戦闘庭「フレイヤ」
ミュー「お勤めご苦労さん。 首尾はどうだった?」
ジークウルネ「ええ。ミューさんから言われた事は、一通りこなしましたよ」
ミュー「そうか…… で、例のバッグは、ちゃんと社長室の中であけてくれたか?」
ジークウルネ「はい。 で、ミューさん。 あのホコリだらけのカバン、一体何だったんですか?」
ミュー「ああ、それなんだが…… 実は、さっきウルネに渡したカバンの中には、極限まで小型化した盗聴器が入っていた。
カバン開けた時にホコリみたいなのが舞ったと思うが…… じつはアレ、信じられんかもしれないが、あたしが作った盗聴器なんだ」
ジークウルネ「ええっ!?本当に?」
ミュー「ああ、本当さ。 ああ見えても、自律飛行能力を持ち、誤って体内に入っても安全な素材で作ってもある。
流石のあたしも、あの極小盗聴器『R-TYPE』を作るのは酷く難儀したよ」
ジークウルネ「……」
改めて、ミューさんの機械作成能力の高さには驚かされます。
実のところ、ミューさんの機械組み立ての腕は、既に並のマシンナリー以上の物を持っています。
持っているのですが、エミル族の法律『マシンナリー法』では、マシンナリーの『機械組み立て』のスキルを持っていない者や、
ジャンク屋の営業許可を持っている人以外は機械組み立てを行ってはいけない事になっています。
現在はタタラベのミューさんが機械組み立てを行うことは本当なら法律違反なのですが、南軍に協力しているという名目で、
騎士団からは大目に見てもらっているそうです。
但し、自分で作った機械を私達身内以外に配ったりするのはNGだそうで、今、ミューさんは必死になってマシンナリーの資格を
取ろうとしています。
ミュー「ウルネ、話は変るが写真集の新作は入っていたか?」
唐突に、ミューさんが話題を切り替えた。
ジークウルネ「ええ。いくつか入ってました。 帰り際に社長から写真集のカタログもらってきましたから、ご覧になって下さい」
ミュー「ああ」
私は、ミューさんに写真集のカタログを渡した。
ミュー「ふむ……今被害に遭ってるのは『我がECO突き進む日記だ』、『Quartetto!』、『ECO家の一族』に加えて『GRECO』か……
しかも、上級アサシンであるグレさんまで盗撮の被害に遭っているのか……こいつはいよいよ、尋常じゃなくなってきたぞ。
……む。待てよ。先の4サイト所属のキャラで、このカタログに乗ってない奴の共通点は……」
ミューさんはカタログに目を通すと、しきりに何かをブツブツ呟いていた。
ミュー「……ウルネ」
ジークウルネ「? どうかしましたか?ミューさん」
ミュー「今、盗撮の被害に遭っている4サイトの所属キャラのうち、まだこのカタログに乗ってない奴がいるだろう。
ペットやそのサイトの管理人の持ちキャラで無い人物は除いて、だ」
ジークウルネ「カタログに乗ってない人…… ああ、『我がECO突き進む日記だ』の主人公、シャイナさんと『GRECO』さん所の庭番さん……
それに『ECO家の一族』の母者さんがまだ被害には遭っていませんね。
でも、それがどうかしたんですか?」
ミュー「彼女らの共通点は一つ……。彼女達を盗撮なんぞしたら、ただでは済まないという点だ。
シャイナさんは口より先に剣が飛んでくるタイプの人だし、庭番さんに至っては自分のギルドのマスターを平気で射殺するような人と聞く。
母者さんだけは人を殺めたという記録は残されていないが、本気で怒らせると阿鼻叫喚の地獄絵図が展開するのは容易に想像が付く。
……要するに、その手のカウンターパンチの怖い相手は、始めからリストから除外したんだな。 ったく、姑息な連中だぜ」
ミューさんはケッ、と毒づいた。
ジークウルネ「あ、でも……『一族』のル・ティシェ様やイズベルガさんも、盗撮したらただでは済まないという点では一致していると思いますが」
ミュー「確かに、彼女達のカウンターパンチも無視出来ないものがある……それなのに、何故、母者さんだけが盗撮の被害から免れたのか……
不可解といえば不可解だな」
ジークウルネ「ええ…… 所でミューさん。話の流れを切って申し訳ありませんが……」
