日記第30回(5)
アクロポリス地下・豆腐資材置き場
フロースヒルデ「……結構いるわね。DEMの皆さん……
いや、DEMだけじゃなく、ギガントやキラーマシンも沢山……」
目標ポイントに到着した艦長と西院さんは、警護に当るDEM達の群れを目の当たりにし、物陰に隠れて様子を伺っていました。
フロースヒルデ「数はどのくらいいるかしらね…… ええと、DEM(赤)が30体以上……
あと、ガッテンガーやキラーマシーンが……」
西院「戦力構成はDEM−01が30体、ギガントS6が10体、キラーマシンが10体、ガッテンガーが6体……といった所ですね。
それと……」
西院「新型と思われるヒューマノイドタイプのDEMが男女二名ずついます。
恐らくは彼らが、DEM達の指揮官かと」
西院さんはDEMの方を伺う事無く、資材越しに敵方の戦力構成をぴたりと言い当てました。
フロースヒルデ「えっ……」
艦長が物陰から確認してみると、確かに敵の数と西院さんが言った数はピタリと一致していました。
フロースヒルデ「数当ってる…… 物陰から良くわかったわね、西院さん」
西院「……心の目さえしっかり見開いていれば、物陰から敵情を把握する事はさして難しい事ではありません。
もっとも私は目が見えませんから…… この『心眼』を使わないと鉄道員としての仕事に差し支えますが」
元帥「えっ!? 西院さん目が見えなかったの? てっきり細目だとばかり……」
西院「はい。 子供の頃に大病を患ったせいで、この目は光を失ってしまいました。
でも、おばあちゃんが『心眼』の未実装スキルを教えてくれたお陰で…… 今では何も不自由しないで済んでいます。
この『心眼』のお陰で、運転手の資格も取る事が出来たんですよ」
元帥「へぇ……凄いんだね」
感嘆する元帥。
フロースヒルデ「……で、西院さん。このDEM、どうしましょうか?
素直に『次元の隙間を封印させてください』って言っても、聞くような人達じゃなさそうだし……」
西院「そうですね…… と、ちょっと待ってください。
新たなモンスター達が、こちらへ向かってきます」
フロースヒルデ「新たなモンスター達!? DEM達だけでも厄介というのに……
で、西院さん。敵増援の正確な数は分かるかしら?」
西院「アンブレラ・リリカル・ウェンディーがそれぞれ100匹ずつです。
もっとも……」
フロースヒルデ「もっとも?」
西院「傘さん達の敵意は、どうやらDEM達の方に向けられているようです。
理由は定かではありませんが、傘さん達とDEM達との間で、何かトラブルがあったみたいです」
一方、その頃……
アンブレラ系モンスター達「殺戮しか能の無いDEMは、この世からー出てゆけーー!!」
私達(ホワイト達)が艦長が失踪した地点に到着すると、そこには無数のアンブレラ系モンスター達が気勢を上げていました。
大広間には見渡す限りの傘、傘、傘。少なく見積もっても300匹近くはいるでしょうか。
こんな所で不用意に魔法なんか使ったら、待っているのは死、あるのみです(アンブレラ系モンスターは全種類詠唱反応)。
そして、傘達の視線の先にいるのは……
謎の少年「……」
謎の少女「……」
謎の少年少女(恐らくDEM)に率いられた、DEM達の一団です。
ホワイト「傘達がこんなに沢山集まってるなんて、一体何があったんでしょう……」
藪「さあ…… 考えられるとしたら、あそこのDEM達が何か傘達の逆鱗に触れるような真似をした事くらいだろう」
重秀「ちげえねえ、姉貴」
と、私達が物陰でひそひそ語り合っていると……
ノレンガルド「DEMたちはーこのよからーーーでてゆけーー!!」
何と、傘達と一緒になって気勢を上げているノレン君の姿が目に飛び込んできました。
慌てて、ノレン君に手招きをすると……
鴎外「お騒がせして申し訳ないのである、皆様」
ノレン君の代わりに一匹のアンブレラがこっちへ向かってきました。
その声……間違いなくうちで飼っているアンブレラ、鴎外ちゃんです。
藪「おや……誰かと思ったら鴎外君か。 一体どうしたのかね?この状況は」
ホワイト「それに、何でノレン君まで一緒にいるの?」
鴎外「ノレン少年には不測の事態に備えて、救護班として来て貰ったのであるよ。
で、このような状況に至った経緯なのであるが……」
重秀「? このアンブレラは……?」
藪「ああ、こいつはうちで飼っているアンブレラの『鴎外』だ。
鴎外君、彼は弟の重秀。 お世辞にも柄がいい奴とは言えぬが、宜しく頼む」
鴎外「よろしくお願いするのである、重秀殿」
重秀「ああ、こちらこそ。
で、この傘達の大群、一体何なんだ?」
鴎外「それは、であるが……」
声「ああ、鴎外君。 後の説明はわしがしよう。 鴎外君は持ち場に戻ってくれたまえ」
唐突に、第三者の声がしたと思うと……
