日記二十三回(4)




 アクロニア王国海軍連合艦隊旗艦・戦艦『ライ・カーテット』艦橋


海軍士官「ようこそ勇者さん。 私は海軍建艦部門の総責任者で、戦艦『ライ・カーテット』艦長であるクォーク中将よ……って、あら、貴女は……」

 案内役の侍女さんにつれられてやってきた戦艦『ライ・カーテット』の艦橋に入ると、知的なタイタニアの女性が出迎えてくれた。

 もっとも、この女性の顔には、私にははっきり見覚えがあった。

フロースヒルデ「あら……どこかで見た顔だと思ったら、クォーツじゃない。 夢の中とはいえ、久しぶりね」

 そう、私の目の前にいたのは私の高校時代のクラスメート、クォーツだった。

ミュー「? こいつ、お前さんの知り合いか?」

フロースヒルデ「ええ。 彼女はクォーツ。 私の高校時代の友達で、理数系科目の成績は県内トップ3に入るくらいの秀才だった子よ。

で、将来は技師になって、軍の技術部門に入るが夢だって聞いたけど……」

クォーツ大佐「技師になれたことはなれたんだけど……軍にはいると色々と規律が厳しいって聞いたから、現実世界ではその夢は諦めたわ。

 もっとも、夢の中だけでもこうやって念願の軍の建艦部門に居座っているんだけどね」

フロースヒルデ「そう……」

クォーツ「ちなみに、現実世界では今アップタウンで『エレキテル・ラボ』って研究所を立ち上げているの。 興味があったら、覗いて見て頂戴。

もちろん、フロースのお友達さんも、来てくれると助かるわ」

フロースヒルデ「わかったわ」

ミュー「ああ、わかったよクォーツさん。 あたしもこう見えても技師の端くれだから、あんたの研究内容に興味が湧いてきた。

夢から覚めたら、すぐにでも行かせてもらうよ」

クォーツ「うふふ……ありがと。

さて、挨拶はこのくらいにして……トロン副官、状況の説明を」


メガネの男性「クォーク博士……もとい中将の副官であります、トロン少佐です」

 ぐるぐるメガネの男性が、こちらに向かって一礼した。 格好からみて、とても軍人には思えないが、一応少佐階級らしい。

メガネの男性「それでは、状況を説明します。

我がアクロニア王国領・ウテナ河口沖に侵攻してきた艦隊は3個艦隊。

内二個艦隊は空母を中心とした機動艦隊、残りの一個艦隊は戦艦を主力とした打撃艦隊です。

それに対して我が方はこの海域に三個艦隊を展開させました。

機動艦隊(空母部隊)が一個艦隊、打撃艦隊(戦艦部隊)が二個艦隊です」

クォーク「そう…… フロース。この中で艦隊の指揮が出来そうな人はどのくらいいるかしら?」


フロースヒルデ「私と、このネコマタの元帥が出来るわ。 で、クォーツは艦隊の指揮、やった事あるの?」

クォーツ「夢の中限定だけど、何度かあるわ」

フロースヒルデ「そう…… じゃあ私と元帥、クォーツの三人で、指揮する艦隊を分担しましょう」

元帥「あ、あたしは機動艦隊がいいな〜。 あたしは元帥って言っても空軍だから、海の上での砲撃戦はやったことないから」

フロースヒルデ「私は逆に海軍司令長官の父さんから、戦艦部隊での戦い方を何度か教わっているわ(シュミレーターで)。

……という訳でクォーツ、戦艦部隊2個艦隊のうち、どっちかを預けてくれないかしら。 出来れば……足の早い艦隊の方で」

クォーツ「了解。じゃあ艦隊の割り振りは……」



クォーツ「私がこの戦艦『ライ・カーテット』を主軸としたこの艦隊」


クォーツ「元帥ちゃんがこの航空機動艦隊」


クォーツ「で、フロースにはこの高速巡洋戦艦部隊を率いて頂戴」

元帥&フロース「了解」

クォーツ「ちなみに、各艦のスペックはこの資料にまとめておいたから、興味があったら後でみておいてね」

フロースヒルデ「了解。

あとミューは……私の副官として、一緒に来てくれないかしら?」

ミュー「了解だ」

クォーツ「……じゃあ、軍議はここまでにしましょう。 ああ、あと私はフロース、貴女の指揮下に入るとするわ。

何なりと命令して頂戴ね」

フロースヒルデ「ええ、わかったわ」

 そして会議は終了し、各人はそれぞれの艦へと散っていった。




AM5:10 アクロニア王国領 ウテナ河口沖



アクロニア王国海軍第三艦隊(フロースヒルデ艦隊)



