日記36話

戦闘飛空城フレイヤII 艦橋


ジークウルネ「ただいま……」


ソル「あ、お帰りなさいチーフ…… と、その衣装を着ているという事は、無事にLv99になられたのですね。

おめでとうございます、チーフ」

ジークウルネ「ありがとう……」

 Lv99になって魔帝服を着れたというのに、何故かジークウルネの表情は冴えていない。

ソル「? どうしたのですか、チーフ。 顔色が優れ無いようですが……」


ジークウルネ「うん…… それにどうしたんだろう…… 何だか、体調が優れない……」

ソル「お体の具合が悪い……!? まさか……」

 ソルはとっさに、自身に内蔵されているサーモグラフィを起動した。

 元々偵察型の機体であったソルには様々なセンサーが搭載されており、サーモグラフィもそのうちの一つであった。

 そしてサーモグラフィが表示した結果は、ソルを驚愕させるのに十分なものであった。


ソル「チーフ…… 体温が正常値を大幅に上回っています。 至急、軍医殿の所へ行ってください。

艦橋での任務は、私にお任せを……」


ジークウルネ「うん……そうする。 ここはお願いね、ソル」

ソル「はい……」

 ウルネはそういい残すと、力なく医務室の方へ飛んでいった。

 艦橋には一人、ソルのみが残された。


ソル「どうしたのでしょう……チーフ……」



数時間後……


医務室

SE:トントン

声「軍医殿、ソルです。 入室してもよろしいでしょうか?」

藪「ああ、構わんよ」

声「失礼します」


藪「ソル君。オペレーター班が2名とも艦橋を離れて、大丈夫なのかね?」

ソル「こういう事態に備えて、ヴェレスタにも基本的なオペレーターの任務は教えていますので……平時であれば特に問題はありません」

藪「それならば良いが……」

 ちなみにヴェレスタとは、普段は機関室勤務のDEMで、ソルの同型……言い換えれば妹分に当たる機体である。


ソル「それより軍医殿、チーフの容態は……?」

藪「ウルネ君なら今ぐっすり寝ているよ。

……何、今回のはただの風邪だ。 命に関わるような事じゃ無いから、安心して欲しい」

ソル「それは良かった……」

 とりあえず、胸を撫で下ろすソル。

ソル「でも、何で急に風邪を? チーフが病弱とは艦長より前々から聞いていましたが、私が着任してから、体調を崩した事なんか一度も無かったのに……」

藪「今回ウルネ君が風邪をこじらした理由なのだが……」


藪「原因はずばりこの衣装……ウルネ君が着ていた99魔帝服にある」

ソル「この衣装に? 何故ですか?」


藪「君も知っての通り、この衣装は水着系程では無いにせよ、女性用衣装としては露出度が高い部類に入る。

聞けば最近、ウルネ君は友人の巫女とペアを組んで、エンシェントアークのタイニーだらけの階層をメイン狩場にしているそうだ」

ソル「でも、エンシェントアークに行くには必ずノーザンを通らなければなりませんよね。

あんな寒い所を、露出度の高い衣装で行ったりしたら……」

藪「中々察しがいいな。 病弱なウルネ君であれば、いつ風邪にやられてもおかしくない。

今回は風邪だけで済んだが…… 肺炎まで併発してしまったら、最悪命に関わる」

ソル「ひえ……」

 命に関わるという言葉を聞いて、軽い悲鳴を上げるソル。


ソル「じゃあ、チーフには以前の85服を着てもらうか……ノーザン方面での狩りを止めさせなければなりませんね」

藪「理想はそうだが…… 現実はそうも言ってられない」

ソル「?」


藪「このスペックを見れば分かるように、この服が持つスペックはかなり魅力的だ。

魔法防御力もさることながら、このMAG+1というのはLv99の皿にとってはかなり魅力的な数値でもある。

これを着れる様になってしまった以上、ウルネ君ももう85服には戻れないだろう。

それに狩場の件にしても、ソーサラーの火力は巫女のそれに比べて限界があり…… 庭園Lv4や高位のデメンジョンダンジョンでのソロ狩りは事実上不可能だ。

今のウルネ君にとっては、エンシェントアークのあの階層でタイニーを乱獲するのが、最もベストなのだよ」

ソル「そうですか…… では、どうしたら?」


藪「……ソル君。 君は確かDEM軍にいた頃、スパイ活動の資金集めの為に『仕立て屋』を営んでいたそうだね」

ソル「ええ。 一応、特級仕立て屋の資格も持っていますが……」

藪「特級仕立て屋の資格か…… 合格率1.1%のあの資格を、良く取れたものだね。