お髭を生やしたアンブレラが、こちらへ近づいてきました。
鴎外「了解なのであります、長老。 では皆様、我輩はこれにて……」
鴎外ちゃんはそういうと、ノレン君の元へと戻っていきました。
髭を生やしたアンブレラ「皆様、始めまして。 わしはアンブレラの長老。
一応、アンブレラ系モンスター達の長、といった所ですかな」
このお髭のアンブレラ、アンブレラの長老さんだったようです。
アンブレラの長老「皆様の事は、鴎外君より前々から聞いております。
何でも鴎外君らの為に、身内では超兵器狩りを厳しく禁止しているとか……
アンブレラの長として、まずは御礼申し上げます」
ホワイト「いえいえ……」
実は私達フレイヤ乗組員は、鴎外ちゃんと、その妹の一葉ちゃんの事を考え……
アンブレラ系モンスターが沢山でる『超兵器の破壊』クエでの狩り、いわゆる『超兵器狩り』を禁止されています。
長老「で、今回のような状況に至った経緯でありますが……」
長老「昨日……の事でしたかな。 私めの孫が、遺跡の中でいつものように遊んでおりました。
孫が散歩していた区画は一般冒険者には決して立ち入れない区域…… まあ、我々にとっては『安全地帯』というべき場所でした」
長老「しかしその日の夕方……孫は見るも無残な姿で発見されました。
たまたま殺害の一部始終を見ていたマンドラワサビ達の一報により……」
藪「あそこのDEM達が、下手人だという事が判明した訳か」
長老「……はい」
口調こそ穏やかでしたが、長老の心の中には怒りの炎が燃え上がっているようです。
ホワイト「なるほど……長老のお孫さんを殺めたのなら、これだけの傘が集まるのも無理ないわね……」
たしかに、傘さん達の怒りの原因は分かりました。
しかし、怒りの矛先を向けられているDEM達はというと……
謎の少年「ふん…… 弱肉強食は世の常だ……
そんな事も分からないのか? お前達は……」
余裕綽々に、傘達に向けて反論してたりしました。
広間を埋め尽くす傘の群れに、動じている様子は無いようです。
重秀「で、長老さんよ。 これだけの数の傘がいながら、何ですぐに打って出ないんだ?
DEMだって不死身じゃないんだから、数で押せば何とかなるはずだ」
ここで、重秀さんが長老に意見してきました。
長老「その…… 重秀殿は『チャンプDEM』という存在をご存知ですかな?」
重秀「馬鹿にするなよ、そのくらい知ってる。『DEMの中でも極度に性能が強化された奴』だろ?
何でも、そいつらのせいでドミ界アクロニア王国(現レジスタンス)の連中は西へ追いやられたらしいが」
長老「ドミ界アクロニア王国の連中といいましても……重秀殿だってドミニオンでしょうに。
何でまた、そのように他人事のように……」
重秀「……俺はドミニオンだが、国籍はドミニオン・アクロニア王国じゃない。 別の国の出身だ。
最も生まれた国こそ違え、同胞の窮状に胸を痛めていはいるが……」
以前藪先生は、公式設定における『ドミニオン界のアクロニア王国』……今で言う所のレジスタンスとは別の国の出身であると
話してくれた事があります。
それも、『ドミニオン界のアクロニア王国』とは敵対する国家の出身だと……
しかし、レジスタンスをかなり嫌悪していた藪先生とは違い、弟の重秀さんはレジスタンスに対して同胞として同情はしているようです。
ホワイト「で、長老。 そのチャンプDEMが、どうかしたんですか?」
重秀「まさかとは思うが……チャンプDEMが怖くて手が出せないってオチじゃねえだろうな?」
長老「ギクっ……」
重秀さんの突っ込みに、長老はたちまち汗まみれになりました。
重秀「……図星のようだな。 あそこにいるリーダー格のDEMのガキが何で余裕綽々なのか、分かるか?」
長老「分かるか……といわれましても……」
重秀「答えは簡単。 自分達がビビッている事を見透かされているからだ。
それに……」
DEM「……殿下、救援に参りました」
広間の奥の方にあったワープポイントより、新たなDEMが姿を現しました。
どうやら、敵方の救援のようです。
重秀「……増援の用意も、既に済ませているようだ。
放っておくと連中、どんどん数を増やしてくるぞ」
長老「え…… では、我々はどうすれば……!?」
重秀「俺がリーダー格の奴を狙撃する。 それを合図に、皆で一斉に突撃してくれ。
ホワイトや姉貴は遊撃を頼む」
ホワイト「了解です、重秀さん」
私は返事をしましたが……藪先生の返事がありません。
重秀「姉貴め……ちょっと目を離した隙にさっさと行動開始してるとは……
……まあいい。 姉貴が何を考えてるにせよ、一番槍を譲るつもりはない」
重秀「あのDEMのガキは……」
重秀「俺が殺る!!」
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