日記第30回(エピローグ)


数分後……


フロースヒルデ「どうやら、DEM達は全滅したようね。 みんな、お疲れ様」

 DEMの最後の一体が倒れるのを見届けた艦長が、戦いの終わりを宣言しました。

 リーダー格の男女を失った残りのDEM達は、頑強なまでに抵抗してきましたが……

 数の差と、何よりいつの間にか傘軍団+フレイヤメンバー+α達の指揮権を握った艦長の的確な指揮により、

最小限の怪我人(傘)と時間で片が付きました。

 こういう集団戦の指揮となると、やっぱり私達の身内では艦長の右に出る人はいません。


西院「置いてあったお豆腐(建築資材)への被害も最小限に済みましたし、何と御礼をいっていいかわかりません。

本当にありがとうございました、フロース様」

 そして艦長に感謝の意を表す西院さん。

フロースヒルデ「いえいえ、いいんですよ西院さん。

さて、落ち着いたところで……」

 ここで、艦長は私達の方を向き直りました。


フロースヒルデ「藪先生、ホワイトさん、それに……重秀さん。 今回は私の勝手な行動のせいで厄介な事に巻き込んじゃってごめんなさい」

 本当にすまなさそうに、艦長は私達に詫びました。


藪「いや何、過ぎたことを今更あれこれ言っても始まらんよ。

それに……我々冒険者にとって、危険に巻き込まれる事なぞ日常茶飯事だろう」

 まるで『こんなの迷惑をかけたうちに入らない』といった様子で、藪先生は言いました。

藪「もっとも、ミュー君かウルネ君のどちらかには後でどやされるかもしれないが…… その位は覚悟しておいた方がいいな」

フロースヒルデ「はい……」


重秀「艦長さん。姉貴と……それと西院の奴が世話になったみたいだな。  弟として、そして同じ社の人間として、礼を言わせてもらう」

 そして、重秀さんが藪先生の前にでてきて、艦長に礼を言いました。

フロースヒルデ「いえいえ…… って、重秀さんと西院さんって、同じ会社の人だったんですか?」

重秀「ああ。 俺の本業は、開路急行電鉄の運転手だ。

今日はたまたま休みだったんで、姉貴達の手伝いをしていたんだ」

フロースヒルデ「なるほど……」

重秀「それにしても西院……」

西院「?」


重秀「お前、艦長さんがいなかったら一人でここ来るつもりだったのか?

