日記第八回(後編)
戦闘庭『フレイヤ』 艦橋
ミュー「みんな集まったようだな……。 じゃあそろそろ、あたしの詳しい素性、話すとしようか」
全員集まったのを確認したミューは、落ち着いた様子で言った。
リタ「話す前に一ついいかしら?」
リタさんがミューに問いかけた。
リタ「部外者の私も……貴女の素性の事を聞いてしまっていいのかしら?」
ミュー「ああ、構わない。 だたし、余人にはあたしの正体の事は黙ってくれないか?」
リタ「ええ……分かったわ」
ミュー「他には無いか?」
返答は無い。
ミュー「じゃあ、そろそろ話すか……」
ミュー「結論から言うと……あたしは『マーズ人』って言う、エミルそっくりの格好をした宇宙人なんだ」
フロースヒルデ「宇宙人……」
普通の人が聞いたら『何を馬鹿な』と言いたくなるような、ミューの告白であった。
しかし、ミューが普通のエミルでは無い事は、光の塔での化け物とのやりとりと、彼女自身の告白で既に判明している。
したがって、彼女の正体が『宇宙人』という可能性は、少なくとも私にとっては予想の範囲内にあった。
リタ「なるほど…… 『人間の精神を機械体に移し替える技術』なんて、聞いたこともなかったけど……
宇宙人の技術というのであれば、納得がいくわ」
ただ一人、あの場に居なかったリタさんも意外に冷静に、ミューの告白を聞いていた。
ジークウルネ「マーズ人ですか…… 一体、何の為にこの星まで来たんですか?」
茜少佐「まさかとは思うけど…… この星を侵略するために、情報収集のためのスパイとして送り込まれたとか……」
茜少佐が心も無い事を言う。
ミュー「その点は安心してくれ。 本国もこの星を侵略する意図は無い。
というより、今の宇宙社会で不用意に未開惑星侵略なんて事したら…… 他の星間国家から良くて経済制裁……悪くて袋叩きといったところだな」
フロースヒルデ「なるほどね……宇宙人には宇宙人なりに、事情があるのね」
ミュー「まあな。
それに、そもそもあたしは本国の軍に所属しているという訳じゃない。
『MPI(マーズ連邦未開惑星調査委員会)』っていう政府組織の調査員として、この星に派遣されてきた身だ」
フロースヒルデ「未開惑星調査委員会って事は…… ミューの本当の目的は、この惑星の調査?」
ミュー「ああ、その通りだ。 あたしは技師だから……主にこの惑星の地質調査や大気成分の調査何かが、本来の仕事だ。
しかし、今MPIも人手不足でね…… その星の社会情勢や文化調査といった畑違いの仕事もやらなきゃいけないから、大変だよ」
フロースヒルデ「ミュー……」
改めて、ミューのバイタリティーには驚かされる。
フレイヤの機関長としての仕事、マシンナリーの資格を取るための修行(大半はシナモン虐待)に加えて、さらに
本業である調査員の仕事もこなしていたとは……
並の体力で、勤まることでは無い。
ジークウルネ「でも、あまり無理はよくありませんよ、ミューさん。 そんなに仕事を掛け持ちしたら、いくら丈夫なミューさんだって、倒れてしまいます」
ジークウルネが立ち上がって、ミューに言った。
ジークウルネ「機械系の事は無理かもしれませんが…… 私達にも出来そうなお仕事があれば、いくらでもお手伝いします」
フロースヒルデ「……ジークの言う通りよ、ミュー。 事が公になった以上、もう一人で何でも背負い込む事は、艦長として許可しません」
ミュー「……すまん。 今度ばかりは、お言葉に甘えさせてもらうよ
……というより、断ったらまたウルネのエナジーショックが飛んできそうで怖い」
ジークウルネ「もう、ミューさんったら…… よっぽどの事が無い限り、あんな事はもうしませんよ」
ジークウルネがクスクスと笑いながら言った。
フロースヒルデ「ミュー、もう一つ質問があるんだけど」
ミュー「? 何だ?」
フロースヒルデ「貴女、たまに『国許の用事がある』とか何とか言って私の元から消えた事があったけど……
あれは一体何だったの?」
ミュー「あれは実は、本国への定時連絡の為に、ちょっと人里離れた所まで行っていたんだ。
それと、補給物資を受け取りにもな」
フロースヒルデ「……まったく水臭いわね、ミュー。 定時連絡なんか前もって言ってくれれば、フレイヤの通信機を使わせてあげたのに……
仮に傍受されても騎士団や民間庭には『極秘の通信実験』とでも言っておけば、何とか誤魔化せるでしょ?」
