日記第22回(3)
光の塔屋上
異国の騎士A「くはははは!! 俺TUEEEEE!!」
異国の騎士B「私の物は私の物…… 人の物も、私の物よ……!!」
塔の屋上に着くと、見慣れない格好の冒険者がモンスターや他の冒険者相手を狩りまくっていた。
後で聞いた話だと、この人たちはルーンミットガルツ王国という、他のMMORPGから来た人だそうだ。
異国のならず者「しっかし、アクロニアの冒険者のLvって、大した事ないねぇ。
こんなLvで廃人名乗るなっつーの。 ……って」
ノレン「ねえそこの冒険者さん達。そのくらいにしようよ。 騎士団の人達やGMが飛んでくるよ」
僕はたまらず、割ってはいったけど……
異国の騎士A「あ? こりゃまた弱そうな奴が現れたな。 そんな奇麗事はLvカンストになってから言えよ」
異国のならず者「そうよ…… さ、大人しくあたしらに狩られな」
有無を言わさず、僕に絡んできた。
と……
女性の声「おやめなさい、二人とも」
突如、女の人の声がしたと思うと……
タイタニアの女の子が、僕の前に姿を現した。
異国の騎士A「あ、すみません。大将。」
異国の騎士さんが、タイタニアの女の子の一礼する。
どうやら、この人は迷惑狩りをしていたPTのリーダーのようだ。
タイタニアの少女「私はセイラマス。 このPTのリーダーで、バードです。
……どうやら、貴方はウァテスかドルイドですね」
ノレン「うんそうだけど…… それよりセイラさん達は、何でこんな事をしてるの?
他の冒険者まで狩りの対象にするなんて、普通じゃないと思うんだけど……」
セイラマス「その理由は簡単ですわ……」
セイラマス「この塔屋上は本日付けで、私のPTの占有物となりました。
ここに来る他の冒険者達は、私達の土地に勝手に踏み込む『不法侵入者』として、狩ってるだけの事ですよ」
ノレン「ふぅん……そうなんだ……」
異国の騎士B「……そういう事さ。 さ、あたしらの気が変わらないうちに、失せな」
異国の騎士さんが僕に脅しをかける。
鴎外(ノレン少年……ここは危険なのである。 逃げるのである)
鴎外が僕に耳打ちしてきてして来たけど……
ノレン(でも……狩場の独占なんて行為、僕だって許してはおけないよ。
……切り札を使うから、鴎外は下に行っていて)
鴎外(……分かったのである。 しかし、無理はしてはいけないのである、ノレン少年)
鴎外は階段を伝って、下の階に移動した。
ノレン「ところでセイラさんって、バードだってさっき言っていたよね」
セイラマス「ええ、そうですが…… それがどうかしましたか?」
ノレン「実は僕もバード目指して、今楽器の練習しているんだけど…… 一曲だけでも、聞いてもらえるかな?」
異国の騎士A「ああっ? てめえセイラマスさんにさっきから慣れなれしいんだよ!! そんなにこの剣の錆になりたいか!?ああっ!?」
異国の騎士さんの男の方が、すごんできた。
セイラマス「……おやめなさい。 バード志望の少年のささやかな願いくらい、聞いてあげなくてどうするのですか?」
異国の騎士A「す、すみません」
セイラマス「では、何か一曲、演奏してみてください」
ノレン「は〜い」
そして、僕はディバッグの中にしまっていたバイオリンを取り出した。
ノレン「じゃあ、いくよ……」
僕は静かに、バイオリンを構えた。
そして、すこしの呼吸を置いた後、僕のバイオリンは音を奏で始めた。
SE:ギゴギゴギゴギゴギゴギゴギゴギゴギゴギゴ
(↑ノレンのバイオリンの音)
迷惑PT一同「GYAAAAAAAAAAAA!!!!」
僕のバイオリンの音色を聞き、迷惑パーティのみなさんは苦痛にのたうちまわりはじめた。
数分後……
鴎外「なにやら、この世の物とは思えぬ音が聞こえたのであるが…… ノレン少年、大丈夫であるか?」
僕を心配したのか、鴎外が上がってきた。
ノレン「あ、鴎外。 こっちは大丈夫だよ」
鴎外「ほっ…… それは一安心なのである」
鴎外妹「ところで……さっきまで我が物顔で暴れていた迷惑廃人冒険者の方々の姿が見えないどすが……
もしかして、貴方様が退治しなはったんですか?」
鴎外の妹も、ついでに下の階から上がってきた。
迷惑廃人冒険者とは……まず間違い無く、セイラさん一行の事を指すんだと思う。
