日記23回(3)



 城下の惨状を目の当たりにした早雲公と直正は、次の日より早速藩政改革に取り掛かります。

 まず最初にとりかかったのは、税制改革でした。

 この当時のドミニオン界では打ち続く戦乱により、どの藩も年貢が高く……年貢は60%近辺は当たり前で、

中には8割以上の重税をかける藩も存在しました。

 当然、このような状況では農民は疲弊し、農業生産力=兵糧生産力は落ちる一方でした。

 それを、早雲公は自らの経験から、年貢を破格の40%とする事を定めました。

 この決定は即座に領内一帯に公表され……人々は歓喜しました。

 そして、人々は新当主である直正と、側近であり、形式上は『異世界の勇者様』である早雲公に心服した事は、言うまでもありません。



 次に取り掛かったのが……『PK対策』でした。

 この当時、ドミニオン・アクロニア王国の諸藩では、当たり前のようにPKが公認・保護されていました。

 それは当時の鍋焼藩といえど、例外ではありませんでした。

 もちろん、早雲公にしてみればこのPK公認政策は理解出来ぬ物であり、直正に即刻廃止するように提言します。


 直正もまた、この当時のドミニオンの上層部にしては、珍しく『PK』という存在を快く思っていませんでした。

 当時の記録によれば、PK推進政策の事を『山賊を保護するかの如き悪習』と、酷く嫌っていたといいます。

 しかし、先代藩主……つまり、直正の父は保守的な人物であり、『PK』賛成派でもありました。

 いままでは次期藩主としての立場上、公の場で『PK反対』を唱える事はできませんでしたが……

 『異世界の勇者様』である早雲公の提言を容れ、PK禁止令を発令します。



 ところが……禁止令発令の数日後、思わぬ横槍が入れられました。


 横槍をいれてきたのは、他ならぬ『ドミニオン・アクロニア王国』中央政府でした。

中央政府から送られてきた書簡には、こう、記されていました。

『PK推奨令は我がアクロニア王国の『祖法』であるからして、一藩の勝手な判断でこれを廃止する事、まかりならぬ』

 今の鍋焼藩にはとても中央政府に歯向かうだけの力は無く……泣く泣くPK禁止令は撤回せざるを得なくなりました。


 しかし、直正達はPK達に対する統制を、断念した訳ではありませんでした。

 当時のPK推奨令は、PKが他プレイヤーを倒した時に手に入るWRPの量は、各藩に一任されておりました。

 早雲公と直正はその点に目を付け、PK対策に乗り出しました。


 まず第一に、PKが他人を倒した時にもらえるWRPを、法令で定められた最少額の1ポイントとしました。

 その上で、当面の敵であるDEMの首を取った場合、貰えるWRPを最低500Pと設定。

 さらに早雲公の提言で、新たな田畑を開墾した者には、WRPを1000Pも奮発する事にしました。

 これにより、鍋焼藩領内では他プレイヤーを倒すより、DEMを討伐したり新たな田畑を開墾した方が圧倒的にWRPを貯め易くなり……

藩内におけるPKシステムは、有名無実の物としてしまいました。


 結果、WRP目当てのPK屋は殆ど藩を去り、代わってDEMに怨みを持つ猛者や、

開墾賞金目当てのファーマー達が多数、鍋焼藩に集まってきました。

 折りしもこの頃、DEM達の攻撃は何故か散発的になっており、農地の開墾は当初の予想以上に進み……

結果鍋焼藩の農業生産能力は、増大の一途を辿っていきました。


 しかし、人を殺したPKを法的に裁く事が出来ない状況は変わってはおらず、治安が完全に回復されたとはいえませんでした。

 強盗を現行犯で逮捕しても、『自分は王国より認められたPK行為をした』と言われれば、それまでだからです。

 完全に国内の治安を回復し、流通の安定や民の安寧を得るためには……

