日記第24回

本日の日記担当:鴎外

某月某日 南軍詰所


ジークウルネ「守衛さん。 空大佐とキンメル(ウェンディー)の身柄、確かにお渡ししました」


南軍長官室守衛「ご苦労様でした。 裁判の結果につきましては、追ってそちらに連絡します」


鴎外「手加減は無用であるよ、守衛殿。 二名にはきつく、お仕置きをしておいて欲しいのである」

守衛「ああ、了解だよアンブレラ……いや、鴎外君」

 ……我輩はアンブレラである。 名前はこの間までは無かったのであるが、先日、我輩の飼い主である……


ノレン少年に、『鴎外』なる大層な名前を付けられたのである。

 そして今、我輩はノレン少年と、ウルネ嬢と一緒に南軍詰所にいるのである。

 何でも、今頃になって先の海賊事件の主犯、空大佐と側近のキンメルの身柄引き渡しを騎士団が求めてきたので……

藪殿の庭でタダ働きしていた二人(二匹?)を、ここまで連行して来たのである。



ジークウルネ「さて……私達はそろそろお暇しますね。 ……ノレン、帰るわよ」

 ウルネ嬢はノレン少年に、帰宅を促したのであるが……


ノレンガルド「いや、ジークお姉ちゃんは先に帰ってて。 僕はちょっと習い事があるから……」

ジークウルネ「習い事…… そういえばこのごろ、軍属でも無いのによくこの南軍詰所に通い詰めているみたいだけど……

一体何の『習い事』しているの?ノレン?」

 どうやら、ウルネ嬢はノレン少年の『習い事』に関しては、何も知らないようである。

 もっとも、いつもノレン少年にくっついている我輩は、その『習い事』の中身を既に知っているのであるが。


守衛「それについては私から説明しよう。ウルネ君」

 ウルネ嬢の質問に、守衛殿が答えてきたのである。

守衛「実は君の姉、フロースヒルデ君に個人的に頼まれてね。 以前からノレン君に、私が個人的に習得している『未実装スキル』を伝授していたんだ」

ジークウルネ「未実装スキルですか……」

守衛「もっとも未実装スキルとは言っても、このスキルは派手な攻撃系のスキルという訳では無い。

しかし、場合によっては下手な攻撃系未実装スキルよりも役に立つスキルである事も、また確かだ」


ジークウルネ「なるほど…… で、その未実装スキル、結局の所何なのですか?」

守衛「その未実装スキルの名は……『維新嵐流説得術』、と呼ばれる物だ

その名の通り、攻撃よりもむしろ、相手を説き伏せる為に使用するスキルだ」

ジークウルネ「維新嵐流説得術……随分と凄い名前のスキルですね。

でも、守衛さんが未実装スキル持ちだったなんて……」

 プレイヤーキャラ(冒険者)の未実装スキル持ちは、近頃色々な所にいるのであるが、守衛殿のように未実装スキルを持った

NPCというのは極めて稀な存在である。


守衛「今、長官が不在だから言えるのだが…… 我らが長官はお世辞にも有能とはいえず、各サイトでネタにされまくっている有様だからね。

そこで、我々臣下の者が未実装スキルを習得するなりして、その辺の穴を埋めていかねば…… 極端な話、南軍の軍組織を維持できないんだ」

ジークウルネ「なるほど…… 守衛さんも影で色々と努力しているんですね」

守衛「ありがとう、ウルネ君。

……ウルネ君も良かったら、『維新嵐流説得術』の講義、聞いていくといい。 ああ勿論、お代は要らないよ」

ジークウルネ「あ、はい。 ではお言葉に甘えさせていただきます」

守衛「じゃあウルネ君、ノレン君……それに鴎外君。 今日の講義を始めよう。

今日は初心者のウルネ君もいるから…… 『維新嵐流説得術』とはどういうスキルかという所から始めようか」

一同「はい」

守衛「……そもそも、維新嵐流説得術というものはだ……



(※イメージ画像)