で、その腕を見込んで頼みがあるのだが……」


ソル「……その先は察しがつきます。 99魔帝服の仕立て直しをお願いしたい……と

藪「ああ、その通りだ。 出来るか? この仕事が?」

ソル「技術的には何の問題もありません。 材料さえ揃えば、いつでも行けます。

ただ、一つだけ問題が」

藪「問題?」


ソル「チーフ自身の意思です。 どんなに素敵な衣装でも、本人が嫌がるのであればその衣装は無価値になる……

私の裁縫の先生が、常々口にしていた言葉です。

チーフがどういう衣装をお望みなのか…… それが分からない限りは、作業を開始する事ができません」

藪「これはすまん。 その事をついぞ失念していた。

では、ウルネ君が目覚めたら意思を確認してみると……」

声「……ソル、デザインの一切は貴女に任せるわ」

ソル「あ……」


ソル「チーフ、お目覚めだったのですか」

ジークウルネ「ええ。 ついでに、99服の仕立て直しの件についても全部聞かせてもらったわ。

……露出度を今の99服より押さえてくれるのであれば、あとはソルのやりたようにやって頂戴。

どのような衣装でも…… ソルが丹精こめて作ってくれた衣装であれば、私は今後、それをメイン衣装にするわ」


ソル「はいチーフ。 精一杯、頑張ります

 静かに……だが密かな決意を込めて、ソルは答えた。






数日後……


ソル「気分はどうですか? チーフ」


ジークウルネ「心なしか、大分良くなった感じがするわ。 今日一日ゆっくり休めば、またオペレーター勤務に入れそうよ」

ソル「それは良かった……

で、チーフ。99魔帝服の仕立て直しの件ですが…… 昨日、終わりました。

サイズ調整をしたいので、試着をお願いしてもよろしいでしょうか?」

ジークウルネ「ええ、いいわ」














ジークウルネ「♪ 結論から言うと、とても気に入ったわ、この衣装。

特に凝った飾りつけはないけど、このシンプルさがかえって良い感じね

仕立て直してくれてありがとう、ソル」

ソル「あ、ありがとうございます。 一生懸命仕立てた甲斐があります」


SE:カチャリ


フロースヒルデ「ジーク。具合はどう…… ってあら♪ 素敵なシスター服じゃない、ジーク」


ノレンガルド「へぇ……素敵な修道服だね〜」

 唐突に入ってきたフロースヒルデとノレンガルドが、修道服を着たジークウルネの姿に目を見張った。

ジークウルネ「ソルが99魔帝服を、この形に仕立て直してくれたのよ。

ね、ソル」

ソル「は、はい。 色々と苦労しましたが、どうにかこの形にもって行く事ができました。

この衣装であれば防寒性もありますので、ノーザンに出向いても何の問題もありません」


フロースヒルデ「それに、それだけスカートの丈が長ければ、視点解放MAPでスカートの中をのぞき見られる心配も無いわね。

痴漢や『尻派さん』対策もばっちり……という訳ね」

ジークウルネ「ま、まあね。姉さん……」

姉の妙な問いかけに、苦笑しながら答えるジークウルネ。


ノレンガルド「でもいいなぁ、ジークお姉ちゃん。 ドルイドの僕よりも、よっぽど聖職者らしいね。

僕もこんな衣装が欲しいなあ……」


ソル「……そういうと思いまして、経理長殿にもちゃんと衣装を作っておきましたよ。

ノレンガルド「えっ!? 本当、ソルちゃん」

ソル「はい。 では、ちょっと試着室まで来てください」

ノレンガルド「うん、わかったよ」














ノレンガルド「わーい♪ 新しい衣装だ〜」

フロースヒルデ「あら、嬉しそうね、ノレン」

ノレンガルド「うん。 実を言うと前の衣装はあんまり好きじゃなかったら、とっても気に入ったよ、この衣装。

ありがとうね、ソルちゃん」

ソル「どういたしまして、経理長殿」

ノレンガルド「これで僕もようやく、威厳たっぷりなドルイドさんの仲間入りかな?」


ジークウルネ「あら、ノレン。 立派な衣装をそろえても中身が整っていないと、一流のドルイドとはいえないわよ」

ノレンガルド「そーなの?」

ジークウルネ「あたりまえでしょ。 じゃあ、ノレンに一つ問題。

ドルイドJob50スキル、『セイクリッドエンブレイス』の効果は何かしら?」

ノレンガルド「うーんと……」

 暫く悩むノレンガルド。

 そして3分後、ノレンガルドはこう答えた。


ノレンガルド「なんだっけ?



                    BACK