日記第33回(2)







ドミニオンドラゴン「うぐぅ…… 見事だ、ニンゲンよ。

約束通り……リザーブスキルの開放を許可しよう」


ミュー「サンキュ。 

とはいっても、今リザーブしているスキルでまともに戦闘で使えるのはロッククラッシャーくらいなもんだが」

ドミニオンドラゴン「汝、その様子だとあまり真面目に鍛冶師としての修行を積んでおらぬようだな。

ここ最近我に挑んできたタタラベ系の者は、その殆どがフレイムハート(ブラックスミスJob50スキル)を持っていたぞ」


ミュー「あたしは機械技師(マシンナリー)が本業だ。 故に、機械技師のJobLvをMAXまでもっていくまでは鍛冶師には浮気しない……

そう、心に誓っているんだ」

ドミニオンドラゴン「ほう。 必須スキルであるフレイムハートを後回しにしてまで、己が信ずる道をひたすら突き進む……

そういうニンゲンは嫌いではないぞ」

ミュー「おだてても何も出ないぞ、ドラゴンさんよ。 最近金欠で出せる物が無いんだ」

ドミニオンドラゴン「ははは。金欠であればやむを得ないか」

 声を立てて笑うドミニオンドラゴン。が、すぐに真顔に戻り、

ドミニオンドラゴン「さて……我はこれから天塔内で暴れているタイタニアドラゴンに修正を加えに行かねばならぬ。

だが、別れる前にこれだけは言っておく」

ミュー「?」

ドミニオンドラゴン「汝も知っての通り、この世界は滅びの道を歩んでいる。

人の力によりそれが回避出来ないのであれば……」


ドミニオンドラゴン「我自らこの世界を破壊し、再生させる……

見せてもらうぞ、この世界の行く末を……」

 そういい残すと、ドミニオンドラゴンは巨大な翼を羽ばたかせて飛んで行ってしまった。



ミュー「さて……ドラさんも行ってしまったし、そろそろ帰るか、カル」


2足歩行ロボ(H・カル)「はい、了解しました」

 パイロットであるミューの命令を受け、『カル』と呼ばれた2足歩行ロボは帰路につこうとする。

 が……


2足歩行ロボ(H・カル)「ミュー、あそこの岩陰にDEMらしき反応あるよ。 どうする?」


ミュー「DEMか…… 反応は何体だ?」

H・カル「1体だけです」

ミュー「1体だけというと、恐らく斥候か何かだろう。 尾行されると面倒だし、ちょっと脅かしてみよう。

カル、走行モードをローラーダッシュモードに切り替えろ。 突っ込むぞ」

H・カル「はい、了解しました」


SE:キュイイイイイイイイイイイン!!

 そう言うなり、『カル』は地面を滑るようにしてダッシュを開始した。

 そして……

SE:バァァン!!

