日記第十七回(2)



イズベルガ「う、うかつな…… そんな反応をされたら…… 私は、どういう斬り返したらいいんですか……」

 ノレンガルド(ジークウルネ弟)の『ナンパってどういう意味』発言の精神的ダメージが大きすぎたのか、

イズベルガさんはその場に鉄トゲの鞭を落としてしまった。

 察する所、怒りを向けるべきターゲットを見失ってしまった……といった様子である。

 言い換えれば、盛大に肩透かしを食らってしまった感じだ。

女性の声「まったくもう、ノレン! 何イズベルガさん怒らせているのよ!!」

 突如、第三者の女性の怒鳴り声がした。

 声のした方を向くと……


 そこにはウルネの姿があった。


ノレンガルド「あ、ウルネお姉ちゃん。久しぶりだね〜」


ジークウルネ「久しぶり〜 じゃないわよ!!まったくもう!!

……お話は大体聞かせてもらったわ。 下界に下りて来て早々、一族のル・ティシェ様をナンパしようとするなんて……

全く、恥を知りなさい!恥を!!」

 ジークウルネ、怒り心頭である。

 だが、今度の騒動について、あたしには不可解な点がいくつかあった。

ミュー「あ、ウルネ。 お説教中悪いんだが…… お前の弟さんに確認したい事がある」

ジークウルネ「? いいですけど…… 手短にお願しますね」

ミュー「ああ」


ミュー「おい、ノレンの坊主。 お前、何でナンパの意味も知らないのに、ティシェさんをナンパしようとしたんだ?」

 そう、ナンパの意味も知らない人間が、普通通りでナンパなんかしようとは思わないはずだ。

 なのに、今回の騒動では、実際にノレンがティシェさんにナンパしようとして、イズベルガさんを怒らせている。

 ノレンがティシェさんに話しかけた所を見たイズベルガさんが、『ナンパした』と誤認したとも考えられるが……

 それにしては、この場に当のティシェさんが居ないのも妙である。

 
ノレンガルド「転職試験だよ。 ……ウァテスの。

白の聖堂の司祭様に、『一族のル・ティシェさんをナンパして、生きて帰ってくるように』って言われたんだ」

一同「へ……」

 突拍子も無い事を、ノレンは言ってきた。

イズベルガ「ふざけるのもいい加減になさい! 何故、ウァテスの転職試験に『ナンパ』という過程があるんですか!?」

ノレンガルド「……疑うんだったら、僕のクエストウインドウを見せてあげるよ。 ほら……」

 そういうなり、ノレンは自分の正面に、自分のクエストウィンドウを投射した。

 精神年齢が低そうな彼ではあるが、どうやら魔法の才能はあるみたいだ。



ノレン以外全員「……

 表示されたクエストウィンドウの中身を見て、ここにいる全員、絶句した。

ノレンガルド「このクエストを受けたはいいんだけど、何をしていいのかさっぱり分からなくてね。

で、たまたま通りかかったそこのスケバンのお姉ちゃんに『ル・ティシェって人をナンパしたいんだけど』……

って聞いたら、どういうわけか怒りだしちゃって……」

 未だに何で絡まれたのか理解できない様子で、ノレンが事情を説明した。

ジークウルネ「まったくもう。 今度から自分で内容が理解できないクエストなんて請けちゃいけません。

いいわね、ノレン」

ノレンガルド「う、うん。 ごめん、ジークお姉ちゃん。 」

 ウルネに説教され、ノレンはがっくりうなだれた。

ジークウルネ「イズベルガさん、申し訳ありません。 弟がとんだご迷惑をおかけしてしまったみたいで……」


イズベルガ「……まあ、今回は黒幕が居る事ですし、貴女の弟の不始末については大目に見ることにします。

ただ、次は無いと思いなさい、ジークウルネ」

ジークウルネ「本当に申し訳ありませんでした、イズベルガさん」

 ジークウルネが土下座しそうな勢いで頭を下げた。

イズベルガ「それにしても白の聖堂の司祭め…… 穏やかな顔をしておきながら、よくもこのような無粋な真似を……」

 イズベルガさんの怒りゲージが、再び上昇し始めた。

 怒りの矛先は、黒幕たる白の聖堂の司祭へと向けられているようだ。



