鉄火山山頂

サラマンドラ「さあさあ、賭れはれ! 丁か半か!

百賭れば、二百。 二百賭れば……」


ミュー「すみません、賭博で盛り上がっている所申し訳ないのですが……」

 鉄火山山頂についてみると、どういうわけかサラマンドラ達が賭場を開いていた。

サラマンドラ「おお、いらっしゃい。 どうだい、賭ってくかい?」

ミュー「いや、あたしはギャンブルには興味無いですね。 ブラックスミス転職の為に『炎の化身』を身に宿すよう、タタラベマスターに言われて

きたのですが」

サラマンドラ「おお、そうかい。 じゃあ、親分の所で案内いたしやす。

ついてきて下さい」

 サラマンドラの案内で、あたしは山頂の奥まった部分へと案内された。



鉄火山 山頂奥


サラマンドラの親分「良く来たな。 私はこの鉄火山界隈を縄張りにする『火蜥蜴一家(ひとかげいっか)』の親分、鉄火次郎長

(てっかのじろちょう)だ」

ミュー「S(スクラップ)・ミューです。 早速ですが、ブラックスミス転職の件で来たのですが……」

鉄火次郎長「そうかい……」

 と、ここで鉄火次郎長と名乗ったサラマンドラは一旦口ごもった。

鉄火次郎長「あのタタラベマスターから、ブラックスミス転職の時には『炎の化身』を身に宿すように言われたか?」

ミュー「ええ、言われましたが……それが何か?」

鉄火次郎長「……回りくどいのは好きじゃねぇから、単刀直入に言おう。 その『炎の化身』を身に宿すには……

お前の持っている『マリオネット・サラマンドラ』を一体生贄にする必要がある」


ミュー「ええっ!?」

 思いもよらぬ事を次郎長親分から言われ、流石の私も同様を隠せなかった。

鉄火次郎長「……まあ、その前に当の『マリオネット・サラマンドラ』から話がある。

話を聞いてやったらどうだ?」

ミュー「……わかりました」



マリオネット・サラマンドラ(画面左)「こうしてお話をするのは始めてになりやす、ミューの姉御。

あっしは昔この『火蜥蜴一家』にワラジを脱いでおりました、『鬼の石松』と申します」

ミュー「鬼の石松…… 何だか凄い名前だな」

鬼の石松「ああ、名前の『鬼』というのは、あっしの出身がこの鉄火山の北にある『鬼之寝床岩』にある所から来たのでありまして……

それ以外の意味はありませんです」

ミュー「そうか……」

鬼の石松「で、本題に入りやすが…… タタラベマスターの言った『炎の化身』を身に宿すには、あっしらサラマンドラの心臓を使う必要がありやす」

ミュー「それは……あたしに、お前か他のサラマンドラの心臓をえぐれ……といいたいのか?」

 いくらあたしでも、心の準備無しにその手のグロい事に手を染めるのは気が引ける。

 だが、鬼の石松は即座にかぶりを振った。

鬼の石松「いえ、あっしらサラマンドラには、心臓だけの姿になる秘法がありやす。 ただ、一度心臓になってしまうと、もう元の姿にはもどれやせんが……」

ミュー「……」

鬼の石松「しかし、ミューの姉御。 心臓だけになってしまってもあっしらサラマンドラは死んでしまう訳ではありやせん。

むしろ、心臓となる事により姉御と一つになる事により、永遠に近い存在になる……