守衛「幕末の動乱期に活躍した、坂本竜馬等の維新志士や、徳川幕府の要人達が使い出した説得術の事だ。

その説得術の極意を一言で言うなれば……」


守衛「Enterキー連打で『気迫』を溜め、相手を圧倒する事にある

基本的には、維新嵐流説得術は、『気迫で相手を圧倒して説得する』スキルと考えればOKだ」


ジークウルネ「……要するに、気迫でのゴリ押しをメインとする説得術なのですね、その『維新嵐説得術』というのは」

守衛「ああ、その通りだ。 もっとも、他にも細かい要素はあるのだが……

詳しい事が知りたかったら、グーグルで『維新の嵐』で検索してみるといい」

ジークウルネ「はい…… でも、ノレンにはあんまり向いて無さそうなスキルですね……

ノレン、あまり気迫とかそう言うのには無縁ですからね……」

守衛「まあ、確かにそうだが……

だが維新嵐流説得術では、気迫の代わりのなりそうな物なら、何でもEnterキーで溜める事が出来る。

例えば……」


守衛「魔王ルベリエであれば『カオス』……」


守衛「れふぁ嬢であれば『ぴゅあぱわー』といった具合だ。

要するに、『説得の場において相手を圧倒できる物』であれば、何でもEnterキーで溜める事が出来るのが、

この維新嵐流説得術一番の長所という訳だ。

もっとも、この説得術の開祖である幕末の志士達は、ほぼ例外なく『気迫』で相手を圧倒していたようだがね」


ジークウルネ「なるほど…… この画像を見る限り、ルベリエさんやれふぁさんも、この説得術を使えるのですか?」

守衛「いや、恐らく使えないだろう。

上で用意した画像は、あくまで彼女達が『維新嵐流説得術』をマスターしていると仮定した上で、合成した代物だ。

実際は余程のナウヤング(※)でも無い限り、この説得術の存在すら知らないと思う」

(※)ナウヤング:中の人が一昔前のアニメやゲームに精通しているプレイヤーキャラの事。 他サイトの人だと一族等が有名。

ジークルウネ「ほむ……」


守衛「さて……講義はここまでだ。 これより、実技演習に入ろう

ではノレン君、今日の課題を言い渡そう」

ノレンガルド「は〜い、先生。 で、今日は何をやればいいの?」

守衛「今日の課題は……だ」


守衛「ダウンタウンにいる、この三姉妹の事は知っているかな?」

ノレンガルド「いや……知らないよ。 誰なの?この人たち?」


鴎外「触媒三姉妹……と呼ばれる者達と聞いた事があるのである。

確かよく分からない理由で売り惜しみをして、他の冒険者からひんしゅくを買っているとか……」

守衛「その通りだ。 今回の課題はこの触媒三姉妹を説得して、彼女らしか扱っていない商品を買ってくる事だ。

相手は商人だが、『維新嵐流説得術』を持ってすれば十分、説得できる相手だ」


ノレンガルド「うん、わかったよ、先生。 じゃあ、早速行ってくるね。

鴎外、行こうか」

鴎外「了解、なのである。 ウルネ嬢は、どうするのであるか?」


ジークウルネ「もちろん、一緒にいくわ。 ノレン、また何かやらかしそうで心配だから……」

鴎外「了解、なのである。 それでは守衛殿、行ってくるのである」

守衛「ああ、いってらっしゃい」

 我輩達は守衛殿に別れを告げると、ダウンタウンに向けて進発したのである。



ダウンタウン


ノレンガルド「こんにちわ〜 お姉さん達」

 現地につくなり、ノレン少年は何の遠慮も無しに例の『触媒三姉妹』の一人に声をかけた。

 我輩の目にはノレン少年の足元に何やら謎のゲージが見えるのあるが…… このゲージが何なのかは、今は語る時では無いのである。


触媒三姉妹次女・シルバー「おや、いらっしゃいであります」

 応対したのは三姉妹の次女である、シルバーなる女性。

ノレンガルド「お姉さん達はここで何やってるの? 見た所、商人さんみたいだけど……」

 知っていてわざと言っているのか、それとも目の前の触媒三姉妹がどこの何者かである事をすっかり忘れているのか、

ベーシックな質問を、ノレン少年はシルバー女史に問いかけた。

シルバー「ああ、我々は触媒三姉妹。 マーチャントギルドから派遣されてきた者であります」


ノレンガルド「ふーん、そうなんだ。 で、ここでは何を売っているの?」

 ノレン少年は、シルバー女史に再び問いかける。 足元の謎のゲージは、もうすぐ一杯になりそうなのである。

シルバー「トレーダーのスキル『コネクション』を持っている人に、触媒アイテムを超特価でお売りするのが、我々の使命であります。

見たところ、君はドルイドみたいでありますから…… 申し訳ないでありますが、お売りする事ができな……」

 と、シルバー女史がいいかけた時なのである。



 ノレン少年の足元にあった謎のゲージがMAXになり、そして次の瞬間には……



復唱:シルバーは、ノレンガルドのボケに圧倒されている……


ジークウルネ「!!

 余りの理解不能な光景に、付き添いのウルネ嬢は凍りついてしまったのである。

 もっとも、我輩は以前にも何度かノレン少年の説得シーンに付き合っているので、それ程驚いてはいないのである。

 ノレン少年は『維新嵐流説得術』を用いて相手を説得する際、気迫よりも持ち前の『ボケ』をEnterキーで溜めて、相手を圧倒することが多いのである。

 さっきからノレン少年の足元にあった謎のゲージは、その『ボケ』のたまり具合を表したゲージなのである。

 ちなみに、『ボケに圧倒される』シーンというのが具体的にはどんな光景なのかは……

 我輩の文才ではとても描写不能であるため、申し訳ないが読者の皆様方の脳内で、各自想像して欲しいのである。


シルバー「ま、参ったのであります…… 本当はいけないのでありますが、特別にお売りするのであります……」

 そうこうしているうちに、シルバー女史が降伏宣言してきたのである。

 が……


触媒三姉妹長女・プラチナ「ちょっと待ちなさい!シルバー!!