フロースヒルデ「まずはありったけの偵察機を飛ばして索敵しなさい。 この手の海戦では、先に相手を見つけた方が優位に立てるわ」

 座乗している巡洋戦艦『オゲーラ』から、私は各艦隊に索敵を徹底するように指示を出した。

 戦うにしても、まずは敵を見つけないと始まらない。

 そして、偵察機を飛ばす事30分余り。

SE:ビィーーーーッ!!(ブザー音)

 突如、艦橋にブザー音が響き渡ると……

 
オペレーターA「軽空母『シア』空偵隊より入電! 『我、敵艦隊発見セリ』

内訳は空母2、重巡3……」


オペレーターB「巡洋戦艦『ノーシェ』空偵隊より入電! 『我、敵艦隊発見セリ』

内訳は戦艦4、重巡6……まだまだいる模様!!」

 オペレーターより、敵艦隊発見の報が次々と届いた。


ミュー「上手い事、先手を取れたようだな。 だが……ここからが本番だ。

ここから敵艦隊をどう料理するか…… それが問題だ」

フロースヒルデ「分かっているわ、そんな事は。 でも、航空攻撃を行うには元帥の機動艦隊はまだ距離が離れすぎてるし……

……よし、あれをつかいましょう」

ミュー「あれって……一体何だ?」

フロースヒルデ「これは、天界にいるお父さんから『水上艦隊の指揮をする事があったらこれを使え』って、無理やり押し付けられたものなのだけど……」

 私はここで、ディバックの中から有る物を取り出した。



フロースヒルデ「これよ。 スキル石『ラナルータ』」

ミュー「ラナルータって言うと…… ああ、ドラクエで出てくる『夜昼逆転の魔法』か」



フロースヒルデ「そう。もっとも……ドラクエのようなファンタジー世界の住人にとっては、

この『ラナルータ』って魔法は、単に夜昼逆転させるだけのネタスキルに過ぎない。

しかし、昔の……ことに、第二次世界大戦時前期の海軍関係者にとっては、この魔法は喉から手が出る程欲しい魔法に早変わりするの。

何でだかミュー、分かるかしら?」


ミュー「昼夜逆転の魔法か…… そういえばその時代の軍用機は、一部を除き原則的に夜間は飛べなかった。

……という事はこの魔法を使えば……

1.空襲を食らいかけた時や意図的に夜にして空襲回避

2.逆にこっちから空襲仕掛けたいときに夜だったら、無理やり昼にして空襲決行……


……こんな芸当が出来るわけか」

フロースヒルデ「流石ミュー。その通りよ。 もっとも、敵や夜間航空機を大量に実用配備していたらアウトだけどね。

でも、さっきクォーツから聞いたのだけど、この世界ではまだ夜間航空機の類はまだ実戦配備されていないそうよ」

ミュー「そうか…… で、そのスキル石、どう使う気だ?」

フロースヒルデ「有る程度敵艦隊の距離を詰めたら…… 適当な所でこのスキル石を使って夜間砲撃戦を仕掛けるわ。

敵の大体の位置はすでに掴んだし…… この高速巡洋戦艦部隊の足なら、敵機動艦隊を補足する事は用意なはずよ」

ミュー「了解だ。 全艦!機関全速!! 敵艦隊との距離を詰めるぞ!!」

 ミューの号令で、私の率いる第三艦隊は一機に速度を上げた。


そのころ……

魔王軍侵攻艦隊総旗艦・戦艦『ルルイエ』艦橋


副官「……偵察機より入電。我、敵戦艦部隊発見せりとの事です」


南軍長官「そうか…… 空母部隊に航空攻撃の準備をさせよ」

副官「はっ」

 これは後で知った事だが、この時の敵艦隊の指揮官は、なんと現実世界の私の上司である南軍長官であった。

見張りからの声「南軍長……いや、提督!! 外の様子が変です!!」

 突如、見張りから奇妙な報告が入った。

南軍長官「変だと!? もう少し具体的に報告せんか!!」

見張り「は、はっ! 原因は不明でありますが……」


見張り「いきなり、外が夜になってしまいました……」

 何とも形容しがたい声で、見張りは報告したのだが……


南軍長官「夜?だからどうしたというのだ。 予定通り、さっさと航空攻撃の準備をせんか」

 平然と、南軍長官は言い放った。


副官「む、無茶を言わないで下さい、長か……いや、提督。 夜間装備の無い我が軍の航空機を、夜中に飛ばそうとしたら……

まず間違いなく事故りますよ。

……飛空庭と航空機は似て異なるものなのですから、しっかりしてくださいよ」

 苦りきった表情で、副官は進言した。

南軍長官「むぅ……」

 南軍長官がそう考え込んでいると……

オペレーター「提督! 第ニ機動艦隊より緊急入電!! 我、敵巡洋戦艦部隊に砲撃を受けています!!」

南軍長官「なっ……」



一方、その頃……



オペレーターA「敵ミッドウェイ級空母、撃沈せり!! 敵第三艦隊の空母、全て撃沈の模様!!」


フロースヒルデ「よし、まずは一つ!! 後は、夜のうちにもう一つの敵機動艦隊を潰せば……」

 と、私が言った先から……

オペレーターB「戦艦『ライ・カーテット』より入電。『我、敵機動艦隊補足せり。 これより砲撃開始す』との事です」

フロースヒルデ「よし!!」


再び・魔王軍侵攻艦隊総旗艦・戦艦『ルルイエ』艦橋


副官「……ご報告いたします。 敵艦隊の夜襲により、第ニ機動艦隊に続き、第一機動艦隊も全滅。

我が軍の空母は、1隻残らず撃沈されてしまいました……」

南軍長官「むぅ……なんという事だ。 敵艦隊のその後の動きは?」

副官「敵艦隊は我が方の艦隊を壊滅させた後、後方へ退避した模様です」

南軍長官「急いで敵艦隊を追え!! 追撃するぞ!!」

副官「はっ!!」

見張り「て、提督!! また、外の様子が変です!!」

 その時、見張りからまた奇妙な報告が上がった。

南軍長官「外? また何かあったのかね?」

見張り「はっ…… それが、また唐突に辺りが昼に…… っとあっ!!」

南軍長官「? どうしたのかね?見張り君」

見張り「て、て……」


見張り「敵機来襲〜〜〜っ!!!






