日記37話(4)


戦闘飛空城フレイヤII 甲板


ホワイト「あ、ウルネちゃんに藪先生。お帰りなさい〜」

 城につくと、この城の正操舵手であり、藪が助けを借りようとしている相手…… C・K・ホワイトの姿があった。


ジークウルネ「ただいま、ホワイトさん。 操舵手のお仕事にはもう慣れましたか?」

ホワイト「この手の戦闘船の操舵手なら前に何度かやった事ありますから、大丈夫。

ところで……」


ホワイト「そこののじゃーちゃんは? クジで当てたの?」

 ちなみに、『のじゃー』とはローキー・アルマの通称の事である。

白梅「ああ、わしの名は天神川白梅。 ここにおるジークウルネ殿と、このお城の艦長とは前々からの友達なのじゃ♪」

 ぺこり、と一礼する白梅。


ジークウルネ「ところでホワイトさん、姉さんは今城に帰ってるかしら?」

ホワイト「帰っている事は帰っているけど…… 今は近づかないほうがいいかも」

ジークウルネ「え? どういう事?」


ホワイト「今、ミュー先輩にフロース艦長、すんごく怒られているのよ。 この所サウスDDで無茶ばっかりしているから、とうとうミュー先輩がプッツンしてしまったようで……」

 『巻き添えをくらいたくなければ、フロースの所へは近づくな』といいたげに、ホワイトは言った。


ジークウルネ「まあ、遅かれ早かれミューさんに怒鳴られるんじゃないかとは思っていたから…… 予想の範囲内ね。

今ミューさんの怒りの矛先が向いているのは姉さんであって私じゃないから…… 多分大丈夫でしょ」

 そういうと、そくさと艦橋の方へ向かうウルネ。


ホワイト「ああ、危ないったらウルネちゃん。 下手すると巻き添えを食らいますよ」

ジークウルネ「大丈夫よ。 私はミューさんに怒られるような事は、何一つしていないから」

 それだけ言い残すと、ジークウルネは艦橋へと消えていった。


ホワイト「……」

 そして心配そうに艦橋の方をみやるホワイトが、後に残された。


藪「ああ、ホワイト君。 今回の艦長への用件なんだが……」

 そして、いつの間にか城に入っていた藪がホワイトに声をかけた。

ホワイト「?」

藪「君にも関わりのある事なので、すまんが一緒に来てもらいたい。

後で説明する……などという面倒な事は避けたいのでね」


ホワイト「げ…… プッツンしたミュー先輩の所へ行くんですか……

怒ったミュー先輩の近くにいると、良く巻き添えを食らうんですよ、私……」

 行きたくないという気持ちを隠そうともせず、ホワイトは藪に言った。

藪「……我を忘れたミュー君に後れを取るほど、私はおちぶれてはいないよ。

それに……」


藪「私が二度手間などという面倒を嫌う事は、ホワイト君なら十分に承知しているはずだね

ホワイト「……わかりました…… 私も、ご一緒します」

 エスケープが許されるような相手では無いと今更ながら悟ったのか、しぶしぶホワイトは藪についていくことにした。



(艦橋)


ミュー「無茶するのもいい加減にしろ!フロース!!

 艦橋どころか城の外にまで聞こえるような声で、この城の機関長であるS・ミューは怒鳴った。


フロースヒルデ「備えあれば憂いなし、というじゃない。ミュー。

それに、各家庭から3次職の人がごろごろ出ているこのご時勢で…… うちだけ一人も3次職が出ていないはちょっとまずいとは思わないの?」

 フロースはフロースで荒ぶるミューに圧倒されることなく、反論してくる。

ミュー「それは認めるがな…… だからって、無茶していいという理由にはならないぞ!

お前一人の命じゃないんだからな! 少しは艦長という立場をわきまえろ!!」

フロースヒルデ「文句なら私じゃなく、狂気じみた経験値テーブルを設定した運営に言って。 多少無茶でもしないとまともに経験値が稼げないのよ」

 と、二人が言い争っていると・・・・・・


ジークウルネ「何を言い争っているの? 二人とも」

 物怖じする事無く、ウルネが割って入ってきた。


ミュー「あ、いいところに来た、ウルネ。 お前さんにちょっと尋ねたい事があったんだ」

 ウルネに対しては、いつもと変わらない様子で問いかけるミュー。

ジークウルネ「尋ねたいこと?」

ミュー「ああ。 お前達タイタニア族にとって…… Lv108以上の転生で貰える『Ex羽』ってどんな存在だ?

つけていると、何か見かけ以上の特権が得られるのか?」

ジークウルネ「Ex羽……ですか」


ジークウルネ「……Ex羽とかけて、ジオングの『足』とときます」

ミュー「……そ、その心は?」


ジークウルネ「あんな物は飾りです。 偉い人には、それがわからないんです


ミュー「そ……そうか…… フロースはこの城で一番偉い人だから、Ex羽が単なる飾りだって事がわからないのか……」

 普段は常識人であるはずのジークウルネが突如としてネタに走った事に、さしものミューも困惑を隠せなかった。


フロースヒルデ「なによ。 ジークもミューも、二人して私をバカにして……」


ミュー「バカにされるような事をしているお前が悪いんだろ、フロース。

ほら、ここに……」


ミュー「リュックの肥やしになっていたドミニオン十字勲章が6つある。

いま、フロースのLvは105の40%だから、これを全部使えば丁度Lv106になるだろう。

頼むから、これで妥協してくれ。 単なる飾りと命じゃどちらが大事かぐらい、わかるだろう」


フロースヒルデ「み、ミュー…… 何でそんな大事な物をリュックの肥やしにしてたの?

