日記第五回
本日の日記担当:S・ミュー
戦闘庭「フレイヤ」艦橋
ジークウルネ「も、申し訳ありません……。該当者には、あとで連絡しておきますゆえ……
はい……はい……申し訳ありません……
それでは、失礼します……」
ミュー「よ、ただいま」
山吹中佐「今かえったで〜」
ジークウルネ「ただいま……じゃないですよ!ミューさん!!」
いつもは物静かなジークウルネが、あたしが帰ってくるのを見るなり怒鳴ってきた。
ミュー「う……」
突然の恫喝に、あたしは面食らった。
もっとも、彼女の怒りの原因には、あたしには心当りがある。
ジークウルネ「ミューさんが機関車タイニーでバウ虐待を繰り返しているおかげで、ここ最近、動物愛護団体からの抗議電話が
ひっきりなしなんですよ!! 今日でもう30本目なんですからね!!」
ミュー「おいおいちょっと待て…… 確かに機関車でバウを轢いたのは認める……
認めるが、あたしは向こうから歯向かってきた奴だけを轢いているんだ。 何もしてこない奴までは轢いてないぞ」
ジークウルネの怒りはもっともだが、バウっていう犬畜生は人をみかけると本能的に襲い掛かってくる生き物だ。
街道を移動したり、鉱石の採掘している時に集団で襲い掛かってくる事も日常茶飯事だから、あたしに言わせれば害獣以外の何者でもない。
あんなワン公、絶滅させろとは流石に言わないが、絶滅危惧種に追いやるくらいの事はしてやっても、バチは当たらないと個人的には思っている。
ジークウルネ「まあ確かに、ミューさんが理由も無く動物虐待なんて真似をするわけないよね」
表面上はひとまず落ち着いたジークウルネだが、その表情は相変わらず険しい。
ジークウルネ「でも、電話に出ていた動物愛護団体の人はかなり怒っていましたし…… もう、電話口で怒鳴られるのはこりごりです。
……ミューさん、今度からミューさんがいる時は動物愛護団体からの電話、私の代わりに受けて下さいね」
ミュー「わかった……わかったからひとまずここはこれで手打ちという事で……」
ジークウルネ「……わかりました。そういう事にしましょう」
とりあえず、ジークウルネの方も納得してくれたようだ。
心の底で、あたしはほっと胸をなでおろした。
ジークウルネ「所でミューさん、話は変りますがその格好はどうしたんですか?」
ミュー「ああ、これか。アップタウン東のサファネさん所で買った特攻服……もとい、バックパッカーの服(女用)だ。
タタラベマスターからの依頼をこなしたら丁度L35になったんで、記念に買ったんだ」
ジークウルネ「へぇ…… そんなかわいらしいお洋服買うなんて。ミューさんも意外と女の子らしいところあるんですね」
ミュー「ちなみに、裏地には毘沙門天をかたどった裏地『毘沙門の裏地』を使用し、背中には『喧嘩上等』の刺繍を……」
ジークウルネ「やっぱり…… ていうか、裏地とかリュックに隠れて見えない背中の部分とかに凝ってどうするんですか?ミューさん」
ミュー「わからねぇかな……熱血硬派ってのは、『見えないところでお洒落する』ものなんだよ」
ジークウルネ「……ミューさん、この話はこのくらいにしましょう」
『聞くんじゃなかった』という表情で、ジークウルネが言った。
ミュー「……ところで動物愛護団体に話に戻るが、実は帰り際にタタラベマスターからも話があってな」
ジークウルネ「タタラベマスターから?やっぱりマスターからも怒られたんですか?」
ミュー「いや、そうじゃない。むしろ……」
一時間前…… ギルド元宮3F タタラベマスターの部屋
タタラベマスター「機関車であの採掘の邪魔以外の何者でもないバウ公を轢きまくるとは……おまえ、大したもんだよ
前々から思っていたが、君こそタタラベの鏡だよ」
ミュー「マスター、それは本音? それとも皮肉ですか?」
タタラベマスター「もちろん本音だ。 俺が駆け出しの頃なんかは、バウを生きたまま溶鉱炉に放りなげまくっていたものさ……」
ミュー「さ、さすがはマスター……」
本人の前で『虐待のやり方も違う』とまでは、流石にいえなかった。
しかしマスターは、そんなあたしの心を見透かしたかのごとく、二言目にはこういった。
タタラベマスター「な、なんだよミュー。俺がそんなに酷い事をしているように見えるか?