ミュー「まあ、そうだな…… それに、フレイヤに積まれている通信機には特殊な細工をしてあるから……
余ほどの事が無い限り、まず傍受されないだろう。
ただ、補給物資の受け取りだけはあたしが直接いかないといけないから、こればっかりはしょうがないな」
フロースヒルデ「そう…… でも、言ってくれれば『フレイヤ』で送ってあげるわ。
仮に騎士団や他ブログの人に目を付けられても、『未開地域探査』とでも言えば、まず納得すると思うからね」
ジークウルネ「ところでミューさん、今、この『フレイヤ』は一体どこへ向かっているんですか?」
ミュー「トンカの南方はるか沖にある、この世界ではまだ未発見の孤島さ。 あたしがいつも、本国からの補給物資を受け取っている所だ。
でも今回は恒星間通信を使って、2000光年彼方の本国にいるあたしの叔父さんとそこで待ち合わせる手筈になっている。
『人命がかかっている。酒飲んでグータラしている暇があったら、手術用の機材とサイボーグのボディを持ってさっさと来な』ってな」
ジークウルネ「本国にいる叔父さんを呼んだんですか? でも、ハレルヤさんの命が長くて3日……間に合うんでしょうか?」
ミュー「大丈夫。 本国には『恒星間移動』っていう技術があるから……
一度発見した惑星であれば、どんなに離れた星でもそれこそ一瞬にして辿り付ける。」
ジークウルネ「そうですか……」
SE:ジリリリリリ……
と、ここで、航法コンピューターのベルが鳴った。
コンピューターの声「本艦はまもなく目的地に到着します。 これにて音声案内を終了します。」
ミュー「どうやら、島に着いたようだ。 道案内はあたしがしよう。
ただ数は少ないが、島には凶暴なモンスターがいる。 念のため、ウルネはフロースかあたしに憑依した方がいいな。
あと、リタさんは……」
リタ「いえ、マリオネストには色々な戦闘スキルがありますので……足手まといにはなりませんよ」
ミュー「そうか……じゃあ、そろそろ出発しよう」
ミューが先頭に立ち、私たちは未知の島へと足を踏み入れた。
未開の孤島 ジャングル
フロースヒルデ「上から見ると狭そうに見えたけど……結構広いのね、この島。
しかもイーストダンジョンみたいに、何か出そうな森ね」
『フレイヤ』を下りてから約30分余り。 私たちは鬱蒼としたジャングルを歩いていた。
ミュー「ああ。 もっとも、あそこほどモンスターの数は多くは無いが…… 全く居ないというわけじゃない。
くれぐれも油断は……」
SE:ガサッ……
フロースヒルデ「!!」
突如、草むらより音がした。
身構える私と、後ろにいるリタさん。
ミュー「いや、待て…… こいつはモンスターの気配じゃない」
ミューが戦闘態勢に入った私達を制する。
フロースヒルデ「モンスターの気配じゃないとすると、一体何?」
ミュー「どうやら……出迎えが着てくれたようだ。 安心しろ、後ろにいる奴らはあたしの協力……いや、仲間だ。
間違っても攻撃なんかしないでくれ」
ミューが草むらに向かって呼びかける。
すると、草むらがかきわけられて……
謎のロボット「こんにちわ、ミュー。 こんにちわ、皆さん」
青い色のロボットが現れ、私達に丁寧に挨拶した。
ミュー「こいつの名前はスーパー・カル。 あたしの叔父さんが作った戦闘用メカだ。
まあ、面倒なら単にカルって呼んでくれればいい」
フロースヒルデ「始めまして、カル、私はフロースヒルデ。そこのミューのお友達よ。よろしくね」
カル「こちらこそ、フロースヒルデ」
ミュー「カル、早速だがジョー叔父さんの所まで案内してくれないか?」
カル「はい。 了解しました。 ミュー、皆さん、カルについてくる」
そういうなり、カルという名のロボットはとある方向へ向けて歩き出した。
その後を、ミュー、私、リタさんの順番でついっていった。
未開の孤島 洞窟内部
リタ「長いですね……この洞窟も。 一体どれだけ歩けばいいのでしょう?」
カル「もうすぐ、着く。 あと一息」
フロースヒルデ「それにしてもこの洞窟……何だか人工的に掘った感じがするわね……」
ミュー「その通り、この洞窟は自然の洞窟じゃない。
この島の地下に宇宙船の秘密ドックを作るために、あたしらMPIの職員が掘ったものさ」
フロースヒルデ「なるほどね……」
と、話しているうちに道が行き止まりとなり、目の前に大きな扉が現れた。
ミュー「ちょっと待っていてくれ。 今、扉を開ける」
ミューが操作盤の近くにより、何やら操作を開始する。
