日記第14回
本日の日記担当:S・ミュー
某月某日 惑星マーズ 中央庁舎ビル
S・ミュー「はぁ……やっと終わったか。 それにしても報告会だるいなぁ……」
あたしは今、アクロニア大陸のある惑星から2000光年彼方の本国の首都……惑星マーズにいる。
何でこんな所にいるのかと言うと、あたしの所属している『MPI(マーズ連邦未開惑星調査委員会)』の臨時報告会へ参加する為である。
何でも今度MPIの長官が変り、新任の長官を紹介するついでに、あたしを含めた『未開惑星調査員』同士が調査の進展状況を
新長官に報告する事になった。
報告会自体は15時ごろに終わり、やっとフリーになったのであるが……
たかだか一日だけの報告会のために、ワザワザ2000光年の旅をするのは面倒な事のこの上無い。
それに……
ミュー「あの青二才の新長官…… 厄介な宿題までおしつけてきやがったしな」
そう、新任の長官は就任早々、あたし達未開惑星調査員一人一人に対し、宿題を押し付けてきた。
ミュー「いきなりドミニオンの世界の事調べろって言われてもなぁ…… まあ、期限が無いのが救いといえば救いか」
あたしに課せられた宿題の内容は、ずばり「ドミニオンの世界の事を調査せよ」である。
不幸にもフレイヤの乗組員の中にドミニオンはおらず、また、あたしの正体を明かせる程信頼の置けるドミニオンの友人もいない。
調査うんぬんよりもまず、信頼のおけるドミニオンの知人を作るのが第一の仕事になりそうだ。
しかしただでさえ、ドミニオンという種族は欲望に流され易いと聞く。
なのでそんな信頼のおけるドミニオンがそう簡単に見つかるかどうか、怪しいものがあるが……
ミュー「……まあ、あれこれ悩んでいても仕方が無いか。 さ、どこか喫茶店にでも入ろう」
頭の中のもやもやをひとまず振り払い、あたしは行き着けの喫茶店に行くべく、中央庁舎ビルを後にした。
カフェ『あぜ道』
ウェイトレス「お客様、ご注文の品はお決まりでしょうか?」
ミュー「ああ。じゃあ……」
ミュー「トリプルストロベリーパフェ一つ、貰おうか」
ウェイトレス「かしこまりました。 それでは、メニューをお下げします」
本国に戻ってからの楽しみ、それはパフェの類の物を食す事だ。
別に、アクロニアでパフェを食べてもいいのだが、身内(フレイヤ乗員)に見つかるとなんだか恥ずかしいし……
それに、他のネタブログの奴らに見つかろうものなら、次回更新のネタにされかねない。
なので、パフェの類を食べるのは、身内や他ブログの奴らに発見される危険性の無い、本国でのみ行う事にしている。
ウェイトレス「お待たせいたしました。トリプルストロベリーパフェです」
さて、そうこうしているうちに注文していたパフェが届いた。
ミュー「まってました…… やっぱり本国に戻ったらこれを食さないと、元気がでないからな。
では、いただきます〜」
早速、あたしはパフェにスプーンを付けた。 ……その時である。
女の声「同じ女性として、スイーツが好きな気持ちはわかるが…… あまり食べ過ぎて、太らないようにしたまえよ」
突如、女性の声がしたと思うと……
黒髪のドミニオンの女性が、テーブルの向こう側に座っていた。
見た限り、人間年齢で言うと20代後半のようだ。
ミュー「取りすぎたカロリーは狩りで発散すれば問題ないだろ。
それに…… 糖分を補給する事は、頭の働きをよくするって聞いたことがあるしな」
女性「そうか…… そこまで考えているのなら、それ以上いう事は無いよ。
余計な事を言ってしまったようだね」
ミュー「ああ、言ってしまったさ…… って……」
ここで、あたしは重大かつ、当たり前過ぎる事に気がついた。
ミュー「読者諸兄。 お手数だがもう一度この日記の最初の所を見てもらいたい。
確認してもらいたい事は、今あたしがいる場所だ……」
繰り返し述べるが、ここはアクロニアから2000光年離れた、惑星マーズだ。
当然、タイタニアもドミニオンも、その他インスマウスみたいな少数民族も、この星にただの一人もいない。
はずなのだが……
↑の女性の肩からは、明らかにドミニオンの象徴たる、漆黒の翼が生えている。
その上この画像からはわからないが、ドミニオンの尻尾もしっかりと生えている……
本来ドミニオンなどいるはずもないこの星の喫茶店に、でかい顔をしてくつろいでいるドミニオンの女性……
女性「? 私の顔に、何かついているのかね?」
色々とあたしが悩んでいると、女性の方からあたしに問いかけてきた。
ミュー「いや、別に何もついていないが…… 代りに一つ尋ねたい事がある」
女性「私に答えられることなら、何なりと答えよう」
ミュー「そうか…… で、本題に入るが……」
こ ん な と こ ろ
ミュー「お前、どうやって惑星マーズまで来た?」
女性「ははは…… どうやっても何も、君の所属している組織……『MPI』の人に頼んでここまで連れてきてもらったのだよ」
あたしたち
ミュー「頼んでつれ来てもらってって…… アクロニア沖にあるMPIの秘密基地の場所、どうして分かった?