ミュー「? どうした、ウルネ」
ジークウルネ「何故グレさんやル・ティシェ様といった一流のアサシンとあろう者が、盗撮犯何かに遅れをとったのでしょう?」
この盗撮事件において一番疑問に思っていた事を、私はミューさんにぶつけた。
彼らは元々暗殺のスペシャリストである。その暗殺のプロが盗撮犯風情に遅れをとっていては、仕事は勤まらない。
しかし、現実に彼らは盗撮された。
しかも、駆け出しのアサシンならともかく、アサシンとして一級の腕前を持つグレさんとル・ティシェ様が、である。
ミュー「……それについてだが、一つだけ思い当たる事がある。 その前に……お前にこれを返しておこう」
と、言うなり、ミューさんは私に『ル・ティシェの写真集』を返してくれた。
ミュー「昨日この写真集を解析した結果……ある事がわかった」
ジークウルネ「ある事?」
ミュー「ああ。 屋内とダンジョンで撮影した写真は……普通の光学レンズで撮影されたものじゃない」
ジークウルネ「普通のレンズで撮影された物でなければ、どんなレンズで撮影された物なのですか?」
ミュー「解析の結果……専門用語で『可視透過X線』……通称『盗撮X線』を使ったレンズで撮影された物である事がわかった」
ジークウルネ「盗撮X線!? それは一体……」
ミュー「簡単にいえば『壁の向こうの被写体を撮影できる』代物だ。これを使えば、壁越しに着替えシーンを盗撮する事も容易に出来る。
こいつは盗撮された本人は元より、周りの人間にもそうそう怪しまれずに撮影できるのがメリットだ。
何せ、傍目には壁を撮影しているようにしか見えないからな。
その上、この『盗撮X線』は出来て間もない最新技術だ。 だから、現段階ではあたしのような機械に詳しい人間以外には、まずこの技術の
存在自体、知っている奴はいないだろう」
ジークウルネ「この世界では、そんな技術まで確立していたんですね…… これで、あの方が遅れを取った理由がわかりました」
未知の技術で壁越しに盗撮されたら、流石のル・ティシェ様でもひとたまりも無い事は私でも分ります。
そして何より、こんな技術が世間に広まりでもしたら、私達女の子は安心してお風呂に入ったり、着替えしたりする事が出来なくなります……
ジークウルネ「この盗撮X線に対して、対抗策って無いんですか?」
ミュー「ああ、ある。 このX線を遮断する特殊なフィルムを張れば、フィルムから先の光景は撮影出来ない。
この艦の建造時にそのフィルムは居住区画・艦橋ともに張っておいたから、この艦内にいる限りは、アレを使って盗撮される心配は無い」
ジークウルネ「ほっ……良かった。 でも、そんな技術、一体どこで作られたんでしょうか?」
ミュー「『盗撮X線』の技術は元々騎士団のスパイ部隊用に開発された物だった。 民間のハレンチ野朗どもに渡って、盗撮被害が
増えるのを防止するため、民間へのこの技術の公表・譲渡は禁止されているはず……。
……となると、今回の盗撮事件…… 騎士団関係者か、この技術の開発に携わったマシンナリーのいずれかが、犯人という事になるな」
ジークウルネ「成る程…… これで、犯人像が絞れて来ましたね」
ミュー「あとは……そうだな、社長室に仕掛けた盗聴器が、どういう情報を拾って来るかだ。
ウルネ、唐突だがこれからあたしと藍副長、山吹中佐とお前の4人で、交代で盗聴器の番をしよう。
24時間体制で、あの社長の動向を監視するんだ」
ジークウルネ「24時間体制で盗聴器の番……でも、私は徹夜作業はお医者さんから禁止されているのですが……」
ミュー「徹夜番ならあたしがやっておくよ。 じゃあ、勝手に決めてしまうが、ウルネ→藍副長→あたし→山吹中佐の順番でやろう
それぞれの勤務時間は……そうだな、この時間割でいいだろうか?」
と、いうなり、ミューさんは各自の担当時間を書いたメモ用紙を渡してくれました。
ジークウルネ「そうですね……私はこれで依存はありません」
ミュー「そうか…… じゃあ、あたしは他の二人(二匹)に了解を取ったら、夜に備えて寝るとするよ。
何か分かったら、内線で連絡してくれ」