少なくとも肥料代わりにバウどもを生き埋めにしていた、ファーマーギルドのマスターよりはマシだと思うがな」
ミュー「は、はぁ……」
生き埋めにしろ、溶鉱炉に投げ入れにしろ、あたしには到底真似の出来ない虐待行為だ。
この分だと他のギルドもマスターも、大なり小なり派手な動物虐待に手を染めているかもしれない。
タタラベマスター「それにしても最近の動物愛護団体はマジうざいよな、ミュー。
バウを虐待……もとい、退治する事くらい今時どこの冒険者もやっている事なのに、最近になって抗議件数が急増しているんだ……
このタタラベギルドにも連日抗議が来る……まったく、仕事の邪魔になるったらありゃしない」
バウを生きたまま溶鉱炉に投げ入れているような人物になら、いつ動物愛護団体からの猛抗議が来てもおかしくはないと個人的には思った。
が、それをそのまま口に出すのは危険極まりないので、あたしは口に出してはこう答えた。
ミュー「すみませんマスター。あたしの為に、マスターにまで……」
タタラベマスター「いや、構わんさ。別にミューの件だけに抗議が来ている訳じゃないからな。
それよりも、一つ気になる事があるんだ」
ミュー「気になる事?」
タタラベマスター「ああ。ここ最近、やたらと各所に抗議行動を行っている動物愛護団体だが……
情報を精査してみると、実は頻繁に抗議行動を行ってくる団体は一団体しかない事がわかった」
ミュー「1団体?」
タタラベマスター「ああ。その名は『アクロ大陸西部動物愛護戦線』だ」
ミュー「動物愛護戦線……こりゃまた、テロリストみたいなネーミングを……」
タタラベマスター「それは俺も同感だ。とにかくこの団体さえ潰せば、モンスター退治に関するクレームはまず間違い無く減る。
ミュー、君の腕を見込んで『動物愛護戦線』潰しのクエストを依頼したいんだが……請けてくれるか?」
ジークウルネ「それで結局その依頼、請けちゃったんですか?ミューさん」
ミュー「ああ。 お前さんとしても、無用なクレームは減るに越した事はないだろ?」
ジークウルネ「それは……そうですけど、でも……」
SE:ツルルルルル……(電話の鳴る音)
ジークウルネ「はい。戦闘庭「フレイヤ」艦橋です」
声「私は『アクロ大陸西部動物愛護戦線』の者ですが、おたくの乗組員に機関車を乗り回して愛くるしいバウを虐待している者が
いるそうなのですが……」
ジークウルネ「はい。その件でしたら、当事者がおりますので、今替わります」
ジークウルネは無言で電話の受話器をあたしに差し出した。電話の相手は、あたしも察しが付いている。
とりあえずウルネから受話器を受け取るあたし。
ミュー「あ、もしもしかわりました」
声「私は『アクロ大陸西部動物愛護戦線』の者ですが……貴方が日頃機関車タイニーでかわいいバウを轢いている方ですね」
声の主は、タタラベマスターも言っていた『アクロ大陸西部(以下略)』の関係者のようだ。
ミュー「ああ、そうだが……」
こればっかりは事実だから、そう答えるより仕方がない。
しかし、そう言った瞬間、受話器の向こうから、怒りのオーラがまじまじと発せられるのが感じられた。
声「あんたが昨今話題の『機関車バウ轢き』の先駆者、S・ミューやな!!」
次の瞬間、電話先の相手は関西弁でこちらを怒鳴りつけてきた。
声「あんた、前々からうちら動物愛護団体の警告を無視して、機関車タイニーでバウを轢きまくってやろ!!
