日記第19回(後編)


イェルド「追討令ですか…… 一体、どこの誰相手に発令するつもりなのですか?」

 ファーマーギルドで言う所の『追討令』とは、文字通りファーマーギルドに敵対する不届き者に対する討伐行為である。

 追討令を受けた相手は単に母者氏やイェルド女史等の、一騎当千の強者に命に狙われるというだけで無く、ファーマーギルド傘下にある

食料品店や薬屋から一切の商品が購入出来なくなる、いわゆる『経済制裁』もセットで付いてくる。

 特に軍等の大組織相手に『追討令』を発令する時は、直接的な武力行使より補給に直結する『経済制裁』の方が高い効果を得られる事は、言うを待たない。


藪「今、ファーマーギルドギルドメンバーのティエーラ女史とその仲間達が、とある華僑マフィアに因縁をつけられている事は、知っているかな?」

イェルド「華僑マフィア…… その者達の名は?」

藪「まず、以下の画像をみていただこう」


(出典:からくりぱんだ工房)
藪「まずは、このいかにも執事っぽいタイタニア、落霞紅(らおしおほん)氏」


(出典:からくりぱんだ工房)
藪「次に、いかにも裏社会の人間である事を匂わせているドミニオン、海天藍(はいてぃえんらん)氏」


(出典:からくりぱんだ工房)
藪「そして、ティエーラ女史に因縁をつけている華僑マフィア組織『鳴鐘堂姫家(めいしょうどうきけ)』の若頭、水涼見嬢の三名だ。

他にももっと手下がいるのかもしれないが…… この三人が、華僑マフィアのTOP3とみていいだろう」


ティエーラ「あ、あの人たちって、華僑マフィアだったんですか…… 何だか、悪いことしてそうな集団には思えましたが……」

 華僑マフィア一味?に絡まれている当のティエーラ女史が呟いた。

藪「まだ確定した訳では無いが…… 某筋からの情報だと、その可能性が高いとの事だ」

 というのは、実は嘘ぷーである。

 実は彼らが華僑マフィアである事自体、疑わしいのではあるが(頭目の水涼見嬢は、実は華僑ですら無いし)、

彼らを華僑マフィアという事にして煽っておけば、より周囲の賛同を得やすくなり、この提案が通りやすくなる。

 それに、彼らが華僑マフィアで無いにせよ、ティエーラ女史達に対して悪事を働いた事は、まぎれもない事実である。

 故に彼らには悪いが、この日記では最後まで、彼らの事を『華僑マフィア』と呼称させてもらう。


藪「彼らの悪事の詳細はからくりぱんだ工房(物語>9〜10話とくぐって下さい)を見ていただければ分かると思うが……

彼らはティエーラ女史と家族同然の仲である、フェーゴ君を『自分の兄だ』と僭称して拉致ろうとした。

そして、マフィア頭目の水涼見嬢は、フェーゴ君の妹である『生活雑貨ふぉるとな』店主、エストレラ嬢に執拗な中傷誹謗を行い、

レラ嬢に一時的な精神疾患を発症させた」


イェルド「精神疾患といいますと……具体的には?」

藪「私が彼女を診察した訳ではないから、詳しい病名まではわからん。

だが、確かな事はこれが原因で、『生活雑貨ふぉるとな』は暫くの間、休業を余儀なくされた。

私も先週予定されていた、月一回の『ふぉるとなバーゲンセール』で、薬の材料を大量購入しようと思っていたのに……」

 と、私がいいかけたその時である。


母者「なるほどね…… 先週『ふぉるとな』で開かれる予定だったバーゲンセールが中止になったのは、そんな事情があったんね」

 それまで黙っていた母者氏が発言した。そして次の瞬間……


母者「母さんの月一回の楽しみを奪うとは、いい度胸しとるね!
マフィアども!!


 母者さんが怒鳴り声を上げた。 もう、ガスの効果は完全に消えてしまっている。

母者「良か! 藪の案や良し。 母さんはその華僑マフィアに対する追討令に、全面的に賛成するね!