オペレーター「空撃隊より入電。『我、敵戦艦部隊壊滅させたり』、との事です。

これにより、本海域に侵攻してきた艦隊は全て壊滅しました」


フロースヒルデ「ほっ…… とりあえず何とかなったわね」

ミュー「ああ。 だが、こっちの掴んだ情報だと、まだ魔王の島近辺にはまだ多数の敵艦隊が残されているらしい。

それを潰さないと、魔王の島へ上陸するのは難しいな」

フロースヒルデ「そう…… で、魔王の島近海で交戦中に、どさくさ紛れにホワイトちゃんを魔王の城に潜入させる……

それが貴女のプランよね、ミュー」

ミュー「そうだ。 今、ホワイトもこの艦にいるから、ちょっと呼んで来よう。 三人で、作戦の打ち合わせをしたい。

ちょっと呼んで来るわ」

 ミューが艦橋を去りかけたその時である。


ミュー「ん? 何だこの紙切れ?」

 ミューが唐突に、艦橋の出入り口に挟んであった紙切れを見つけた。

フロースヒルデ「? どうしたの?ミュー」

ミュー「ホワイトからの置手紙だ…… 何々……」

 手紙を読んでいる間に、ミューの表情がみるみる険しくなっていった。

フロースヒルデ「? どうしたの?ミュー」

ミュー「あいつめ…… また勝手な真似を……!」

フロースヒルデ「勝手な真似って……?」

ミュー「……詳しい事はこの手紙を読んでみてくれ。  あいつめ……独断先行はもういい加減にしてくれ……」

 嘆きながら、ミューは私にホワイトちゃんからの手紙を渡した。

 手紙にはこう、書き記してあった。

『先輩・ならびにフロース艦長へ。

魔王城への潜入の目処が立ちましたので、さっさと潜入してきます。 お姫様助けてすぐ戻りますので、暫く待っていてくださいね ホワイト』




 その頃、魔王の城では……


ホワイト「まったく先輩ったら、まどろっこしいプランなんか立てて…… 

艦隊つかった大規模陽動なんかしなくたって、こんなお城に潜入するのなんか簡単なのに……」

 その頃、魔王の城の中にホワイトちゃんの姿を見ることが出来る。


ホワイト「しかしお姫様の所まで潜入できたのはいいけど……参ったわね、こりゃ」

 もっともホワイトちゃんはお姫様のすぐ傍まで潜入してはいたが、最後の最後で大きな壁にぶち当たっていた。

 その壁はと言うと…・・・


魔王「南軍長官のアホは負けたか…… まあ、あのマヌケ長官に遅れを取るようでは、私の相手には不足すぎる所であるが」

 救出目標のお姫様の前に当の魔王が、居座り続けるという事である。


キンメル「そのようで…… 既に、艦隊の出撃準備は整っております。

魔王様……いや、提督。ご命令を」

 ついでに、ウェンディーのキンメルも一緒にいた。

 ホワイトちゃんは正面切っての戦闘は苦手なので、魔王とウェンディー、両方を相手にするだけの武力をもあわせていない。

 だが、幸いな事に魔王とキンメルはこれから出かけるようである。

魔王「そうだな…… そろそろ出発するとしようか。  久方ぶりの海戦ゲームだ。

最後まで存分に楽しむとしよう」

 どこか楽しそうに、魔王とキンメルは部屋の出口へ向かおうとした…… その時である。

声「お楽しみ中の所、申し訳無いが…… その件についてはドクターストップをかけさせてもらう」

魔王「!!」

キンメル「何奴!?」

 突如、第三者の声がしたと思うと……


 何も無い空間より、藪先生が姿を現した。

 恐らく、今まではクローキングをしていたのであろう。

魔王「誰かと思えば一介の医者か…… もしやと思うが、後ろのアプリコット姫を救出しに来た『勇者』とやらか?」

藪「生憎、私は勇者では無いし、そこの姫君にも興味は無い。 むしろ魔王君……

いや、空大佐……と呼ぶべきかな。 君に用があって、ここまできた」


魔王「!! 貴様……何ゆえ私の名を……」

 自分の名前を言い当てられた事に、魔王はすこし動揺した様子を見せた。