PK推奨令を強要する『ドミニオン・アクロニア王国からの独立』が、絶対に必要でした。

 とはいえ、今の鍋焼藩単独でアクロニア王国からの独立を果たす事は難しく……

 早雲公と直正はひとまず、国力を蓄える事に専念する事にしました。


 直正はまず、DEMや王国軍に勝つ為には、相手より優れた技術を持つ事だと考えました。

 そこで、藩内からえりすぐりの秀才達を集め、魔術や科学技術の研究に乗り出す訳でありますが……

 ここで、一つの問題点が浮上してきます。

 それは何を隠そう、『金』の問題です。

 早雲公の提言で年貢を安くしてしまった以上、必然的に収入は減り、藩財政を圧迫してしまっていました。

 技術開発の為の資金を得るためには、年貢以外の収入手段を確保する必要がありました。

 そこで直正はまず、特産品の専売をする事にしました。

 幸い、鍋焼藩には焼き物や漆器といった、全国的にも有名な特産品を産しましたので……

手始めにこれらを専売し、収入の足しにしようとしたのです。


 しかし、技術開発には莫大な資金が必要とされるのが世の常。 特産品の専売だけでは、研究資金を賄うにはまだ不足でした。

 そこで直正が思いついたのが……『タイタニア界との密貿易』でした。

 鍋焼藩の領内には古くから、タイタニア界へ直通するゲートが存在しました。

 しかし、ECOを古くからプレイしている方ならお分かりのように……ドミニオンとタイタニアは、基本的に犬猿の仲であります。

 故にタイタニア側の侵攻を防ぐ為、長いことこのゲートは封印されていました。

 直正はこのゲートの封印を解き……タイタニア界との密貿易をしようとしたのです。


 当然ながら、この直正の決定には反対する者が続出しました。

 しかし、反対する家臣達に対し、直正は言います。


直正『DEMには話は通じないが、タイタニアはまだ話が分かる。 この期に及んで手段を選んでいては、DEMに遅れを取るばかりである』

 と、家臣達を説得します。

 それでも、なお反対する者がいましたが……


法的には『勇者様』である早雲公も直正の決定を支持したため、残りの反対者達も、止む無く直正の決定に従いました。


 そして直正はタイタニア界に早雲公を派遣し、タイタニア界と通商条約を結ぼうとします。

 そして信じがたいことではありますが…… このタイタニア界との通商条約は、あっさり締結する事に成功します。

 何故なら、そのタイタニア界側の担当者が……


 後の『たけし第三帝国』総統であり、タイタニアの重鎮達から『秩序を消し飛ばす者』と呼ばれる……キタノ大天使長だったからです。

 彼もまた、当時自分の国の建国資金を蓄えるために、金策に奔走中でありました。

 鍋焼藩とキタノ大天使長……利害が一致した両者は、ここに、手を組む事になりました。


 それは『長坂の戦い』の……21年前の事でした。





姉小路キャスター「タイタニア界との通商条約締結により、密貿易の利を得た鍋焼藩。

密貿易によって巨額の資金を手にした鍋焼藩は…… 来るべきアクロニア王国との決戦にそなえ、技術開発を進めていきます。

そして皆さん…… いよいよ、『その時』がやってくるのであります」



 タイタニア界との密貿易により、鍋焼藩は莫大な利益を手にします。

 そしてその利益を元手に、技術開発を進め……



 その結果鍋焼藩は……



他のどこにもない特殊技術を……



次々と開発していきます。



 そして鍋焼藩の技術革新と、優れた領国経営を目の当たりにし……

周辺諸藩の藩主達が次々と、直正と早雲公の下に教えを請いにやってきます。

 これに対し早雲公は、まず領国経営のやり方について懇切丁寧に教えます。

 早雲公のアドバイスを受けた諸藩の領内では、長年頻発してきた一揆がぴたりと止み……

物価上昇の遠因ともなっていた治安状態も、完璧とは言えないまでも、以前とくらべると見違える程良くなりました。

