第一閉塞#4
午後0時 アクロポリス地下・開路下町駅
アリサ「さて……たった今、サーバーがシャットダウンされたとの連絡がありました。
これよりメンテ時恒例、列車走行会を開催したいと思います。
今回の臨時メンテは2時間という、走行会をやるにしては短い時間でありますが……
皆様。 開催時間中は細かい事を気にせず、楽しんでいってくださいね」
ギャラリー「ワーーーー!!」
アリサの挨拶が終わると、ギャラリーより再び歓声が上がった。
アリサ「……私からの挨拶は以上です。 では司会進行の天神川さん、あとはよろしくお願いします」
少女の声「了解です、会長」
西院「皆様、こんにちわ。 今回の走行会の司会進行を勤めさせていただきます、天神川 西院(さい)と申します。
拙い司会ではありますが、どうか最後までよろしくお願いします」
SE:パチパチパチパチ……
西院「さて……初めて走行会をご覧になられる方も、皆様方の中にはおられるかと存じます。
当社が主催する『走行会』には、『フリー走行』と『列車競技』の二種類のパートが存在します。
『フリー走行』とはメンテ時間のみ、当社の指定した路線を一般に開放し……
列車の運転免許と自走可能な列車をお持ちの方なら、誰でも走行可能な催し物となっております。
なお『フリー走行』は衝突事故防止の観点から、全て予約制となっております。 飛び入りでの参加は受けかねますので、予めご了承下さい。
その他、『フリー走行』について何か分からないことがありましたら、お気軽に係員までお尋ねください」
西院「そしてもう一つのパートが『列車競技』です。 これは平たく言えば、『列車同士のレース』になります。
ただ、一口に『列車レース』と言っても、当社の走行会では2種類のルールを設けてあります」
↑ルール説明 ↑実際のレースの模様
西院「まず第一のルールが、一両編成の列車同士で順位を競う『鉄1(テツワン)ルール』です。
PS2のゲーム『鉄1〜電車でバトル〜』のルールを基本にしておりますが……
当社線には複々線区間は殆どありませんので、特別な場合を除いて1対1のバトルが基本です。
また、元ネタのゲームをやられた方なら周知の通り、ゴール時はきちんとホーム内に列車を止めなければなりません。
なお当社線の走行会では、元ネタでよく見られた『相手列車に体当たりして脱線させる』行為は反則となります」
西院「もう一つのルールが、2両以上の列車同士で行われる『電Dルール』です。
これは人気同人漫画『電車でD』でのルールに基づいた物です。
こちらも1対1のデュエル形式が基本ですが、ゴールはゴール駅のホームに差し掛かった時点で、ゴールと見なされます(オーバーラン可)」
西院「……以上、簡単ながらルールの説明を致しました。
モーグ
さて、本日の列車競技は毛具線開路下町〜軍艦島間で『鉄1ルール』にて開催いたします。
下り軍艦島方面アタック
まだ一本目のダウンヒルアタックに出場する運転士が到着しておりませんので、到着まで今しばらく……」
西院がいいかけたその時……
その遅れていた運転士の物らしい電車が、ホームに滑り込んできた。
そして、その電車から出てきた人物は……
レンジャーマスター「悪ぃ悪ぃ。 メンテ開始直前になって、空気読まねぇ奴が大勢でクエ消化しにきやがったからな……」
開急軍艦島駅・待合室(現在はモニター観戦室)
ミュー「れ……レンマスだぁ!? 何であいつが、電車にのって颯爽と出てくるんだ!?」
藪「出るも何も、今回の競技に参加する為に決っているだろう。
彼はああ見えて、この界隈では有名な走り屋(運転士)だからな」
ミュー「走り屋……ねぇ。 まさかあいつ、レンジャーマスターとこの鉄道の運転士、2足のワラジを履いているのか?」
藪「正確にはそれは違うな。 先ほど司会の子が、『フリー走行』という単語を発していただろう」
ミュー「ああ、そういえば確かに言っていたな……」
藪「おさらいしておくと『フリー走行』とは、列車の運転免許と自分の車両を持っている者なら誰でもこの会社の線路を走れるシステムだ。
彼……レンジャーマスターは数年前からメンテ時の『フリー走行』で開急線の各路線を走りこみ……
今では本職の運転士でさえ一目おくほど、腕を上げたのだよ」
ミュー「なるほどね…… 趣味に現を抜かして、本業のレンマスの仕事がおざなりになんなければいいが……」
再び・開路下町駅ホーム
アリサの声「ウルネさん、それにルナさん」
ジークウルネ「アリサ!? どうしたの?」
アリサの声「私の車両……VSEの展望席に乗りなさい」
アリサ「特等席から本日のバトル、観戦させて差し上げますわ」
ジークウルネ「え……でもいいの?」
アリサ「同じ『お菓子クッキングサークル』の同胞同士、何を遠慮する事がありますか。
さ、お急ぎなさい。 もうすぐ始まりますわよ」
アリサの車両の扉が開き、ウルネとルナを招きいれようとする。
しかし……
ルナシェイド「あの……アリサ先輩。 一つ、お願いがあるのですが……」
何かを思いつめた表情で、ルナがアリサに問いかけた。
アリサ「何ですの?ルナさん」
ルナシェイド「ええと……その……」
ルナシェイド「無茶なお願いとは思いますが……レース用の列車に乗る事は……出来るでしょうか?」
ジークウルネ「え……」
ルナの口から唐突に出た言葉の意味を、ウルネは咄嗟に理解することが出来なかった。
アリサ「出来る事はできますが……危険ですわよ。 横Gも営業運転のそれとは比較になりませんし……
そもそもルナさん、何でまた唐突に競技列車に乗ろうと思ったのですか?」