 ダッシュで勢いをつけた『カル』の右腕が岩を殴ると、いとも簡単にその岩は木端微塵になった。


ミュー「動くな! 下手な事をすると次は貴様がこうなるぞ!!」

?「ひっ……」

 大声を上げるミューの目線の先には……


DEMの少女「わ、私に戦闘の意思はありません…… 投降……しますので壊さないでください……」

 涙腺があれば今にも泣き出しそうなDEMの少女がそこにはいた。

 先ほどの『カル』の威嚇『打撃』の前に、戦意を喪失してしまったようだ。


H・カル「ミュー、ターゲットは戦意喪失している模様。 イジメ、いくない」

ミュー「何だよ、カル。 まるであたしが悪者みたいじゃないか。

わかったよ、攻撃しなければいいんだろ?」

 相棒である『カル』に諭され、とりあえず振り上げた拳を下ろすミュー。

 しかし……

ミュー「だが警戒だけは怠らないでくれよ、カル。 いつ何かの拍子に、奇襲して来ないとも限らないからな」

H・カル「はい、了解しました」

 DEMの少女に聞えないように、ミューはカルにそう命じた。




ミュー「さて……落ち着いた所で、まずお前さんの名前を聞こうか」


DEMの少女「……私達DEMには、名前はありません。 識別番号ならありますが……」

ミュー「あ、そういえば前にそんな話をきいた事があったな。 じゃあ、その識別番号でもいいから教えてくれ」

DEMの少女「識別番号DEM-SOL12542…… これが、私の識別番号です」

ミュー「なるほど……

では、もう一つ聞くが……今のお前さんの任務は、偵察か?」

DEMの少女「…………はい」

 黙っていた所で無駄と判断したのか、あっさり自分の任務について話した。

DEMの少女「あの……私からも一つ質問、よろしいでしょうか?」

ミュー「? 何だ?」


DEMの少女「先ほど貴女と話をしていた大きな黒龍が話していた事…… あれは、本当なのでしょうか?」

ミュー「黒龍が話していた事……?」

DEMの少女「ほら……『滅びの道が止められないのであれば、自分がこの世界そのものを壊す……』と」

ミュー「ああ、確かに言っていたな。

そして恐らくこの世界における『滅び』とは…… お前らDEMがこの世界を完全征服した時の事を指すに違いない。

そんな最悪の事態に陥った場合、侵略者であるお前さんたちを世界ごとぶっ壊して、他の世界に戦火が及ぶのを防ぐ……

 まあ、理にはかなっているとは思うから……あたしは、あのドラゴンは本気だと思うがね」

DEMの少女「!!」

 ミューの予測を前に、DEMの少女ははっとした表情を浮かべた……ように見えた。

 が、すぐに平静さを取り戻し、続ける。


DEMの少女「仮に……あの黒龍が本気でこのドミニオン界を壊そうと考えていたとしても…… 実際にそんな事は、可能なのでしょうか?」

ミュー「さあな……そこまではあたしにも分からない。

が、先ほどあのドラゴンとやりあっている時…… ちょっと先方の生体データを採取してみたんだ」

DEMの少女「で……その分析結果は?」

ミュー「帰って詳しく分析してみない事にはなんとも言えないが……

手持ちの機材で分かる範囲だけでも、あのドラゴンは危険な物質を沢山体内に溜め込んでいる事だけはわかった」

DEMの少女「危険な物質……それは?」

ミュー「詳しい説明は、面倒だから省くが……」


ミュー「例えて言えば、あのドラゴンは体内に大陸2〜3個は軽く吹き飛ばせる爆薬を隠し持っている……といえば、理解できるか?

DEMの少女「…… 申し訳ありません。すぐには……理解不能です。

詳細な分析の為にも貴女の持っているデータ…… 私にも、分けていただけないでしょうか?」

ミュー「ああ、いいよ。 ちょっとディスクにデータ落とすから、待っていてくれ」

 数秒の後、ディスクの書き込みが終わる。


ミュー「ほら、これがお望みのデータだ。 このディスクはマイマイ遺跡にあったDEMの残骸から回収して修理したもんだから……

多分、お前らの機材でも読めるだろう」

DEMの少女「そう……ですね。 かなり古いタイプのメディアのようですが、なんとかなると思います」

ミュー「そっか…… じゃああたしはそろそろ帰るから、お前さんも帰っていいぜ。

早く帰って、偵察の任を全うしな」

DEMの少女「え……」


DEMの少女「……よろしいのですか? 私はドミニオン種族はもとより、貴女方エミルの民にとっても敵なのですよ?

それを、あっさり解放するなどと……」

 ミューがあっさり解放してくれたので、DEMの少女は戸惑いながら言った。

ミュー「何。あたしは見た目こそエミルだが……実を言うと『エミル種族そっくりの別種族』だ。

それ以上の事は……恐らく言っても理解出来ないだろう」

DEMの少女「なるほど。そういえば、確かに体温その他の生体データが……通常のエミルの民とは大きく異なっていますね、貴女。

それでは…… そろそろ私は行きますね」

ミュー「ああ。 データの解析、しっかりやっておいてくれよ」


DEMの少女「はい。 それでは、私はこれにて失礼致します」

 DEMの少女は一礼をすると、ミューの元から去っていった。




ミュー「しっかし、随分と礼儀正しいDEMもいたもんだな。

DEMっていうと人を見たら殺そうとしてくる、文字通りの『殺人マシーン』だらけだとおもったが……その認識は改める必要がありそうだな」

 DEMの少女が去った後、ミューは一人呟いた。

?「なあなあミューはん、ちょっとええか」

 唐突に、リュックの中から声がした。

ミュー「? 何だ山吹?」


山吹中佐「DEMに情報べらべらしゃべった挙句、あっさり逃がすなんて…… ミューはんも随分とお人よしになったもんやな」

 リュックの中からネコマタ(山吹)が現れ、自分の意見を述べた。

ミュー「生憎だがこいつは策のうちだ、中佐」

山吹中佐「策のうち?」

ミュー「DEM達だって、あの龍の怒りを買って世界ごと吹き飛びたくは無いだろうから……

あたしが渡したデータをきっかけに、これ以上の侵略行為を止めてくれる可能性がでてくる。

もっとも、DEMの上層部にそういう理知的な判断が出来れば…… の話だが」

山吹中佐「……随分、成功率の低そうな策やな。 DEMたちが先にドミドラを集中攻撃してきたら、どないする?」

ミュー「世界を吹き飛ばせる実力を持つドミドラが、DEM風情に遅れを取るわけが無いだろう。

それに……」


ミュー「少しでも和平の可能性が出てくるのなら、何でも試すのが筋だろ


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