 長年悩まされてきた『一揆』と『治安』の問題があっさり解決したため……藩主達は一様に、早雲公に感謝します。

 感謝する藩主達に、早雲公は一つお願いをしました。


早雲公「領内の治安の問題や物価の問題を完全に解決する為には…… アクロニア王国より独立し、PK制を完全に廃止する必要があります。

つきましては時が来ましたら、皆様のお力をお借りしたい」

 アクロニア王国からの独立…… それは当時のドミニオン達にとって、神に弓引くのと同義でありました。

 早雲公の言葉に動揺を隠せない藩主達。

 しかし、直正の次の言葉が、決定打となりました。


直正「もし我が藩に手を貸して頂けるのでしたら…… 我が藩の持つ特殊技術、無償にて提供致しましょう」

 その直正の言葉に心動かされ、藩主達は一も二も無く協力を約束します。

 藩主達にしてみればDEMに対する備えの為、鍋焼藩の持つ数々の特殊技術は喉から手が出るほど欲しい物でした。

 それに、当時のアクロニア王国中央政府は大都市の防衛力強化ばかりに気を取られ……

南金平島を始めとした辺境地域の事など、見向きもしなくなっていました。

 このような状況で、藩主達は王国側に付くか鍋焼藩側に付くかは……語るまでもありませんでした。


 しかし、味方となる諸藩が増えたとはいえ、正面きって王国軍と戦うにはまだ、戦力的に不安がありました。

 早雲公はこれを鑑み、直正と味方となった諸藩の藩主達に『時期が来たら指示を出すゆえ、それまでは決して動かないように』と指示を出します。

 直正達は早雲公の言葉に従い、静かに時を待ちました……





そして、その時……

その日、いままで鳴りを潜めていたDEM達が、突如大軍を率い、南金平島の王国出先機関である南州公方を攻撃。

 不意を疲れた南州公方の軍勢は野戦に敗北。 本拠地である長坂城に、篭城しました。

 これに対しDEM達は長坂城を強襲。

 しかし、長坂城はドミ界屈指の名城としてしられた堅固な城。 さしものDEM達も、一日では攻め落とす事が出来ませんでした。

 そしてその夜。 突如、予期せぬ暴風雨が長坂城周辺を襲います。

 突然の暴風雨の襲来に、DEM達は混乱します。

 何故なら、DEMは機械の一種でありますから…… 傷口から水が入ると、その機能に重大な損害を引き起こし……最悪、死に至る事もあります。

 そのため暴風雨下での戦闘は、DEM達にとっては大変不利でありました。

 しかし、彼らには高度な天気予報の技術がある為……常に暴風雨を避けて、ドミニオン達と戦っていました。

 DEM達の予報では今夜は100%晴れであったはずなのに……

 来るはずの無い暴風雨が来た事に、DEM達の電子頭脳はパニックを引き起こします。

 そして……

(※)イメージ
 混乱に陥るDEM軍の背後から、鍋焼藩と諸藩の軍勢が襲い掛かります。

 実はこの暴風雨、鍋焼藩が新たに開発した『人工台風』と呼ばれる代物でした。

 南州公方軍との闘いで疲弊していた事に加え、不利な暴風雨下での戦闘を強いられたDEM軍は……卵を踏み潰すよりも容易に、壊滅してしまいました。


 城に篭る南州公方軍は、鍋焼藩ら諸藩の援軍の活躍に……歓喜します。

 そして大手柄を上げた諸藩軍に対し、城門を開けて出迎えようとします。


直正「……よし」

 この瞬間こそ、直正らが待ち望んでいた瞬間でした。

(※)これもイメージです

 そして次の瞬間、直正らが率いる諸藩軍は雪崩を打って長坂城内へと突入。

 不意を突かれた南州公方軍はさしたる抵抗も出来ぬまま壊滅し…… 一時間もしないうちに、長坂城は陥落しました。


 こうして、南州公方は一夜にして滅亡し…… 南金平島からドミニオン・アクロニア王国の勢力は一掃されたのです。

