日記32話(4)
戦闘庭フレイヤ・医務室
藪「全く、貴様という奴は……」
藪「そんな事を長く続けていれば体を壊す事くらい、自称『世界有数のイリスカード研究家』の貴様なら察しがつくだろう」
30分後、我輩達は戦闘庭フレイヤの医務室に集まっていたのである。
そこには、不機嫌オーラ全開の藪先生と……
椿「だって…… お料理作るのとっても面倒くさかったんだもん……」
すっかりブルーになっている椿嬢の姿があったのである。
フロースヒルデ「で、藪先生。 義妹さんが倒れた原因って……何だったんですか?」
藪「結論から言うと栄養失調だ。 彼女……椿は2ヶ月近くも、3食全てカップ麺で済ませていたそうだ。
これでは、今まで倒れなかった方が奇跡と言わざるを得ないよ」
フロースヒルデ「2ヶ月もカップ麺生活…… 私なら頼まれたってやりたくないですね」
藪「そうだな…… それが正常な考え方という奴だ。
な、椿」
椿「うう、ごめんなさい……明姉」
心底申し訳無さそうに謝る椿嬢。
ノレンガルド「で、藪先生。 何で椿ちゃんをうちまで連れてきたの?」
藪「ああ、それなんだが……艦長。 一つ、頼みがあるんだが……いいかな?」
フロースヒルデ「ええ。私に出来ることなら、何なりと」
藪「無理を承知で言うが、彼女…… 椿をこのフレイヤの乗組員にしてやってほしい。
理由は……私自ら、椿の食生活を監視するためだ」
フロースヒルデ「私は構いませんが……」
と、艦長がいいかけた時である。
椿「ちょ、ちょっと待ってよ明姉。 何、本人を無視して話を進めているのさ」
それまでうなだれていた椿嬢が、藪先生に対して食って掛かってきたのである。
椿「ボクはこうみえてもイリスカード研究所のれっきとした正規職員なんだよ。 それにこの庭は見たところ、戦闘庭みたいだし……
戦闘庭の乗組員とイリスカード研究所の仕事……両立できる訳ないじゃない」
藪「犬耳博士からは『定期的に研究レポート送ってくれれば、後はどこで何をしてようと構わない』との承諾は既に得ている。
それに……研究設備ならこの庭にもある。 な、ミュー君」
唐突に部屋の隅にいたミュー機関長に話を振る藪先生。
ミュー「ちょ…… 何でそこであたしに話を振るんだ。
言っとくがこの庭にある研究設備はマシンナリー用の物であって、イリスカードみたいな魔法絡みの物は置いてないぞ」
藪「機材は無くても、機材を置くスペースだったらまだ若干あったはずだ。 犬耳博士に頼めば、古くなった機材の一つや二つは譲ってくれるだろう。
それに…… 違う分野の人間と一緒に研究をすると色々と得る所があると思うが、違うかね?」
ミュー「まあ、確かに……」
藪「という事は、ミュー君は賛成、という事でいいな」
ミュー「まあ、そういう事にしておこう。 だが、何か怪しいそぶりを見せたら追い出すから、その点だけは了承してくれ」
藪「わかった。 もっとも、椿が怪しい真似をしたら私からも修正を加えておくから、安心してくれ」
そして他の乗組員も賛成し、全会一致で椿嬢を乗組員として迎える事になったのである。
その日の深夜・フレイヤ甲板
椿「はぁ…… 流されるままこの庭の乗組員にさせられちゃったけど……
明日から明姉の地獄の『食事療法』が始まると思うと、憂鬱だなぁ……」
?「どうしたのであるか? 椿嬢」
椿「? あ……」
椿「鴎外君か。 どうしたの? 眠れないの?」
鴎外「まあ、そんな所なのである。
それより椿嬢、何だか元気がないようなのであるが、どうしたのであるか?」
椿「明姉ってさ、普通のファーマー系の人と違って『意図的に不味い料理を作れる』特技を持っているんだよ(日記第16話参照)。
明姉の『食事療法』って、栄養はあるんだけど『お仕置き』の意味も兼ねてわざと不味くした料理を毎日出してくるから……」
鴎外「……それについては椿嬢の自業自得、という面もあると思うのであるが……」
椿「ぐにゅ……
……というわけで鴎外君。 ボクに同情しているんだったら、その手に持っている……」
椿「高級フルーツジュースちょうだい」
鴎外「ああ、いいのである」
我輩は手に持っていたジュースを椿嬢に差し出したのである。
椿「ありがとう。 じゃあ、寝る前の一服を……」
椿嬢がそのジュースに口をつけた次の瞬間である。
椿「soiuhroahvn9oreavciewroh!!!!」
人語で表現するのが困難な奇声を発して、椿嬢はその場にのた打ち回ったのである。
鴎外「げ…… やっべーのである。やっちまったのである……」
そして我輩はこの瞬間、自分がとんでもない過ちを犯してしまった事を自覚したのである。
同胞(アンブレラ)を狩った事がある方ならお分かりのように、我らアンブレラは『青汁』をドロップする時があるのである。
これは、我らアンブレラの好物が『青汁』だというのがおおまかな理由であるが……それだけが理由ではないのである。
実は、我々アンブレラと人間との間には、味覚の面において悲しむべき現実が横たわっているのである。
それは……
人間が『美味しい』と思った食べ物はアンブレラにとっては『不味い』と感じ……
逆にアンブレラが『美味しい』と思った食べ物は、人間にとっては『不味い』と感じる……
簡単に言ってしまえば、『味覚が真逆』……といった所なのである(※)。
(※)この一連の設定は当サイトのオリジナルの設定であり、公式設定ではありません。
ともあれ……
鴎外「早い所、藪先生を呼ばないと……」
と、我輩が艦橋に飛び込もうとすると……
藪「私ならここだが」
さっきの悲鳴を聞きつけたのか、当の藪先生がそこはいたのである。
鴎外「あ、藪先生。 我輩のもっていたジュースを飲んでしまった為、椿嬢が……」
藪「ああ、椿については別に命に別状は無い」
藪「君の持っているそのジュース、元々は少ない量で多くの栄養素を摂取するという目的の為に、私が昔開発した代物だからな。
飲んで毒になるような事は無い」
鴎外「そ、そうなのであるか…… それは一安心なのである。
でも、アンブレラの身である我輩がこれを美味しくいただけるという事は……」
藪「ああ。 くどいようだが、そのジュースの開発目的は、あくまで栄養素の摂取『だけ』にある。
したがって……」
藪「味に関する配慮など、何一つなされていないよ」
BACK