コネクションを持ってない人にあたし達の商品を売るのは、マーチャントギルドの掟に触れる行為だよ!」

 突如として、隣にいた触媒三姉妹の長女・プラチナ女史が待ったをかけてきた。

シルバー「でも……お言葉ですがプラチナ姉さま。 我々マーチャントは、お客様あっての職業なのであります。

我々の商品を買いたいと言ってきた人に、物を売り惜しみするのはいかがなものかと……」

プラチナ「それはそうだけど…… でも、規則は規則!  苦労して『コネクション』を習得した同志(トレーダー)の気持ちも考えてみなさい!」

 シルバー女史とプラチナ女史との間で、口論が始まったのである。

 しかし、その口論の為にノレン少年に時間を与えてしまった事が、プラチナ女史の命取りとなってしまったのである。


 口論している間に、ノレン少年はEnterキー連打で『ボケ』ゲージを再びMAXに持って行き……



 プラチナ女史もまた、ノレン少年の『ボケ攻撃』の餌食になってしまったのである。


プラチナ「参ったわ…… 君、マーチャントでも無いくせに中々口達者ね……」

 そしてプラチナ女史も、降参してきたのである。

プラチナ「だけど、いくら私とシルバーを説得しても…… 翡翠が納得しなきゃ、他職の君に商品を売る訳にはいかないのよ。

という訳で翡翠、後はよろしく」

 というなり、プラチナ女史は隣にいた女性に話を振った。


触媒三姉妹3女・翡翠「姉達次々と説き伏せるとは……貴方、他職の方にしては中々やりますね。

あ、申し遅れました。 私は触媒三姉妹の三女・翡翠(ひすい)と申します。 以後お見知りおきください」



ノレンガルド「僕の名前はノレンガルド=リュッチェンスだよ〜。 よろしくね、翡翠さん」

 まるで同級生に自己紹介するような口ぶりで、ノレン少年は挨拶したのである。

 もちろん、決戦に備えて『ボケ』ゲージを溜める事も、忘れてはいない。


翡翠「その無理やり相手を丸め込む手口から見て……貴方、『維新嵐流説得術』の使い手ですね」

 一方の翡翠女史は、唐突にノレン少年の使った未実装スキルを見破ってきたのである。

ノレンガルド「え? 何でわかったの?」

翡翠「私も商売人の端くれですから、各種の説得術についての知識はあります。

しかし『維新嵐流説得術』の欠点の一つに、一回の説得で大量の体力(ECO流に言うとSP)を使う点が挙げられるそうです。

しかも一度この説得術を使うと、3時間の間街中でもSPが自動回復せず……

そしてそのSPの消費の激しさゆえ、余程のVIT極の方でも、一日三回使うのが限度であるとか……」

 まるで『今の貴方に、私を説き伏せるだけの体力(SP)は残っていないでしょう!』とでもいいたげな翡翠女史である。

 ノレン少年はSU系職業ゆえ、もう維新嵐流説得術を使えるだけのSPが残っていない、と判断されたのであろう。

 が、しかしである。


ノレンガルド「ほ〜り〜ふぇざ〜〜

 恐ろしく気の抜けるボイスと共に、ノレン少年はドルイドのスキル『ホーリーフェザー』を放った。

 ホーリーフェザーを使えばMPやSPが自動自動回復出来るので、いくらでも『維新嵐流説得術』を使う事が出来る……という事なのである。