山吹中佐「しかし妙や。何で白聖堂の司祭さんが、ウァテスの転職試験にあんな危険極まりないクエストを出してきたんやろな?」

 それまで黙っていた山吹中佐が、発言してきた。

ミュー「さあな…… そいつは司祭さんに直接聞いたほうが早いだろうな。

さて、ちょっと白聖堂まで行って来るか」

イズベルガ「……私も行きましょう、ミュー。 姉さんに手を出そうとした者は、誰であろうと許すわけにはいきません」

 怒りの感情を隠そうともせず、イズベルガさんが同行を申し出た。

ミュー「……構わんが、引っぱたくのは尋問の後にしてくれ。 悶絶してしまったら話も聞き出せないからな。

じゃ、そろそろ行くか……」

 と、その時である。

SE:ピピーーッ!!


西軍騎士団員「見つけたぞ!イズベルガ!!」

 唐突に、西軍の騎士団員がイズベルガさんに絡んで来た。

イズベルガ「何ですか!? 私は今あなたがた騎士団に構っている暇はありません!!

引っぱたかれたくなかったら、さっさと失せなさい!!」

 国家権力がなんぼのもんじゃい!……といった態度でイズベルガさんもやりかえす。

西軍騎士団員「鉄トゲの鞭ごときが怖くて、西軍の一員が勤まるか!!

そんな事よりイズベルガ! 先ほど通行人から通報があったぞ!」

イズベルガ「……通報!? 私は何も、通報されるような事はしてませんが」

西軍騎士団員「とぼけてもムダだ! イズベルガ、貴様……」


西軍騎士団員「そこにおわす『御ひふへ様』を苛めただろう!!

 あたしたちの中の『ある人物』を指しながら、突拍子も無い事を西軍騎士団員のニィチャンは言った。

 そして、ニイチャンの指の先には……


ノレンガルド「え……僕?」

 予想通り、ノレンの姿があった。

 というより、いまこの場にいるメンツの中で『御ひふへ様』に相当する人物等、彼くらいしかいなかったが。

 ちなみに、ひふへとは『被虐』『不遇』『ヘタレ』の要素のうち、どれか一つ以上の要素を有する者に与えられるありがたくない称号で、

これがあると死んでも白の聖堂か黒の聖堂で自動復活できるという特権が与えられるが、同時にリアルラックが0になり、

同じブログの武闘派キャラに苛められやすくなるという致命的なデメリットも付いて回る。

ノレンガルド「わーい! 何だかよくわからないけどVIP待遇だ〜

で、騎士団のお兄さん、僕に一体何の用?」

西軍騎士団員「先日施行された『ひふへ保護法』……通称『ひふへ憐れみの令』に基づき、貴方を救助しに参りました。

今後いわゆる『ひふへ』を苛めた者は、どのような理由があろうとも最低でも懲役10年、最高で死刑と定められました」

ノレンガルド「へぇ〜 なんだかよく分からないけど凄い法律ができたんだね〜」

 ノレンは呑気そうに答える。

 が、イズベルガさんのような『ひふへシバキ担当』のキャラにとっては、恐怖の法律以外の何者でも無い。

西軍騎士団員「……イズベルガ。通行人の通報では、この『御ひふへ様』をその鉄トゲの鞭で引っぱたこうとしたそうだな。

……13:20分、『ひふへ保護法違反』で逮捕する!」


イズベルガ「……言いたいことはそれだけですか? 国家権力の『御犬様』」

 イズベルガさんは余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべ、騎士団員のニィチャンに対峙した。

西軍騎士団員「な……貴様、我々西軍を侮辱する気か!?」

イズベルガ「ええ…… このイズベルガ相手に楯突いた事……地獄で後悔させてあげましょう」

 というなり、イズベルガさんは鞭を振り回しはじめた。

 しかし……



西軍騎士団員「ふふふ…… 愚かななり、イズベルガ」

 だが、西軍のニイチャンも全く動じる様子をみせない。

 こっちも余裕綽々の表情で、イズベルガさんを見下した。

西軍騎士団員「我々をマヌケな南軍と一緒にしてもらっては困るな、イズベルガ。

貴様を捕らえるのに、何の準備もしなかったとでも思っているのか?

