第一閉塞#5


重秀「レンマスさんよ、もう一度ルールを確認するが……」


重秀「勝負は一本勝負。 先に軍艦島駅のホームに列車を止めた方の勝ちだ。

間違って毛具(モーグ)や光の塔まで行ったりするなよ。

あと、今回の『鉄1ルール』ではオーバーランはゴールとみなされないからな」


レンジャーマスター「お前に言われなくても、んな事わかってるよ。

今日で『鉄火山レッドサンズ』の連勝記録、止めてやるぜ」

重秀「……いきがるのはいいが、その前にちゃんと完走しろよ。

またリタイヤじゃ、勝った気になれないからな」

レンジャーマスター「ぐっ…… だが、今の俺は先週の俺じゃない。

バトル中に進化した俺の実力、とくとみせてやるぜ」

重秀「へいへい。 じゃあ、そろそろお互いスタンバイするか」




重秀愛車(キハ2500)・車内

ルナシェイド「あの……重秀さん。 出走前に一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」

重秀「? 何だ?」

ルナシェイド「さっきレンジャーマスターが言っていた……『鉄火山レッドサンズ』って何ですか?」

重秀「ああ、レッドサンズって言うのは俺の所属する運転区……『鉄火山運転区』の選抜チームだ」

ルナシェイド「運転区?」

重秀「ああ、運転区ってのは簡単に言えば、運転士の基地みたいなものさ。

うちの会社(開急の場合)、運転区は4つあり……」



重秀「まず一つは、モーグ方面・天塔方面の乗務を担当する『蜂峠運転区』。

次にファーイースト方面を担当する『仲草原(モーモー草原)運転区』。

3つ目がノーザン方面担当の『女王町運転区』。

そして最後がサウス方面を担当し、俺が所属している『鉄火山運転区』だ」

ルナシェイド「ほむ……」

重秀「で、各運転区は所属する運転士の中から腕利きを選んで…… 走行会用のチームを編成している。

各運転区……いや、チームの目的はただ一つ。 『開急最速』を目指す事だ」

ルナシェイド「……難しい事はよくわかりませんが、要するに走り屋さんのチームみたいな物だと思っていいんでしょうか?」

重秀「ああ。

ちなみに、今から対戦するレンマスはうちの会社の関係者じゃないから、どのチームにも所属していない。

奴はメンテ中や終電後のフリー走行で腕を磨き、走り屋として名を上げたクチだ」

ルナシェイド「ほむ……」

西院の声「両運転士、スタート準備はよろしいでしょうか?

 その時、外部から西院の声が響いた。

重秀「ああ、こっちはいいぜ。 いつでもカウントしてOKだ









西院「では、カウントいきます!!

5!」

「4!」


「3!」

「2!」


「1!」


「GO!!」





ギャラリーA「流石は京成3700……いい加速だぜ」

ギャラリーB「勝負になんねぇ…… 島鉄キハ2500のフル加速なんて、止まって見えるぜ」



アリサ「予想通り、先行はレンジャーマスターの京成3700ですわね。 

さて……そろそろ私達も出発しましょうか」


アリサVSE 1号車展望席

アリサの声「ウルネさん、これから私達も出発しますわ。

座席の"シートベルト"は、しっかりしめて下さいね」


ジークウルネ「え、ええ……」


アリサ「では、アンデッド城のミステリーツアーに……」


アリサ「出発進行!!」




ギャラリーC「げっ! 会長のVSEが出ていくぜ!  いきなりアクロニア最速決定戦になっちまうのか!?」

ギャラリーD「いや……会長のVSEの方向幕、『観戦』って表示になってたぞ。

バトルしているんだったら、『競技』って表示されるはずだからな……」



ルナシェイド「し、重秀さん…… レンジャーマスターに先行されちゃいましたよ。

いいんですか? 先行を許して?」

重秀「いや、これは予定通りだ。 奴の京成3700は電気を動力とする『電車』で、俺のキハ2500は内燃機関を動力とする『気動車』だ。

基本的に、鉄道車両っていうのは『電車』の方が『気動車』より加速力が高いもんだからな…… 加速勝負では勝負にならん。

それに……」


重秀「無闇やたらと先に行きたがるのは、二流・三流の走り屋のやる事だ。

それに対して京急の須藤京一、阪急の高橋涼介といった一流の走り屋は、何も考えずに前に出たりする事は絶対にしない。

先行していると位置的には確かに有利だが、その分後方の車輌から動きが丸見え=手の内を読まれる事になるからな」

ルナシェイド「は、はぁ……」








ミュー「あ、あの黄色い車輌……片輪浮いてるぞ! そんな速度でカーブに突っ込んだら脱線す……」


ミュー「あ〜あ、言わんこっちゃ……」





ミュー「!!!!