 ノレン少年、ああ見えて中々頭がキレるのである。


翡翠「!!

 そして、ノレン少年の脱力ボイスは、翡翠女史を怯ませるのに十分過ぎる威力があったようなのである。

 そして、その隙に……



 最後の砦、翡翠女史もまた、ノレン少年の『ボケ』の前に膝を屈してしまったのである。




翡翠「……参りました、ノレンガルド様。 我々の負けです。

ノレンガルド様をスキル『コネクション』を所持したトレーダーと同等の実力者と認め、我々が扱う商品をお売りします」

 ついに翡翠女史も、商品を売ってくれる事を承諾してくれたのである。



ノレンガルド「わ〜い! ありがとう!翡翠お姉さん」

 ノレン少年の方も、目的を達成して嬉しそうなのである。


翡翠「しかしこれだけの説得能力をお持ちでしたら、トレーダーとしても十分通用するでしょうに……

どうして、マーチャント系職業に就かなかったのでしょうか? ノレンガルド様」

 翡翠女史が、ノレン少年に質問をしてきた。 その説得の才、マーチャント系職業でこそ生きたのに……とでも言いたげな目つきなのである


ジークウルネ「……それは私も気になっていたわ。 ノレン、経理の資格持っているんだったら……

無理にウァテスにならなくても、マーチャントになっても良かったのに……」

 ようやく凍結状態が解けたウルネ嬢も、同じ主旨の質問をノレン少年に質問をした。

 確かにノレン少年は、見た目からは想像も付かないが、戦闘庭『フレイヤ』の経理・補給を担当している。

 経理の才があるのであれば、マーチャント系職に就くのが一番良いという事は、アンブレラの我輩でさえ理解出来るのである。


ノレンガルド「うんとね、マーチャントギルドにはね…… 実は天界から降りてきてすぐに説明聞きに言ったんだ」

翡翠「なるほど…… ということは当初は、マーチャントになる意志があったと」

ノレンガルド「うん。 けど、あそこにいたマーチャントマスターに『タイタニアは商人には向かない』って言われたから……諦めたんだ」


シルバー「何と…… あのヒゲデブ……もといマーチャントマスターの言葉を真に受けてしまったのでありますか……

実際、商人に向いてないとされるタイタニアやドミニオンでも、商人として立派にやっていっている者は沢山いるでありますのに……」

 本当に残念そうな表情で、シルバー殿は言った。


プラチナ「で、ノレン君はどうして、数ある職業の中からウァテス系職業を選んだの?

良かったら、聞かせてくれないかしら?」

ノレンガルド「うーん…… 何で選んだと言われても……上手く答えられないよ……

まあ、理由を強いて言うなら……」


ノレンガルド「『せっかくだから』、かな

    
ノレン以外の全員「!!





 『せっかくだから』で進路を決めるな!!

 ……我輩を含むこの場にいた全員がそう思うと同時に、凍結状態に陥ったのは言うまでも無いのである。



                       後編へ続く


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