日記第37話(2)


西院「なるほど・・・・・・ 親族であるなら、フロースさんの無茶狩りに懸念を抱いて当然ですね。

ですが・・・・・・」


西院「何ゆえ、御自身でフロースさんを諭さないのですか?

本来であるならば、そういう仕事は親族であるラウリーンさんがすべき事でしょうに」

 毅然とした態度で、西院はラウリーンに問いただした。

ラウリーン「……それが出来るのであれば、わざわざ他の人に頼んだりはしないわよ。

結論から言うとね、私はあの子……フロースヒルデに物凄く嫌われているのよ。  それも、口もきけないくらいに」

西院「嫌われてる……?」

ラウリーン「ええ」


ラウリーン「あの子が試練の為にこのエミル界に下りた時…… 何をとちくるったかあの子、タイタニアには本来不向きな剣士になりたいって言い出してね。

半端な覚悟で剣なんか持つんじゃないわよ! って怒鳴ったら、泣きながら家を出て行って、それっきり……」

西院「それ以来、一度も顔を合わせていないと」

ラウリーン「ええ。  家出したあの時…… あの子を見る私の目は、まるで親の仇を見るような目だった……

それを考えると、今でも私に対して良い感情は持っていないでしょうね。 絶対に……」

SE:チッ……(ラウリーンの煙草)


重秀「しかし……ですよ。主任。 お言葉ですが、主任だって本来タイタニアには不向きな騎士(ナイト)じゃないですか。

天使でF系をやっている主任が姪っ子に『剣士になるな』って言っても、聞くわけが……」

ラウリーン「……確かに、それは一理あるわね。 でも私は、あの子や、他の姪っ子や甥っ子に、戦士の道だけはどうしても進ませたくなかった……

西院「F系の道だけは進ませたくなかったって…… どうしてですか?」


ラウリーン「今、重秀君が私の事をナイトって呼んだけど…… 私の冒険者としての職業はダークストーカーのつもり。

ナイトの称号は今後も名乗るつもりもないし…… それに、私にはその称号を名乗る資格も無いわ」

重秀「ナイトを名乗る資格はないって……どういう事ですか?」

ラウリーン「ナイトの基本的な使命は、他の人を守る事…… このくらいは、重秀君にもわかるわよね」

重秀「え、ええ」

ラウリーン「重秀君は信じないかもしれないけど、こんな私にも昔は婚約者がいたのよ。

その婚約者はタイタニアの剣士…… 性別こそ違え、あの子と同じ職業だったの。

けど、ある時私とあの人は、当時まだ未実装だった、DD氷結に迷い込んでしまってね。 そして……」

SE:チッ……(煙草)


ラウリーン「あの人は魔物の餌食となってしまった…… そう、私の目の前で……

西院&重秀「!!」

 ラウリーンの告白に、絶句する二人。

ラウリーン「今、あの子はDDサウスでそれなりに上手くやっているみたいだけど…… 遠目で見た限りでは、いつあの人と同じような末路を辿ってもおかしくないわ。

だから……」


重秀「取り返しのつかないことにならないように、常に見守ってやってくれ…… そういいたいんですよね、主任」

ラウリーン「ええ、その通りよ」

重秀「……あの艦長さんは、姉貴や……妹の勤め先のリーダーでもあります。

恐らく、姉貴達の方でも何らかの手は打っていると思いますが…… 俺も、出来るだけの事はしましょう」

ラウリーン「ありがとう、重秀君」


西院「私も……フロースさんには過去、お世話になった事がありますので…… 出来る限りの事はしましょう。

ただ、ラウリーンさん」

ラウリーン「何かしら?」


西院「どんなに避けていても、いずれ家族と正面から向き合わねばならぬ時が来るでしょう。

その事だけは、忘れないでください」

ラウリーン「……相変わらず、痛い所を突くのが上手ね、西院さん」

SE:チッ……(煙草)