そして次の瞬間、その扉が音を立てて開いた……
ジークウルネ「な、何ですか? この鳥のような巨大な物体は……」
扉の中から出てきた物体に、私のアクセサリに憑依しているウルネが驚きの声を上げた。
フロースヒルデ「タイタニアの世界に伝わる古文書で見たことがあるんだけど…… 『ソーラーバージ』っていう、宇宙を越える能力を持った
飛行船に似ているわね。
ミュー、これにのってこの星に来たの?」
ミュー「いや、あたしが乗っていたのはまた別の船だ。
これはあたしの叔父さん……スクラップ=ジョーが作った宇宙戦闘艦『アトライア』。またの名を『スクラップ二世号』だ。
『スクラップ二世号』の二つ名の通り、こいつは全部スクラップ(廃材)を使って出来ている」
フロースヒルデ「なるほど…… ミューの叔父さんって、凄い技術者なのね」
ミュー「ああ。 何せ、あたしの叔父さんはスクラップさえあれば、戦車や艦載用の砲等、あらゆる物を作っちまう。
鉄くずからウリエガノフ作ったり、機械の破片から飛空庭造ったりする事も、叔父さんなら軽々と出来るだろう。
こういうのも何が…… バケモンだよ、あたしの叔父さんは」
嘆息をもらしながら、ミューが叔父の自慢をした。
カル「ミュー、そろそろアトライアの中に行く。 ジョー、ブリッジで待ってる」
カルがミューに催促する。
ミュー「じゃあ、そろそろみんな行こうか」
ミューに促され、私たちは『アトライア』と呼ばれる宇宙船の中に入った。
アトライア ブリッジ
ミュー「叔父さん……ミューだ。入るよ」
中年男の声「おう、やっと来たか。待ちかねたぞい。 さ、さっさと入れ」
ミュー「久しぶりだね、ジョー叔父さん。 暫く見ないうちに、また太ったんじゃないのか?」
ジョー「人を2000光年の彼方から呼びつけておいて、随分な言い草じゃねえか、ミュー……
っと、そこにいる天使の嬢ちゃんは……」
フロースヒルデ「ジョーさん……と申しましたね。 私はフロースヒルデと申します。
ミューの……その、この星での友達です」
ジークウルネ「フロースヒルデの妹のジークウルネと申します。 ジョーさん、始めまして」
ジークも憑依を解き、ジョーさんに挨拶をした。
ジョー「なるほどな……お前さん達、ミューの現地の友達か……
わしはジョー=コンプスン。 通称『スクラップ=ジョー』だ。
わしの姪っ子が色々と世話になっているようだな。 叔父として、礼をいわせてもらうぞい」
フロースヒルデ「いえいえ……」
ミュー「フロース、ウルネ。悪いが、叔父さんとのお喋りは後にしてくれないか?」
ミューが唐突に、私達を制した。
ミュー「早速だが叔父さん。叔父さんがここへ来たって事は、さっきあたしが送ったメール、届いたと見ていいんだろうな?」
ジョー「ああ。 急に『精神転移手術』をやれって来たから、度肝を抜かれたぞい。
第一、わしは医者じゃないぞ」
ミュー「でも、今度は移植する元の奴も機械体だ。 『マリオネット』っていう、この星独特の機械生命体を救助するのが今回の仕事だ。
機械同士の移植作業なら、立派な叔父さんの専門分野だろ?」
ジョー「まあ、そりゃそうだが…… ただの機械部品の移植だったら、わざわざわしを呼ばなくても、お前の腕でどうにかなるはずだ。
そもそも『精神転移』何て大それた事をやる必要もないだろうが」
ミュー「それが……この星の『マリオネット』って奴は、通常の機械技術が通用しない部分が多すぎるんだ。
ただ記憶回路(みたいなの)を別の体に移しても、人間みたいに拒否反応を起こして死んでしまうらしい……
だよな、リタさん」
リタ「はい……。
あ、申し遅れましたが、私はマリオネット・マイスターのリタと申します、ジョー様」
ジョー「ああ、こちらこそ…」
リタ「ジョー様……単刀直入に問いますが、この子は……ハレルヤが助かる見込みはどのくらいでしょうか?」
ジョー「さあな……それは、わしにも読めん。
全てはマリオネットとかいう物の専門家である、あんたのレクチャー次第だな。
ミューの奴から聞いたと思うが…… わしは『マリオネット』なんて物の存在自体、今日始めて知った身だが……」
そこで、ジョーさんは一旦言葉を切って、二言目にはこう続けた。
ジョー「だが、こういう『未知の物へのチャレンジ』というのは、わしとしても嫌いじゃないな。
おいミュー」
ミュー「? どうした?叔父さん」