ミューの方がLv上げにくいんだから、ミューが使ったらいいのに」

ミュー「……タタラベ系2次職のソロで110に達するのは、バニブロだけでLv110まで上げろって言っているのと同じ…… 言い換えれば、とてつもなく困難な事だ。

だから、あたしはLv100で転生するつもりだから使うつもりは無い。

むしろ、この城のリーダーであるフロースにこそ使って欲しい代物だ」

フロースヒルデ「ミュー……」


ジークウルネ「そうよ、姉さん。 Lv106になればティタさんと同じデザインのわっかが貰えるから、それだけでも十分貫禄は示せるでしょう。

それに、叔母様も姉さんの事を見守って……」

フロースヒルデ「えっ……!?」

 ジークウルネが発した『叔母様』という単語を聞いた途端、フロースの目つきが変わった。



フロースヒルデ「この所、サウスDDで誰かの視線を感じていたんだけど…… まさか、あの『ババア』が犯人だったとはね……」

 そして、不機嫌オーラを全開にして、フロースヒルデはうめいた。


ジークウルネ「ば、ババアって…… 姉さん! いくら叔母様の事が嫌いだからって、ちょっとは表現を……」

フロースヒルデ「なら、お上品に『おばば』とでも言えばいいのかしら。 

ババアは言いすぎにしても、実年齢的に『おばさん』と言われても文句は言えない年頃だったはずよ、あの『おばば』」


ミュー「……ババアでもおばばでも、けなしている事には変わらないだろう。 そういうのを五十歩百歩って言うんだ」

 さっきまで怒っていたミューも、呆れ顔で口を挟んだ。


フロースヒルデ「正直いって、あの騎士崩れのおばばにこれ以上付きまとわれたくないから…… ミューの十字勲章、有難く使わせてもらうわ。

Ex羽は欲しかったけど…… 諦める事にする」


ミュー「……何だか良く分からんが、諦めてくれて何よりだ。 じゃあ、忘れないうちに渡しておくわ」

 そういうと、ミューはフロースに十字勲章を手渡した。


フロースヒルデ「ありがとう、ミュー。 じゃあ、私はちょっと昼寝でもするわ。

あの憎たらしいおばばにストーキングされていた事を知ったら、一気に疲れもでてきたしね。

じゃあ、みんなお休み」

ミュー「ああ、お休み。 フロース」

 フロースは皆に手を振ると、艦橋を後にしていった。




藪「しまった…… 私とした事が、フロース君への用件を切り出し損ねた」


白梅「わしも、挨拶しそこなったのじゃ〜」

 後に残されたのは、用件を切り出し損ねた一人と一匹。


ミュー「しっかし妙だったな、フロースの奴」

ホワイト「妙?」

ミュー「さっきまでは頑なにEx羽を求めていたのに、叔母に見張られていると知った途端、あっさりEx羽を断念しやがった。

 ありゃ相当、叔母さんの事を嫌っているようだな」


ホワイト「私もそう思います、ミュー先輩。

ウルネちゃん、艦長と叔母様って、どいういう間柄なの?」


ジークウルネ「……一言で言えば『犬猿の仲』なんです。 姉さんと叔母様は。

顔を合わせるをまず間違いなく喧嘩するから、私としても凄く困っているんです」

 困りきった表情で、ウルネは皆に説明した」

ミュー「なるほどね……」


ホワイト「所で藪先生。 艦長への用件について、そろそろ話してくれませんか?

何でも、私にも関わりのある事だとか……」

藪「ああ」


藪「フロース君の叔母は、実は重度のヘビースモーカーでね。 フロース君とその叔母との軋轢の原因になっているそうだ。

ウルネ君から、その叔母の禁煙治療を頼まれたのだが…… 何せその叔母は、こちらがいくら健康指導をしても一向に言う事を聞かない」

ホワイト「健康指導をした…… って事は、藪先生とその叔母さん、お知り合いですか?」

藪「ああ。

で、ホワイト君の怪盗としての腕を見込んで……だ」


藪「彼女の持っている煙草を、こいつとすり替えてもらいたい。

箱の中には、禁煙用のダミー煙草(煙の代わりに水蒸気が出る物)が入っている」


ホワイト「まあ、すり替える事くらいはお安い御用ですが…… でも、すり替えなんかしたら遅かれ早かれ先方にバレちゃうんじゃ?」

藪「構わない。 その事自体が、フロース君の叔母に対する禁煙圧力にもなるからね」

ホワイト「わかりました。 あとでその叔母さんの特徴と居場所を教えてくれれば、すぐにでもお仕事に取り掛かりますね」


藪「すまない。 艦長からは後で私から言っておこう。

……!?」

ミュー「? どうしたんだ?藪」


藪「さっきまでそこに老師…… ローキー・アルマがいたのだが、どこにいったか知らないか?」

 藪の言った通り、先ほどまではいたローキー・アルマ事、白梅の姿が消えていた。

ミュー「いや、知らないな…… 勝手に帰ったのか?

藪「わからん。

が、老師は頭のせ雪ウサギに変身する能力があるから…… すまんが皆、各自のイベントリに雪ウサギが紛れ込んでいないか調べてくれ。

かなりの悪戯好きだからな、老師は」

ミュー「あ、ああ……」

 唐突かつ、奇妙な藪の要請に、皆は戸惑いつつもそれに従った。

 そして、誰のイベントリにもローキー・アルマや雪ウサギの姿が無い事が判明したのは、それからまもなくの事であった。


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