31話(3)


藪の庭


フロースヒルデ「はあ……美味しかった。 ご馳走様でした、藪先生」

 西院さんが帰った後、私達は夕食の残りをぺろりと平らげました。

ジークウルネ「藪先生。美味しいお料理、どうもありがとうございました」

藪「何、礼には及ばんよ。 ……とそうだ。 あんみつの残り物があるんだが……

良かったらどうかね?」

フロース&ウルネ「はい!喜んで!!」

藪「了解だ。 じゃあちょっと準備してくるから、ちょっと待っていてくれ」

 食後のデザートの準備の為に、藪先生は奥の調理場に行ってしまいました。


ジークウルネ「姉さん。 その……」

フロースヒルデ「? どうしたの?ジーク。 何か言いたい事でもあるの?」

ジークウルネ「西院さん、二次職になれなくて可愛そうだな……と思っていたんです。

言うまでも無い事ですが、私達冒険者は2次職になれないと世間から一人前とはみなされません。

例え……ワサビを1確出来る程の魔力を持っていたとしても……」

フロースヒルデ「それで、私達に何か出来ないか…… ジークはそう言いたい訳ね」

ジークウルネ「えっ…… そ、そうですけど……良くわかりましたね、姉さん」

フロースヒルデ「私も伊達に、何年もジークのお姉さんやってるわけじゃないわ。

故に、ジークの考えそうな事はある程度は予想が付くわよ」

ジークウルネ「なる……」

フロースヒルデ「ジークの気持ちは、私にも良くわかるわ。

でもねジーク。 貴女は一つ、重大な点を見落としている」

ジークウルネ「重大な点? それは……」


フロースヒルデ「西院さんの本業は、冒険者では無く鉄道員(ぽっぽや)なの。

つまり無理して2次職にならなくても鉄道員の仕事を頑張れば、世間から一人前とみなされるようになる事は可能なのよ。

それに……」

ジークウルネ「それに?」

フロースヒルデ「そもそも西院さんが2次職転職を本気で志望しているのか、まだ確認が取れてないわ。

本人が望んでもいないのに2次職転職を私達がバックアップしても…… それは本人にとって迷惑以外の何物でも無いわ」

ジークウルネ「そうでした…… 確かに、本人の意思をまだ確認していませんでしたね」


ジークウルネ「……とりあえず今度あの人に会ったら、転職の意志があるか確認してみる事にします」

フロースヒルデ「それがいいわ。 その後どうするかは、その時考えましょ」

藪(今日会ったばかりの人間にそこまで世話を焼こうとするとは……ウルネ君も随分と物好きだな。

だが……)


藪(嫌いではないな、そういうのは……)



一週間後……


ノーザンプロムナード・大導師邸前


ジークウルネ「ここよノレン。スキルリセットが出来る場所は」

ノレンガルド「なるほど、ここでスキルリセットができるのかぁ…… 案内してくれてありがとう、ジークお姉ちゃん」

 私はノレンを連れて、大導師様の家にやってきました。

 といっても大した用事では無く、ノレンにスキルリセットを行う場所を案内しに来ただけなのですが。

 と、そこへ……


ジークウルネ「あれ……西院さんじゃないですか?」

 大導師様の家から出てきた西院さんに、ばったりでくわしました。

西院「あ……ウルネ様。 珍しい所でお会いしますね」

ジークウルネ「そうですね…… あ、この男の子は私の弟のノレンガルドといいます。

ノレン、この人は私の友達の天神川 西院さんよ」


ノレンガルド「よろしくね〜 って、あれ? お姉さんって、前にも会った事無かったっけ?

