいです。
最近はクエストを受けてくれる人が少ないために仕事がたまりにたまってしまい、マスター自ら出撃したり、
藪先生のような非合法暗殺者『仕掛人』に仕事を投げたりと、マスターも中々苦労しているようです。
ホワイト「受けても構いませんけど、生憎、スカウトのJobLvが50になっちゃったんで……
申し訳ありませんが、クエストの話は転職後にお願いできないでしょうか?」
そう、一次職のJobLvがカンストした以上、今のままJob経験値を貰っても、得る物は何もありません。
スカウトマスター「……わかった。そういう事情があるのなら、いいだろう。
では、これよりアサシン転職試験の内容を説明する」
ホワイト「はい」
スカウトマスター「今からお前には、ある薬を取ってきてもらう。 薬は全部で四つ。
薬を持っている奴は、大陸全土にいるからな」
ホワイト「は、はい」
スカウトマスター「まず一人は……そうだな。 案外近くにいるかもね。 海岸とか。
他の三人は……暑い所と寒い所。 それに西の島にいるよ。
あと、寒い所に居る奴は大のブラックコーヒー好きだ」
ホワイト「ブラックコーヒー好き……ですか」
スカウトマスター「まあ、会って見ればわかるよ。 ……と、そうそう、大事な事をいわなくっきゃね。
薬を持っている人を見つけても、合言葉を言わなきゃ、薬はもらえない。
特別に合言葉のヒントを教えよう。 ヒントは『キュア』だ。
……だが、これが誰の合言葉かはおしえないからな」
ホワイト「誰の合言葉か……という事は、一人一人、合言葉が違うという事ですか?」
スカウトマスター「その通りだ。 ついでに言うと、薬を貰う順番も、予め決まっている。
じゃあ、話はここまでだ。健闘を祈る。さあ移動開始だ」
ホワイト「……了解です、マスター」
ホワイト「それでは不肖ホワイト、これより任務に入ります!!」
スカウトマスター「ああ、気をつけてな」
こうして、私のアサシン転職試験は始まりました。
戦闘庭フレイヤ
ホワイト「ただいま〜」
ジークウルネ「あ、ホワイトさん。お帰りなさい」
私はそのまま『薬』を持っている人の所へは直行せず、一旦『フレイヤ』へと戻りました。
ホワイト「あ、ウルネちゃん。丁度よかった。 一つ、お願いしたいことがあるのですが……」
ジークウルネ「はい。 私に出来る事なら、なんなりと」
ホワイト「ちょっと、ダウジングをして欲しいんですよ。
今私はアサシンの転職試験の真っ最中で、これから各地にいる試験官から薬を貰わなければならないのですけど……」
ジークウルネ「その試験官の居場所と、薬を貰う順番を私の超能力で調べて欲しい……と」
ホワイト「そうそう…… って、ウルネちゃん、何でアサシンの転職試験内容を知っているのですか!?」
ジークウルネ「この間、一族のル・ティシェ様から教えてもらったんですよ。
ついでに、試験官4人の居場所は『軍艦島』、『海岸(大陸洞窟前)』、『ノーザリン岬』、『鉄火山』。
訪問する順番は『軍艦』⇒『大陸洞窟前』⇒『ノーザリン岬』⇒『鉄火山』の順番で回るといい…… そう、あのお方はおっしゃられていました。」
超能力を使うまでも無く、ウルネちゃんは私の知りたい事を答えてくれました。
ホワイト「ありがとう、ウルネちゃん。 でも、何でアサシンの試験内容をあの人はウルネちゃんに?」
ジークウルネ「『お前の所で飼っているスカウトが転職試験中に詰まっていたら、この事を奴に伝えてやってくれ』。 そう、あのお方に頼まれました」
ホワイト「なるほど…… 今度ティシェさんに会ったらお礼いっておかないといけませんね」
ジークウルネ「ところでホワイトさん。 話は変りますが、これから外に出かけるというのなら一つお願いがあるのですが……」
ホワイト「お願い?」
ジークウルネ「光の塔で拾った『新種のペット』の育成、お願いできないでしょうか? ちょっと私は事務処理が忙しくて、ここを離れられないもので」
ホワイト「ええ、構いませんけど…… その新種のペットとは?」
ジークウルネ「この子です」
というなり、ウルネちゃんは呪文の詠唱をはじめました。 そして、次の瞬間には……
アンブレラ「我輩は傘(アンブレラ)である。 名前はまだない」
光の塔に生息するモンスター、アンブレラが姿を現しました。
見た目はとっても可愛い子ですが、その戦闘能力はかなり高く、下手に手を出すと痛い目に遭うそうです。
ホワイト「へえ、可愛い子ですね。 でもこの子、どうして拾ったのですか?
