日記37話(3)
ソル「お言葉ですが、チーフ……」
ソル「軍医殿には、叔母様がヘビースモーカーである事、話されたのですか?
禁煙治療は、ドルイドよりも医師の領分であると以前聞いた事がありますが……」
ジークウルネ「いえ、話してないわ。
いくら藪先生でも、本人を連れてこなければ禁煙治療も何も出来ないでしょうからね」
ソル「……それでも、話だけでも軍医殿に通された方が良いと思います。
チーフが叔母様を禁煙させたいのであれば、座して待っていても状況が変化するとは思えません」
普段はジークウルネに従順なソルであるが、珍しく真剣な表情で意見してきた。
ジークウルネ「ソル……」
ジークウルネ「……考えてみれば、もっともね。
分かったわ。 叔母様をどうやって連れてくるかは後で考えるとして、先に藪先生に話してみましょう」
ソルの真剣な表情に押されてか、ジークウルネもソルの意見に同意する。
ジークウルネ「そうと決まったらさっき藪先生の庭を空軍事務所前で見かけたから…… 早速行ってみましょう、ソル」
ソル「はい、チーフ」
藪の診療所
藪「……それだけ長い事本来の姿になっていなかったら、筋力が大幅に衰えて当然だよ、老師。
むしろ、リハビリも無しに五体満足で歩ける事に感謝すべきだと思うがね」
ローキー・アルマ「やはり5年間も元の姿に戻らなかったのは、やりすぎだったかの?」
所変わって軍医殿こと、Dr.藪の診療所。
彼女は知り合いらしきローキー・アルマの診察をしていた。
藪「やりすぎどころの騒ぎではない。
早く元の能力を取り戻したかったら、よそもの行商人からクエでも受けて、金魚の群れに突っ込むのが手っ取り早いな」
ローキー・アルマ「う〜 それは嫌なのじゃ〜
おにゅーの十二単(じゅうにひとえ)が生臭くなるから絶対に嫌なのじゃ〜」
SE:トントン……
?「ごめんください〜 藪先生いますか〜?」
と、医務室の扉から声が。
藪「その声はウルネ君か。 入って構わんよ」
ウルネの声「失礼します」
ジークウルネ「藪先生、今日は一つお願いが…… あら? このローキー・アルマちゃんは?」
藪「見ての通り、私の診療所の常連だよ。
ついでに言うと…… ウルネ君は以前、彼女に会った事があるはずだ」
ジークウルネ「え…… このローキーちゃんと会った事がある、といいましても……」
いくら記憶を巡らしてみても、彼女の知り合いにローキー・アルマの姿は思い浮かばない。
ローキー・アルマ「まあ、この姿でお主に会うのは始めてだったはずじゃから、無理もなかろう。ジークウルネとやら」
ウルネが困惑していると、当のローキー・アルマがジークウルネに話しかけてきた。
ローキー・アルマ「まあ、これについては口で説明するより、実演してみた方が早いかの。
……それ!!」
次の瞬間、ローキー・アルマの姿が消えた。
ジークウルネ「あれ!? ローキーちゃんは……どこ!?」
ウルネが困惑していると……
ソル「チーフ……!」
ソル「ヴェールの内部から生体反応が……! さっきまで無かったというのに……」
ジークウルネ「ええっ!? そ、そういえば頭の上に何か冷たいものが載っているような……」
ヴェールの中の声「……こういう事じゃよ、二人とも」
声とともにウルネのヴェールがひとりでに取れると、中から雪ウサギが姿を現した。
ソル「雪ウサギが……喋った……」
冷静沈着な偵察DEMであるはずのソルも、しゃべる雪ウサギの前にはびっくりしている。
ジークウルネ「喋る雪ウサギさん……って、ああ、天神川白梅さん・・・・・・でしたよね。
最後のお会いしたのは随分前の話でしたね」
白梅「ああ、その通りじゃ。 良く覚えていてくれたのぉ。
ちなみに、この雪ウサギの姿は世を忍ぶ仮の姿での……」
白梅「このローキー・アルマの姿こそ、わし本来の姿なのじゃ♪」
無意味にピースしながら、白梅は言った。
ジークウルネ「あ、改めてよろしくお願いします、白梅さん」
あっけにとられつつも、挨拶をするウルネ。
ソル「チーフ……もとい、ジークウルネ様の下で働いておりますソルと申します。 以後よしなに、白梅様」
一方のソルは、状況を把握するとDEMらしく、淡々と挨拶をした。
藪「さて、老師との挨拶も済んだ所で…… ウルネ君、私に頼みがあるみたいだが……
そろそろ、その中身を話してもらいたい」
ジークウルネ「あ、はい。 実は……」
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藪「ラウリーン=フォン=レーダー…… まさか彼女が、ウルネ君達の叔母だったとはね」
若干びっくりした表情で、藪は呟いた。
ソル「その口ぶりから推測するに…… 軍医殿はチーフの叔母様とは面識があるようですね」
藪「ああ、その通りだ。 弟の直接の上司が、他ならぬ彼女だからね。
……ついでに言うと、彼女の健康診断も、何度か請け負った事がある」
ジークウルネ「じゃあ、叔母様がヘビースモーカーだという事も?」
藪「その通りだ。 勿論、何度か煙草を減らすように薦めたのだが……
そのたびに、偉そうに彼女はこう反論してくるのだよ」
苦々しい表情で、藪は続ける。
ラウリーン「人間、いずれ死ぬもの……。
煙草による病で死ぬか、モンスターに殺られて死ぬか、鉄橋から転げ落ちて死ぬかの違いはあれ…… 『死』という結果そのものには違いはないでしょう、藪先生。
であるならば、好きな事を我慢することに何の意味があるのかしら?」
ジークウルネ「叔母様ったら、まったく……」
呆れの感情を隠そうともせず、ジークウルネは呟いた。
ジークウルネ「藪先生には叔母様の禁煙治療をお願いしたかったのですが…… その様子ですと、藪先生でも難しそうですね」
藪「確かに、正攻法では難しいといわざるを得ないね。 ラウリーン君の禁煙治療は。
だが……」
ちかくに置いてあった緑茶を一口すすり、藪は続ける。
藪「もし、ホワイト君の助けを借りられるのならば…… 手は無くもない」
ジークウルネ「ホワイトさんの? だったら本人に直接頼めば……」
藪「今の彼女はフレイヤIIの正操舵手。 私の個人的な都合で、勝手に連れ出す訳にもいかんだろう」
ジークウルネ「叔母様の健康問題は藪先生一人の問題では無く、私や姉さんの問題でもあるんです。
姉さんに話せば、嫌とは言わないでしょう。
万が一姉さんが渋った場合は、出来る限り説得してみます」
藪「済まぬな。 では、今回はウルネ君の好意に甘えるとしようか。
さて……老師」
白梅「?」
唐突に藪は、蚊帳の外であった白梅に話を振った。
藪「これからこの庭は、上空にある私たちの城に向かうが…… 老師はどうする?」
白梅「せっかくだから、わしもついていきたいのじゃ。
ウルネ殿の姉…… フロースヒルデ殿への挨拶も済ませておきたいのでの」
藪「了解」
藪「では向かうとするか、フレイヤIIへ」
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