第23回(2)


その日の夜……


フロースヒルデ「え…… 何ここ!?」

 貸本屋さんから本を持ち帰ってきたその日の夜。

 ベッドに横になったはずの私は、気がつくと見覚えの無い宮殿の中にいた。

元帥「この建物は…… 中の装飾からみて、古代アクロニア王国の……

そう、あたし達が生きていた頃の建物だよ」

 何故か一緒に夢の中に来ていた元帥が、私に語りかけた。

フロースヒルデ「なるほど…… で、ここは一体どこなのかしら?」

元帥「さあ、そこまではあたしも分からないよ」

 などと、私達が語り合っていると……


侍女風の女性「ああ、そこにおわすは我らが勇者様…… 我々は貴女が来るのをずっと待ち望んでおりました」

 近くにいた侍女が、私達に声をかけてきた。

フロースヒルデ「勇者様って……私の事?」

侍女風の女性「はい。 ここは、アクロニア王国の王宮内部……

勇者様は私の魔法により、ここに召喚されたのでございます」

フロースヒルデ「げ…… 異世界に召喚とは、ありがちな冒険談の筋書きだわ……

 召喚される側の都合も考えずに……」


元帥「フロースちゃん。ワガママ言っていると話進まないから…… とりああえず話聞いてあげようよ。

貸本屋のおばあさんの依頼の事……よもや忘れた訳じゃないでしょうね?」

フロースヒルデ「あ、ごめんごめん…… お婆さんの代りに、冒険談の夢を見るのが……今回の仕事だったわね」

元帥「もう、フロースちゃんったら忘れっぽいんだから……」

 元帥が苦笑を漏らす。

フロースヒルデ「……で、勇者である私は、一体何をすればいいのですか?」

侍女「詳しい事情は……王妃様から説明があると思います。 私に課せられた使命は、勇者様の召喚と、勇者様を王妃様に引き合わせる事……

王妃の間へご案内します。 こちらへ……」

 私達は侍女に案内され、王宮の奥へと案内された。


王妃の間

侍女「王妃様、勇者様をお連れしました。」

女性の声「通して下さい」

侍女「こちらです、勇者様。 くれぐれも、王妃様に失礼の無いように……」

フロースヒルデ「失礼します」


王妃「ようこそ勇者様。 私はこのアクロニア王国の王妃、パープルです」


フロースヒルデ「始めまして、王妃様。 私はフロースヒルデと申します。

王妃様…… 早速ですが私を召喚した理由を、お聞かせ願えないでしょうか?」

王妃「はい…… 一月程まえ、私の一人娘であるアプリコット王女が……『魔王』にさらわれてしまったのです。

八方手を尽くしたのですが、未だにあの子を助ける事が出来ず……

最後を希望を…… 勇者様に託す事にしたのです」

フロースヒルデ「なるほど…… 要するに、私に王女様を助けてこい、と」

 魔王にさらわれたお姫様を救出する…… ありがちすぎて今日では逆に新鮮味すら感じる展開である。

王妃「お願いです勇者様! どうか娘を…… アプリコット王女を救出してください!!」

 今にも土下座しかねない勢いで、王妃様はお願いしてきた。

 その表情は真剣そのもので、生半可な理由で『嫌です』とは言わせない何かがあった。


フロースヒルデ「……わかりました、王妃様。 助けにいってきましょう」

王妃「そう言ってくれると信じていました、勇者様!