VSE 展望席

茜少佐「!! 脱線から……何事も無かったのように復帰した……」

ジークウルネ「……茜少佐。 今、重秀さんの車輌からほんの一瞬だけ、魔力の反応がしたわ。

恐らく今の脱線復帰は、魔法の一種でしょうね……」

アリサの声「流石はLv85以上のセージ……良く見抜きましたわね、ウルネさん。

……今の脱線復帰は、『自動脱線復帰装置』と呼ばれる一種の『魔法装置』によるものですわ」


アリサ「この装置は、私の子会社である『開急車輌』と、ノーザンの大導師『皇(ゲ)』様の協力によって開発されたものですの。

原理を簡単に説明しますと、『脱線した車輌を、魔法の力で強引に線路に戻す装置』、といった所でしょうか」




藪「『脱線復帰装置』は今日、エミル界の全ての鉄道車両に設置が義務付けられている。

開急の車輌はもとより、サウスDを走っている汽車にも装備されているよ」


ミュー「そっか…… 脱線してもすぐに復帰したカラクリについては分かった。

だが……あの黄色い列車、一回脱線したにも関わらず、何で普通に高速走行してやがる?

あれだけ派手に脱線したら、車輪にダメージがいって高速走行出来なくなるだろうに……」

藪「そこで、また『魔法』の出番だ。 この世界の鉄道では、どこの会社でもメンテナンス経費節減の為に車輪に特殊な魔法を施して……

『どれだけ走っても、一切車輪が磨耗しない』状態にしてある。

勿論この魔法は、脱線時に車輪を保護する効果もある」

ミュー「なるほど…… 文字通り、『魔法の車輪』って訳か……

しかし、この世界にそんな技術があったとは…… 中々、この世界も奥が深いぜ」



アリサ「ウルネさん。世界観への配慮や安全上の問題から、列車競技はメンテ時にのみ行う事にしていますが……

それでも、『何でECOの世界で列車レースなんかやるんだ』……というクレームがくる事があります」

ジークウルネ「確かに……そうね。 傍目から見てとっても危ないし……

何より、『何でECOの世界で……!』って気勢を上げる人もいるでしょうね」

アリサ「でもね…… ECOの世界には、通常の物理法則を捻じ曲げる『魔法』という物の存在がある……

それに、かつての機械文明時代には劣るとはいえ、鉄道を敷設する技術がある……

さらに、サウスDの線路上で突っ立っていればお分かりのように、『轢き逃げ』が許される程緩やかな鉄道法の規制……

そして何より、運営自ら『何でもアリ』と称している、カオスな風土……

この4つの要素のどれが欠けても……列車競技を実際に行う事は不可能でした。

言い換えれば……」


アリサ「ECOの世界『だからこそ』、列車競技が開催できたと言っても過言では無いでしょう

ジークウルネ「そ、そうなんだ……

でもアリサ…… いくらこの世界の鉄道法がザルだからって……この列車競技、当局にちゃんと届けを出してやってるの?」

アリサ「……ウルネさん。流石に私も、無許諾で走行会を開催するするほど、愚かではありませんよ。

先にお話しましたとおり、うちの会社は騎士団や評議会からの要望で普段、一般PCの方から姿を隠蔽していますが……

そうなると当然、一般PCという新規顧客が得られない訳ですから……本来得られるはずの収入が得られず、損をする事になります」

ジークウルネ「そうでしょうね……」


アリサ「ですが、うちの会社も始めから姿を隠蔽していた訳ではありません。

世に言う『βテスト開始時』に…… 騎士団や評議会からやれ『一般PCを列車に乗せると、入出国管理が煩雑になる』だの、

やれ『世界観的に問題がある』だのと言って……一般PCから姿を隠蔽するよう求めて来たのです」

ジークウルネ「ほむ……」

アリサ「で、時の当主であった私の父、『紀伊御坊 文太(きいごぼう ぶんた)』はその条件を呑む代わりに……

今目の前で行われている、『列車競技』の開催許可を求めたのです。

そして、結果的に騎士団・評議会とも父の要求を呑み、今日に至るという訳ですわ」

ジークルウネ「なるほど……」


アリサ「……お喋りが長くなってしまいましたわね。 ウルネさん、前方から目を離さないようにね。

重秀さんの車輌が、レンジャーマスターの車輌に追いついてきましたわよ」




レンジャーマスター「ちっ……なんてこった。 さっき脱線したと思ったら……」


レンジャーマスター「もうこんな所まできてやがるのか……

だが、俺にも立場ってもんがある…… ここで負けたら俺は負け犬として、全ギルド員のいい笑いもんになって再起不能だ……!!」


レンジャーマスター「……マスターの地位を守る為にもこのバトル、意地でも負けられないぜっ!!」






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