それに、秘密基地の場所を突き止めたとしても…… そう簡単に、見知らぬドミニオンを本国へ連れてゆく訳が……」
女性「私の自家用飛空庭が、嵐で難破してしまってね。 気がついた時にはアクロニア南方の絶海の孤島……
つまり、君らMPIの秘密基地がある島にいたんだ。
その際、例の秘密基地の駐在員に救助されてね。 何週間か、その基地の医療スタッフの手伝いをさせてもらった」
ミュー「医療チームの手伝い……って事はお前さん、医者か?」
女性「ああ、その通りだよ。
で、話を元に戻すと、その基地の司令官に『貴国の医療技術を学びたい』と申し出たら、特別に先方から許可が下りてね。
で、ここまで連れてきてもらい、現在に至る……
大体、こんな所かな」
ミュー「そっか……本国が許可を…… しかし、そんな許可よく下りたな」
女性「何、アクロニア特有の感染症の治療法をいくつか提供したら……先方は大喜びしてくれたからね。
恐らく、その辺りの功績が認められたのだと思う」
ミュー「治療法の提供か…… まあ、医者が本国政府に取り入るには、それが一番だわな」
女性「私は別に、この国の政府に取り入るつもりで治療法を提供した訳で無いのだがね。
……っと、話は飛ぶが、君の名前も知っているよ。ミュー=コンプスン……通称スクラップ=ミュー君。
前々から各所のブログでその名は聞いていたが…… 実際に会えて嬉しいよ」
ミュー「おだてても何もでないぞ。 ……っと、あんた。いい加減名前名乗ったらどうだい?
あんたがあたしの名前を知っていて、あたしがあんたの名前を知らないってのは、どう考えても不公平だろうが」
女性「おっと、これは失敬……」
女性「私の名前は藪(やぶ) 明子。 エミルの世界ではファーマーをやっているが、本業は医学博士だ。
まあ、フルネームや下の名前で呼ばれるのは好きじゃないから、Dr・藪(やぶ)とでも呼んでくれたまえ」
ミュー「Dr・藪ねぇ…… 苗字からして、医者に不似合いだな……」
彼女が仮に開業した場合、その看板には十中八九・『藪医院』の文字が躍る事になる。
診療所の名前として、これ以上不吉な代物は無いだろう。
Dr・藪「良く言われるよ。 で、ミュー君。私は君に用事があって、このたび接触したのだが……」
ミュー「あたしに用って……一体なんだ?」
Dr・藪「君は、最近アクロニアで売り出し中の戦闘飛空庭『フレイヤ』の機関長をしているようだね」
ミュー「……前置きはいい。 用事の内容だけ話せ」
Dr・藪「これは失敬。 ……私をその『フレイヤ』の軍医として、働かせてはもらえないだろうか?」
ミュー「軍医……ねぇ」
実の所、フレイヤに軍医が欲しいとはあたしも艦長のフロースも前々から思っていた。
思ってはいるが、フロースはどうだか分からないが、あたしは信頼の置けない奴を軍医として雇うつもりは毛頭無い。
それに……まだあたしは、目の前のドミニオンの医師を、完全に信用した訳じゃない。
Dr・藪「ちなみに、私の履歴書はこれだ。 確認してくれたまえ」
こちらが要求してもいないのに、彼女は履歴書を差し出した。
とりあえず受け取れるだけ受け取って、中身を改めてみた。
ミュー「ふむ…… ドミニオン大学医学部首席卒業か……
あたしはドミニオンの世界の事にはからきしだから、この大学がどの程度の所なのか、見当も付かないが……」
Dr・藪「この国で言うところのマーズ総合大学、日本で言うところの東京大学みたいな所だと思ってくれれば、問題無いだろう。
ちなみに在学中、このサイトの執事。君らしき男と一緒のゼミにいた事がある。
本人なのか、そっくりさんなのかは分からないが…… その男は『執事学部』にいた事だけは確かだったから、本物の可能性が高いと思う」
ミュー「執事。さんと一緒のゼミねぇ…… て事はお前さん、あのおっさんと年が近いのか?」
Dr・藪「生憎、私は30歳は越えていない。 故に、彼よりは年下であることだけは断言しておこう」
ミュー「そうか……。 まあ、そんなことはどうでもいいか。
東大やマーズ総合大学クラスのエリート校を首席卒業とはたいしたもんだが……
一つ言っておくが、高学歴だからって、『フレイヤ』の採用が有利に働くとは思うなよ」
Dr・藪「そうか……」
表情一つ変えず、Dr・藪なる医師は答えた。
ミュー「そもそもお前、なんでフレイヤの軍医になりたいと思ったんだ?