あっしらサラマンドラにとっては、むしろ名誉な事なんですよ」

ミュー「そうか……」

鬼の石松「ただ、もう姉御と一緒に戦ったり……こうしてだべったりする事も出来なくなりやすが……

四葉ブログ界のタタラベ系キャラのエースである、姉御と一体になれるというのなら…… あっしとしても、これに過ぎたる喜びはありやせん。

さ、姉御……ご決断を……」


ミュー「……」

 鬼の石松の提案に、あたしはすぐには返事が出来なかった。

 が、ここで、あたしの所属する組織であるMPI(マーズ連邦未開惑星調査委員会)の規則を思い出した。

MPI規則第三条第12項 未開惑星の現地人の意思は、可能な限り尊重する事


ミュー「……わかった。お前がそれでいいって言うんなら、いいだろう」

鬼の石松「……わかりやした。 じゃあ、そろそろあっしはいきますんで……」

 と、言うなり、鬼の石松の姿が消え……



 次の瞬間には、あたしの手元に、「サラマンドラの心臓」が残った。

鉄火次郎長「石松はいったよ…… これからは奴は、お前の心臓に宿って、お前を守って生きていくんだ。

それとミュー……」


鉄火次郎長「この俺の元子分を心臓にしたんだ。 マシンナリーにスイッチするとしてもせめて2つか3つ、ブラックスミスの技を覚えてからやれ。

間違ってもジョブレベル1でスイッチするような、腑抜けた真似するんじゃねえぞ」

ミュー「もとよりそのつもりですよ、親分。 じゃあ、あたしはそろそろ戻るよ」

鉄火次郎長「そうか…… じゃあ、気をつけてな」

 あたしは次郎長親分に別れを告げると、『時空の鍵』を使ってアクロポリスへと戻った。



アクロポリス


タタラベマスター「おう。戻ったか、ミュー。 ……と、その様子だとどうやら炎の化身、身につけてきたみたいだな」

 タタラベギルドに戻ると、タタラベマスターがまるで全てを見通したかのようにそう言った。


ミュー「ちょっと手こずったが、何とか身に着けてきた」

タタラベマスター「そうか…… お前の心臓に宿っているサラマンドラは、いつでもお前を助けてくれるだろう。

さあ、お前はこれから『ブラックスミス』だっ!!」

 とうとう、あたしはブラックスミスになった。

 だが、最終的な目標はマシンナリーになり、堂々とこの星で機械技師として活動できるようになる事である。

 ここが到達点、という訳では無い。

ミュー「じゃあ、もう日も落ちかかってきたし……あたしはそろそろ帰るわ」

タタラベマスター「そうか……じゃあ、またな」

 あたしはタタラベマスターに別れを告げ、ギルド元宮を後にした。



ギルド元宮前


ミュー「さて、ブラックスミスになったのはいいが……早いところJobLvを20まで上げて、マシンナリーに転職しないとな。

さて、とりあえずはロボの部品集め方々、光の塔へ……」

声「あ、誰かと思ったらミューさんじゃないですか」

ミュー「ん?その声は……」



ミュー「……ウルネか」

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはジークウルネの姿があった。 恐らくは、ECO家の一族主宰のクイズ大会の帰りだろう。

