日記28話(2)


 その日の夜……

藪医院・居間


藪「……」






キャスター「今なお戦乱の続く世界、ドミニオン界。

そこに住む人々はDEMの侵攻、無差別PK、さらには30%もの苛烈なデスペナルティーに苦しめられております。

特に無差別PKは昔から続く悪習によって、裁かれるどころか逆に国家によって賞賛される有様。

このようなまとまりの無い状況の中、DEM達が真っ先にドミニオン界を侵攻先に選んだのは……まさに、『必然』ともいえました」


キャスター「しかし全てのドミニオン達が、PK制度を快く思っていた訳ではありませんでした。

 ドミニオン界南部にある『南金平島』……俗に『南州』と呼ばれる島の小領主……


 鍋焼直正(なべやきなおまさ)という若き当主も、そんなPK嫌いの一人でありました。

 彼は後に鍋焼閑叟(なべやきかんそう)と名乗り、『南州列藩同盟』の初代盟主に就任する人物です。


 今夜は直正がいかにして『南州列藩同盟』を建国したのか…… その流れに迫ってみたいと思います




アンブレラのキャスター「こんばんわ。 キャスターの姉小路 実篤(あねがこうじ さねあつ)です。

始めに申し上げておきますが、私はフレイヤのレギュラーであるアンブレラ『鴎外』氏とは別人……もとい別傘ですので、どうぞご了承くださいませ。

さて、今夜の舞台はドミニオン界南部にあります『南金平島』。 現在は『南州列藩同盟』という国家の本土となっております。

まずは、この島がどの辺りにあるのか、ご説明しようと思います」


姉小路キャスター「ご存知の通りドミニオン界というのはエミル界の平行世界でありますから、地形の配置はエミル界のそれと似通っています。

ですが、中にはエミル界には存在しない島や地形なども、また多数存在します。

この地図を見ますと、エミル界で言うトンカ島とマイマイ島の南に……『南金平島』という細長い島があるのが見とれるかと思います。

この『南金平島』こそ、今夜の舞台…… ドミ界の人々の間では『南州』と呼ばれる地域であります」


姉小路キャスター「さて、今日の『その時』は今から35年ほど前の紀文12年5月15日……

『長坂の合戦』において、直正率いる鍋焼藩の軍勢が南金平島にあったアクロニア王国の出先機関、『南州公方』を攻め滅ぼした日と定めました。

一般的にはこの『南州公方』の滅亡によって、南金平島を本土とする国家『南州列藩同盟』が建国された日とされております。

まず最初のVTRは『南州列藩同盟』の初代盟主となる、鍋焼直正が鍋焼藩の藩主になる前後のエピソードであります。」




 時は今から60年程前。 当時、ドミニオン界の半数以上は、『ドミニオン・アクロニア王国』……

公式設定で言う所の『ドミ界のアクロニア王国』の領土でした。

 当時の南金平島やトンカ島を始めとした島々も、また『ドミニオン・アクロニア王国』の支配下にありました。

 さて、当時の『ドミニオン・アクロニア王国』地方自治のやり方は、以下のようになっておりました。


(※)このドミ界アクロニア王国の構成は当サイトで勝手に決めたものですので、公式設定の物とは異なります。

 アクロニア王国の地方自治のやり方は、次の通りです。

中央政府である王国の下に『公方』と呼ばれる機関があり、これは王室の血筋を引く者が、代々『公方』の長として赴任してきます。

 そしてその下に『藩』という組織が存在しまして…… これは、地元の有力者達が『藩主』に任命されて、その座についていました。

 現在日本で例えるならば、『公方』を『都道府県』、『藩』を『市町村』と置き換えれば、分かり易いと思います。

 但し、『公方』も『藩』も王国軍とは別に、独自の軍隊を持っておりました。


 本来であればただの地方自治体に過ぎない『公方』や『藩』が自前の軍隊を持っていた理由……それはずばり、DEMにありました。