長官!よろしくお願します!!」

 と、西軍のニイチャンが叫んだ次の瞬間である。



SE:ゴゴゴゴゴ……

 突如、西可動橋の西軍詰め所から、大型の戦車が大量に出撃してきた。

 
ミュー「機甲師団……!! こいつはまた、随分なデカブツを大量にそろえたものだな……」

 もちろん、突然の機甲師団の出現に周囲がパニックに陥っている事は、ここで語るまでもない。

声「ふふふ…… いかがかな、イズベルガ君。 我が西軍の機甲師団の威容は……」

 突如、大型戦車の一台から声がしたと思うと、


西軍長官「お初におめにかかかるよ、イズベルガ君。 私は西軍長官、アポロニウスという者だ」

 砲塔部のハッチより、西軍長官が姿を現した。


イズベルガ「ほう……西軍長官直々の歓迎とは…… 私も随分、高く買われたものですね」

西軍長官「……早速本題に入るが…… イズベルガ君、これまでの罪を素直に認め、投降したまえ。

同居人の飛空庭からの突き落とし、ならびに銀仮面氏からのレシーバーサングラス強奪未遂……

これらは『ひふへ憐れみの令』に照らさずとも、立派な犯罪行為であろうが。

そして此度のそこの初心者の少年虐待未遂…… 事、ここに至っては、アクロポリスの治安を守る者として、最早看過する事は出来ぬ。

……今投降すれば、少なくとも死刑だけは免れよう」

イズベルガ「残念ながら、その要求は拒否します。

一族の一員たる私に対して機甲師団を差し向けて来るとは……

これは我々「ECO家の一族」に対する宣戦布告……とみなしていいのですね、西軍長官」


西軍長官「そうとってもらっても構わない。 ただ、私はコルネリオ(南軍長官の本名)の奴とは違って、無法者に戦わずして屈するつもりは毛頭無い。

総員!戦闘準備!!」

 長官が号令をかけるなり、戦車隊の砲口が一斉にイズベルガさんの方を向いた。


ジークウルネ「イズベルガさん……!危険です!!  いくらイズベルガさんでも、この数の戦車部隊相手じゃ……」

 ウルネがイズベルガさんの身を案じて、彼女を止めようとするが……

イズベルガ「大丈夫です。 騎士団の機甲師団ごとき、このイズベルガの敵ではありません。

……それよりもジークウルネ、NGの上司として、貴女に任務を与えます」

ジークウルネ「任務……ですか」



イズベルガ「まずは白の聖堂の司祭を締め上げて、姉さんをナンパしようとした理由を突き止める事……

そして、『ひふへ憐れみの令』なるふざけた法律を作った愚か者を見つけだす事……

この二つの任務を与えます。

ちなみに……この任務はNG部外者の協力…… 例えば『フレイヤ』クルーと協力して遂行する事も許可します」

ジークウルネ「わかりました…… フレイヤのみんなの協力がOKなら、何とか任務が遂行できそうです」

イズベルガ「頼みましたよ、ジークウルネ」

 ウルネにそういい終わると、イズベルガさんは戦車隊の方に向き直り……


イズベルガ「さあ、話は終わりです!! 私のJob経験値の足しになりたい者から、順次かかってきなさい!!」

 イズベルガさんは戦車隊に斬りこみ、戦車隊は周囲の迷惑顧みず、彼女に向けて砲撃を開始した。

 アップタウンを舞台にした『実弾使用のミニタリーごっこ(早い話が市街戦)』が、始まったのである。

 だが、まだ周囲には逃げ遅れた人がまだ多数いる。


ミュー「おい、ウルネ、それにノレン。 白聖堂に乗り込む前に、まずは逃げ遅れた人たちの避難誘導をやろう。

あたしが流れ弾の迎撃を行うから、ウルネとノレンとで避難誘導を行ってくれ」

ジークウルネ「……わかりました」

ノレンガルド「ひなんゆうどうって……逃げる人達を指揮すればいいんだよね。 了解〜」

 あたし達は逃げ遅れた人たちの退却援護&避難誘導をしつつ、白の聖堂方面へと向かった。



白の聖堂


司祭「おや、これはこれは皆さん。 白の聖堂へようこそ」

 白の聖堂にたどり着くと、司祭さんが温和な表情を浮かべて出迎えてくれた。


ミュー「司祭さんよ、挨拶は抜きだ。 あんたに一つ、聞きたいことがある」