そのおかげでな……最近模倣犯も出だしておるんやで!! この落とし前、どうつけてくれるんや! ああっ!!」
電話口の相手は殆ど脅しに近い口調にまくし立てた。
が、そんな口先だけの脅しに屈するほど、あたしもお人よしでもない
ミュー「なぁあんた、仮にも『動物愛護団体』を名乗っているのなら……バウの基本的な生態くらい当然知っている……よな?」
声「ああ、しっとるで…… バウはひとなつっこくて、人をみかけると遊んでもらいたくて駆け寄ってくる……」
ミュー「ほぉ……」
実際は『人をみかけると見境無しに襲ってくる』のが正しい事は言うをまたない。
身近な動物の生態も知らないとは、この『アクロ大陸西部動物愛護戦線』という団体、どうも怪しい。
ミュー「しかし、『アクロ大陸西部動物愛護戦線』さんよ。 バウの基本的な生態すら知らないなんて、あんたら、本当に動物愛護団体か?」
声「何やて!? あんた、虐待者の分際でうちらに歯向かおうっていうんかい!?」
今度は先方は逆切れしてきた。
ミュー「ああ、そうだが」
元々素直に『ごめんなさい』というつもりもなかったが、どうやらここらが反撃開始の時期のようだ。
声「あんた、ええ度胸しているやないけ!! あんまりうちらを舐めると、病院送りにしてやるで」
ミュー「ああっ……それがどうしたチンピラ野朗」
ドスを聞かせた声で、私は電話口の相手に脅しをかけた。
相手も一瞬ひるんだらしいが、すぐに持ち直したらしくすぐに反論してくる
声「ち、チンピラ野朗やと!! あんた、基本的な言葉使いがなっておらんやんけ!!」
ミュー「ゴロツキ相手に敬語なんか無用なんだよ!このカス野朗が!!」
ジークウルネ「み、ミューさん……」
背後をみてみると、ジークウルネが冷や汗をかきながらこちらをみやっているが、そんなのには構っていられない。
声「どうやら……あんさん相手に口で抗議しても無駄なようやな……
よし、なら今日の17:00に軍艦島の飛空庭空港裏までこいや。 あんたのような不良娘には、そこで動物愛護の精神と、世間の常識
ってもんを叩き込んでやるで!!」
ミュー「ほぅ……上等じゃねぇか。いいだろう。お前らこそ、尻尾巻いて逃げるような真似するんじゃねえぞ。じゃあな」
SE:ガチャン(受話器を叩きつける音)
ジークウルネ「な、何て事してくれたんですか、ミューさん…… 」
ジークウルネが真っ青な顔をして、あたしに問いかけてきた。
ミュー「何て事って……、動物愛護団体の連中が喧嘩売ってきたから、それを高値で買い取ってやったまでの事だが」
ジークウルネ「でも、動物愛護団体との喧嘩なんて……どうみても体面が良くないですよ」
ミュー「ウルネ、さっきの電話の相手はタタラベギルドから潰すように指定された『アクロ大陸西部動物愛護戦線』の連中だった。
しかもあいつら、バウの基本的な生態すら知らなかったというオマケつきだ。
奴らが本当に動物愛護団体なのか、それすら疑わしくなってきたな」
ジークウルネ「でも、だからってまだ悪い人たちと決まった訳じゃ……」
ミュー「ウルネ、これからちょっと軍艦島まで行って、連中に『ヤキ』を入れてくる。 すまないが、留守を頼んだ。
山吹中佐、いくぞ」
山吹中佐「ああ、わかったで」
ジークウルネ「あ、ミューさん……」
ジークウルネがなおも止めようとするが、それを無視してあたしは山吹中佐を伴い、アクロポリスへと降りていった。
そして、街をでて街道を西……軍艦島方面へとかけて行った。
同日17:00 軍艦島 飛空庭空港・倉庫裏
赤服「うちが『アクロ大陸西部動物愛護戦線』、略して『愛護戦線』二代目総長の『おぐら』や」
軍艦島の所定の場所に行ってみると、いかにも「戦隊物」といったカラーリングの奴らが待ち受けていた。
口調からして、この目の前の『おぐら』なる人物がさっきの電話の相手らしい。
赤服「早速やが、うちらはあんたを糾弾するで! あのかわいらしいバウを機関車タイニーで轢きまくるとは……言語道断や!!
少しはバウ達の気持ちも考えてみぃ! このカスが!!」
ミュー「……言いたい事はそれだけか? ああ?二代目総長さんよ」
『二代目総長』が何をほざこうが、ここに至った以上、あたしのすべき事は唯一つである。
黄服「貴様! 虐待者の分際で総長に向かって何て口を!!」
黒服「このアマ! 俺達と喧嘩しようというのか!!」
ミュー「元より、そのつもりでここまで来たんだがな」
赤服「みんな、口上はここまでや! 変身するで!!」
他4人「オウ!!」
ミュー「変身……」
とその時、『愛護戦線』の奴らの体が光だし、次の瞬間には……
SE:デン
茶色い毛並みの熊四匹に、赤い熊1匹へと、彼らは姿を変えていた。
山吹中佐「こ、こいつらはワーベアー……。 人間と熊の姿を併せ持つ、半人半獣の者や……
奴らの戦闘力は半端やないで…… ミューはん、ここは一旦引いて、フロース艦長たちと合流……」
ミュー「連中が素直に逃がしてくれる訳はないだろ、山吹中佐。
それに……熱血硬派に『逃げる』なんて選択肢はないんだよ」