杏中将「空姉さん、僕ですよ、杏ですよ。 どうか何も言わずに、この先生の言う事を聞いてください」


藍副長「……そうですわ、空様。 もし貴女の身に何かありましたら……

貴女の姉である元帥閣下がとても悲しみます……」

 杏中将と藍副長が現れ、魔王……いや、空大佐の説得にかかった。

魔王(空大佐)「杏に……姉貴の腰巾着の藍か。 みんな揃って、あたしに一体何の用?」


藪「長々と説明している時間が惜しいので、要点のみかいつまんで説明するが……

まず、この世界は現実世界ではない。君が見ている夢の世界だ。

そして、現実世界の君の体は酷く衰弱しており…… このままだと22時間以内に、確実に君は消滅する」

 表情一つ淡々と、藪先生は現在の空大佐の置かれている状況を説明した。


キンメル「な、何と!! それは本当の話でありますか!?医者殿!!」

 動揺した様子で、キンメルは藪先生に問うた。

 唐突に主の死期が迫っている事を聞かされたのだから、動揺しないほうがどうかしているだろう。

藪「ああ、本当だとも。 但し、治療薬については手持ちがあるので、その点は安心してもらいたい。

もっとも……治療薬が存在するのは現実世界だ。 精神世界での投薬は、現実世界の肉体に全く影響を与える事が出来ないからね」

……空君には今すぐに目覚めてもらって、現実世界にも戻って貰わない事には、私としても治療のしようがない」

キンメル「左様ですか…… 提督。 すぐに医者殿の言う通り、目覚めて下さいませ」

 キンメルも必死に、主の説得に乗り出すが……

魔王(空大佐)「……大体察してはいたよ。 自分がもうすぐ消滅するんだって事くらいは……」

 どういうわけか悟りきった表情で、魔王…いや、空大佐は答えた。


空大佐「杏達から聞いたかもしれないけど、あたしは生前は海軍軍人だった。

あたしは海軍軍人で有る事を誇りに思い…… 様々な任務についてきた……」

 淡々と、空大佐は自分の過去を語り始めた。

空大佐「だがある時、背広組の連中が勝手に、インスマウス達とある盟約を結んだ……

そう、『海は原則的にインスマウスの領域であり、陸の者は勝手に入るな』という、例のアレさ。

もちろん、この盟約により我らが海軍は用済みとなって解散。 艦艇の大半は解体され、海軍所属の軍人は全員、退役するか転属するかした。

だがあたしはこのふざけた盟約を作るよう強要したインスマウス達がどうしても許せず…… 人間魚雷『回天』でインスマウスの里に特攻したんだ」


杏中将「空姉さん……」

空大佐「だが、特攻して名誉の戦死を遂げたはずなのだが、あたしは成仏できなかった……

そして、とある本に憑依したら、中々覚めない夢を見るようになり…… 現在に至るというわけなんだ」

藍副長「空様……」

空大佐「最近、どうも体調が良くないから……消滅の時が近いことは薄々察していた。

だからせめて最後に……海軍軍人にとって最大のイベント…… そう、『大海戦』をやりたいと思った。

それで、そこにいるキンメルに方々を回らせて…… やっと、『大海戦』のお膳立てが出来たというのに……

……医者。あたしの体を気遣ってくれた事には感謝するが、最後の楽しみを邪魔するな……

するのであれば……」


空大佐「海軍軍人の誇りと名誉にかけて、貴様を倒す

 空大佐は藪先生に対し、たんかを切った。

 藪先生の説得に応じる気は、さらさら無いらしい。

藪「……やれやれ、頑固だね、君も。 君一人が消滅する事で、周りにどれだけの迷惑をかけるのか、わかっているのかね?」

空大佐「黙れ!! インスマウスどものせいで海に出る事が最早叶わぬ以上、これ以上生きていても生き恥を晒すだけだ!!」

藪「これ以上の説得は無意味のようだね……

仕方が無い。正面切ってどつきあうのは趣味では無いが……」


   オ ペ
藪「手術、開始と行こうか


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