 正規軍である王国軍にも兵力には限りがあり、南金平島を始めとした辺境の地域まではあまり兵力をまわす事ができませんでした。

 そこで、『自分の身は自分で守る』という考え方が広まり、各地の『公方』や『藩』は自前の軍隊を持ち……

 また、王国側もそれを積極的にこれを認めてきました。

 当時は『公方』や『藩』の持つ地方軍の奮闘と、王国軍の縦横無尽な活躍により…… 何とか、DEM達の侵攻を防いできました。



 しかし、DEM達の攻撃は次第に激しくなり…… 多くの小藩がDEMによって滅ぼされていきました。

 また、大きな藩でも藩主が戦死したりするなど……次第に被害が大きくなっていきました。



 南金平島西部。 ここに、『鍋焼藩』と呼ばれる中規模な藩がありました。

 この藩もまた、DEM達の戦闘により、藩主を失いました。


 後を継いだのは若干二十歳の嫡子・鍋焼直正(なべやきなおまさ)。

 若い藩主の力量に不安がる重臣達は多く…… また、直正自身も突然藩主に就任する羽目になった為か……

己の力量に不安を覚えていました。

 思い悩む直正に、重臣の一人がこう提案します。


重臣「勇者様の魂を異界より召喚し、それを旗印になさいませ」

 そう…… 異世界物のご多分に漏れず、鍋焼藩には『異世界からの勇者様伝説』という物が存在しました。

 これは『危機に瀕したとある世界が、異世界(大抵は現実世界)から勇者様を召喚する』という類の物で、

『サモンナイトシリーズ』の一部作品や、『ヴィルガスト』辺りで描かれている勇者召喚の筋書きと……似たような物と考えていただければ結構です。

 ただ、鍋焼藩に伝わる『勇者召喚』の技法は勇者本人を直接召喚するのでは無く、『勇者の魂を、寄代となる人間(ドミ)に降ろす』技法で……

一種の『降霊術』でありました。

 しかし、直正は『勇者様』を呼んだからといって、危機的状況が回避できるとは……欠片も思っていませんでした。

 直正はこの重臣の提言に、こう返答します。


直正『どこの馬の骨とも知れぬ者を、勇者として祭り上げて何になる』

 それもそのはず。 氏素性不明な人間を、勇者として祭り上げてDEMの大軍に挑ませてても……一人では返り討ちに遭うのが関の山です。

 しかしここでふと、直正の脳裏にある考えが浮かびます。

 そして直正は重臣に、こう命じました。



直正『過去の名君の霊を、『勇者』の代わりとして降ろせ』

 それは『長坂の合戦』の……35年前の事でありました。





姉小路キャスター「ゲストのご紹介を致します。

今夜のゲストは、混成騎士団のコルネリオさん。皆様には『南軍長官』という肩書きの方が馴染みが深いと思います。

コルネリオさんは常日頃から仕事をサボって業務の間を縫って、エミル界・タイタニア界・ドミニオン界の戦史を研究していらっしゃいます。

その研究が認められたのか、最近はアイアンサウス総合大学の非常勤講師も兼ねております。

コルネリオさん、今日はよろしくお願します」


コルネリオ(南軍長官)「よろしくお願します」

姉小路キャスター「さてコルネリオさん。 今回の主人公は『南州列藩同盟』初代盟主・鍋焼直正です。

コルネリオさんは直正について、どのように思われますか?」

コルネリオ「私が大好きな君主の一人ですよ、彼は。

何かと味方同士を争わせて悦に浸る傾向のあるドミニオン・アクロニア王国の将達とは、比べる事自体が間違っていると思います」

姉小路キャスター「なるほど……」


姉小路キャスター「さて、今でこそ『南州列藩同盟』の祖と崇められる直正ではありますが……

藩主に就任したての頃は、未熟な若者にすぎませんでした。

そこで勇者召喚の術を応用して、過去の名君の霊を呼び、その教えを得ようと考えたわけであります。

次のVTRでは『名君の霊』を呼び出した前後のエピソードを、語っていきたいと思います」




 直正はすぐさま、傘下の宮廷魔術師達に『勇者召喚の儀』を行うよう指示します。