ジークウルネ「あ、はい。分かりました」
地下の居住区に向かうミューさんを見送ると、私は盗聴器の番につきました。
その夜……
ジークウルネ「うう……眠いけど、もうすぐ交代時間…… ル・ティシェ様の無念を晴らすためにも……がんばんなきゃ……」
時刻は夜の9:30。10:00になったら藍副長が交代に来てくれます。
??「眠いのなら、早く寝たほうがいいわ、ジーク」
唐突に、私は声をかけられた。
フロースヒルデ「ただいま、ジーク」
元帥「ただいま〜」
ジークウルネ「あ、姉さんに元帥…… こんな時間まで一体どこに……?」
フロースヒルデ「何って、ファーイーストシティよ。 カカシ狩りまくって、頑丈な布売りまくって資金稼ぎしようと思ったのだけど……」
ジークウルネ「だけど、どうしたんです?」
元帥「ファーイーストの方で辻斬りが出たんで、現地の軍の捜査にフロースちゃんも狩り出されていたんだ。
東軍と南軍は比較的仲が良いから、時々今回のように東方面の事件に、フロースちゃんのような南軍所属者が借り出される事があるんだよ」
ジークウルネ「なるほど……」
フロースヒルデ「ああ、カカシ狩りたかったのに…… 辻斬りのばか……」
ヨヨヨ……と姉さんは泣き出した。
ジークウルネ「……」
元帥「所でウルネちゃんは何やってたの? さっきっからずっとレシーバーに耳を傾けていたみたいだったけど……」
ジークウルネ「あ、姉さん。実は……」
私は、姉さんと元帥に、今日の潜入調査で得た事と、ついでに相手は盗撮X線なる新技術を使い、盗撮を行っている事を報告した。
フロースヒルデ「なるほどね……『盗撮X線』を投入するなんて、手が込んでるわね……」
ジークウルネ「ええ、姉さん……」
フロースヒルデ「でも、いくら盗撮犯が許せないからといってあまり無理しちゃだめよ、ジーク。
貴女の体が弱い事くらいは、自分でも……」
盗聴器からの声「ふふふ……万事、予定通りですわね」
突如、盗聴器から声がした。 声の主は女性……恐らくは大タタラ場の受付嬢だろう。
ジークウルネ「あ、姉さん……すみませんが、下に行ってミューさん起こしてもらえませんか?
大タタラ場の社長室に仕掛けた盗聴器に……反応が出たんです」
フロースヒルデ「了解」
俄かに、艦内は緊張につつまれた。
同日同時刻・大タタラ場
受付嬢「ふふふ……万事予定通りですわね、社長」
社長「ああ、そうだな」
ラモン作業員「しかし、これで「GRECO」の写真集も揃いましたか…… 個人的には、『我がECO』のシャイナちゃんと、
『GRECO』の庭番ちゃんが好みだったんだけどなぁ……」
受付嬢「その要望はお客様からも聞かれますが…… その橋は渡るにはあまりに危険すぎます。 ね、社長」
社長「ああ。命あっての物だねだからな」
イボ作業員「しかし社長、危険な橋と呼ぶには、『一族』のル・ティシェさんとイズベルガさんも同類かと思います。
なのに何故、彼女らの写真を『連中』に盗撮させたのですか?」
受付嬢「イボさんの懸念はもっともですが…… それに対する対策は立ててあります。 社長、ご説明を」
社長「うむ…… 『一族』は他のサイトとは違い、『母者』なる人物を頂点にしたピラミッド型の階級社会である事は、知っているかな?」
イボ作業員「は、はい。そのくらいは…… でも、それが何か?」
社長「要するに、『一族』の絶対者をこちら側に引き込んでしまえば、一族の構成員たるル・ティシェもイズベルガも、泣き寝入りせざるを得なくなる」
ラモン作業員「絶対者の引き込み? 一体どうやって……」
社長「何、簡単な事だ」
社長「……金を使って買収すればいい」
作業員約二名「……」
受付嬢「いくら母者殿といえど、20M程渡せば落ちると思います。 20M程度、わが社にとってははした金に過ぎませんからね。
ふふふ……」
戦闘庭「フレイヤ」 艦橋
一同「……」
ミュー「……おいおい、豪胆にも程があるぞ、あの馬鹿社長。 よりによってあの一族のボスである母者さんを買収だぁ?」
長い沈黙の後、ミューさんが青ざめた表情で口を開きました。