いくらお前が未実装スキル持ちだからって、一人で出来る事には限界があるんだぞ!?」


西院「……しょうがないでしょう!重秀さん。 人が居ない時に起こった緊急事態だったんだから。

しかも、私のおばあちゃんもなんだかんだ言ってついてきてくれないし……」

重秀「ったくあの雪兎のババア…… 自分の孫をDEMがうじゃうじゃ居る所に突っ込ませるなんて、何考えていやがる……

自分はノーザンでも屈指の魔術師のくせに……」

藪「……二人とも、愚痴は一時ストップだ」

 西院さんと重秀さんとの間に、割ってはいる藪先生。


藪「数はそんなに多くは無いが、先ほどの戦いで怪我人ならぬ怪我『傘』がでている模様だ。

済まんが彼らの手当てを手伝ってくれ」

一同「了解」


暫く後……


フロースヒルデ「それにしても、味方側に死者が出なかったのは不幸中の幸いね……」

 怪我した傘さん達の手当てを一通り済ませると、艦長はほっと一息つきました。


ノレンガルド「あ、フロースお姉ちゃん。 その……」

フロースヒルデ「? どうしたの?ノレン。 こんな所にのこのこ来た事を、ジークに怒られるのが怖いの?」

ノレンガルド「それも怖いんだけど…… 一匹だけだけど、DEM達に殺られちゃったアンブレラがいるんだ。

それも、まだちっちゃい子なのに……」

フロースヒルデ「え!? どういう事?」

長老「ノレン殿、そこから先の説明はわしがしよう」

 ここで、お髭を生やしたアンブレラ……長老が話に割って入ってきました。


長老「その犠牲者とは……ほかならぬわしの孫です。

それで里にいた者達を総動員したのが……」

フロースヒルデ「今回の騒動の原因、という訳ですね」

長老「はい……

しかし仇は無事に取れましたが……それでも孫が戻ってくる訳でもない……

ああ……こんな事なら孫に誰か護衛をつけておくべきだった……」

 今にも泣きそうな表情で、長老はいいました。

 DEMという仇を討った今、急にお孫さんを失った事に対する悲しみが襲い掛かってきたのでしょう。


西院「長老……一つだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

長老「? 何ですかな?」

西院「お孫さんの推定死亡日時を知りたいのですが……お聞かせ願えませんか?」

長老「ええと……里の者が最後に孫をみかけたのが昨日正午でした。

そして孫の殺害現場を見ていたワサビ達が里に一報して来たのが……同日16:00頃です。

恐らく孫は、この4時間の間に殺されたものと……」

西院「なるほど。今は午前3時ですから……最後にみかけた直後に殺されたとしても、死後15時間前後のようですね。

ふむ……これなら」

 長老の話を聞いた西院さんは何かを考えていたようですが、やがて……


西院「長老……私をお孫さんの所へ、案内して頂けませんか? 

今ならまだ、間に合うかも知れません」

 決意を秘めた表情で、西院さんは長老に言いました。




10分後……



アクロポリス地下某所・アンブレラの隠れ里



隠れ里某所・霊安室

西院「ネッサ箱クジミシミシ……」


西院「ネゴクシミュウン……」


西院「イデオウシュ・ナマエカ!!

SE:プアアアアアアアン!!

 西院さんが呪文を唱えると、何処からとも無く列車の警笛が聞え……


ちびアンブレラ「ううんと…… あれ? アタシ、なんでこんな所に?

たしか僕、怖い機械人形達に絡まれて……」

 西院さんが呪文を唱えると、先ほどまでグチャドロになっていた子供のアンブレラの死体が、まるで何事も無かったのように蘇生しました。


長老「おお!我が孫よ!! よく無事にこの世に戻ってきてくれた!!

ちびアンブレラ「ああ!お爺ちゃん!!」


そして感動のあまり駆け寄る二匹。

西院「よかった…… 儀式は……成功しました」


ホワイト「お疲れ様です、西院さん。

それにしてもよかった……無事にお孫さんが生き返って……」


ノレンガルド「へぇ……凄いや。 僕がいくらリザレクションかけてもびくともしなかったのに……」

 西院さんの術を見て、ノレン君も驚きの声を上げました。

ノレンガルド「ねえねえお姉さん。 今、どうやってアンブレラの子供を復活させたの?