あんな世間知らずの小娘や、裏でアヘン売ってそうな取り巻きには、修正を加えんといけんね!!」

 母者氏はあっさりと、私の提案した追討令に賛成してくれた。

 楽しみにしていたバーゲンセールが中止になったのが、よほど気に食わなかったらしい。


庭番「私も賛成〜♪ からくりぱんだ工房の方の9・10話はさっきみてきたけど……

あの連中、顔も性格も気に入らないのよね〜

もし私がエストレラさんの立場だったら、一もニもなく奴らに鉛弾食らわせているところよ」

 次いで、庭番嬢も賛成に回った。


ティエーラ「私は当然賛成です。 ファーマーギルドのみなさん、彼らの脅威からみんなを守るためにも……

是非、この提案に賛成してください」

 当事者のティエーラ女史は、当然賛成に回った。

 ファーマーギルドの『真の長』である母者氏の賛成表明に、ティエーラ女史からの『お願い』コールもあり、

会場の他の参加者も大多数が賛成の意を表したのであるが……


イェルド「私は…… 余り気が進みませんね」

 一人だけ、反対の意向を示した者があった。

 イェルド女史である。

母者「? どうしてね、イェルド」


イェルド「水涼見さん達が、ティエーラさんと家族同然の方に害を為したという事は認めましょう。

しかし、そもそも追討令は、ファーマーギルドメンバーやそのご家族の方が殺されたとか、ファーマーギルドの施設に爆弾テロをしたとか……

そのような重大な犯罪を犯された場合や犯される危険性がある場合に、初めて発動する物かと思われます。

現状では水涼見さん達はティエーラさん達に対し、そこまでの事をしたとは認められません」

ティエーラ「え…… じゃあ、イェルドさんはこの案には反対?」


イェルド「本心を言えば反対ですが…… 会場の人たちの大多数の方が賛成に回っている以上、私一人が反対しても意味はありません。

ただ、追討令を発令するにしても、いきなり発動するのは待った方がいいと思います。

まずは彼らに、これ以上ティエーラさんとその関係者に悪事を働かないように警告し……

それでも従わないようなら、その時初めて発動するのが良いと思います」


母者「なるほどね…… イェルドの言う事も一理あるたい。

藪やティエも、それでいいかえ?」

藪「もとより、異存は無いよ」

ティエーラ「私もです、母者さん」

母者「……決まりね。 じゃあイェルド、そろそろ票決と行こうかえ」

イェルド「はい。 では、華僑マフィア『鳴鐘堂姫家』(仮称)に対する追討令、賛成なされる方は挙手をお願します」

 会場の人間の大多数が挙手し、追討令は可決された。


イェルド「賛成多数とみとめ、本案は可決致しました。

では、時間も押してきていると思いますので、この辺で総会を終わろうと思います。

それでは……解散」

 イェルド女史が総会の終了を宣言し、参加したメンバーは我先に会場を後にしていった。



藪の庭


藪「やれやれ……今日は疲れた。 さて、TVでもみるかな……」

 総会終了後、自分の部屋で私は昨日新調した白衣に着替え、くつろいでいた。

SE:コンコン(ノック音)

少女の声「藪先生、おくつろぎ中の所申し訳ありません。 ホワイトです」

藪「ああ、ホワイト君か。入りたまえ」

少女の声「失礼します」


扉が開けられると、メイド服姿のホワイトが入ってきた。

彼女の本職は潜入工作員なのであるが、潜入工作に出ていない時は本物のメイドとして、私の身の回りの世話をしてくれている。

(実際、メイドとして金持ちの屋敷に潜入する事も多々あるようだ)

ホワイト「ティエーラさんがお見えになられました。 何でも、先生に聞きたいことがあるとか……

こちらへお通ししても構いませんか?」

藪「ああ、構わないよ。通してくれ」





ティエーラ「すみません、藪先生。急にお邪魔したりして。  あ、先生、白衣着れるようになったんですか」

藪「物理的には、着ようと思えばいつでも着れたのだがね。 法的な問題で、いままで着れなかったのだよ。

『白衣を着るためにはベースLv65以上でなくてはならない』……と、エミルの世界の法律で定められているからね。

まったく、どうしてこう、エミルの世界にはこんな理不尽な法律が一杯あるんだか……」

ティエーラ「うふふ……」

藪「それで、ティエーラ君。 私に聞きたいこととは?」

ティエーラ「聞きたいことといいますのは、他でもありません」


ティエーラ「何で、先生は水涼見さん達に対する追討令を提案なされたのです?