これだけの高学歴なら、他に就職口はいくらでもあるだろうが」
Dr・藪「その理由は簡単だよ、ミュー君」
Dr・藪「平時の軍用庭の軍医ほど、楽な部署は無いと思ってね」
堂々と、藪は自分の本心をひけらかした。
ミュー「……いきなり本音をぶつけてくるとはな。 度胸があるというか何というか……」
Dr・藪「君がさっきから疑り深そうな目でこっちを見ていたからね。 こちらも本音を直球ストレートで投げてみただけの事さ。
建前をグタグタ言ってお茶を濁すのは、返って失礼だと思ったからね」
ミュー「まあ、それは確かにな……」
Dr・藪「それに……私は医術だけでなく、料理にも自信がある。
試みに問うが…… フレイヤの食事事情は、どんな具合かね?」
ミュー「う……」
正直言って、今の『フレイヤ』の料理事情は、良いとは言えない。
料理は当番制ではあるが、ウルネは料理が下手だし(しかし、上手くなろうと努力はしている)、フロースに至っては……
カレーの材料でこんな代物を作ってしまうくらい、破滅的な料理の腕前を誇っている(最近では、元帥に厨房の出入りすら禁止されている)。
かくいうあたしも、料理なんかしている時間が惜しいので、当番の時は材料を食料品店のおばあさんに丸投げして作ってもらっている……
という有様である。
Dr・藪「……その様子だと、あまり状況は良くないようだね」
そんな状況をうすうす察したのか、藪が口を開いた。
Dr・藪「……医師として一つ忠告しておくが、余り日々の食事の事を軽く見ない方がいい。
いざという時力がでなかったり、生活習慣病にもなりかねんからな」
ミュー「……」
藪の厳しい指摘に、流石のあたしも反論する事はできなかった。
それにしても、雇う側のあたしの方が立場的には上なのに、それに怯む事無く指摘すべき点は指摘してくるとは……
信用できるかどうかはともかく、少なくともその度胸だけはこちらも認めざるを得ない。
Dr・藪「それにミュー君。これは君の上官から聞いたのだが……
どうも君は、ドミニオンの世界の事を調べろと命じられているようだが」
ミュー「……そうだが」
Dr・藪「私で良ければ、その調査に協力してもいい。
ただし…… フレイヤの軍医にしてくれるという条件が付くが」
ミュー「そうか……それはありがたいんだが…… しかし……」
Dr・藪「? まだ何かあるのかね?」
ミュー「まだあたしは、あんたのことを完全に信用した訳じゃない。
これからあたしはアクロニアに戻って、向こうに残してきた仕事をこなす予定だが…… 藪、あんたにもその仕事を手伝ってもらおう」
Dr・藪「その仕事の中身は?」
ミュー「詳しい内容は、向こうについてから話す。 そこで、あんたが信用するに足る人物かどうか、試させてもらうぞ」
Dr・藪「つまり、その仕事で私が信用できると判断されれば……『フレイヤ』の軍医として採用という事かね?」
ミュー「ああ、その通りだ」
ミュー「お前がフレイヤの軍医に相応しい器かどうか、証明してみせろ」
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