ノレン「あ、あの迷惑PTのみなさんなら退治したよ。
僕のバイオリンの演奏聞いたら、みんな苦痛にのたうち回っちゃって……」
投 身 自 殺
ノレン「最後には全員、コードレス・バンジージャンプしちゃったからから」
鴎外妹「そうえ…… まあ何にせよ、連中があの世に旅立たれたというのであれば、うちらとしては万々歳どす。
塔屋上のMOBを代表して、お礼申し上げますえ」
鴎外の妹は僕に、ぺこりと一礼した。
鴎外妹「あ、そうえ…… ついでにお願いしたいんやけど…… この辺りに転がっているうちの仲間、リザレクションで起こしてくれへんやろうか……」
ノレン「うちの仲間…… ああ、その辺でダウンしちゃっているモンスターさん達の事だね。
いいよ、リザしてあげる」
僕はさっきの廃人冒険者にやられたらしいモンスターのみんなに、リザレクションをかけて回った。
数分後……
気のいいアルケー「いや……助けてくれてどうもだぽ。 あのままあの連中が暴れていたら、大惨事になっていたかもしれないぽ」
僕がリザレクションをかけたモンスターの一人、アルケーさんが感謝してくれた。
気のいいアルケー「……僕はアルケーのポコっていうんだぽ。 君の名前は?」
ノレン「僕はノレンガルド。ウァテスだよ。 ノレンって呼んでくれると、僕は嬉しいな」
アルケーのポコ「そう、ノレンって言うんだぽ……
それにしてもノレン、君は変わっているぽ」
ノレン「? どうして?ポコさん」
アルケーのポコ「一次職でこんな所に来ただけでも凄いのに…… 僕のようなアルケーにまでリザをかけてくれるなんて……
アルケーって、普通怖いものじゃないんだぽ?」
当然といえば当然の質問を、アルケーのポコさんはしてきた。
ノレン「う〜ん。 それほどでもないかな。 それに……」
ノレン「その顔じゃ怖くないしね」
アルケーのポコ「がーん! ひどいぽ」
僕の一言に、ポコさんは軽くショックを受けたようだ。
が、すぐに持ち直し
アルケーのポコ「まあ何はともあれ、助けてくれてどうもありがとうだぽ。
お礼に君を……僕たちの『盟友(ポンヨウ)』……つまり、友達だと認めるだぽ。
……みんなも、それでいいかだぽ?」
ドミニオン・ペナンス「もとより、異議など有るわけがないのであります」
ガッテンガー7「あっしも、異議無しなのでガンス」
他のモンスターさん達も、みんな僕と友達になる事も賛成してくれた。
ノレン「やった〜友達が増えた〜 みんな、これからよろしくね」
ドミニオン・ペナンス「こちらこそですよ、ムッシュ(坊や)。 ところで、ムッシュは何ゆえ、この塔の屋上まで来られたのですか?」
ノレン「ええと…… なんだっけ。 ごめん、忘れちゃった」
SE:ドテ!
僕の発言に、屋上中のモンスターさんたちがずっこけた。
鴎外「ああ……代わりに我輩が説明するのである。
実は、これなるノレン少年は、ドルイドの転職試験の真っ最中なのであるが…… どうしても、タイタニアの世界に行かねばならない用事が出来たのである。
それで、ここに住んでいる妹に、タイタニアの世界への行き方を聞きに来たのであるが……」
鴎外妹「あら兄様。 ドルイドへの転職試験でしたら、何もタイタニアの世界まで出向くことはあらへんどすえ」
思いもかけない事を、鴎外の妹さんは言った。
ノレン「え……それはどういう意味?」
鴎外妹「ポコさん、ご説明お願します」
アルケーのポコ「分かったぽ」
そして唐突に、ポコさんに話を振った。
アルケーのポコ「君は大方、『ドルイドの刻印』を貰ってくるようにって、言われたと思うのだけど…… 違うかぽ?」
ノレン「ええと……どうっだったかな……
あ、そうだ…… 確かに司祭さんは『ドルイドの刻印』を貰ってくるようにって言っていたよね、鴎外」
鴎外「たしかに、そうなのである。 でもポコ殿、それがどうかしたのであるか?」
アルケーのポコ「『ドルイドの刻印』だったら、アルケーであれば誰でも施せるぽ。
友達である証に、僕が刻印を施してあげるぽ」
ノレン「え……いいの? じゃあ、よろしく頼むね〜」
アルケーのポコ「了解だぽ。 じゃあ、すこし眼をつぶるだぽ」
アルケーのポコさんは、そういうと僕に『ドルイドの刻印』を施してくれた。