ミューさんの気持ちは、私にもよくわかります。
『ECO家の一族』の長である母者さんは確かに怖い人でありますが、人間性という面では非常に優秀な人で、不正を許さない人であると聞きます。
その母者さんが賄賂を受け取るという無粋な真似をするとは、どうひいき目に見ても思えません。
恐らく、母者さんを盗撮対象から外したのは、母者さんのご機嫌取りの一環だと思いますが……
そんな小細工、まず通用しないでしょう。
元帥「まあ、これで大タタラ場の人たちの命運は決まったね。 もう彼らが成敗されるのも、時間の問題だよ。
あの社長さんが母者さんに賄賂を送った時が、大タタラ場壊滅の時。
みんな、精錬したい物があったら、大至急やったほうがいいよ」
一方、元帥は相変わらずのほほんとした表情で感想を述べた。
藍副長「しかし、先ほどの大タタラ場の者達の会話の中に『連中』という単語が出てきました。
恐らく、彼らと手を組んで暗躍している一派がいるのでしょう」
ミュー「そうだな……」
フロースヒルデ「まあ、彼らの会議が終わるまでは盗聴を続けましょう。 得られる手掛かりは、この際根こそぎもらっておきましょう」
姉さんの指示で、皆はまた、盗聴器と繋がっているイヤホンに耳を当てた。
再び 大タタラ場
受付嬢「それで社長…… 次のターゲットはどこにしましょう」
社長「そうだな…… 標的は色々とあるが……
今度は新興勢力辺りを狙って見るか」
ラモン作業員「新興勢力……といいますと?」
社長「まずは斬・撃・乱・舞! ミナファ参上あたりを狙ってみよう」
受付嬢「社長、他に狙う所は……」
社長「戦闘庭『フレイヤ』だ」
ラモン作業員「げ…… 民間の庭ならともかく、戦闘庭を連中に狙わせるんですか?
たしかにあそこの女の子達は一名を除いてかわいいけど、それはいくらなんでも無茶というものが……」
社長「何、案ずるな。 『連中』にはステルス装備の施された盗撮用飛行型エレキテル「F-117」が配備されている。
高性能レーダーが装備されている『一族』の庭も、あれと望遠レンズ型の『盗撮X線レンズ』を使い、発見されずに盗撮に成功したそうだ。
ゆえに、『連中』には戦闘庭とて、敵ではあるまい。 ふふふ……」
再び戦闘庭「フレイヤ」 艦橋
一同「……」
ミュー「飛んで火に入る夏の虫……とはまさにこの事だな、フロース、ウルネ」
ミューさん、先ほどの作業員さんの失言『あそこの女の子達は一名を除いてかわいい』に対し、かなりご立腹の様子です。
フロースヒルデ「そうね…… 手間が省けたといえば省けたわね。 まさか、次の盗撮対象に私達を狙ってくるなんて」
ジークウルネ「でも、『ステルス』って、確かレーダーに映らないように機体に施す細工、みたいな物ですよね。
ミューさん、それについての対策は立ててあるんですか?」
ミュー「ああ。立ててある。 ウルネ、お前の端末に『レーダー逆探知システム(通称逆探)・究極タイガー』ってプログラムが入っているだろ?
それを開いてくれ」
ジークウルネ「あ、はい」
ミューさんに言われるまま、私は端末の所定のプログラムを起動した。
ジークウルネ「開きましたけど…… これが何か?
見た目は通常のレーダーのプログラムと変りありませんが」
ミュー「そいつは、簡単に言えば、『相手のレーダー波を補足する』装置だ。 相手の発するレーダー波を補足すると、
レーダーの発信源の位置をディスプレイに表示する仕組みになっている」
ジークウルネ「ふむ……」
ミュー「ステルスというのは、こっちが発するレーダー波を吸収して、レーダーに映りにくくする技術だ。
だから、相手さんが発するレーダー波を押さえてしまえば、ステルス機の位置を割り出す事はそんなに難しい事じゃない」
ジークウルネ「なるほど……」
ミュー「そのプログラムの使い方は通常のレーダーのプログラムと一緒だから、同じ要領で扱えばいい」
ジークウルネ「あ、はい。分かりました」
フロースヒルデ「ミュー、私からも一ついいかしら?」
ミュー「何だ?フロース」
フロースヒルデ「『盗撮X線』の事なのだけど……それについての対策は立ててあるの?