ジョー「お前のメールでは、例の手術はリタさんをアドバイザーとして、わしとお前がメインでやるとなっていたが……
この手術、わしとお前がこのリタさんの下についてやる事にするぞ。
やはりマリオネットなる代物の専門家がリーダーになった方が、わしとしてはいい気がしてならねぇ」
ミュー「……そうか。叔父さんがそう言うんなら、あたしは別に構わないよ」
リタ「でも、マリオネットの精神を機械のメモリーに移し替える部分については……」
ジョー「そういう肝心な所はわしらに任せておけ。 B1Fの実験用ラボに機材と……そいつの替えのボディを用意しておいた。
さ、ミュー。ボヤボヤしてないでさっさと始めるぞ」
ミュー「了解」
ミュー「じゃあフロース、行ってくる」
ジョー「……すまんが、天使の御嬢ちゃん達は、客室で待機していていてくれ。 場所はカルに案内させる」
フロースヒルデ「わかりました、ジョーさん。 手術の成功を、お祈りしています」
ジョー「ああ、任せておけ。 このスクラップ=ジョーの名にかけて、必ず成功させてみせる」
エレベーターに乗り込むミューやジョーさん、それにリタさんと動かないハレルヤさんを見送ると、私はカルの案内で、客間へと向かった。
アトライア艦内 客間
ジークウルネ「中々終わらないですね、手術……」
茜少佐「先ほどからまだ20分も経っていませんよ、ウルネ様。
もっともこういう場合、時間が経つのが長く感じられるのは否定しません。
ましてや、超大穴の馬券に全財産つぎ込んだような、成功率が定かでない手術の場合、なおさらです……」
いつのまにウルネに憑いていたのか、茜少佐が言う。
フロースヒルデ「でも、こればっかりは待つしかないわ。 でも、あと何時間かかるのか……見当もつかないけど……」
ミューの声「手術はもう終わったぞ、フロース、ウルネ」
フロースヒルデ「え……もう終わったの?」
ミュー「手術は無事成功だ。 もうちょっと手こずるかと思ったが、意外とすんなりといった」
ミュー本人も嬉しそうに、私達に報告した。
ジークウルネ「良かった……さすがミューさんですね」
ミュー「いや、叔父さんや……それにリタさんがいてくれたからこそ、ここまですんなり行ったんだと思う。
あたし一人だけだったら、どうなっていたかは分からない」
ジークウルネ「そうですか……」
フロースヒルデ「ただ、後で後遺症が残ったり、予期せぬ発作が起こったりする可能性は残っているのよね」
ミュー「ああ、その通りだが…… こればっかりは今後の経過を見ていかないと分からない」
茜少佐「で……ハレルヤの意識は?」
ミュー「ああ、戻っている。 今、別の部屋で安静にしているから、案内するよ」
別室
ハレルヤ「お客さん……それとみなさん、感謝の言葉も無いだよ」
茜少佐「ハレルヤ…… 良かった、意識が戻って……
リタさんもジョーさんもどうもありがとうございました」
ジョー「いや何、わしもミューも、当然の事をしたまでだ。 それよりハレルヤとかいうの、体の調子はどうだ?」
ハレルヤ「うん、すこぶる快調だよ〜」
ジョー「そうか……それはよかった」
ハレルヤ「あ、でも、右手の部分のパーツが緩い…… あ、取れた」
ハレルヤの右腕部を外すと、そこには……
ガトリング砲が仕込まれていた。 それも、かなり大口径の物だ。
これの直撃を喰らったら、人間の体などひとたまりもないだろう。
ミュー「叔父さん…… あたしがメールで送った、替えのボディの設計図には、そんなもんつけるような指示は……」
ミューもなんだか呆れ顔で、ジョーさんに突っ込んだ。
ジョー「備えあれば憂い無し、というだろ?ミュー。 何者かに襲われた時、護身用の武器があると何かと対処しやすいだろう。
他にも、肩の部分にはミサイルランチャーを仕込んであるぞ」
ミュー「……サービスといっていいのか、蛇足と言っていいのか、判断に困るな……
叔父さんも好きだね、そういう『余計な改造』」
ジョー「何言ってやがる。『改造』は技師のロマンじゃねえか、ミュー」
ミュー「へいへい」
これ以上突っ込むのは無駄と判断したのか、ミューは引き下がった。
ミュー「所で叔父さん」
ジョー「? 何だ、ミュー?」
ミュー「済まないけど、カルのメイン記憶回路をコピーさせてくれないか?」
ジョー「そのくらいなら構わんが…… 一体何に使うんだ? カルのコピーでも作るのか?」
ミュー「まあ、そんな所だ。 それと、この『アトライア』のラボをちょっと貸してくれないか?