確かアンブレラは、あんまり人になつかない生き物だって聞いた事がありますが」
ジークウルネ「実はですね。この間、ノレンを連れて光の塔に狩りに行った時の事なのですが……」
数日前 光の塔A塔12F
ジークウルネ「さて、今日はここで狩りしましょう。 ノレン、援護して」
ノレンガルド(注:現在ウルネのアクセサリーに憑依中)「は〜い」
ジークウルネ「あとノレン、槍持った人と闇属性の魔法を使っている人に、無闇やたらと『辻ヒール』しちゃ駄目よ。
……姉さんから聞いた話だとノレン、この間アンデッド状態になっているダークストーカーやネクロマンサーの人たちにヒールかけて、
回復させるどころかあやうく殺しかけたそうじゃない(注:実話)」
ノレンガルド「ごめん、ジークお姉ちゃん。 でも、何でダークストーカーやネクロマンサーの人達って、好き好んでアンデッド状態になりたがるんだろうね?
おかげて、うっかり辻ヒールも出来ないよ」
ジークウルネ「さあ…… 私はその手の闇魔法に関する事は専門外だから…… よく分からないわ。
さ、時間も惜しいから、早く狩りを始めましょう」
ノレンガルド「は〜い。 って……」
ノレンガルド「あれ……あの子かわいいね。 ジークお姉ちゃん、あれってネコマタ(黒)なの?」
ジークウルネ「いや、あれはアンブレラっていうモンスターで、かなり強いモンスターよ。
そして、あれは詠唱反応型のモンスターだから…… あれの近くで魔法なんか使っちゃ駄目よ。
もしあれに絡まれたら、今の私じゃ対処のしようがないわ」
ノレンガルド「うん。わかった。 でもあの子、かわいいからうちでペットとして飼ってみたいなぁ……」
ジークウルネ「たしかに、可愛いのは認めるけど…… あれを飼うのなんか無理よ、ノレン」
ノレンガルド「え〜 やってみないと分からないよ、ジークお姉ちゃん」
ジークウルネ「どうやって、あのアンブレラをこっちに手なずけるのよ。 先ほどいったように今の私じゃ、アンブレラの相手は荷が重過ぎるのだから……」
ノレンガルド「とりあえず、話しかけてみようよ。 上手く交渉すれば、ペットになってくれるかもしれないよ」
ジークウルネ「話すもなにも、そもそもアンブレラが私達と同じ言語を使っているとは限らないのよ。
さ、下らない事いつまでも言っていないで、早くその辺のトロットでも……」
ノレンガルド「え〜! トロット狩りなんか、あの子をペットにしてからでも遅くは無いよ〜
駄目元で、話かけてみてよ、ジークお姉ちゃん〜」
ジークウルネ「駄目元もなにも、交渉失敗したら私もノレンも、ここで人生終わっちゃうのよ。 そこの所分かっているの?ノレン?」
ノレンガルド「そんなのやってみないとわからないよ、ジークお姉ちゃん〜。 ねえ、話しかけてみてよ」
ジークウルネ「ああ、もう……」
ジークウルネ「ワガママ言っているんじゃありません!!」
ウルネちゃんがどなった、その時です。
SE:ピキーン!!(アンブレラ、詠唱反応)
ジークウルネ「しまった…… 勢い余って詠唱反応させちゃった……
ノレン、ここは逃げて! ここは私が食い止めるから……」
ノレンガルド「うん……わかった」
ジークウルネ「さあ、貴方の相手は私です!! ノレンには……ノレンには指一本触れさせません!!」
ウルネちゃんが魔法の詠唱を始めたその時です。
アンブレラ「待つのである、マドモアゼル。 我輩に敵対する意志は無いのである。
とりあえず、その物騒な物は下ろして欲しいのである」
ジークウルネ「あ、はい」
アンブレラの意外な行動に、ウルネちゃんも振り上げた杖をとりあえず下ろしました。
どうやら、アンブレラ側に敵対する意志は無いらしい。
アンブレラ「先ほど、マドモアゼルらがしていた会話、聞かせてもらったのである。
