日記38回(前編)



鴎外「……」


 我輩はアンブレラなのである。 名は鴎外。

 ここは『フレイヤII』という名の戦闘飛空城の一角。

 前身である戦闘飛空庭『フレイヤ』時代にここに迷い込んできて以来、もう長い事ここに勤務しているのである。


 最初に迷い込んで来た時は、当然ながらアンブレラ系モンスターの同胞はいなかった。

 それが、今では一般クルーにもアンブレラ系モンスターが多数勤務しており……

 今ではECOの全サーバーを探しても、ここほどアンブレラ系モンスターを優遇している所はない……

 全サーバーを詳しく調査したわけではないので正確ではないかもしれないが、少なくとも我輩はそう思っているのである。


 そして、話は飛ぶのであるが今年(2013年)4月…… 我がアンブレラ一族より、待望の『アルマ』が登場したのである。

 当然、光の塔や超兵器、それにアンブレラの里の同胞たちは歓喜に湧き、この城のクルーたちもおおいに喜んでいたのである。 

 が……


 4月の17日、この城に大きな事件が発生するのである。




 あの事件…… 4・17事件と命名するが、その事件のために艦長以下多くのクルー達が悲しみの底に沈む事になってしまったのである。

 何故このような事態になってしまったのか…… それを今から書き綴っていきたいと思うのである。








数日前 戦闘城フレイヤII 艦長室前


ユキ「ご主人様…… ご飯ですよ……」


フロースヒルデ「今日もいらない…… 私の分はみんなで分けちゃっていいわよ…… ぐすん」

ユキ「ご主人様……」


鴎外「? どうしたのたのであるか? ユキ殿。 悲しそうな顔をして……」


ユキ「あ、鴎外さん…… ご存知かもしれませんが、実は……」












ユキ「と、いう訳なんです。

ご主人様がご飯を取らなくなって、もう2日になります……

鴎外「ふむ……」


ユキ「こんな事態になってしまったのは……僕の…… 厨房長としての実力が至らなかったせいでしょうか?

せっかく、藪先生から厨房長の地位をお任せいただいたばかりだというのに、こんな有様では…… ぐすっ」


鴎外「ああ、泣き止むのである、ユキ殿。 艦長の拒食症の一件は、ユキ殿の責任では無いのである。 

我輩が事情を説明するゆえ、申し訳ないが主計室までご足労願いたいのである」

ユキ「は、はい……」








主計室


ユキ「それで、鴎外さん。ご主人様が食事に手をつけなくなった理由というのは……?

?「ユキはん。それについてはまずはうちから説明するえ」

ユキ「あ、貴女は……」


ユキ「一葉(いちよう)さん……でしたよね。 鴎外さんの妹の」

一葉「ええ。 もっとも、うちらアンブレラ系モンスターは魔法で生み出された魔法生物やから、血の繋がりはあらへんけどな」


鴎外「いわゆる『義兄弟』なのであるよ、ユキ殿。 ユキ殿も同じ魔法生物であるから、その辺の事情はお分かりいただけると思うのである」

ユキ「ええ……

それで……一葉さん。 艦長は落ち込んでしまった原因って、一体何でしょうか?」

一葉「先日、鴎外兄さんの一族からついに、アルマが出たのはユキはんもご存知やろ。

当然、艦長もその娘をこっちに引き入れたくて、あれこれ策を練ったんえ。

けど……」

ユキ「けど?」





一葉「ECO-KUJI社はこっちが何万円も支払ったのに、
あの子を引き渡さなかったんえ!!