艦載用の武装をいくつか、作っておきたいんでね」
ジョー「艦載用の武器? 一体何に使うんだ?」
ミュー「じつは、こいつ……こう見えてもフロースヒルデは武装飛行船の艦長でね。 あたしはその艦の機関長仕事してるんだ
最近、この星にも重武装の飛行船(飛空庭)が増えてね……今積んである武装だと、ちと不安になってきたからな」
ジョー「なるほどな……よし、わかった。 わしらは3日はここにいるつもりだから、好きなだけ使っていいぞ」
ミュー「済まない、恩に着る」
フロースヒルデ「ねえミュー、『フレイヤ』に積む艦載用兵器を作るのは構わないけど……
私も、作業に立ち会ってもいいかしら?」
ミュー「別に構わんが……どうしてだ?」
フロースヒルデ「艦長の立場からも、積む新武装の性能チェックをしておきたいのよ。
ミューを信用していないわけじゃないけど、『フレイヤ』は私の分身でもある。
だから、その分身に積む武装は……艦長である私自身も納得した業物を積みたいのよ」
ミュー「……わかった。 もとより、『フレイヤ』はあたしの第二の故郷でもある。
元々変な物を作るつもりも無いが…… 何か気になることがあったら遠慮なく指摘してくれ。
それとフロース……」
フロースヒルデ「? 何、ミュー」
ミュー「まだ先の話にはなると思うが…… 2足歩行ロボ、完成品を1Mで買わなくてもいいからな。
あたしも自分の分身となるロボは、あたし自身が納得した物を使いたい。
だから…… 部品だけ用意してくれれば、あとは自分で組み立てる」
フロースヒルデ「わかったわ…… ちょっと大変かもしれないけど、暇をみたら露店回ってロボの部品が無いかどうか、探してみる。
光の塔で機械系の敵を倒しまくっても、知識無しだとちっともドロップしないのよね……」
ミュー「すまんな…… さ、ここで立ち話も何だ。 そろそろ、ラボの方へいくとするか」
私はミューに促され、船底の方にあるラボへと向かった。
3日後 トンカ東方沖
私達はジョーさん達に別れを告げ、帰路についた。
そして、途中でトンカに立ち寄り、リタさん達とも別れを告げた。
ただ、茜少佐だけは元帥の説得により、この艦に乗務する事になった。
専属の航空士がいなかったフレイヤに、ようやく専属の航空士が入る事になったのは非常に大きい。
ただ、これは後で知った話だが、茜少佐はどうもギャンブラーギルドマスター相手にトランプ勝負をした際、
イカサマをした事がバレ、今ギャンブラーギルドから追われているらしい。
傭兵扱いとはいえ、いちおう軍属の『フレイヤ』にいれば、正規のギルドとして認められていないギャンブラーギルド
から追われる心配は無いと踏んだそうな。
それから話は飛ぶが、ミューはアトライアのラボで、フレイヤの為にいくつか、故郷マーズ連邦の技術を使った新兵器を作ってくれた。
その新兵器の代表的な物が、上部ガトリング砲の部分を改造して取り付けられた『中性子ビーム砲』。
これは、本来なら星間国家であるゴールデンバウム朝銀河帝国や、自由惑星同盟の宇宙戦艦に装備されているビーム砲で、
その射程距離は、通常のギガント砲の比ではない。
ただ、連射が効かない、砲の位置からして地上の敵を狙いにくい等の欠点があるが、敵戦闘庭をアウトレンジ出来るという利点は
それを補って有り余る物がある。
他にも超電磁フィールドと呼ばれる防御兵器等、色々な新兵器がフレイヤに搭載された。
最近、軍に敵対する行動を取る戦闘庭も出没しており、万が一彼らと戦闘になった時には、これらの新兵器は
多いに役立ってくれるだろう。
しかし、今のところ、中性子ビーム砲を始めとした新兵器を使う事になるほど、治安は悪化してはいない。
元帥も『後でもみ消すの面倒くさいから、用も無いのに新兵器は使わないでね』と、皆に厳命している。
まあ、何はともあれ、平和が一番である。
この気持ちは、たとえ戦闘庭乗りの私であっても、変ることは無い。
BACK