 それもDEM達では無く……王国にとっては下部組織にすぎなかったはずの、南金平島の諸藩の手によって。




姉小路キャスター「……さてコルネリオさん。 『今日のその時』、どのように歴史を変えたと思いますか?」


コルネリオ(南軍長官)「大きく二つの点が挙げられると思います。

まず一つは味方同士の共食い……すなわち味方同士のPKという異常な事態が、一部地域限定とはいえ解決された事です。

惜しむらくはこの改革が…… ドミニオン界の現在実装されている地域(ウェストフォート周辺)に波及しなかった事でしょう。

もし波及していれば、今日のようにドミ界について非難が殺到している……という事もなかったでしょうに」

姉小路キャスター「そうですか……それで、もう一つの点とは?」

コルネリオ(南軍長官)「ドミニオン・アクロニア王国はやがて崩壊する訳でありますが……

その引き金を引いたのが、『長坂の合戦』かと私は思います。

何故ならこの闘いにより諸藩軍が勝った事でドミニオン・アクロニア王国という存在が絶対では無くなり、その支配体制にガタが来て……

ドミニオン・アクロニア王国の滅亡の遠因になったのだと私は考えます」

姉小路キャスター「なるほど……」



姉小路キャスター「さて、最後に鍋焼直正や早雲公、そしてドミニオン・アクロニア王国の『その後』のエピソードを紹介しながら、お別れしたいと思います。

今夜の見ていただき、ありがとうございました」



 長坂の合戦の直後、直正は『鍋焼閑叟(なべやきかんそう)』と名前を変えます。


 そして、味方となってくれた諸藩に『南州列藩同盟』の建国を提言、全ての藩から賛同を得ます。

 そして、閑叟は諸藩の藩主達から列藩同盟初代盟主に推薦され…… 盟主の座に就きます。

 これが……『南州列藩同盟』とよばれる国家の、始まりでありました。



 この独立行為に対し、当然の事ながらドミニオン・アクロニア王国側は叛乱行為と認定。

 さらに長坂の合戦にて、列藩同盟軍が騙まし討ち的な行為によって南州公方を滅ぼした事は、王国政府によって広く国内に宣伝されており……

アクロニア王国内では、一般市民に至るまで『反列藩同盟』の機運が高まっておりました。

 当然、国を挙げて南州列藩同盟を討伐せんと大軍を派遣する訳ですが……

 これが、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。



 何故なら、討伐軍の出動で手薄になったアクロポリスをDEMの大軍が急襲。 必死の抵抗空しく……首都・アクロポリスは陥落(※)してしまいました。

(※)勿論、このドミ界アクロポリス陥落の流れは、公式設定の物とは異なります

 一般的にはこの時点をもって、ドミニオン・アクロニア王国の滅亡としています。

 残された王国軍の残兵は西のウェストフォートにたてこもり、『レジスタンス』と名乗ってアクロ奪回の機会を狙ったまま……現在に至っています。



 一方の南州列藩同盟。 結成されるや否や即座にPK制度の撤廃を宣言。

 それと併せて、列藩同盟に参加していない、王国寄りの諸藩を次々と屈服させ……1ヶ月もたたないうちに、南金平島の統一を成し遂げました。

 DEM達は何度か列藩同盟にも侵攻してきましたが、王国軍など比較にならない程統制の取れた軍勢と、数々の新技術の前には……

いかなDEM達といえど、敗退を繰り返すばかりでありました。

 ついにはマイマイ島にあるDEM界への出入り口を制圧。 近くにあった川をせき止めてダムを作り、出入り口ごと湖の底へ沈めてしまいました。

 ……こうして『南州列藩同盟』はDEM達との戦いにも勝利し、現在に至っています……























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