 そう、たしかこの時に……」

西院「ええ。 声を聞く限り、貴方はあの時のドルイドの男の子のようですね

お久しぶりです、ノレン様」

ノレンガルド「お久しぶりです〜」


ジークウルネ「へぇ……ノレンとも出会っていたなんて……以外と顔が広いんですね、西院さんって」

西院「いえ……藪先生程ではないですよ。 だってあの人、色々な所に知り合いがいるじゃないですか。

スカウトマスターしかり、モーグのファイターギルドの人しかり……」

ジークウルネ「確かにそうですね……」

西院「あ、そうだ。 皆さんは、今時間空いてますでしょうか?」

ジークウルネ「空いている事は空いていますけど……どうしたんですか?」


西院「装備購入の為にノーザンダンジョンに行きたいのですが、流石に一人だと不安なので……

一緒に来ていただけないでしょうか?」

ジークウルネ「私はいいですよ。 ただ、これからノレンのスキルリセットをしないといけないので……

それが終わったら行きましょう」

西院「はい。 では、先にPTを組んでしまいましょう」

 そうして、西院さんは私達をPTに誘いました。

ノレンガルド「? あれ?」

 そしてPTを組んだ途端、ノレンが疑問の声を上げました。

ジークウルネ「? どうしたの?ノレン?」

ノレンガルド「西院さんって、Job50になっていたんだね。 転職とかしないの?」

ジークウルネ「Job50!?そんな馬鹿な……」


 PTリストを見ると、確かに西院さんのJobLvは50になっていました。

 Job25の時にJob経験値がもらえなくなった西院さんのJobLvが、一週間でここまで上がるなんて……

西院「あの……どうかなさいましたか?」

 怪訝な表情で私達に問いかける西院さん


ジークウルネ「西院さん、この間Job25でJob経験値がもらえなくなったって言ってたけど……

もらえるようになったみたいでよかったですね。 これで、念願だったエレメンタラー転職も出来ますね」

 お祝いの言葉を西院さんにかける私でしたが……

西院「ちょ、ちょっと待ってください……ウルネさん。 何か、誤解があるようですが……」

 西院さんは何故か、とても困惑した表情を浮かべました。

ジークウルネ「えっ……!? でも、今パーティリストを見たら、西院さんのJobLvが50に……」

西院「も、申し訳ありませんがウルネさん。 JobLvの横……職業欄の所をご確認ください。

それで、ウルネさんの誤解も解けるかと」

ジークウルネ「職業欄……」

 言われるままに、パーティリストの職業欄に私は目を通しました。


ジークウルネ「あっ!」

西院さんの職業欄の所には、シャーマンではなく『鉄道員』の文字が躍っていました。

西院「『鉄道員』は庭師やブリーダーと同じ、『ジョイントJob』の一種なんです。

また『鉄道員』は通常のMobを倒しても、一切Job経験値がもらえません」

ジークウルネ「……じゃあ、どうやって鉄道員さんはJob経験値をもらえるのですか?」


西院「鉄道員は一日の職務を無事故で終えたり、列車レースで勝利したり……

要するに『鉄道に関する事』をこなす事によって始めてJob経験値が得られる職業です。

逆に事故を起こしたりするとデスペナならぬ『事故ペナ』をもらって、Job経験値が減ってしまいますが……」

ジークウルネ「なるほど…… 強いMobを倒せる冒険者が、優秀な鉄道員であるとは限りませんからね……」

西院「ええ。 私にかけられた呪いはどうやらジョイントJobには無効だったみたいで……ついこの間、Job50に達する事ができました」

ジークウルネ「そうだったんですか…… ジョイントJob50到達、おめでとうございます」

西院「ありがとうございます、ウルネさん。

さて皆様。ここで長々と立ち話も何ですし、そろそろ駅に向かいませんか?」

ジークウルネ「駅って……ああ、そうだったわ」

(←クリックすると拡大画像表示します)
ジークウルネ「確かこのノーザンにも、西院さんの会社(開急)の駅があるんでしたよね」

西院「はい。通常ですとここからノーザンDに行くには、山脈を大きく迂回しなくてはなりませんが……

上の画像を見ていただければ分かりますように、当社線を利用すれば一駅ですよ」

ジークウルネ「なるほど…… 時代は随分と便利になりましたね……

とそうだ。 西院さんに一つ、確認したい事があったんだ」

西院「はい……何でしょうか?」


ジークウルネ「西院さん…… エレメンタラーになりたいと思っていますか?」

 ここで私は、西院さんにあったら一番聞きたいと思っていた事を口にしました。

西院「本心を言えば、エレメンタラーにはなりたいですし…… 何より、あの巫女服も着てみたいです……

でもそれが叶わぬ夢である事は、以前申し上げたと思いますが……」

 そして西院さんは、冴えない表情で私の質問に答えました。

ジークウルネ「でもJobLvが上げれなれない症状って、確か何かの『呪い』って、西院さんのおばあちゃんから聞きました。

呪いさえ解ければ道は開けるのだから…… 『叶わぬ夢』だなんて諦めるのは良くないですよ」

西院「ウルネさん…… でも私にかかっている呪いは、革新的な治療魔法が開発されない限りは解除は難しい物だと……」


ジークウルネ「それでも、可能性が0という訳じゃ無いんでしょ!?

1%でも可能性があれば、諦めては駄目です!」

 興奮して、最後は怒鳴ってしまいました。

西院「すみません…… なんだかネガティブな事を言ってしまって。

……今すぐにとはいかないかもしれませんが、エレメンタラー転職、目指してみる事にします」

 しかし最後に怒鳴ったのが功を奏したのか、西院さんは転職に前向きになってくれたみたいです。

ジークウルネ「いえいえ…… 私の方も興奮してしまってごめんなさい。

さ、そろそろノーザンDに行きましょうか」

 と、歩き始めたその時です。


ノレンガルド「あの……お姉さん。 転職の事なんだけど……」

 それまで黙っていたノレンが、西院さんに話しかけてきました。

西院「どうしました? ノレン様」

ノレンガルド「ジョイントJobって、確か胸アクセサリー付ければ転職出来る職業だよね」

西院「え、ええ…… 」

ノレンガルド「で、西院さんはジョイントJobの方は50に達しているんだよね?」

西院「は、はい…… でも、それがどうか致しましたか?」

ノレンガルド「それだったら……」


ノレンガルド「ジョイントJobのまんま、転職試験受けてみたらどう?

上手くいけば、Job30制限を誤魔化せるかもしれないよ」

ジークウルネ&西院「!!」

 ノレンの爆弾発言に、私と西院さんは一瞬絶句しました。

ジークウルネ「ちょ、ちょっとノレン何言ってるのよ! 何西院さんにそんな不正行為を薦め……」

西院「いえ……ウルネさん。 駄目で元々、試してみましょう」

 西院さんは私の言葉を遮り、そういいました。

ジークウルネ「えっ……でも……」

西院「さっき、ウルネさん自身が仰られていたではないですか」


西院「1%でも可能性があれば諦めては駄目、と

ジークウルネ「……」


その日の夕方


スペルユーザーギルド

ジークウルネ(……勢いでSUギルドまで来ちゃったけど、まさかジョイントJobで転職条件を誤魔化せる訳ないわよね……)


ジークウルネ(そんな都合のいい話が……)


ジークウルネ(あった……

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