ジークの報告と社長の話では、盗撮犯は『盗撮X線』を使って犯行を繰り返しているとの事だけど……」
ミュー「ああ。艦橋・居住区画には盗撮X線を防止するフィルムを張ってあるし…… このX線を検知するセンサーも外に取り付けておいた。
このセンサーが反応すれば、撮影した相手が盗撮の『実行犯』という事になる」
元帥「さすがミューちゃん。手回しがいいね」
ミュー「まあ、あたしはメカニックとしてやれるだけの事をやったまでさ。 後は敵が来るのを待つだけか……
ここから先は、フロースと元帥の領分だな」
フロースヒルデ「そうね…… でも、ここ(アクロポリス上空)でドンパチやると無用な被害が出るから、他の庭や人がいない所まで移動しましょう。
あと、注意すべき点は……」
元帥「ミナファさん達の所にも、『盗撮犯に狙われてる』って事を伝えてあげようよ」
フロースヒルデ「そうね…… 伝えられるだけ、伝えておきましょう。 ジーク、早速ミナファさん宅に連絡を……」
ミュー「いや、あそこへの連絡はあたしがやるよ。 あそこのフィアノって子とは、前々から色々と情報交換してるからな」
フィアノさんというのは、ミナファさんのサイト所属のタタラベさん。
ミューさんと同じく、『タタラベなのに並のマシンナリー以上の機械技術を持つ人』です。
それゆえ、ミューさんとフィアノちゃんは、同志という事で前々から情報交換をしているようです。
フロースヒルデ「わかったわ。じゃあミュー、お願いね」
ミュー「了解。じゃあ早速……」
ミューさんは、自分の机の上にあった電話を取った。
ミュー「あ、もしもし。戦闘庭『フレイヤ』ですが、フィアノさんは……なんだ、お前いたのか。
長話は傍受される危険性があるから、要件だけ話すが…… お前ら、『盗撮X線』装備の盗撮犯に狙われている……
……わかった。 お前なら心配はいらないだろうが……くれぐれも、無茶だけはするなよ。 じゃあな」
ミューさんはそっと、受話器を置いた。
ミュー「あちらさんはあちらさんで対策を立てるそうだ。 こっちの事は気にせず、犯人撃滅に力を注いでくれってさ」
フロースヒルデ「了解。 では、これより本艦はアクロポリスを離れ、ウテナ河口より洋上に出ます。
地上の冒険者、ならびに他の庭に被害を及ぼさないように、洋上で敵を撃滅します。
ジーク、レーダー、ならびに逆探から目を離さないようにね」
ジークウルネ「了解です」
そして次の瞬間、フレイヤはアクロポリスを全速で離脱し、ウテナ河口方面へと向かいました。
ウテナ河口 南方沖
ジークウルネ「姉さん、洋上に出ました。 敵の姿は、まだ・・・・・・」
ジークウルネ「……逆探に反応!! 移動速度からみて、この飛行物体は明らかに飛空庭ではありまあせん。
後方より本艦に高速接近中!! まもなく、対空砲の射程圏内に入ります」
フロースヒルデ「まだ対空砲は撃たないように。 彼らが盗撮X線を使用するか否か、確認しま……」
SE:ピィィィィィィーーーーーー(盗撮X線感知センサー 反応音)
ミュー「盗撮X線の使用が確認された。どうする?フロース?」
フロースヒルデ「無駄とは思うけど、停止命令を発しましょう。ジークウルネ」
ジークウルネ「はい。 停船せよ!しからば発砲す!!」
私は、後方の不審な飛行物体に対し、停船命令を発した。 だが、相手は相変わらず接近してくる。
ジークウルネ「敵は停船命令を無視、なお接近してきます」
フロースヒルデ「……南軍長官から『停船命令を無視したら撃墜していい』といわれている以上、もう遠慮はいらないわ。
敵は一機だけ残してあとはみんな落としましょう」
ジークウルネ「一機だけ残すんですか? 姉さん、その心は?」
フロースヒルデ「後で逃げる敵の後を追いかけて、敵の本拠地を割り出すためよ」
ジークウルネ「ああ、なるほど……」
フロースヒルデ「では……対空、かかりなさい!!」
SE:ビィィィィィーーーーー!!(対空パルスレーザー 発射音)
この艦に積まれている対空用ガトリング砲は、ミューさんによって改造が施され、パルスレーザー砲(連続発射可能なレーザー砲)
に改造されています。
射程は通常の機銃の4倍はある上、威力の方もそれなりにあり、近接用対庭兵器としても使用可能な一品です。
まだ機銃の射程外だろうと油断していた敵は、次々とこのパルスレーザーの餌食になっていきました。
