第33話(3)


翌日早朝・戦闘庭フレイヤ

フロースヒルデ「全く何よホワイトちゃん。こんな朝早くから……」


ホワイト「ごめんなさい艦長。急に内線で呼び出したりして。

 その……艦長に是非みせておきたいものがありましてね」


フロースヒルデ「みせておきたいもの……? それは一体何かしら?」

ホワイト「ミュー先輩の『新作』……とでも言っておきましょうか。 とにかく、詳しい事は機関室に行ってからお話します」



機関室


フロースヒルデ「なるほどね…… 何かとおもったら、ミュー新作のアンドロイドという訳ね」

ホワイト「しっ。 声が大きいですよ艦長。 ミュー先輩が起きてしまいます」

 ホワイトは床でごろ寝しているミューをちらっと見やりながら、小声でフロースに注意した。

フロースヒルデ「ごめんなさい。 それにしても……」


フロースヒルデ「何の目的でミューはこの子を作ったのかしら?  ホワイトちゃんは何かしらない?」

ホワイト「さあ…… 最近この艦も人手不足気味ですから、それを補う為に作ったのだと思います」

フロースヒルデ「そう…… でも変ね。 機関室には昨日の昼に足を運んだけど、その時はこの子いなかったわ。

ミューったら、一夜でこの子を組み立てたのかしら……」

 と、フロースとホワイトが語りあっていると……


DEMの少女「う〜ん……」

 突然、アンドロイド……もとい、DEMの少女の目が開きだした。


DEMの少女「ここは…… 一体……どこ?」

 いきなり見知らぬ場所で目覚めた為、DEMの少女は困惑した表情を見せた。


ホワイト「あれれ…… いきなり動き出しましたよ、この子。 何ででしょうか?」

フロースヒルデ「それを私に聞かれても困るわ、ホワイトちゃん。

 多分、時間が来たら自動的に目覚めるようにセッティングされているとか…… そんなんじゃないかしら」

 そして女性二人もまた、困惑の色に包まれた。

DEMの少女「!! あ、あなた方は……一体……

私を…… どうする気なの……ですか……」

 フロース達の姿を確認したDEMの少女は、警戒したように彼女達をみやった。

 しかしまだ体の方は本調子では無いらしく、言葉は途切れ途切れで、ベッドから起き上がる事も出来ないらしい。


フロースヒルデ「怖がらなくていいのよ。 私達は貴女の敵じゃないから」

ホワイト「そそ。 別に、貴女に何かしようとか、そんなつもりは無いから…… 安心してよ、ね」

 慌てて、DEMの少女をなだめるフロース達。


DEMの少女「……」

 しかし、DEMの少女は無言のまま、警戒を緩めようとはしない。

 と……

声「おいお前ら、何勝手にそいつを起こしているんだ?」

 不意に、フロースとホワイトの背後から声がしたと思うと……


ミュー「用も無いのに機関室に入るなって、いつも言ってるだろうが。 特に……ホワイト」

 さっきまで床でごろ寝していたミューが、フロースとホワイトに注意した。


DEMの少女(!! こ、この方は……)

 ミューの姿を見て、DEMの少女は内心動揺する。


ホワイト「用ならちゃんとありますよ。 先輩の可愛い寝顔をSSに取るっていう、大事な用事が」

 が、それに気がついた人物はこの時点ではだれもおらず、ホワイトがミューに対して反論を開始した。

ミュー「そんなものは用事とは認めん。 ついでに貴様の取り貯めたSS、全部ボッシュートな」

ホワイト「ええ〜 いいじゃないですかミュー先輩。 SSの一つやふたつ……」

ミュー「良くない! 外部に漏れたりしたらどうするんだ!! さ、さっさとSS出せ!!」

 ミューとホワイトが痴話喧嘩を続けていると……

声「……っと…… あの……」

 か細い声がその痴話喧嘩に割って割って入ってきた。


DEMの少女「紫髪の気の強いエミルの方…… 貴女はもしや……先日ドミニオンドラゴンの住処でお会いした、あのマシンナリー様では?」

 いつの間にかベッドに座っていたDEMの少女が、ミューに声をかけてきたのである。


ミュー「……ああ、その通りだ。 その事を憶えているって事は…… お前さん、あの時の偵察用DEMに間違いないな」

DEMの少女「……はい。 もう会うことは無いと思っていたのに、またこうして会えるなんて……」

 感激したような口調で、DEMの少女は言った。


フロースヒルデ「ね、ねえミュー…… ちょっと、話が見えないんだけど……

その子、一体何者なの? ミューの新作アンドロイドじゃないの?」

 蚊帳の外に置かれていたフロースが、ミューに事情の説明を求めてきた。


ミュー「1からアンドロイドを組むのは出来なくはないが……

ここの設備じゃ無理だし…… 第一、スクラップ(材料)も時間も足らないよ」

ホワイト「えっ…… 先輩の新作じゃないって事は、まさかこの子は……」

ミュー「ああ、そのまさかだ。 彼女は……」


DEMの少女「あ、マシンナリー様。 そこから先は、私自身で説明します。

その……こういう言い方が適切なのかどうかはわかりませんが……」


DEMの少女「私……野良DEMなんです

フロース&ホワイト「!!