 もっとも今回の場合、呼び出すのは勇者では無く『名君』ではありましたが。

 しかし、儀式の準備に手間取り……事は思うように運びませんでした。

 さらに『過去の名君』を召喚するにしても、その人選が問題でした。

 呼び出した『名君』に協力を拒まれたり、引き受けてくれたとしても、その『名君』が敵側に内通するような事があってはかないません。

 直正とその側近達は長い議論の末……一人の人物を召喚する事に決定しました。



 それは日本の戦国大名の一人で、『越後の龍』と呼ばれた……上杉謙信公でした。

 沢山の候補の中から何故謙信公が選ばれたのか……

 理由は3つありました。

1.謙信はライバルの武田信玄公が『頼まれたら断りきれない性格』と評していたため、協力を拒否されたり、裏切られたりする可能性が低い

2.『軍神』と呼ばれる程戦上手である。

3.内政面においても、大きな失政はしていない


 丁度そのころ、召喚儀式の準備が整ったので…… 直正は上杉謙信公の魂を召喚するよう、宮廷魔術師達に指示します。


 ところが……

 直正の試みは、失敗に終わってしまいます。

 確かに『魂』は、寄り代となる肉体に降りたのではありますが……

 降りてきた魂は、上杉謙信公ではありませんでした。

 目を覚ました『寄り代』は、自分の事を……

『早雲庵宗瑞(そううんあんそうずい)』

 と名乗りました。

 言うまでも無く、後の北条早雲公です。

 しかし、日本史にあまり詳しくないドミニオン達にとって、それは聞きなれぬ名でした。


 ただ、直正だけは彼の正体を知っていました。

 DEMに襲われ危機に陥っている自藩の事情を説明し、呼び出されたばかりの早雲公に協力を求めます。

 そして、お望みなら鍋焼藩の家督を今この場で譲っても良いとももちかけます。

 これは直正の咄嗟の思いつきでは無く……

鍋焼藩の家訓では『勇者を呼びしとき、もし勇者が望むのであれば領地一切を指す出すように』とされています。

 これに対し早雲公は鍋焼藩のおかれた窮状を理解し、直正に対し協力を約束します。

 ただし家督譲渡についてはは『見ず知らずの者がいきなり主になっても、家臣達がついてこないだろう』と辞退。

 自分が食べるに困らぬだけの金銭と飯をいただければ、それでいいと言いました。

 こうして直正は、心強い味方を手に入れる事に成功しました。



 そして翌日……



直正と早雲公は供の者を連れて、城下の視察に出発します。

 城下町の視察を終え、郊外の視察に入りました。

 城の郊外には荒れ果てた田畑等が目に付き、荒廃した様子が見て取れます。

 そのあまりの惨状に、早雲公は言葉を失います。


 そして視察の途中……PKの一団に襲撃されてしまいます。

 見たところ、かなりLvの高いPKのようでした。

 これに対し早雲は弓を持ち、ECOで言う所の『バラージアロー』を使い、次々とPK達を返り討ちにしていきます。

 一説によると、この時早雲公の『バラージアロー』でPK達が受けたダメージは、10000を超えたとも言われています。

 そう、早雲公はECOで言う所の『ストライカー』であったのです(※)。

(※)司馬遼太郎著『箱根の坂』より、早雲公は弓の名人でもあったとの描写有。


 田畑の荒廃に……PKの横行。

 この惨状を前に、早雲公は直正にこう提言します。


早雲公「DEM云々言う前に……まずは領国経営をしっかりすべきかと存じます」


 それは『長坂の戦い』の……34年前の事でした。




姉小路キャスター「さて早雲公の提言を受け、直正はPK対策などの藩政改革を始めます。

しかしながらその道のりは、決して平坦な物ではありませんでした。

続いてのVTRは、直正と早雲公の藩政改革についてまとめてみました」


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