先生は別に、彼らの被害を受けた訳ではないのに……」

 もっともらしいといえばらしい質問を、ティエーラ女史は私にぶつけてきた。


藪「……そうだね。 当事者の君になら、話してもいいか。

彼女らに対する追討令を出した理由はいくつかあるが…… その大きな理由の一つに、東軍長官からの依頼があった事が上げられる」

ティエーラ「東軍長官が? 何でまた?」

藪「からくりぱんだ工房の物語9話を見る限り…… 水涼見嬢との最初の会談は、東軍長官の執務室で行ったようだね」

ティエーラ「ええ、そうですけど…… まさか、その会見の内容を東軍長官さんが藪先生に?」

藪「たまたま問診で東軍長官の元に行った時に、こちらが頼んでも無いのにベラベラ喋ってくれたよ。

1〜2回問診に来ただけの私にもあっさり会見の内容を喋った所を見ると……

あの長官は相当な数の人間に、君達と水涼見嬢との会見の中身を漏らしていると見たほうがいいだろう」

ティエーラ「まあ……人の家族会議の内容をベラベラと……」

 ティエーラ女史の表情に、わずかながら怒りの表情が浮かび上がった。

藪「で、会見の中身を喋ったついでに、あの男は私に依頼をもちかけてきた」


 数日前 東軍長官室


東軍長官「藪殿。 貴女を見込んで一つ、頼みがあるのだが……」


藪「何かね? 言っておくが、入隊の勧誘ならお断りさせてもらうよ。

私は仮にも、南軍空軍傭兵部隊所属庭『フレイヤ』の軍医として勤務している身だからね」

東軍長官「いや、入隊の勧誘では無い。 先ほど話した、からくりぱんだ工房の面々と鳴鐘堂姫家(水涼見一党)との会見を見ていて……

私も東軍長官という要職を預かる身として、からくりぱんだ工房の面々に何かしてやらねばならないと思ってな。

特に、鳴鐘堂姫家当主と名乗る水涼見に暴言を吐かれまくったエストレラちゃんの様子は、見るに耐えない物だった……」

藪「そうか…… で、私に何をしろと?」

東軍長官「私は鳴鐘堂姫家の不届き者に対し、正義の鉄槌を下そうと思っている。 ついては藪殿にも、力を貸していただきたい」

藪「ふむ……」

 昨今の軍高官にしては珍しく、東軍長官はまともな事を言っているように思えた。

藪「しかし、何故私なぞの協力が欲しいのかね? 金持ち一家の討伐くらい、東軍単体で出来ないのかね?」


東軍長官「そうしたいのは山々なのだが……

この間、西軍が評議会に無断で戦車部隊をアップタウンで展開した事件があったろう(第17話中編参照)」

藪「ああ、あの事件の事ね。 で、その事件が何か?」

東軍長官「あの後、混成騎士団内部の規定が改正されてな。 一個人や一家族相手に、武力を行使する事が原則禁止された。

なので、あやつらを直接武力で討伐する事は出来ないのだよ」

藪「なるほどね。 まあ、軍組織として、規律を守るのは結構な事だ」

東軍長官「藪君、その…… 法に触れずに奴らをぎゃふんと言わせる方法は無いものだろうか……」

藪「ぎゃふんと……ね」


藪「長官。 一つ、策がある。 但し、この策を実施するにあたり、一つ、条件を呑んでもらう」

東軍長官「条件?それは一体?」

藪「この策に関する責任については東軍長官、貴方が全部持ってもらう。

私の所に火の粉が降りかかってきても、それも全て貴方の所に押し付けさせてもらうが…… 構わんかね?」

東軍長官「ああ、構わない」

藪「……その事を承諾した旨を記した公文書を、頂けないかね? 貴方を信用しないわけでは無いが、口約束だと後で反故される

可能性もあるのでね」

東軍長官「了解だ。 今秘書に書かせる故、帰り際に渡しておこう。

で、その策というのは、一体……」

藪「もうすぐ、ファーマーギルドの総会が開かれる。 そこで……」


藪「華僑マフィア『鳴鐘堂姫家』に対する追討令を提案する





ティエーラ「へぇ……そんな事が。 東軍長官さんもなんだかんだ言って、私達の事を思っていてくれてたんですね」

藪「そのようだな」

ティエーラ「で、藪先生は何で、東軍長官さんの誘いに応じたんですか?」

藪「何、目の前で行われている悪事を放っておくほど、私も外道では無い。

それになによりも……」


藪「生活雑貨『ふぉるとな』を長期休業に追いやり、ネタブログ界の人達の憩いの場を奪った事は重罪だ。
(事実、ECO内でも生活雑貨『ふぉるとな』にはネタブログ界の人達が大勢集まってきています)

特に先週行われるはずだったふぉるとなのバーゲンセール、あれを中止に追いやった事については……万死に値する


ティエーラ「!!
          バーゲンセール中止
 『本当の理由はそれかい』……という表情をティエーラ女史はした。


……まあ何はともあれ、これで東軍長官から頼まれた私の仕事は終わりだ。

この追討令が原因で後でトラブルが起こったとしても、私の知った事では無い。

何故なら……今回の事件の後始末を全て引き受けるのは……


↑東軍長官であるからである。



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