司祭「聞きたいこと・・・ですか?」

ミュー「あんた、ウァテスの転職に『ル・ティシェのナンパ』っていうデンジャラス極まりない試験を受けさせているようだが……

そのワケを聞かせてもらおうか」

司祭「……!!」

 あたしがそう話した瞬間、司祭さんは何故か申し訳なさそうな表情をして沈黙した。

司祭「……お騒がせして申し訳ありません…… できれば、この一件に関しては私としてもやりたくは無かったのですが……」

ミュー「『私としてもやりたくない』 ……って事は、誰かに無理やりやらされたクチか。

黒幕の名前、教えてもらいたいんだが……」

ジークウルネ「天使長様……」

ミュー「えっ?」


ジークウルネ「あの手のカオスな転職試験を課すような人物で、かつ司祭さんが反抗できない程の権力をもった人物といえば……

天使長様以外ありえません。

司祭様、天使長様は今どこに?」

 ウルネはソーサラー転職試験の折、天使長直々に本来受けなくてもいいはずの試験を大量に課せられたと聞く(第十二話参照)。

司祭「ええと……天使長様は……」

声「呼んだか?」

 突如、何も無い空間から声がしたと思うと……


次の瞬間には、和服を着たタイタニアの中年男性が姿を現した。

天使長様「よ、ジークウルネ。暫くだな。 そこの気の強そうね姉ちゃんは…… ひょっとしてS・ミューか。

はじめまして、と一応言っておこう」

ミュー「ええと…… ひょっとしてあんたが天使長様?」

天使長様「ああ、そうだぜ」

 男は天使長と名乗ったが、その姿からして、天使長というより『殿様』と呼んだほうがしっくり来る。

 そして、『ラブリー天使の羽』らしき羽まで装着しているのに、思わず座布団一枚上げたくなってきた。

ミュー「……さっそくだが天使長さんよ、あんたがウァテス転職試験を改ざんした黒幕か?」

 前置きするのは面倒なので、あたしはいきなり本題に突入した。

天使長様「黒幕……って表現は有る意味当たっているかもな。

最近、ウァテスやドルイドの数が増えすぎている気がしたんで、人減らしの為に転職試験の問題を難しくしろ…… と司祭に指示したのは事実だ」

ミュー「そうか……」

 そういえば、ブログ界でも妙にウァテス関係者は多い気がする。

天使長様「だが、試験問題を考えたの俺じゃねぇよ。 な、司祭さんよ」

 天使長は司祭さんの方をギロ……と睨んだ。

 どうやら、ティシェさんをナンパしろという馬鹿な試験問題を考案したのは、天使長では無いらしい。


司祭「も、申し訳ございません! 天使長様!! これには深い訳が……」

天使長「事情は後で聞くから、まずは試験問題の原本よこせや。  あ〜あ、やっぱり試験問題はオイラ自らつくらねぇとダメか……」

 天使長は司祭さんの胸ポケットから、試験問題の原本を取り上げた。

天使長「ふむ…… こいつはオイラの目から見ても異常な試験問題だな。

こんなのLv1〜3程度の初心者にやらせたら、間違いなく死ぬぞ。 ウォーロックの転職試験に無理に対抗すんじゃねえよ」

 ちなみに、ウォーロックの転職試験はそのL1〜3くらいの初心者に『アンデッド島』まで行かせるという過酷な代物と聞く(ただし、ドミニオン

に限ってはこの試験項目は免除されれる)。

ミュー「異常な試験問題って…… 天使長さんよ、ちょっとその原本、覗いてもいいか?」

天使長「ああ、かまわねぇよ」

 天使長は問題の原本を無造作に放り投げた。

 そして、その原本の中を開くと……


ミュー「!!」

 予想通りというか、致死率の極めて高そうなクエがずらりと並んでいた。

 箇条書きに、これらのクエの危険度を解説すると……

1.レイニーちゃんをナンパせよ  致死率:☆☆☆☆☆
解説:LittleWish所属の可憐なソーサラー、レイニーちゃんをナンパするクエ。
だが、レイニーの兄のレインは極度のシスコンゆえ、レイニーにナンパする愚か者には『鉄とげの鞭』の制裁が下る可能性高し。
また、場合によってはレイニーちゃん本人に消される危険性も否定できないため、致死率の極めて高いクエスト