ジークウルネ「ブラックスミスへの転職試験、受かりましたか?ミューさん」

ミュー「ああ、なんとかな。 これでようやっと、あたしも二次職の仲間入りだ。

もっとも、まだやるべき事は残っているが……」

ジークウルネ「マシンナリーへの転職……ですよね」

ミュー「その通りだ。 ウルネ。 ……ところでウルネ、お前の持っていた『ル・ティシェ写真集』、ちゃんと一族の人に返してきたか?」

ジークウルネ「はい。それはしっかりと……」


ジークウルネ「ル・ティシェ様ご本人にお渡してきました」



ミュー「彼女本人に? また大胆な事したな、お前も」

ジークウルネ「ル・ティシェ様本人に渡すのが一番得策と、判断したからですよ、ミューさん。

現に、あのお方は特に何もいう事なく、写真集を受け取ってくれましたし……」

ミュー「あの人に渡すのが一番得策ねぇ…… どうしてそう思った?」

ジークウルネ「イズベルガさんや母者さんだと、変な誤解を受けて攻撃されるかもしれませんし……

サイユさんに至っては……ここを見ていただければお分かりのように……」

ミュー「ここって……ああ、サイユがお前さんそっくりに化けた一件ね」



ジークウルネ「そうです。 南軍長官からサイユさんが私に変装して出てきたと聞いた時は、びっくりしちゃいました。

恐らく相手は私がル・ティシエ様の熱烈なファンである事を妬んで、けん制代わりに私そっくりに化けたのだと思います。

多分あの人は……私に敵愾心を抱いている可能性が高いと思います」

ミュー「そりゃ、ちょっと考えすぎじゃないのか? あの人はああ見えて、一族の女性陣の中でも温厚な部類に入ると聞くが……」

ジークウルネ「ミューさんの言うとおりならいいのですが…… 私としては、少しでも危険を避けたい所ですね」

ミュー「なるほど……まあ何にせよ、トラブル無く写真集を返納出来てよかった。 お前に何かあったら、フロースに申し訳が立たんからな」

ジークウルネ「はい…… クイズ大会の方はあんまり正解できなかったけど…… あの人と一緒にいられただけで、私は嬉しいです」

ミュー「そうか……それはよかった。

……さてウルネ。済まないがあたしはこれから暫く、光の塔に篭るんで当面『フレイヤ』には帰らない。

フロースにもよろしく言っておいてくれ」

ジークウルネ「わかりました。くれぐれも、無理だけはしないでくださいね、ミューさん」

ミュー「了解だ。 じゃあまたな、ウルネ」

 ウルネに別れを告げると、あたしはキラービーの峠道を西へと進んだ。


 数日後……


セージマスター「よし……これで今日からお主も『マシンナリー』じゃ」

 あれからあたしは光の塔に篭り、JobLvを20にした。



山吹中佐「ついにやったな、ミューはん」

ミュー「ああ。 あとはタタラベマスターに『時限爆弾』を90個程届けて……」



ミュー「この機械組み立てL3、ならびに機械知識を憶えれば……もう法的な事を気にする事無く、堂々と機械技師として活動できる」

 思えばこの星に来てからもう三ヶ月余り。

 長いようで短い、機械技師(マシンナリー)への道のりであった。

 だが、これからは自分を偽る事無く、堂々と活動できる…… そう思うと、心は晴れやかであった。

山吹中佐「よかったなぁ、ミューはん。 ところで、前々から気になっていたんやが……」

 山吹中佐がふと、あたしに疑問を投げかけた。

ミュー「? どうした、中佐?」

山吹中佐「あのタタラベマスター、そんなに時限爆弾集めて何するつもりなんやろうか?

時限爆弾クエは一回当たり30個要求されるから…… 一日にあのマスターが手にする時限爆弾の数は、相当な量に上るはずや」

ミュー「さあな。 恐らく発破等に使うつもりなんだろうが…… まあ、あのマスターに限って、変な事に使うとは考えにくい」

山吹中佐「そうやといいんやが……」

ミュー「まあ、みだりに人を詮索するのはよそうや。 さ、何かスポーツ新聞でも買うか」

 あたしはその辺のゴーレムから、いつも読んでいるスポーツ新聞『蓬莱スポーツ(通称ホースポ)』を購入した。


ミュー「これはっ……

山吹中佐「? どうしたんや? ミューはん?」

ミュー「『ルーンミッドガルツ王国各地の精錬所にて同時爆弾テロ発生。精錬NPCに多くの犠牲者が出た模様……』」

山吹中佐「連続爆弾テロ…… 一体どこのどいつが?」

ミュー「さあな。 で、記事の続きだが……

『なお、現場近くに、犯人の犯行声明文が残されていた。

それによると「この国のブラックスミスども!折った武器は捨てずにちゃんと溶かして使え!!

でないと、次は貴様らが同じ目に遭う事になるぞ」』……だと」

山吹中佐「ひえええ……リサイクルを強要するなんて、エコロジカルなテロリストもいたもんや」

ミュー「まったくだ。

だが、ルーンミッドガルツの精錬NPC(職人)っていうのは、そろいもそろって腕の悪いのが多いとも聞く。

知人に聞いた話だと、人様の大事な武器を精錬に失敗して叩き折って、笑って誤魔化した挙句損害賠償にも応じない……

そんな最低のヤローだらけだと聞くよ」

山吹中佐「ひゃー…… そりゃ、もう職人という以前の問題やな」

ミュー「ああ。 で、精錬職人がそんな有様だから、今回の爆弾テロ犯を英雄視する人間も、現地では多数いるそうだ。

少なくとも、この新聞を見る限りではな」

山吹中佐「そっか……  他所のMMO……もとい、他国の話とはいえ、物騒な世の中になってきたわな、ミューはん」

ミュー「そうだな……」







タタラベマスター「ふふふ……いい加減な仕事して良い目を見ている奴には、死・あるのみだぜ」


                       ミュー転職編    完

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