ラウリーン「まあでも、私が死ぬまでにそんな時が来ない事を祈るわ。

それじゃ、もう日も落ちた事だし…… 今日はこれで解散しましょう」

重秀「そうですね…… じゃあ、俺は明日朝一から仕事なんで、これにて失礼します」

西院「私も、これにて失礼します」

 ラウリーンの鶴の一声で、それぞれの家路につく3人。

?「叔母様……」

 そして3人の姿が消えた後、物陰から声がした。


ジークウルネ「アリサの会社に勤めている……とは前々から聞いた事があるけど、アイアンサウスの勤務だったなんて……

エミル界勤務であれば、少しは私たちに連絡してくれてもいいのに……」

 声の主はフロースヒルデの妹であり、ラウリーンのもう一人の姪であるジークウルネであった。

 普段から(お説教をする時以外は)大人しい性格である彼女だが、今日はどことなく表情が暗い。


ソル「久しぶりに叔母様に会えたのに……あまり嬉しそうではないですね、チーフ」

 そして、ジークウルネの部下であるDEM、ソルの姿も傍にあった。

ジークウルネ「色々あるのよ…… 私たち姉妹とあの叔母様とは。

特に、さっき叔母様自身も言ってたけど…… 姉さんは事の他叔母様の事を嫌っているわ」

ソル「チーフも、叔母様の事は嫌いなのですか?」


ジークウルネ「私自身は嫌いでは無いわ。 むしろ、私が体調を崩すたびに高いお薬とか、色々差し入れてくれるから……むしろ好きなほうなの。

ただ…… 姉さんと叔母様の喧嘩だけは、何度見てもいい気がしないわ。 まるで、本当の家族ではないみたい……」

ソル「ほむ……」


ソル「ところでチーフ。 あの叔母様…… チーフの親友である、アリサ様の会社に勤めているのですよね」

 暗く沈んだ雰囲気を彼女なりに察したのか、ソルが話題を変えようと試みる。


ジークウルネ「ええ。 叔母様は昔はエリート騎士の一員だったんだけど…… ある時騎士の職を辞して、アリサの会社に転職したのよ。

何をしているかまでは本人も、アリサも教えてはくれないけど……」

ソル「そうですか……

先ほど傍受した立ち話を解析する所、チーフの叔母様が騎士をお辞めになられたのは…… 婚約者を亡くしたのが原因のようですね」

ジークウルネ「そのようね…… 叔母様の婚約者が冒険先で亡くなったのは、私もたった今知ったわ。

本人からは、不倫が原因で別れた……としか聞かされていなかったから……」

ソル「なるほど……」

ジークウルネ「それにしても……」

ソル「それにしても?」



ジークウルネ「さっき盗み聞きした叔母様達の話から察するに…… 叔母様は、どうも重大な誤解をしているわ」

ソル「重大な誤解……ですか。 それは一体?」

ジークウルネ「ソル…… いまでこそ元気に冒険者をしているけど、この世界に下りてきた頃は病弱だったという話は聞いているわよね」

ソル「ええ。 そして軍医殿より、チーフが病弱だった主な原因は、肺の機能があまり良くない事によるものだ……とも」

ジークウルネ「そう。 その肺の機能があまり良くない私の前で、叔母様が煙草を吸ったら……私はどうなると思うかしら?」


ソル「むせる可能性が極めて高いと思いますが…… 少なくとも、平然としてはいられないと思います」

ジークウルネ「そう。

姉さんが叔母様に対して怒っている点は、主にその点なのよ。 私の前でも煙草を我慢できない、その自己管理能力の無さが許せないって……前に姉さんが言っていたわ。

それに比べたら剣士になるのをに反対された事なんて、些細な事でしかないと思う」

ソル「なるほど…… 推測するところ、艦長が叔母殿に一番求めている事は……」


ジークウルネ「ノレンはどうだか知らないけど、少なくとも姉さんと……それに私が叔母様に求めている事は、たった一つ。

それは……」


ジークウルネ「禁煙して欲しい…… たったそれだけの事なのよ


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