これはほんのお礼です。受け取ってください」

 というなり、王妃様は先端がプルル状の杖(プルルスタッフ)を渡してくれました。

王妃「これはブリーダーの方でも装備出来る魔法の杖です。 知り合いの魔法使いさんがブリーダーに一時転職する時等に、役に立つと思います」

フロースヒルデ「これはどうも……」

 とりわけて貴重なアイテムという訳では無いが、少なくとも『路銀100G』よりは遥かにマシな前金である。

王妃「魔王は絶海の孤島にある古城に住んでいます。 しかし海路で行くと、海を『自分達の領域』とするインスマウス達が黙ってはいないでしょう……

魔王の城へ行く為のもっとも安全な方法…… それは、火の山に住む火の鳥に運んでもらう事……

勇者様、まずは火の山を目指し、火の鳥の力を借りるのです」

フロースヒルデ「わかりました…… でも王妃様。 その火の山とは、一体どこに……?」

王妃「ああ、これは申し訳ありません。 地図をお渡ししますので、それを参考にして行って下さい。

もし道が分からなければ、ウィスパーしてくださればお教えしますので」

フロースヒルデ「は、はぁ…… それでは、行って来ますね。王妃様」

 思いっきり他力本願な王妃様に背を向け、私と元帥は王宮を後にした。



アクロニア王国平原

元帥「そういえばこの国の風土…… あたし達の祖国のそれにそっくりだよ……」

 火の山への移動中、元帥がぽつりと呟いた。

フロースヒルデ「そういえば、さっきの王宮も『自分達が生きていた頃の時代の物だ』って言っていたわよね。

この国……元帥の祖国なの?」

元帥「いや、あの王妃様にも王宮にも見覚えがないから、それは無いと思う。

でも……何だかあの王妃様、菫少将にそっくりじゃなかった?」

フロースヒルデ「そういえば……そうね。 それに、私を召喚したって言う侍女さん、元帥にそっくりだったわね」

元帥「あ、言われてみればそうかも…… この分だと、他のネコマタのそっくりさんも出てくるかも……」


目つきの悪い商人「待ちぃ!そこの巨乳の嬢ちゃん!!」

 突如、目つきの悪そうな商人が私に絡んできた。

 見た感じ、山吹中佐にそっくりである。


目つきの悪い冒険者「ここから先は、あたしらの許可無しには進ませないよ」

 商人の相棒らしき冒険者もメンチを切ってきた。 こちらは茜少佐そっくりである。

フロースヒルデ「ちょっと何なのよ、貴方達。 ひょっとして、魔王の手先!?」

目つきの悪い商人「いや、うちらはそんな奴らを関係あらへん。 ここを通りたければ、素直に有り金おいていくか……」

目つきの悪い冒険者「さもなければ、あたしらの出すクイズに答えてからいきなさい」

フロースヒルデ「クイズねぇ……」

 どう考えても、クイズの方が楽勝のようである。

目つきの悪い冒険者「但し、クイズの方は間違えたら無条件で身包みはがさせてもらうから…… 覚悟はいいね」

フロースヒルデ「むう……まるで山賊じゃない、あんたたち」

目つきの悪い商人「まるでも何も、うちらは山賊そのものや。 さ、素直に有り金だすか、クイズに挑戦するか、二つに一つや!」


フロースヒルデ「そう…… じゃあクイズの方で」

目つきの悪い商人「そか……クイズの方か。 さっき相方が言ったけど、もし間違えたら身ぐるみはがさせてもらうから、そのつもりでいてや」

フロースヒルデ「はいはい。 じゃあ、さっさと問題だしなさいな」

 もっとも問題間違えた所で、素直に身包みはがされるつもりも無かったが、クイズの中身も気になったので、とりあえずクイズだけでも

受けてみることにした。


目つきの悪い冒険者「じゃあ問題。

かつての大日本帝国海軍の艦艇の中で、1隻『ひふへ』の名前を冠している艦艇が存在します。

その艦の名前は、なーんだ?」

 これは答えられまい! といった表情で茜少佐似の冒険者は問題文を読み上げた。

 しかし……

フロースヒルデ「ふふふ……飛んで火にいる夏の虫……とはまさにこのことね。 私に軍事関係のクイズを出してくるなんて……

『ひふへ』の名前を冠する大日本帝国海軍の艦艇、それは……」


フロースヒルデ「ズバリ軽巡洋艦『那珂()』よ!!


↑参考資料:軽巡仲……もとい『那珂』


目つきの悪い冒険者「!!」


目つきの悪い商人「!!