やがて、敵機の数が2〜3機になった所で、ようやく敵は撤退していきました。
ジークウルネ「敵、全速力で遁走していきます。 この艦の速度では、彼らを追撃するのは不可能です」
ミュー「いや、そうでもない……」
ミュー「この庭載機『飛翔鮫』なら、やつらを尾行する事は可能だ。 な、フロース」
ミューさんはそういうと、コンソールを操作して、何やら『ビボット』のような物を出してきた。
フロースヒルデ「ローザさんからもらった光の塔の発掘品が、こんな形で役に立つとはね……
飛翔鮫君、早速だけどさっきの敵機の尾行をお願いするわね」
飛翔鮫「イエッサー」
無機質な合成音で返事をすると、『飛翔鮫』は夜の空へと飛んで行きました。
フロースヒルデ「ジーク、この辺りに味方の戦闘庭はいないかしら?」
ジークウルネ「少々お待ち下さい……」
私はコンソールを操作し、付近の味方庭の有無を確認した。
ジークウルネ「姉さん、正規軍の戦闘庭が3隻ほど、このあたりを哨戒中との事です」
フロースヒルデ「味方庭に連絡。 我、『有名ブロガー連続盗撮事件』の実行犯を補足。 追跡に協力されたし、と」
ジークウルネ「わかりました、姉さん」
フロースヒルデ「なお『飛翔鮫』の追跡データも、味方庭にも配付しておきなさい、ジーク」
ジークウルネ「了解です。姉さん」
数十分後……
ジークウルネ「姉さん、味方庭より連絡。 『我、実行犯の本拠地である空母を発見、これを撃沈す』……との事です」
フロースヒルデ「そう…… 出来れば私達の手でドドメをさしたかったけど……」
ミュー「まあ、いいじゃないか。 結果として盗撮などという凶悪犯罪を犯したゲスどもは、海の藻屑と消えたんだから」
ジークウルネ「……」
ミュー「? どうしたウルネ。 お前さんも憧れの人の仇、自分の手で討ちたかったのか?」
ジークウルネ「本心を言えばそうです。 でも、結果として天罰を受けたのでしたら、それでいいです。
それにしても、盗撮の実行犯達って、一体何者だったのでしょうか?」
フロースヒルデ「さあ、それは今は何とも言えないわね。 まあ、それについては今後の捜査で明らかになるでしょう。
さ、それはそうとそろそろ帰りましょう、みんな。 盗撮の実行犯が壊滅した以上、もうここに長居は無用だからね」
姉さんの一言で、私達の艦は進路をアクロポリスへ向け、帰投しました。
数日後 戦闘庭『フレイヤ』 甲板
あれから数日後……
有名ブロガーさんの盗撮写真集を販売していた大タタラ場の人たちは、騎士団に逮捕されました。
逮捕されたのですが、彼らはいわゆる『子供は見てはいけない写真集』の類は一切販売していなかったらしく、
したがって、わいせつ罪は適用されずに無断撮影の罪だけ適用される事となり、罰金刑のみで釈放という処分となりました。
無論その処分に納得しない人も多く、その世論を反映してか、事件発覚後の大タタラ場の売り上げは激減したそうです。
もっとも、撃沈した実行犯の空母からは、『盗撮X線』の機材と、いわゆる『お宝写真』という物が大量に見つかったそうです。
実行犯の正体は現段階ではまだ調査中との事ですが、実行犯の中に『盗撮X線』の開発関係者がいた、という所までは判明しています。
……そして、今回の一件で確実に動くとされた『一族』の人たちは、とうとう最後まで行動を起こしませんでした。
今回、自分達が盗撮の対象になっている事に気が付いていないのか(報道機関には、具体的にどのブログが被害にあったのかは
公表されていません)、知っててスルーを決め込んでのか、はたまた、母者さんが本当に賄賂を受け取って一族の人たちに『動くな』
と圧力をかけているのか…… それは、部外者である私(ジークウルネ)には分かりません。
話は変りますが、病弱だった私も、ついにL35(職業服が着れるLv)になりました。
ゴミスキルだったマジックグローブ(Job50で憶えられるウイザード最終奥義)が、新技術の開発により
強化されたため、ソーサラーへの転職はまだまだ先になりそうです。
それにしても、ここ最近のアクロニア大陸は平和すぎるほど平和です。
なぜなら……
(記事の見出しの訳:ペーパーボーイ(新聞配達員の少年) くびになる)
こんな記事が、新聞の一面トップを飾ってしまうようになってしまったからです。
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