ノレン「……ありがとう、ポコさん」
アルケーのポコ「その刻印を白聖堂の司祭さんに見せれば、君も立派なドルイドの仲間だぽ」
鴎外「かたじけないのである、ポコ殿」
ノレン「さて……あんまり帰りが遅くなるといけないから、僕はそろそろ帰るね」
アルケーのポコ「そう…… また来る時は一杯遊ぶだぽ、ノレン」
ノレン「うん。わかったよ」
鴎外妹「あの……ノレンはん。 唐突なんやけど、うちもノレンはんや兄様とご一緒してもええどすか?」
鴎外の妹さんが、同行を申し出てきた。
ノレン「断る理由はないよ、妹さん。 じゃ、鴎外、妹さん。そろそろ行こうか」
ガッテンガー7「気をつけて帰るでガンス。 廃人に絡まれたりしたら、逃げるのが一番でガス」
屋上のモンスターさん達に見送られ、僕は『時空の鍵』を使って町へと戻った。
その日の夜
戦闘庭フレイヤ 艦橋
ノレン「ただいま〜」
藪「おや、お帰り。 その格好から見るに、どうやら無事に、ドルイドになれたようだね」
フレイヤの艦橋に戻ると、軍医の藪先生が出迎えてくれた。
ノレン「あれ? 他のみんなは?」
藪「他の連中は、みんな遺跡なり海賊クエなり、公開庭巡りなどで出払っているよ。
で、ノレン君。とみに問うが……」
藪「そのリリカル、いったいどうしたんだ?」
ノレン「……鴎外の妹だよ。 今日、ドルイド転職中に光の塔屋上に行ってきたんだけど……
その折に、拾って来たんだよ。
ちなみに名前はさっき決めて…… 一葉(いちよう)って名前にしたんだ」
一葉(鴎外妹)「そこのアンブレラ、鴎外の妹の一葉どすえ。 ふつつか者ではありますが、よろしくおねがいしますえ」
藪「私はこの艦の軍医を勤めている藪 明子と言う。 以後よろしくたのむよ、一葉君」
一葉「はい」
藪「しかしノレン君。 塔屋上に行ったなんて事がウルネ君に知れたら、雷が落ちる可能性が極めて高い。
一葉君は私が屋上で『モンスターティミング』してきた物としておきたいが…… いいかね?」
ノレン「うん、いいよ。 というより、ジークお姉ちゃんに怒られるは嫌だしね」
一葉「私も、異存ありませんえ」
鴎外「我輩も……なのである」
藪「ところでノレン君。話は変るが、アンブレラ、リリカルとペットにした以上……」
(←イメージ画像)
藪「アンブレラ系Mobの最後の一種であるウェンディーもいずれ、ペットにするつもりなのかね?」
ノレン「うん……いずれはそのつもりだけど……」
鴎外「ちょ! ちょっと待つのである!ノレン少年!!
あ、あれ(ウェンディー)を飼うのだけは、我輩としては勘弁してもらいたいのである」
鴎外は僕の発言に、何故か強い拒否反応を示した。
一葉「ノレンはん。 同じアンブレラ系Mobとして、ウェンディーを飼うのだけはお勧めできませんえ」
一葉は一葉で、おだやかに拒否反応を示した。
ノレン「え……? 二人とも何で?」
鴎外「我らアンブレラ系のMobは、性別によって種族が分かれるモンスターなのである。
アンブレラ系の男性はアンブレラ、女性はリリカル、といった具合なのである」
ノレン「へぇ……そうなんだ。
……って、男の子がアンブレラ、女の子がリリカルだったら…… ウェンディーは一体何に当たるわけ?」
藪「そこから先は、私が説明しよう。
鴎外君も言ったように、アンブレラ系のモンスターは男性がアンブレラ、女性がリリカルというように、性別によって種族が分かれる生き物だ。
最近の研究では、ウェンディーはカタツムリのような雌雄同体の生き物である事が分かってきた。 まあ、分かりやすく言えば……」
藪「俗に言う『ホモ』という奴なのだよ、ウェンディーという生き物は」
ノレン「!!」
……まあなにはともあれ、僕は無事にドルイドになる事ができた。
どこまで頑張れるかはわからないけど、これからも適当に頑張って行きたいと思う。
※注:本日記で描かれたドルイド転職の模様は、実際のドルイド転職試験の内容のそれとは大きく異なります。
塔屋上に行った所でアルケーからドルイドの刻印がもらえるわけではないので、これからドルイド転職を控えている方は
ご注意下さい。
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