数分後……


フロースヒルデ「そう…… 上に睨まれてDEM軍を追われてしまったのね、貴女……」

DEMの少女「はい……」


ミュー「なあ。 一つ、確かめておきたい事があるんだが……

あの時あたしが渡したドミニオンドラゴンの生体データ…… あれはどうなった?」

DEMの少女「その件についてですが…… 確かに、それは本部に持ち帰りました。

でも、上官に『ドミ界を完全制圧してもドミニオンドラゴンに世界ごと壊されるから、これ以上の侵略は無意味です……』 と進言した途端……」








DEMの少女「と、いきなり裏切り者扱いされてしまって……

あとは必死に本部の中を逃げ回って…… 何故か本部内に開いていた次元の狭間に飛び込んで……

そして気がついたら……」

ミュー「ここにいた……という訳か……」

DEMの少女「はい……

申し訳ありません……マシンナリー様。 その……折角私達と人間さん達と和睦出来るチャンスだったのに……」

 本当に申し訳無さそうに、DEMの少女は詫びた。

 涙腺が装備されていれば、まず間違いなく泣いていただろう。


ミュー「いや…… お前さんは良くやってくれたよ。

データをちゃんと本部に持ち帰った上に、上官に停戦まで進言してくれたとあっちゃあ…… もう、これ以上望むことは無いよ。

詫びるべきはちょっとした思い付きの為にお前さんを危険な目にあわせた、あたしの方だ」

 ミューの方もミューの方で、本当に済まなさそうに少女に詫びた。


フロースヒルデ「ところで貴女……」

 ミューとDEMの少女の詫び合戦に割って入るように、フロースがDEMの少女に語りかけた。

DEMの少女「はい……何でしょうか?」

フロースヒルデ「もし良かったら…… この戦闘庭の乗組員になってくれないかしら?

この所この庭も人手不足に悩まされているから…… DEMの手も借りたい程なのよ」

DEMの少女「そうですか…… ここは戦闘庭の内部だったのですか……」


ミュー「まあ、お前さんに事情があるって言うんなら、無理にとは言わないが……」

DEMの少女「いえ……とんでもありません」


DEMの少女「願っても無い事ですのでその話……お受け致します。

艦船勤務用のチップならいくつか手持ちがありますので、お役には……立てると思います」

フロースヒルデ「……決まりね。 私はこの庭の艦長であるフロースヒルデ=リュッチェンスよ。 よろしくね」

ミュー「機関長のミュー=コンプスンだ。 まあ、皆にはS(スクラップ)・ミューと呼ばれているがな」

ホワイト「ミュー機関長の後輩のC・K・ホワイトです。 よろしくね、DEM子ちゃん」


DEMの少女「こちらこそ、よろしくお願いします」

 嬉しそうに、ペコっと一礼するDEMの少女。


ミュー「さて…… せっかくこの庭に配属されたからには、お前さんにもちゃんとした名前をつけてやらないとな。

そうだな…… お前さんの元の識別番号(DEM-SOL12542)から、『ソル』っていうのはどうだ?」


ホワイト「ミュー先輩……そのまんまじゃないですか。 もうちょっとちゃんとした名前をつけてあげてくださいよ……」

 呆れ顔で突っ込むホワイト。


DEMの少女「いえ……その名前……凄く気に入りました。

では、以後私の事は『ソル(※)』とお呼びください」
(※)ECO内での彼女は別の名前を名乗っているため、ECO内で『ソル』さんを見かけてもそれは筆者ではありません。

 嬉しそうに、DEMの少女は言った。


フロースヒルデ「さて、この子の名前も決った事だし…… ミュー、これからちょっと臨時の会議を開きたいんだけど……いいかしら?」

ミュー「構わんが、何するんだ?」


フロースヒルデ「ちょっとフレイヤの組織構成をいじろうと思ってね。

 まあ、詳しい事は会議の時に話すわ」


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