ルナシェイド「……この機会に『度胸』という物を、身に付けたいと思いまして」
アリサ&ウルネ「『度胸』!?」
ルナシェイド「……今朝早くの事ですが、スノップ追分で狩りをしていたら、大量のバウに囲まれてしまって……
復活の戦士さんのご厄介になってしまったんです。
そして、その後でフェンサーマスターに呼び出されて……」
フェンサーギルド
フェンサーマスター「この所、バウの群れに何度も遅れを取っているようだけど…… どうかしたのかい?」
ルナシェイド「べ、別に私は何も……」
フェンサーマスター「厳しい事を言うようだけど……
ベースLv20になってなおバウ達に遅れを取ること自体、フェンサーとしては落第と言わざるを得ない。
バウに襲われた時、目をつぶったりとかしてないかい?」
ルナシェイド「う…… す、すみません。 バウに限らず、モンスターからの攻撃にはいつも目をつぶってしまうんです……」
フェンサーマスター「なるほど……やはりね。
今の君に足りない物は…… ステータス云々よりも『度胸』だ。
モンスターからの攻撃にいつも目をつぶってしまうような人間が…… 大切な人を守るための『盾』になりえると思うかい?」
ルナシェイド「……ではマスター。 その『度胸』を見につけるためには、どうしたら?」
フェンサーマスター「とにかく沢山のモンスターと剣を交えたり、怖い思いを沢山するより他に方法は無い。
もし、何度やってもその目をつぶる癖が抜けないのであれば……」
フェンサーマスター「残念だけど、君に騎士の適正は無い、と言わざるを得ない」
ルナシェイド「……といわれたんです」
フェンサーマスターに『騎士になる資格は無い』といわれたのが相当堪えたのか、辛そうな表情でルナは言った。
ジークウルネ「えっ…… でも、度胸なんかLv上げの過程で沢山モンスターと戦っていれば、自然に身につくものよ。
わざわざ競技用の列車に乗らなくたって……」
ウルネも必死にルナを説得しようとする。 が……
声「俺の車輌でよければ……乗って行くか?」
唐突に第三者の声がしたと思うと……
いつの間にか、重秀の姿がそこにはあった。
ルナシェイド「あ……貴方は…… たしか、重秀さんとおっしゃいましたよね。
先ほどは助けて頂いて、どうもありがとうございます」
重秀「いや何、いいって事よ。
それよりさっきの『度胸』云々とかいう話……聞かせてもらった」
ルナシェイド「え……」
重秀「『競技列車に乗ろう』なんて思った時点で、嬢ちゃんは立派な度胸の持ち主だ。
普通の奴は間違っても、走り屋の車や列車に乗ろうなんて思わない。
だから……自信持っていいぜ」
ルナシェイド「重秀さん……」
重秀「……俺が思うに、嬢ちゃん最大の問題は『自分に度胸が無い』という思い込みだ。
お前さんがいいんならその『思い込み』、俺の走りでぶっちぎってやるぜ」
ルナシェイド「え……じゃあ、競技列車に乗ってもいいんですか!?」
重秀「運転士の俺は、な。 あとは会長の許可があればOKだ。
……アリサ会長。 彼女を俺の愛車に乗せていいでしょうか?」
アリサ「……許可します。 但し、彼女を死なす事だけは、許しませんわよ」
重秀「……了解」
西院「ええと……重秀さん、話は終ったかしら?」
司会進行役の女の子がこちらに近寄り、声をかけてきた。
重秀「ああ、終わった。 添乗希望者が一名いるんで、『誓約書』の準備を頼む」
西院「『誓約書』ならほら、ここにあるわ」
と言って、西院はディバックから一枚の書類を取り出し、重秀に渡した。
重秀「サンキュ。 ……それにしても随分と用意がいいんだな、西院」
西院「臨時メンテ時の走行会は時間キツキツだから、あらゆる用意をしておかないとね。
……添乗希望のお客様。 本日は予定が大変詰まっておりますので…… 申し訳ありませんが誓約書のサインは手早くお願いします」
ルナシェイド「は、はい! え、ええと……サインの場所は……」
唐突に女の子に声をかけられ、面食らうルナ。
西院「文面をお読みになって、一番下のスペースにサインするだけでOKですよ」
ルナシェイド「は、はい。 ええと……」
ルナは急かされつつも誓約書の文面に目を通す。
そして、最後の文字列を見たとき、彼女は一瞬真っ白になった。
ルナシェイド(『命の保証はしない』…… で、でもここで逃げたら、私は一生弱虫のまんま……
立派な騎士だったお父さんに追いつくどころか、見習い騎士にさえなることは出来ない……)
彼女は勇気を振り絞り、震える手で誓約書にサインした。
ルナシェイド「司会さん……書けました」
そして、西院に誓約書を提出した。
西院「……誓約書、確かに受領致しました。 では列車競技規則第24条に基づき、貴女の添乗を許可します」
ルナシェイド「は、はい。 ありがとうございます」
重秀「さ、嬢ちゃん。 もうスタート時刻を過ぎているから、急いで列車に乗ってくれ。
それと……列車に乗ったら、必ずシートベルトを締めてくれ。いいな」
ルナシェイド「は、はい!」
重秀にせかされ、重秀の黄色い列車に乗り込むルナ。
それを見届けた西院は……
西院「皆様、大変長らくお待たせいたしました!
これより毛具線ダウンヒルアタック、一本目を始めます!!」
ギャラリー「Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」
『待ってました』とばかりに、駅ホームにいるギャラリーから割れんばかりの歓声がこだました。
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