2.ケイ・フィアンをナンパせよ & シャル・フィアンをナンパせよ  致死率:☆☆☆
解説:フィアン家の次女、ケイと三女、シャルをナンパするクエ。
だが、長女のフィー・フィアンはかなりの妹思いのため、ナンパの現場を彼女に抑えられたらまず命は無い。
ただ、最近フィー・フィアンはオンライン覚醒しっぱなしという情報もあるため、致死率はこのクエの中では低いほう。

3.母者家の窓ガラスを割れ  致死率:☆☆☆☆
解説:ECO家の一族の絶対者、母者さんの家の窓ガラスを割るクエスト。
母者さん在宅中に事を実行すればまず三枚に下ろされるか、ハハジャソードで消し飛ばされるであろうが、不在中を狙えばなんとか……

4.ウィドウ家落書き大作戦  致死率:☆☆☆☆☆
解説:ECOオマケ日記のウィドウさん家に落書きしに行くクエ。
もちろん、家主の皆様方に見つかれば命は無い上、落書きするために長時間家に潜入していなければならないため、
難易度は母者家ガラス割りクエより上と推察される。

5.フィフスノート家のメイドさん姉妹のナンパ  致死率:☆☆
解説:すかいうぉーかーのメイドさん姉妹、カリスさんとキャリスさんをナンパするクエ。
本人達の逆鱗に触れるような事を言わなければ、殺されることは無い……はずである。

6.ル・ティシェのナンパ&イズベルガのナンパ  致死率:☆☆☆☆☆
解説:どちらのクエもECO家の一族屈指の武闘派、イズベルガさんを相手にする事になるため、致死率は極めて高い。

7.フロースヒルデの手料理を食せ 致死率:計測不能
解説:このサイトをいつも読んでいる方であればもはや説明不要。
何せ、お水の代わりに硫酸を使う手料理など、もはや……



フロースヒルデ「もはや…… って何よ、ミュー!」

 声のした方を向くと、そこにはフロースの姿があった。

 どうやらかなりご立腹の様子である

ミュー「わ、悪い、フロース…… でも、硫酸を使った料理は、もう食べられたもんじゃねえだろ?」

 そう、硫酸や塩酸など、強酸をつかった手料理は、フロースのお家芸である。

フロースヒルデ「……私だってこう見えても、LittleWishのイェルドさんの元で料理のお勉強しているんだからね。

もう少なくとも、硫酸みたいな化学薬品を素材にはつかっていないわ」

 自信満々にフロースは言うが、実際にフロースの手料理を見てみない事には、『口からでまかせ』という疑惑を払拭する事は出来ない。


ノレンガルド「え〜 フロースお姉ちゃん、お料理に硫酸使うのやめちゃったの?」

 それまで黙っていたノレンが、フロースに問いかけた。

フロースヒルデ「あら、ノレン。ちゃんとジーク達と合流できたのね。 西軍の馬鹿どもの『センサウゴッコ』に巻き込まれたのかと思ったけど、

無事でよかったわ」

ミュー「実をいうと、その戦争ごっこに危うく巻き込まれそうになったんだが……何とか脱出出来たよ」

フロースヒルデ「そう…… ミュー、いつもながらどうもありがとう。

お料理の件については、先生が『硫酸使うのやめなさい』って言うものだから……やめたわ」

ノレンガルド「え〜つまんないの〜」

ミュー「つまんないのもなにも、硫酸使っている時点でそれはすでに料理とは言えんだろうが、ノレン」

ノレンガルド「そんな事無いよ〜。 一度、フロースお姉ちゃんの料理つまみ食いした事があるんだけど……」


ノレンガルド「あの硫酸のじわっとした喉越し…… 病み付きになりそうだね。

レディースのお姉ちゃんもジークお姉ちゃんも、一度食べてみればいいのに。 おいしいよ、硫酸って」


ジークウルネ「!!」


ミュー「!!」

 この瞬間、あたしとウルネは、何で普段真面目なフロースが、料理の時は平気な顔して硫酸を入れる理由を悟った。

 そう、硫酸入れる料理人ある所に……


↑硫酸を食せる鉄胃袋持ちあり……と。



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