どうみてもさっきの魔法、ただのリザレクションじゃないよね」

西院「『逆再生』……したんですよ」

ノレンガルド「え?」


西院「私が契約している高位の精霊、『大妖精クービィ』の力を借りて……お孫さんの死体を『DEMに殺される前の時間まで』逆再生したんです。

言い換えれば、DEMに殺された事を『無かった事にした』んですよ」

ノレンガルド「へぇ……そうなんだ。 凄いんだね。

それにしても……シャーマンって、回復系のスキルってあったっけ?」

藪「現在ECOに実装されているシャーマンのスキルには、確かに回復系のスキルは無いが……」


藪「だが、そもそもシャーマンというのは精霊の力を借りて術を使役する職業だ。

契約している精霊が治療行為を得意としていれば、当然治療系スキルを習得する事も可能だ」

ノレンガルド「そうなんだ……」

西院「ただ……この『逆再生』方式の治療には、いくつか欠点もあります」

ノレンガルド「欠点?」


西院「まずは『逆再生』する事が出来る時間は、24時間が限度です。

今回のように死者を復活させる場合、死後24時間を超えてしまうと復活させる事が出来なくなってしまいます」

ホワイト「なるほど……だからさっき、長老さんに死亡推定時刻を尋ねていたわけですね」

西院「はい。

それと死因が『病死』であった場合、この『逆再生』方式での蘇生は事実上出来ません」

ノレンガルド「え?何で?」

藪「『逆再生』方式での蘇生は、死亡直前の状態まで時間を戻して行うからな。

対象者が死病に犯されていた場合、逆再生で復活させた所ですぐぽっくり逝ってしまうだろう。

心不全等の急性の病の場合は上手くいく時もあるが…… まあ、大抵の場合すぐ再発してしまう」

ノレンガルド「そうなんだ……

ところで西院お姉さん」

西院「? 何でしょう?」


ノレンガルド「その魔法、僕にも使いこなせるようになるかな?」

西院「お気持ちは分かりますが…… それは非常に厳しいかと思います」


西院「『妖精』と名のつく高位精霊は、殆ど例外なく気まぐれな性格をしています。

私が契約している『大妖精クービィ』の場合、何故か私のような(電車の)運転士の資格を持った者にしか力を貸してくれません。

ノレン様が『大妖精クービィ』と契約を結ぶのは……無理、といっても差し支えない無いでしょうね」

ノレンガルド「そうなんだ……」


重秀「これは西院の婆さんから聞いた話だが、『大妖精クービィ』は元は機械文明時代に走っていた鉄道の運転士だったそうだ。

それゆえ、自分が認めた運転士でなければ、力を貸してくれないという説が有力だそうなんだ。

なお、西院が術を使うと時々鳴る列車の警笛は……『クービィ』が力を使う時に発する音らしい」

ホワイト「なるほど……あの謎の警笛は、妖精さんが力を使った音だったのね」


フロースヒルデ「さて……もう時間が時間だし、そろそろ引き上げましょうか。

あまり長いこと地下にいると、ミュー達が心配するからね」

ホワイト「あ、はい」


西院「あ、少々お待ち下さい、皆様。 お渡ししたい物がありますので」

 西院さんは帰ろうとする私達を呼び止めると、一人一人に何やら許可証らしき物を配布しました。

フロースヒルデ「これは……『開路急行電鉄利用許可証』……? いいの?頂いても?」

西院「フロース様達には今回は色々とお世話になりましたから、このくらい安い物ですよ。

なお、その許可証を携帯した状態でダウンタウンのシアター入り口に入りますと……自動的に『開路下町駅』にワープします。

機会があれば是非、当社線をご利用下さいませ」

フロースヒルデ「わかったわ。 飛空庭が使えない場所(ノーザンD、光の塔等)に行く時にでも、乗らせていただきますね」

西院「ありがとうございます、フロース様。

では、私は業務が残っておりますで、駅の方に戻ります。

またお会い出来る時をお待ちしております、皆様」

 私達は西院さんに別れを告げると、地上へづづく道を歩き始めました。




 数日後……



アップタウン


?「おや、誰かと思いましたらホワイト様ではありませんか」

 アップタウンでお買い物をしていると、聞き覚えのある声に呼び止められました。

ホワイト「あ……その声は」


ホワイト「西院さんじゃないですか。 こんな所で奇遇ですね〜」

西院「ええ。 勤務が終了したので、これから帰る所なんですよ。

とりあえずここで立ち話も何ですので、私の庭まで移動しませんか?」

ホワイト「そうですね。 では、お言葉に甘えて……」




西院の庭


ホワイト「わあ……このお茶美味しい〜」

西院「ありがとうございます、ホワイト様」


ホワイト「西院さん。 あの後、地下からDEMは湧いて出てきましたか?」

西院「いえ、今のところは出てきませんね。

もっとも、いつ沸いて出てきてもいいように、当社でも警備を強化しております。

アンブレラの長老も協力してくれていますので……以前より厳重な警備体制を敷く事が出来ています」

ホワイト「そっか…… もしまたDEMが沸くような事があったら、私達にも一報してください。

出来る限り、協力しますよ」

西院「感謝します、ホワイト様」

ホワイト「ところで……」


ホワイト「この露天風呂、いいなぁ…… 高かったんでしょ、これ?」

西院「いえ、以前知り合いから貰い受けた物なんです」

ホワイト「へぇ……」


西院「でもこのお風呂……買ってから一度も使った事無いんです。

普段は家の地下(土台部分)にある古い内湯を使ってるんですよ」

ホワイト「え……何でまた?」

西院「それはですね……」


西院「バスタオルが高すぎて買えないからなんです……


ホワイト(な、なんという宝の持ち腐れ……)



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