せ、正解や。 この問題だけは解けないと思ったんやけどな……」

目つきの悪い冒険者「くっ……残念だけど約束は約束ね…… ほら、さっさと通りなさいな」

 吐き捨てるように、茜少佐似の冒険者は言った。

フロースヒルデ「そう、じゃあ通らせてもらうわね、お二人さん」

 私は二人の脇を抜け、先へと進んだ。

 そして、後には真っ白に燃え尽きた二人の山賊が取り残された。




火の山


藍副長似の巫女さん「ああ、そこにおわすは勇者様…… お待ち申し上げておりました」

 火の山の山頂につくと、藍副長似の巫女さんが声をかけて来た。

 どうして見ただけで私が勇者だと分かったのかについては、あえて突っ込まないでおく。


緑の服の巫女さん「我らが役目は、勇者様を魔王の城へと案内する事……

さあ、なんなりとご命令を」

 隣にいた緑の巫女さんも、私に声をかけて来た。

 彼女だけは、フレイヤの乗組員のネコマタにそっくりさんが存在しない。


元帥「緑准将のそっくりさんだね…… あの緑の服の女の子」

 元帥がぽつりと呟いた。

フロースヒルデ「緑准将…… へぇ……元帥に緑ネコマタの部下がいたんだ」

 緑ネコマタは他のネコマタに比べて生息数が極端に少なく、しかもお金持ちの廃人にしか憑きたがらない習性を持っているとされる。

 このネタブログ界全体を見回してみても、緑ネコマタを所有しているサイトはイェルドさんの『Little Wish』くらいな物である

元帥「そうだよ。 もっとも、今は消息不明なんだけどね。

はあ……今頃どこをほっつき歩いているんだか」

 ため息混じりに、元帥はぼやいた。

緑の服の巫女さん「あの……勇者様?」


フロースヒルデ「ああ、ごめんなさい巫女さん達。 実は、王妃様からこの山に住む『火の鳥』の力を借りるようにって言われたのだけど……」

緑の服の巫女さん「ああ、はい。 私達はその火の鳥……ホムラ様に使える巫女にございます。

勇者様がお望みでしたらホムラ様を召喚致しますが……よろしいでしょうか?」

フロースヒルデ「ええ、おねがいするわね」

緑の服の巫女さん「かしこまりました。それでは……」


藍副長似の巫女さん「蘇れ〜♪ 蘇れ〜♪ 火の山で眠りし伝説の王〜♪  我らの歌で蘇れ〜♪」


緑の服の巫女さん「目覚めよ〜♪ 目覚めよ〜♪ 1000年の眠りから目覚めよ〜♪ 我らの歌で目覚めよ〜♪」

 と、巫女さんは呪文を唱えながらダンスをした。

 恐らく、ホムラ様を目覚めさせるための儀式なのであろう。

 しかし……



しーーーーーーん。


 巫女さん達の儀式が終わっても、何も起こらなかった。


藍副長似の巫女さん「ど、どどどどどどうしましょう、姉巫女様…… ホムラ様が……ホムラ様が目覚めてくれません」


緑の服の巫女さん「そんな…… 私達の祈りの力が、足りなかったとでも言うのでしょうか……」

 落胆する巫女さん二人。 どうやら、儀式は失敗したようである。


フロースヒルデ「……」

 落胆する巫女さん二人に、私はかける言葉が無かった。


緑の服の巫女さん「……こうなってしまってやむを得ません。 別の『火の鳥』を使いましょう。

勇者様、この近くに我ら一族所有の飛行場があります。 案内しますので、着いてきてください」

フロースヒルデ「ほっ…… ちゃんと代替手段は容易してあったのね」

 私は巫女さんに連れられるまま、飛行場へと案内された。

 しかし、その飛行場に置いてあった有る物に、私は驚かされる事になる。



飛行場


藍副長似の巫女さん「これです、勇者様。 この機体に乗って、魔王の城まで行ってください」


フロースヒルデ「げ…… 貴方達の言う『別の火の鳥』って……」


          ラ イ タ ー
一式陸攻かYO!!


                     次へ

                     BACK