そして、喧嘩は始まった……
まずは4匹の茶色クマから襲い掛かってきた……
が、連中の動きは正直雑もいい所だった。
ミュー「なめんなよっ!!」
クマA「どひゃー! がくっ★」
クマB「おかーちゃーん!!」
必殺の『ブロウ』で、次々とクマどもはマット……もとより、軍艦島の大地に沈んだ。
クマD「今日はこのくらいにしといたるわ……」
最後のクマを倒して辺りを見回すと……リーダー格の赤クマがいなくなっていた。
山吹中佐「あ、ミューはん、あそこや!!」
赤クマは舎弟達が次々をやられたのを見て、ビビって逃げていた。
ミュー「さ、残ったのはお前だけだ、赤クマ。ここで詫びを入れるんなら見逃してやってもいいが、歯向かおうっていうんならお前も叩きのめすぞ」
赤クマ「誰が貴様のような虐待者なんぞに頭を下げるかい!! 『愛護戦線』二代目総長の実力、とくと見せてやるで!!」
ミュー「そうこなくっちゃな……」
赤クマ「義無き鈍器なんぞに、うちは負けへんで!!ラッシュ!!」
ミュー「ぐっ……さっきの奴らよりは出来るな……」
赤クマの動きは部下のクマどもより数段良かった。
もっとも、勝てない相手という訳でもなかった。
無かったがあまり長い事付き合っていると、武器や買ったばかりの特攻服の耐久度が削れる危険性がある。
少し勿体無い気もするが、あたしはとっておきの必殺技で速攻でケリを付ける事にした(下図参照)。
(注:このゲームにこのようなスキルはありません)
ミュー「こいつでもくらいなっ!!」
赤クマ「ぐはっ!!!」
そして、赤クマは鈍い音とともに遥か彼方まで吹き飛ばされた。
そして、数刻後には……
世界一周して戻ってきた。
流石の赤クマもこれには耐えられる筈もなく、遭えなくKO。
赤クマ「たった一人の虐待者なんぞに……」
それだけ言い残すと、赤クマは静かに眼を閉じた。
ミュー「ふぅ……終わったか……」
SE:パチパチパチ……
ふと、あたしの後ろから拍手が聞こえてきた。
フロースヒルデ「流石ね、ミュー」
ミュー「ああ、フロースか……どうしてここへ?」
拍手の主は、うちの艦の艦長で、ジークウルネの姉でもあるフロースヒルデ。
だが、彼女は今、アイアンサウス周辺でで転職までの追い込みをやっているはずだ。
おまけに、いつも一緒にいるはずの元帥が今日はいない。
フロースヒルデ「ジークからミューが動物愛護団体の事務所に殴り込みをかけたと聞いて、サウスからすっ飛んで来たのよ」
ミュー「事務所に殴りこみとはちと違うが……心配かけてすまんな、フロース」
フロースヒルデ「別にいいわよ。 ところでミュー、貴女が潰した『アクロ大陸西部動物愛護戦線』の件なんだけど……」
ミュー「だけど、どうした?」
フロースヒルデ「菫少将の報告では、彼らは動物愛護団体を名乗る偽者らしいのよ」
ミュー「……それはあたしもうすうす感じていた。なにせ連中は動物愛護団体のくせに、バウの基本的な生態も知らないくらいだったからな」
フロースヒルデ「なるほど……。
彼らは『動物愛護団体』を名乗ってギルド元宮やアクロ混成騎士団に、『動物虐待』と名打って抗議電話や抗議文を大量に送り、
その機能を麻痺させる事を主目的にしていたみたいなの」
ミュー「なるほど、『愛護戦線』は『動物愛護団体』を名乗る反体制組織だったってわけか……
だが、ギルドや騎士団に大量クレームを送った所で、完全にその動きを封じられる訳は無いだろう。 連中、一体何を考えているのか……」
フロースヒルデ「ただ単に思慮が足りなかっただけなのか、それとも何か別の目的があるのか……
詳しい事は、今後の調査を待たないといけないわね」
フロースヒルデ「……ところでミュー、話は変るけど……」
ミュー「? どうした、フロース」
フロースヒルデ「元帥閣下からのお達しで、今後、人前でバウ轢きころしをしないようにとの事よ。
そりゃ、襲ってきたバウが悪いというのは分かっているし、機関車タイニーを育てるには必要不可欠な行為(※)だというのは分かっているけど……
あんまり体面が悪い事してると、あとで抗議電話がかかってきて、応対するジークがかわいそうだからね」
(※)機関車タイニーはペットの仲間なので、何かのモンスターを轢かないといつまでも育ちません
ミュー「わかった。機関車タイニーでの轢き行為は、今後目立たない所でやる事にするよ」
フロースヒルデ「分かればよし。 さて、そろそろ艦に戻りましょ。 ミューに精錬してもらいたい『金属の混じった石』も、結構溜まってきたし……」
ミュー「そうか……わかった」
フロースに催促され、あたしは「フレイヤ」へ続くロープを上っていった。
こうして、ニセ動物愛護団体に関する騒動は終結した。
だが、『フレイヤ』に来た抗議の中には、本物の動物愛護団体からの抗議もあるようなので、当面機関車でのバウ轢きは手控える
事にする(人前では)。
何故ならもう、無用なトラブルに巻き込まれるのはゴメンだからである。
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