何でも、我輩をペットにしたいとか……」
ノレンガルド「へえ……アンブレラさんって、僕達と話が出来るんだね。
で、どうかな? 僕達のペットに、なってくれるかな?」
いつの間にか憑依を解き、ノレン君がアンブレラに話しかけました。
ジークウルネ「アンブレラさんにも事情があるでしょうから、無理に……とは申しませんが」
アンブレラ「……ペットの件であるが、少年、マドモアゼル」
アンブレラ「結論から申し上げるに、我輩の方からお願いしたい次第なのである」
時は戻って現在……
ホワイト「で、アンブレラ君はなんで、ペットに自分からなろうと思ったのですか?」
アンブレラ「理由は二つあるのである。
まずは野良のまま光の塔をうろついていても全く成長しないから、誰か、信頼の置ける者のペットになって成長したいというのが一つ。
そしてもう一つの理由は…… 正直、命が惜しかったというのもあるのである」
ホワイト「命が惜しかった…… それはまた何でですか?
アンブレラって、ガッテンガー並に強いモンスターって聞いた事がありますが」
アンブレラ「それは否定はしないのであるが、我輩らアンブレラにしろ、ガッテンガーにしろ……
PT組んでいる冒険者軍団や、JobLv50の廃人冒険者に太刀打ちできる程では無いのである。
我輩ももう15年以上前の事ではあるが、とあるネタブログの母者さんに『百鬼哭』をもらい、伸されてしまったの事があるのである」
ホワイト「あらあら……それはお気の毒に……」
ジークウルネ「でも、アンブレラさん。 『百鬼哭』って、ブレイドマスターのJob50のスキルですよね。
でも、ECO家の一族の母者さんはファーマー系だから……『百鬼哭』は使えませんよね」
もっとも、このネタブログ界において、他職のスキルを習得している例が皆無という訳ではありません。
例えば、うちの藪先生などは、アルケミストであるにもかかわらず、アサシンのスキルである『クローキング』や『スキャターポイズン』を
習得しているという噂があります。
一族の母者さんにしても、『百鬼哭』を習得している可能性が0という訳ではありません。
アンブレラ「いやいや、我輩がやられたのは、一族の母者殿では無いのである
我輩が不覚を取った相手は……」
(C)今宵は月と花と夢語りと・・・
アンブレラ「このサイトの母者、エルトルージュ殿なのである。
幸い、エルトルージュ殿は心優しい方故、手加減してくれたために命までは取られずに済んだのだが……
その後も我輩は何人もの廃人冒険者に絡まれ、幾度となく殺されかけたのである」
ホワイト「なるほど…… それで、たまたま通りかかったウルネちゃん達に助けを求めたという訳ですか」
アンブレラ「そういう事なのである」
ジークウルネ「それにしても、エルトルージュさん、『百鬼哭』を持っていたのですか……」
アンブレラ「私見ではあるが、あの女性はネタブログ界の剣士の中では、まず間違いなく最強と思って差し支えないのである。
恐らく、接近戦に限ればエルトルージュ殿は、ECO家の一族の母者殿すら圧倒する実力を持っているかも知れないのである」
ジークウルネ「そうですか……」
ホワイト「あ、ウルネちゃん。 そろそろ私は試験に戻りますね。
アンブレラ君も……一緒に行こうか」
アンブレラ「了解なのである」
ホワイト「じゃあウルネちゃん、行って来ますね〜」
ジークウルネ「いってらっしゃい、ホワイトさん」
私はウルネちゃんに見送られ、『フレイヤ』を後にしました。
目指すは軍艦島…… 最初の薬をくれる試験官がいる所です。
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