代わりに渡されたのは、お呼びでないクジ品の山…… これ全部売ったとしても、あの娘を迎えるお金には全然たらへんのよ。

この城の主計部隊の一員として、今度ばかりは堪忍ならんえ!」

 普段は温厚なリリカルである我輩の妹・一葉ではあるが、今日ばかりは別傘のように怒り狂っているのである。


鴎外「お、落ち着くのである一葉…… 

あのECO-KUJI社に今更何を言っても、同族のアルマは来てくれないのである。

それに……」


(※イメージ)
鴎外「それだけの額を投資した以上、写真の高級外車やドレスの類もかなり手に入ったはずなのである。

人によっては、それらのアイテムを求めて散っていった者も大勢いるはずなのである。

同族のアルマが手に入らなかった無念は我輩にも良くわかるのであるが……いつまでも怒り狂っていると、そういう方々に失礼なのである」


一葉「申し訳ないえ……鴎外兄さん。 柄にも無く、頭に魔力が上ってしまったえ。

今回は1位品以外全てゲットできただけでも、良しとするしかなさそうやな」

鴎外「それがいいのである」

我輩の説得が功を奏したのか、一葉はようやく落ち着きを取り戻したのである。


ユキ「……お二方のお話をまとめると、ご主人様はクジにリアルお金を大量につぎ込んだのに、ついに当たりクジを引く事はなかった、と……

そしてそれが、ご主人様が塞ぎこんでいる原因なのですね」

 話がひと段落すると、それまで黙っていたユキ殿が発言してきたのである。

一葉「ええ。その通りえ」

ユキ「……もう1度チャレンジする事は、できないのでしょうか?」


ノレンガルド「主計長として言わせてもらうともうそれは無理だよ、ユキちゃん」

 ユキ殿の問いに答えたのは、我輩の直接の主人であるノレンガルド少年。

 本業はドルイドなのであるが、この城では主計長として補給・経理一切の指揮を執っている人物なのである。

ノレンガルド「すでにつぎ込んだ分のお金だって、かなり無理して捻出したというのに……

今の財務状況だと、クジは当分引けそうもないね」


ユキ「そうですか……

ところで鴎外さん、一葉さん。 話は変わりますが一つ、質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

鴎外「何なのであるか? ユキ殿」

ユキ「ずいぶん前のお話の最後に、鴎外さんも藪先生も、アンブレラは男性・リリカルは女性といった感じで分かれると仰られていましたが……」


ユキ「でも今回実装されたアンブレラのアルマは、男の娘という低すぎる可能性を排除すれば、明らかに女性です。

これは一体……?」

鴎外「むう……痛い所をついてくるのであるな。ユキ殿は。

我輩や一葉までの世代までは、あの時いったように綺麗に性別が分かれていたのであるが……」


一葉「理由は定かではありまへんが、私たちの下の世代から、アンブレラの女性やリリカルの男性などが出てき始めたんえ。

これも、昨今話題の『アルマ化』の為の力と同一のものでは無いか…… と、藪先生が仰っていました」

ユキ「なるほど……

では、話を戻しますが…… ご主人様はもう2日間も、何も口にしていません。

このままだとお体に触りますので、何とかご主人様に立ち直ってもらって頂いて食事を取ってもらわないと……

鴎外さんたちからも、ご主人様に食事を取るよう、働きかけてもらえないでしょうか?」


鴎外「わかったのである。 無益かもしれぬが、我輩たちからも出来る限り説得してみるのである」

ユキ「あ、ありがとうございます、鴎外さん」

鴎外「こういう時に軍医である藪先生がいてくれれば良いのであるが…… 間の悪いことにここ2日間留守にしているのであるからな。

早く帰ってきてくれると……」


藪「私ならすでに帰ってきているよ、鴎外君」


鴎外「わっ! ……と、びっくりしたのである、藪先生。 いきなり背後から出てきて欲しくないのである。

我輩たちアンブレラは一部の例外を除き、本来臆病な魔法生物である事は、先生が一番良く知っているはずなのである」


藪「すまんすまん。 君達の一族がスキルに反応して攻撃してくるのも、防衛本能の一環だったね。

……さて、話は変わるが艦長の拒食症の件は、すでに無線通信で聞いている。

そして、治療法もすでに考えてある」

ユキ「さすがは藪先生。 お仕事が早いですね。

で、その治療法とは……?」

藪「これについては私より、老師の口から説明してもらった方がはやいだろう。

老師……あとはお任せする」

?「うむ……なのじゃ」


白梅「初めて会う方も大勢おるから、改めて自己紹介するのじゃ。

わしの名は天神川 白梅(はくばい)。 こう見えても元ノーザン宮廷魔術師で、今の大導師とは同期なのじゃ♪」

 と、自己紹介したのは天井に張り付いているローキー・アルマ。

 天井に張り付いている所から、どう見てもカタギ……もとい、まともなローキー・アルマには見えないのである。


ユキ「このお城の厨房長を務めるユキ……といいます。 デメンションサウスダンジョン3Fの出身です」

白梅「おお…… お主、デメンションサウスの白い使い魔かの。

実はわしも、生まれは”でめんしょん大陸だんじょん”なのじゃ。

同じ”でめんしょんだんじょん”生まれのあるま同士、これから仲良くしていくのじゃ」

ユキ「はい。 よろしくおねがいします、天神川さん」

白梅「よろしく、なのじゃ。

あと、以後わしの事は名前の方……『白梅』とよんでくれると、うれしいのじゃ。

さて……」




白梅「本題にはいるのじゃが…… 何でもこの城の艦長が”あるまくじ”とやらに大負けして、塞ぎこんでいると藪から聞いておる。

そして、それについての処方箋なのじゃが…… もう、用意してあるぞい」 

ユキ「処方箋……ですか。 それは一体?」

白梅「確か鴎外殿……といったの」

 そこで天神川白梅と名乗るローキー・アルマは、我輩の方に目を向けてきたのである。

 何故、自己紹介もしていないのに我輩の名を知っているのは定かではないが、おそらく藪先生より聞いたのであろう。


鴎外「我輩……なのであるか。 白梅殿。一体、我輩に何をすれば?」

白梅「簡単な事なのじゃ。 公式の”あるま”が手に入らなかった以上、艦長どのを慰める手はもはや一つ……」


白梅「鴎外殿、お主がこの場で”あるま”になってしまえばいいのじゃ♪


鴎外「!!

 唐突に、当方も無い事を我輩に言う白梅殿。

鴎外「そんな事をいわれても……なのである。我輩はれっきとした男性。 あの幼女姿になるのだけは、願い下げなのである。

第一そんな事が出来るのであれば、この日記38話は今頃、こんなネガティブな話にはなっていないのである」

白梅「大丈夫なのじゃ。 古代より伝わる秘法を使えば公式のとは違う姿にはなるが、お主を”あるま化”する事は可能なのじゃ。

古来より、善は急げという…… 早速、術を施すとしようかの」

鴎外「な……ちょっと待つのである。 ま、まだ心の準備が……」


白梅「テクヤクマヤコン・テクヤクマヤコン……








白梅「アンブレラの鴎外さん……









白梅「今流行のアルマになぁれぇ♪

 こちらの制止を聞かず、白梅殿は古代の秘術を我輩にしかけてきたのである。


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